十六話 この星の不思議
「ねえ。この星には七つの聖杯があるらしいけれど、どこかにあるって知ってる?」
サチが話題を振ってきた。
「知ってるさ。ほら、図書室の奥の掲示板に貼ってあるよ。」
僕の横の、いつものガルが暑苦しい。
それじゃあということで、僕とサチ、クロエ、カナン、ガルの5人で図書室の奥にゆく。
1メータ四方の立派な青銅の板が壁にかかっており、そこには、『7つの聖杯が満つるとき、星は生まれ変わる』と彫られていた。
この掲示板は、聞くところによると、ガルバ王国の最初から貼られているらしい。3000年もの間、誰がこの掲示物を維持しているのか? そして、下方に、紙でメモが貼ってあった。
「一つは、魔女の神殿にある。2つ目以降は不明」
図書館の司書官に、誰がこの掲示物を維持しているのかと問うた。彼曰く、ガルバ王の指示により、代々図書館長がその任に当たっているとのこと。
「まあ、今日はここまでだな」
このメンバーの主導権を持ったと、誤解しているガルがまとめた。ガルには王に会いに行くなんて発想はないから、仕方ないか。
なぜ、王がこのようなことを? ガルバ王に会いに行ってみようかな? サチに王を尋ねることはできるかと聞くと、皆で行こうよ! と言うことになった。
やってきました。ガルバ王国の王城。サチは、このガルバ王国の第3王女である。今日は、門まで着物姿のサチが迎えに出ている。後に、サクヤ王から聞いたところ、初代サクヤ王が名古屋城という建物を模して作られたらしい。
まあ、普通は門番に取り次いで、案内がやってきて、王城の中を歩いて、やっとサチの部屋にたどり着くのが定番であるが、姫様が直々お出ましとは、ずいぶん自由な家風らしい。
「こんちには。 王に少し話を聞きたいのじゃ」僕が言葉を発した。
「これはこれは、魔女様。 どうぞこちらへお越し願います。」執事風の男が案内を申し出た。
魔女はこの世界では一番偉い。それに相応しい態度をするように、サナエから酸っぱく言われている。
サチ、僕、カナン、クロエ、ガルの5人がぞろぞろと、広い廊下を歩いてゆく。ミミは僕の肩にいる。
「どうぞ、こちらでお待ち願います。 後ほど謁見の間にご案内します」
執事が横のメイドに合図すると、ワゴンを押したメイドが5人ほど入ってきて、お菓子やお茶を並べてゆく。
「どうぞ、おめしあがれ」とサチが進めた。
早速、欠食児童と思われるガルが手を伸ばす。
「うめー!。もぐもぐ」ガルは食べるのに夢中。
まったく、誰がこんなのを連れてきたのだ。
しばらくすると、王がお会いになるということで、執事の後を付いていった。
「どうぞ こちらへ」執事がドアを開けた。
そこには、殿様が立っていた。ちょんまげだよ。どこかの**殿ではない。もちろん、”**--ん”なんてしない。サクヤ王は、凛々しいイケメンだよ。
「魔女様、どうぞこちらへ」
ガルバ王国のサクヤ王が上座に案内しようとする。
「あ・・いやいや、 堅苦しいことはなしじゃ ここでよい」
僕は、そう言って側にあるテーブルと椅子を指した。
そうそう、魔女の僕はこの星で一番偉い人なんだ。だから王座を進めたわけ。でも今日は正式な訪問じゃないのと、学園の皆を連れているので、自由にしたい旨をサクヤ王に伝えた。
「あの・・、図書室にある、聖杯にまつわる掲示物について、お話を伺いにまりました」
カナンが口火を切った。
「あれは、初代サクヤ王が自らを封印する間際に、将来必要な時が来るので、必ず掲示するように言われたのだ。あれ以上のことは知らないが、一つは、魔女の神殿にあるらしい」
サクヤ王は代々言い伝えられた通りのことをしているだけで、特にそれ以上の情報はもってないみたいだった。
それからは、個々の日常について紹介やら、魔法学園での出来事について、会話が続いた。
お菓子も、お茶も切れ目なく出てきて、食べきれないほどであったが、ガルだけはいつまでも物欲しそうに他の人のお皿も眺めていた。
「ガル、いやしいよ!」クロエが耳を引っ張って言った。
まあ、育ち盛りということにしよう。
ガルの呟き。
おれのソウルが、『奴は男だ!』と。でも、あの女たちが認めないし、近づかせない。鉄壁の陣を敷いている。この前も、ジロウの肩に触れたということだけで、ぼこられた。何とか確かめる方法はないものか? それと、あの猫。いや猫じゃない。とても恐ろしいものだ。この前、睨まれたよ。背筋に寒いものを感じた。
サチ、カナン、クロエのガル対策。
「ねえ、みんな! 絶対にジロウ様にガルを近寄らせないよう頑張ろうね」
「この前なんか、股間をガン見してたよ。 後ろからチン蹴りをしてやったさ」
おお、カナンは過激だ。
「なぜに、ああもガルはこだわるのかな? 可愛い子への嫌がらせは、好きの裏返し?」
クロエはポイントがずれている。
それは、昔、サクヤ王の統治。神崎歴2603年。
サクヤ城のモニターに警告音が鳴った。良くないものがゲートを超えてきた。始めは、ドララ王国の片田舎のトチ村での出来事からである。
それは、トチ村にあるゲート近くで黒い鳥となって産まれた。黒い鳥は、産まれたというより、変身したというべきか。それまで、木の枝でさえずっていた、茶色の鳥が黒くなって、赤い目をぎょろつかせた。
ドララ王国は竜人族の国で、トルネコ大陸の中央に盆地あって、そこにおよそ50万人が住んでいる。黒い鳥は次々と魂を食っていきながら増えた。ドララ王国から始まって、スローン王国、ミズホ王国など、やがて全世界に広がり、この星の生き物から魂がなくなった。わずか、7日で壊滅した。
8日目には大蛇に変身した悪鬼は、竜となったサクヤと、三日三晩戦った。
ハナが、魔女の星が保持する最大の火力武器『神の御手』で加勢した。
そして、遂にサクヤとハナは悪鬼を倒すことができた。
しかし、悪鬼は最後の力を振り絞って、サクヤを黒い霧で覆った。サクヤは、その黒いもの(悪鬼)を、わが身に取り込んで、みずからを封印した。
そして、いつか浄化が完了することを夢見て、魔女の家の横の神殿の奥深くに眠っている。初代魔女ハナは、その場所を守るガーデアンとなり、入口に立っている。
一方、魂を失った人たちは、覇気が無く、ただ立ち尽くすのみで、滅亡寸前となった。コロネはこの状況を見かねて、生きとし生けるもの全てに、自分を砕いて魂として与えた。コロネ教の始まりである。
後でわかったことだが、この黒いものは、次元の闇と呼ばれるもので、パラレルワールド管理局も対処が難しく、結局サクヤが行った”自らを封印”することが最善であったそうだ。