十二話 ジロウ空を飛ぶ
サナエが、僕専用の飛空艇を用意してくれた。この飛空艇は、レベル3の世界では異質であるが、魔女の魔法で動いているということで、庶民は欲しがらない。何せ魔女は、怖い存在でもあるらしい。
今日は、ナズナと一緒に地上1メータの高さのところを、飛んで見ることにした。運転はナズナ。僕は、外を見ている。残念ことに、魔女の家の周りだけと、サナエの指示らしい。
「いいなあ・あ・あ ナズナ 運転を代わってよ!」
「ダメです。サナエさんに許可をもらわないと」
「サナエさん。飛空艇の許可をください。お願い」と、胸の前に拳を作って、上目使いで。って、僕は何をやっているのだ。恥ずかしい。
「うん。もう少し、目に思いを込めて、腰を引いて。さあもう一度」
「サナエさん。悪乗りは良くありませんよ」って、ナズナにたしなめられた。
「もう、まったく、ジロウさんも・・・・」とナズナに叱られた。
(ナズナも言うようになったね。)
「ただし、当面は魔女の家の周りとミナミ村とカカチ村にしてくださいね」
サナエから許可をもらった。
「やったーーっ」
早速、運転席に乗ると、ナズナがアクセルとブレーキ、そしてハンドルの操作を説明する。信号も道も、他の飛行艇もいないので、もちろん方向指示器なんてない。
ハンドルを握って、ゆっくりとアクセルを踏む。ブーンという音が少し大きくなって、ゆっくりと浮かんで前に進む。
「おっ。 簡単だ!」
早速、ミナミ村、カカチ村、東の物見台へと一周する。
飛空艇というものは魔女しか持っていない。当初は、王国や商人などから、欲しいとせがまれてきたが、受け付けなかった。
当初って、5代魔女ササの時代。それまでは、転移魔法で行き来していたのだが、途中の状況がよく見えないということで、ササ様が導入したとのこと。確かに、文明レベル3には、過ぎたものではあるが、それは魔女専用ということで押し切ったそうだ。
魔女の家を出て、南へゆっくりと走る程度の速度で下ってゆく。ミナミ村に近づくと、田畑に居た村人が手を振ってくれた。そして、子供たちが追いかけてくる。
「ジロウさん。一応、飛空艇には魔女の関係者以外は乗船させないことになっています」とナズナ。
「あい。わかった」
子供たちに、この前に遊んだ「だるまさんがころんだ!」をせがまれ、一時間ほど遊んだ。そして、昼ごはんの時間になったので、子供たちは解散。
僕は、畑の縁にシートを敷いて、ロゼッタが用意してくれた弁当を開いた。これは、ハンバーガーだ。懐かしい。おっ、ポテトもある。
「ジロウさん。スープをどうぞ」
ナズナも横に座って、はぐはぐと食べている。のどかだ。次は、カカチ村に行こう。遠く海が見える。その手前にみえる集落がカカチ村である。
「この前、ナズナが笑うのを見たような気がするのですが、ジロウ様、心当たりはありますか?」
「ナズナ。心境に変化があったのかな?」
「はい、ジロウ様から心を写させていただいてから、なぜか毎日がとてもうれしいのです」