十三話 ジロウ喜楽園を作る
この星に転生して。早3か月が過ぎた。新しいことだらけで面食らう毎日だった。でも、ここにきて少し様子がわかってきて、何かをしようという気になってきた。そうだ、庭がほしい。毎日、原っぱを散歩するより、四季折々に移り変わる木々や草花のある庭が欲しい。
「サナエさん。 庭を造りたいのだが?」
「えっ。 庭? ガーデン? どのような?」
「そうだな 植物や石を配置して、ゆっくりくつろぐ場所を作りたい」
サナエはちょっとショックだったようだ。ゆっくりくつろぐ場所が欲しいって。自分たちの接し方に問題があるのだろうか?恐る恐る、サナエは声を出してみた。
「あのー。お怒りになっておられますか・・・・? 私どもに至らない点がありましたら、お教え願いますか?」
「うん? 何か、勘違いしている? 君たちも、この魔女の家も、とても良いよ。さらに、楽しみを増やしたいと言うことだよ。見て、歩いて、楽しむためにね、樹木を植えたり、噴水・花壇などを作る。そう、魚釣りができる池も欲しいね。裏山もいいなあ。」
「あ・・。そうですか。びっくりしました。 気が付かず申し訳ありません」
「いや。何も謝ることなんてないよ。 ただ、原っぱの散歩では単調でね。 年寄りくさいね」
「わかりました。ササ様のデータベースから、幾つか候補を探してきます」
ということで、神崎元こと神様が住んでいた星にあった”後楽園”をベースにして庭づくりが始まった。魔女の家の東門から北へ500メータほど離れたところに、1キロメータ*2キロメータの広大な土地を流用することになった。
「全員せいれーつ!」
魔女隊 20人を貸してもらった。彼らの協力と僕の魔法で地ならしから始める。どこから持ってきたのか、ショベルカーやブルトーザが整列している。サナエさん、ここの文明から逸脱しているけれどもOKなの?まあ、魔女の特権なんだって。
魔女隊は、サナエたちと同様に、ササ様が作ったアンドロイドだ。だから、個々に自立しており、個性もある。顔かたちも差がある。しかし、多くの者は名前が付いていなかった。というか、A111とかBの3456とかナンバーみたいのが名札についていた。
ここは、一人の個人として、扱わないと僕の気持ちがすまない。
ということで、遭遇したら片っ端から名前を付けていった。
サナエが呆れていたけどね。僕は満足。
今回の魔女隊のメンバーの名前は、
アオシが、ルイス、フリオ、ビクトル、ミゲル、ペドロ、マヌエル、マルコ、ジョン、ディエゴ、オスカルの10人。
モモコが、カリーナ、ファティマ、カーラ、ロゼ、ローザ、テリア、ベネッサ、バニー、グローリー、ソニアの10人。
(あぁ。ほんまにたいへんや―)
庭には、中央に池を作って、2つの小川を引き込む。100メータほどの小高い山を少し西側の北に配置する。”後楽園”をベースに少し手を加えたジオラマを見ながら、造園を進めて行く。およそ3か月かけて、ゆっくりやって行こう。
できたよ。
芝生や樹木が定着するのに時間が必要かな?と思ったけれど、魔法でやっちゃった。
「えー。本日はお日柄もよく・・・ 立派な喜楽園ができました」
魔女の村の面々にも集まってもらって、お披露目をした。入り口に、“喜楽園”と大きな字の看板を立てた。皆、思い思いに散策し、昼にはバーベキューを囲んだ。
「きれいな おさかなさんが いっぱいいるよ」と子供たちが騒いでいる。
川にいた鯉のような魚を捕えて、魔法で色づけして、おひげも付けた。
「おーい。こっちに来てみろや、スライムの池だよ!」
「おお・・。虹色に輝いているよ。 かわいい」
スライムの種類は、手毬ぐらいの大きさの手毬スライムとミミズのようなリトルスライムの2種類が居る。
リトルスライムは、この星が出来たころ、錬金術師のアリスによって生み出された。動物や人の排泄物や死骸などを吸収して土に返す機能を持っている。
手毬スライムは、特に機能はない。ただ自然界にぴょこぴょこと跳ねているだけ。益も害もない存在。言わば子供たちの遊び道具である。
この喜楽園は、巡礼の人々も訪れるようになり、世界に噂が広まった。そして、巡礼者だけでなく、商人や王族などもやってくるようになった。後に一大観光地として賑わうようになる。
身体が10歳相当だし、周りも”嬢ちゃん”って感じで接してくるし、もう四六時中子供バージョンなんだ。5か月も経つと、昔の年老いた俺は、記憶の隅の方に移動してゆき、最近は、10歳の女の子のジロウに違和感がなくなった。
不老不死で長年生きたとしても、過去は次第に忘却の彼方になってゆくらしい。『私は死なない、あなたは老いて去ってゆく、置いて行かれた私はどうすれば良いの?』という話は、半分本当で、半分は時が経つと新たな人生を歩めるらしい。
今日は、村の子供たちと『缶けり』を楽しんだ。子供たちは、毎日のように顔を見せに来るので、ちょっとうざいが。折角だから、文字や計算を教える教室を開いてみた。その名も”魔女の教室”。