魔王覚悟!で、その先はどうします?
以前から考えていたことを文章にしてみました。『召喚』の規定がちょっと極端かもしれませんが、そこは設定という事でご勘弁願います。お暇なときに一読くださいな。
とある世界にある、ひとつの広大な大陸。
そこに棲んでいるのは、人族、獣人族、妖精族、そして魔族。
その大陸の中央付近にある、巨大な城。
そこでは・・・お約束の、最終決戦が行われていた。
ガキッ! キンッ! ギギギッ! ズザザァァッ!
「くっ!・・・」
「はっはぁ!ど~だ、聖剣の威力はぁぁ!」
・・・そこは城の中央。『謁見の間』に当たる場所。
本来なら、明かり取りの窓に荘厳な緞帳がかかり、照明用の魔石が輝かしい光をもって黒檀の玉座を照らしている、はずだが。
今、そこは荒れ果てていた。
原因のひとつが、その場所の主。
そう、『魔王』といわれる存在だった。
何事にも動じない、磐石の威圧感を放っていた魔族の頂点である覇者が今、身体のあちこちから血を流して片膝を突いていた。
その前に立つ影・・・。それがもうひとつの要因を成している。
小柄な、魔王と比べれば貧相にも見えるほど小さな人影は。
その身に似合わぬ大剣を手にしていた。
すでに何十合も打ち合ったと思われるのに、その刃先は驚くほど滑らかな硬度を保ち、今なお鋭い輝きを放っている。
それに対して、魔王の掲げるハルバートは刃こぼれがあり、一部はひび割れてしまっていた。
武器としてもすでに終わりが見えている。
「ふっ・・・!」
「うぉっっ、まぁだそんな力持ってんのかよ」
小さな人影・・・『勇者』の称号を持つ人族・・・のほほから一筋、血が垂れる。
魔王の振るった刃風がわずかにかすったようだ。
「チッ・・・おい『聖女』回復しろ」
後方のがれきの中、座り込んでいた銀髪の少女がゆっくりと手を祈りの形に組む。
そこからこぼれた光の粒がほほに張り付き、傷をいやしていく。
「ふん、少しは気を利かせろよ。回復が遅すぎる」
「・・・これ以上・・・は・・・無理・・・」
「ああ?口答えしてんじゃねーよ、うすのろが」
「ミュリティ様はもう魔力がほとんど・・・残っていない。これが、精一杯・・・だ」
「使えない女だな。ホントに聖女かぁ?」
「お、お前が!こき使ったせいではないか!」
半ば倒れこんだ聖女を支えながら、ブロンドの髪を振り乱した女剣士が叫ぶ。
その彼女もあちこちが出血し、大剣を杖のようにして体を起こしている状態だ。
「あん?当然じゃん。オレ勇者だかんね、一番に守られなくちゃだめだよなぁ・・・『剣聖、伏せろ』」
「ぐっっ!!」
『力ある言葉』で女剣士をうつぶせにし、その肩を踏みにじる勇者の顔は喜悦に歪んでいる。
その有様を魔王は驚きの表情で見つめた。
「き、貴様、勇者であろう?味方を攻撃して、どうするのだ・・・」
「味方?ふふん、まっさかぁ!」
容赦なくいたぶった女剣士を蹴り飛ばし、笑い声を響かせる勇者。
「オレはさ、召喚されたんだよ、こいつらの国にな。向こうじゃ何の変哲もないただの負け犬だったオレがだよ、チート能力貰って最強になったんだ、ハハッ。ならば魔王を倒してウハウハハーレムってのがお約束じゃんかよ!」
「・・・・・・」
「オレ一人でいいんだよ、魔王を倒すのは。後の奴らは使いつぶしで充分さ!」
「外道の・・・やり口だな・・・」
「ははっ、魔王に言われたくないね!外道はそっちだろ?オレは勇者だからな!」
そう言い放ち、聖剣を構える。
「さあて、魔王戦のクライマックス、行ってみようかぁ。覚悟はいいな?」
「フッ・・・魔族よりも外道な勇者がいるとはな。なんということか・・・」
「何を言おうと勝てば官軍、負け犬に未来はねぇんだよっ!」
「はい、ちょっとお待ちくださいねぇ、その勝負」
「うぉっ!?」
「!」
まさに切りかかる直前、魔王と勇者のあいだの空間に亀裂が生じて光が生まれた。
きらめきながら光度を上げていく光に押され、勇者がたたらを踏む。
亀裂は横へ広がり、それとともに圧力さえ感じられる光が辺り一面を埋めていく。
魔王も勇者も、女剣士も聖女も目を開けていられなくなり、顔をそむけるものの光はその全身を浸すかのように広がっていき・・・唐突に消えた。
時間にして数秒、ただし、その脅威に晒されていた者たちにとっては耐え難い時だった。チカチカする視界と頭痛に頭を抱える一同だが、そこへ何とも気の抜ける声が響いた。
「ほへぇ~、何とか間に合いましたか、良かったですぅ。ふぃ~」
「「「「!?」」」」
そこにいたのは。
漆黒の上下の服に黒い靴、黒髪を軽くまとめた・・・少女、が、いた。
かいてもいない汗をぬぐうしぐさに胡散臭さが急上昇する。
手に板(?)と銀色の棒を持ち、眼鏡をかけたその姿は、勇者にとって見慣れたものだった。
「・・・なんでリクルートスーツの女教師がここに居んだよ?」
「わかりやすいでしょ、キミには特に」
「なんだ、てめぇ・・・何者だ?」
「あ、お邪魔します~。ワタクシ、サクヤと申しますぅ」
「名前聞いてるんじゃねぇ!何しに来やがった!?」
「あらあら、名前は大事ですよぉ?個体識別にしろ、地点確認や要件の特定にも欠かせませんし」
「うっせぇ!ごまかすんじゃねぇよ!こんな時にウロチョロしやがって、斬るぞ!」
「『短気は損気』って知らないですか、『勇者』のマコトくん?」
「!!オレを、知ってる、のか・・・?」
「まあ、それなりに、ですかね?ここに来たのも、確認ですからぁ」
「確認だと?何をふざけて・・・!」
「はいはい、それまで。話が進みませんから。では、と」
サクヤと名乗る少女は背筋を伸ばして板・・・クリップボード・・・に視線を落とす。
今までの軽い物言いをやめる、それだけで一同の視線を集め、主導権を握った。
「『勇者』マコトくん。キミはこの・・・(ペラリと紙をめくる)シェラゼ世界暦2657年春の月6日にセリシオン王国に召喚され、魔王討伐を依頼された。間違いありませんね?」
「・・・・・・」
「返事がない場合は是、と解釈しますよ?では次。王城で訓練及び座学を受け、春の月25日に王国を出発。カルヴィオン国、マイラーナ国、イルヒネント公国を経由して、ここヴォルンツェルト魔王国に到達直後、魔王城まで短距離転移と飛翔を駆使して乗り込んだ。城の衛兵、幹部らと戦闘を繰り返しながらここ、魔王のもとへやってきて・・・今現在、達成間近で足踏みしている、と。よろしいですか?」
「・・・・・・」
「これも返事なし、と。それにしても、2か月ちょいで魔王城に来るとは、さすがというかなんというか」
「・・・何が言いたい・・・?」
「そのまんまですよ。飛び抜けた力を得ただけでその他の事をすべて振り落とした外道さん?」
その瞬間、予備動作なしに勇者が斬りかかる。助走も溜めも行うことなく、最高のポテンシャルで斬撃に移行できる勇者固有のスキルを発揮し、相手が反応する前に目の前の敵を排除する。
そのやり方で勝利してきていた。
今までは。
「くっ・・・!?」
「本当のことを言われて怒るなんて、少しは良心、あったんですね」
「「「!?!」」」
魔王、聖女、女剣士が絶句した。
振り下ろされたバスタードソード、その凶悪な刃を止めているのは少女の手にある細い銀色の棒のみ。
それこそレイピアよりも心もとない武器、いや、道具で勇者の攻撃を阻んでいる光景はどう見ても納得のいくものではなく。
その銀色の棒を軽く揺らしてバスタードソードの軌道をずらし、勇者ごと吹き飛ばす姿もまた、理解の外にあった。
「話が進みませんのでおイタはやめてくださいね。うっとうしいだけですので」
「き、キサマ~っ・・・」
「で、次です。魔王国へ至るまでにキミが行った内容、ひどいですね。これ、事案ですよ?」
紙をめくりつつ、少女が顔をしかめる。
「まずは王城。世話係のメイド、侍女、護衛の女騎士、果ては厨房の下女まで見境なく手を出してますね」
「・・・・・・」
「そのうち、拒否したメイド5名、侍女8名、女騎士3名は殺害を強要、それが不可能となると城を放逐するように圧力をかけた。結果、これがすごいです」
「・・・・・・」
「故郷へ帰る途中で盗賊に襲われた者6名。うち4名はその場で死亡、残り2名は奴隷となり、娼館に売られた末に病死です。各家で軟禁され、望まぬ婚姻をした者3名、すべて死亡しました。修道院へ送られたものが残り7名、うち4名は家名を重んじた身内に毒を盛られて死亡、今現在まで生き延びているのはわずか3名。ですが、その者たちもどうなることか」
「な、なんと・・・では、メリッサ様は・・・」
「侍女のおひとりですか。すでに亡くなられてますね」
「あ、ああ、あああ・・・」
「ミュリティ様!お気を確かに!」
女剣士に抱えられたまま聖女がその場に泣き崩れ、二人とも座り込んでしまった。
魔王すら、その結果に眉をしかめている。
だが、元凶の勇者は・・・
「勇者のオレを拒んだんだ。何が悪い?」
「なっ・・・!」
「なるほど。キミはそう考えたわけですね。『勇者』だから当たり前、と」
「当然だろ。オレはそれだけの力を持ってるんだからな」
「それでも、婚約者のいる相手にコナかけるのはどうかとおもいますよ?」
「!・・・」
「厨房や掃除洗濯の下女は除いて、王城の中の人は基本的に貴族ですからね。かなりの苦情が寄せられていて、上層部でも頭を抱えていたようですが」
「オレの知ったこっちゃないね。あいつらがオレを召喚したんだ」
「まあ大本はそれです。そういう意味では自業自得とも言えますが、ほかはそう行きませんよ」
「何のことだよ」
「召喚したセリシオン王国以外の国や街、村、領地でやってきたことですよ。自覚はありません、ね」
横目で『勇者』を見やり、わざとらしいため息をひとつついて。
「こんなこともあろうかと、一覧表を作ってみました。役に立ちましたね、うん」
バスタードソードを止めた棒・・・ポインター・・・を宙に掲げて一振り。
空中に横長の光る空間があらわれ、何やら細かい数字の羅列が映し出された。
「えーとですね、一番左が地域名、そこから右へ順に問題視される行為とその回数が出てます。
で、被害者の人数と予想される賠償金額。これ、支払い切れますかね?」
「な、何だっ、この、この数はっ・・・!」
「それぞれのところで行った略奪・無銭飲食・暴力行為、それと婦女子への暴行と。もう、やりたい放題ですよね」
「外道な勇者と思うていたが、これはさすがにひどいものだな・・・」
「我々が止めた時もかなりの回数あったはずだが、それでもこんなにあったのか・・・!」
「ひどい・・・本当にあなた、人族?・・・」
「う、う、うるせぇぇっ!!」
口々に非難され、逆切れした勇者がバスタードソードを振り上げかけ。
動きが止まった。
「な、なんだ、とぉ?」
ひゅるっ、とかすかな音がして、銀の光が伸び。
長くなったポインターが勇者ののど元に突き付けられていた。
軽く、それこそ触れるか触れないくらいの接触だが、勇者は動けなかった。
「うるさいですよ、静かにしていてください。まだ、話は終わってません」
感情の抜け落ちた声が告げる。
「この表だけでうんざりするくらいの犯罪行為があります。ですが、おかしくありませんか。セリシオン王国とヴォルンツェルト魔王国は山脈と死の森を挟んだ反対側。謂わばお隣さんですよ?なぜ遠回りしていく必要があるんですか?」
「え、遠回りって?」
「あの険しい山と死の森を越えるのは無茶だと思うが。城の高官も旅程に疑問を持っていなかったはずだ」
「ここへ来てからの戦闘能力を見ていても、そう思いますか?」
「・・・そ、そういえば・・・」
「確かに。だが・・・!それ、は」
「・・・まさか・・・貴公の言いたいこととは・・・」
「ええ、正解です。セリシオン王国以外の3カ国は巻き込まれたんです。『勇者』マコトくんのうっぷん晴らしに」
無表情のまま、少女が勇者を見据える。膝をがくがくさせ、びっしょりと汗をかいた勇者の顔色は土気色となっていた。ポインターが喉元から離れたことすら、気づいていない。
「元々『召喚』というのは基本法則・物理構造・精神構築その他もろもろ、一切合財が一致しない異なる世界を接触させる、リスクの高い邪法です。今回は術式の中に現世と似通った条件を無理やり入れることで、かろうじて意思疎通できる個体を抽出できただけ。ある意味破滅思想を含んだ博打ですよ」
「「「・・・・・・・・・」」」
「しかも、異なる世界を引き寄せて接触させ、さらに一部を吸い上げた上に後腐れなく接続を打ち切るという超難解な作業なんて、どんだけ無茶ぶりさせるんですか。こんなのをやらかして、今現在王国の術使い達は大丈夫なんですか?」
「「・・・・・・・・・」」
「それも世界が危機に瀕しているからやむを得ず、ではなく、セリシオン王国の領土拡大・鉱山開発が目的だったなんて、笑い話にもなりませんよね。因果応報、当然の結果です」
「え・・・そう、なの?」
「・・・はい・・・おそらくは」
「そ、そんな・・・じゃ、メリッサは・・・」
「それが崩れたのは『勇者』が暴走を始めたから。最初は何とかコントロールできていたんでしょうが、それも時間がたつにつれ、力が強くなりすぎて止められなくなってしまった。だから・・・」
「国外へ・・・魔王討伐と称した放逐へとつながった・・・のか」
「そーゆーことですねぇ。ご感想は?自称『勇者』本質『犯罪者』のマコトくん」
「・・・う、うう、うるっせぇぇぇっっ!!」
怒号と共に跳ね起きた『勇者』の顔は、すでに常軌を逸していた。
土気色から赤黒く膨れ上がった肌に流れる大量の汗と、まくれ上がった唇でむき出しになった歯。充血して限界まで見開かれた眼は落ち着きなく上下左右に揺れ動き、短く整えられたはずの髪までが逆立ってうごめいていた。
「黙れ黙れだまれぇぇっ!なに分かったようなことたれ流しやがる!勝手に召喚しておいて、魔物の侵略を食い止めてこいだの、ダンジョンの掃除をしてこいだの偉そうに命令してきやがって!挙句に魔王討伐が勇者の義務だとぬかしやがった!ああ、そのための召喚だってわかってる、わかってるさぁ!でもな、それでも、それでも許せねぇことだって、あるっつうのが!あいつら、わかってねえぇっ!!オレはっ!オレでもっ!!ニ・ン・ゲ・ン・だああぁぁっ!!!」
口の端からよだれが流れ落ち、胸元まで汚しながらも、『勇者』の激昂は止まらない。バスタードソードを握りしめて右に左に揺れながら、少女へと向かっていく。
「オレの!邪魔ぁ!するなあぁっ!!」
ブォン! キイィィィン・・・
「学習能力のない人ですねぇ、キミ」
「・・・は?・・・」
「悪ふざけも大概にしてください、限度がありますよ」
その場にいたものはだれしも目を疑った。確かに『勇者』が剣を振り上げ、振り下ろした。
そのあと……どうなったのか。
振り下ろした剣に合わせるようにポインターが動き、刃の側面を叩いて軌道をずらしたのは先ほどと同じだが、その後ポインターが刃の表面を撫でた瞬間・・・『聖女』の祝福を受け、魔王の猛攻をも軽く受け切ったバスタードソードが。
粉々に、砕け散った。
それこそ、原子レベルの状態まで持っていかれて。
・・・跡形もなくなった。
「え?・・・は?・・・剣が?・・・オレ・・・の?」
『勇者』の手に残っているのは柄のみ。だが、それも徐々に輝きが鈍くなり、形をあいまいなものにしていく。ほんの数分のうちに、『勇者』と共に在った剣はこの世から存在を失った。
「お、オレ、の、剣、があぁぁっっ!!」
「時間切れです。もう終わりにしましょうか」
無感情な、それでいてどこか優しさすら滲ませた声が宣告する。
「『勇者』マコトくん、己の属する時空へと還りなさい」
銀の光が宙を舞う。きらきらと、光の欠片が勇者を包み、そして。
・・・・・・消えた。
あまりのあっけなさに言葉もなく、誰もが少女を見つめていた。
当の本人は注目の的になっていることなど気にもしていない。
「ふぃ~、やれやれ、これでこの案件はひとまず決着ですねぇ~。よいしょっと」
その場に座り込んでクリップボードに何やら書き込み・・・そのペンはさっきの凶悪なポインターではなかったか?・・・肩から下げたカバン・・・それはどこから現れた?・・・の中から一回り大きな板・・・ファイルケース?・・・に挟み込んで紐でひと縛り。さらにカバンからいかめしいスタンプを取り出して板にパコンと押し付け、両方ともしまい込んだ。
「それは何か・・・訊ねても、いいだろうか・・・?」
おそるおそる、魔王が声をかける。
「あ、これですか。『完了』の処理をしただけですよ。うちも決まりが厳しくて、手順通りにやらないと上司がうるさいんですよ」
「上司?・・・貴公の、上司、とな・・・ふむ」
「ええ、普段はうるさくないんですが、こと手続きの順序となるともう・・・間違えると事細かに、ねちねちとお小言を食らいますからぁ。それは避けたいですぅ」
「な、なかなか、難しい上司で、あるな?」
「わかっていただけますぅ?うれしいです!こーゆーのって、共感してもらえない時が多くって!うん、よかったぁ!」
この少女の上司とやらには、ぜぇったいに会いたくない。
その場にいた3人の心の叫びが一致した瞬間だった。
「さて、と。召喚の結果については決着しましたが、この世界については、まだ何も解決していないんですよね」
キリッとモードに変わった少女の言葉に、
「確かにそうだが、こればかりは致し方あるまい」
「召喚なんてものを使った我が国が言えることではないが・・・」
「あれはもう・・・人災というしか、ないのでは・・・?」
魔王がつぶやき、女剣士がうなだれて、横の聖女が涙ぐむ。
「ひとつの世界で起きた問題は、その世界の中で片付けるのが一番。ほかのトコロの力を持ってくるのは、その世界の在り様を歪め、破滅への道を開くだけです」
「『輝かしい光は闇に通じる』・・・母が教えてくれた言葉が身に沁みます」
「ミュリティ様・・・」
「強すぎる力は毒にしかならない、と、いう事なのだろうな・・・」
『勇者』と言う名の呪いから解放された魔王と聖女と女剣士。
しみじみとつぶやく言葉が実感となって、荒れ果てた部屋に広がる。
「そうですよ。それが真実です。ひとつの世界の根源ルールから外れているくせに、そのすべてを上回る力を有しているのが『異世界人』なんです。その存在はもはや脅威です。今回は何とか途中で防げましたが、今後どうなるかわかりません。ですから」
少女は3人を見つめて、ゆっくりと話す。
「『召喚』という仕組みを放棄してください。できれば術式も施設も、消滅させてください。これ以上『勇者』の存在を呼び込んだら、この世界の根幹が崩れるかもしれません。最悪の場合、すべて滅ぶこともあり得るんです。そうならないためにも、危険すぎる術式として、後の世代へしっかり伝えてほしいのです」
これまでと違う、熱のこもった言葉に3人は頷く。
「確かに危険な術式であることを肌身に感じました。私、国王陛下にちゃんと伝えます」
「私では力不足であろうがミュリティ様と共に進言しよう。これ以上の悲劇は起こさぬようにしなければ」
「我はまず、傷を癒やしたのちに隣国へと声をかけよう。魔族だ人族だとか云う前に、世界の種族の観点から動かねばならぬと思う」
「ありがとうございますぅ。すぐには無理かと思いますが、わかってくれる方がいて、ほんっとうに助かりますッ!」
胸元で両手を組んでウルウルする少女の様子は、すこぶる可愛いらしい。
ただ、今までの経緯を見てきた3人には見かけ詐欺としか思えなかった。
「あ、忘れてました!協力いただける方たちへの特典サービスを行いまぁす!」
「「「は?」」」
ぶっ飛んだ発言に固まった3人をよそに、少女はカバンに手を突っ込む。
「え~っと、これとこれと、これ、ですね。まずは、魔王さんへ、どーぞ」
「う?」
「遠慮はいりません。ググっといっちゃってくださいぃ!」
それは、薬、なのだろうか。小さな瓶だが、中の色が強烈などピンクである。
躊躇はしたものの、このままの勢いで口に突っ込まれるだろうといろいろあきらめ、一気にあおる。
「!!うおっ!!な、何だ、これ、は!?」
「奇跡の回復薬エリクサー、と呼ばれるものですね。身体欠損及び魔力の枯渇を戻すといわれてますが、いかがですかぁ?」
「う、うむぅ。た、確かにこれは効く、な・・・」
精神以外には、とこっそり思ってしまった魔王様。妙に疲れたのは気のせいか。
「同じものを後のお二人にも差し上げますぅ。さ、さ、どーぞ」
「で、ではミュリティ様はあとで。まずは私が・・・」
「いえ、この際一緒に。いち、にの、さん!」
・・・女の方が度胸を決めると潔いのはどこでも同じ。いや、魔王で毒見(?)は済んでいるだけに、決断は早かった。
「ぷはあぁっ!」
「ふうぅぅっ・・・!」
「これで皆さん、全回復しましたねっ!では次ですっ!」
「ま、まだあるのか・・・?」
「魔王さんにはこれを!エリクサーを百倍に薄めた特効薬です。実は今、このお城に限って時間をゆっくりにしてるんですよ。ですから、お城の中で息のある方たちにですね、付いているスプーンで1杯ずつ飲ませれば回復しますっ!あまり量が多いと体が負けちゃいますので、適量をお守りくださいねっ!」
「おおっ!ありがたい!さっそくやらねば!」
「わ、私たちも手伝います!」
「うむっ、頼むぞ!」
「あ、剣士さんはちょっと待ってくださいな」
大きな革袋を抱えて走り出した魔王と、その後ろについていく聖女を見送り、女剣士は少女に向き直る。
「私に何か用か?」
「ええ、これをお渡ししときます」
少女から渡されたのは小さな結晶の塊。
「これは?」
「え~と、長距離転移が出来る道具ですっ」
「!!」
「魔王さんの用事が済んだら、二人してこれを握ってお城を思い描いてください。発動したらそれで消えちゃうので問題ないです。お二人にも無事に戻ってもらいたいので。お願いします」
「わかった。助かる」
「あ、あと、魔王さんが薬を飲ませてここへ戻られたら、時間は普通になります。そのことも話しておいてもらえると嬉しいですっ」
「うむ、しかと伝えよう」
「じゃ、ワタクシは消えますね。魔王さんと聖女さんによろしくぅ」
決意をあらたに頷く女剣士に笑いかけ、少女は手を振る。
そして、まばゆい光を発し、消えた。
見届けた女剣士は、少女のいた場所に向かって騎士の礼を取る。
「あなたが何者なのか、私にはわからない。だが、ここに誓う。生涯かけて、あなたの言ったことを為し遂げて見せよう」
深く一礼し、そして女剣士は駆け出した。さっきまで争っていた魔族を、今度は助けるために。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
白く発光する壁と床、中央に応接セットが一組。その空間にいるのはサクヤと名乗った少女。
「ふぅ。これであそこも何とか片付きましたねぇ。やれやれです」
一息つき、やや疲れた様子で椅子に身を任せて伸びをする。
「ん~っと。にしても、今回は危なかったですねぇ。あとちょっと遅かったら、重要因子が破壊されてさらに面倒なことになってましたし・・・警報アラームの設定、間違えたかしらん?」
「それは大変なミスですね、サクヤさん」
「うぉわぁっ!?」
一挙動で跳ね起き、振り向いた先にいたのは。
「あ、あはは、施設、長・・・」
「帰所のあいさつは?」
「はははいっ、た、た、ただ今っ、戻りましたっ」
「はい、お疲れさまでした。報告書を拝見しましょうか」
きっちりとした灰色のスーツに身を固め、同じ色合いの髪をオールバックにした男性がにこやかに手を差し出す。そこへ、さっきの『完了』印を押したファイルケースが渡された。
紐を外し、中身を確認する様子をこわごわと伺いながら、
「え、と・・・内容のチェック、忘れてるところないです、よ、ね?」
「ふむ・・・」
「異世界召喚者については、規定通り送り返してますし・・・できる限りのフォローもしてきた、はず、です」
「・・・確かに」
「さ、最後の、印もれもなかったです、から・・・大丈夫ですよ、ね?」
「・・・今回はちゃんと出来ていますね、サクヤさん」
「!!で、では、終了、で、いいですか?」
ぱああっ、と顔を明るくしたサクヤが期待を込めて問いかける。
パン、とファイルケースを閉じ、男性が顔を上げた。
「ええ、よく出来ました、完璧ですね」
「いやっほおぉぉっっ!!」
両手を突き上げ、全身で喜びを表すサクヤ。それでも足りずにジャンプまでしている。その横を抜け、壁際に寄った男性が、なにもない空間をひと撫ですると、そこに書棚が現れた。
手に持ったファイルケースをビーコンの点滅した場所に近づけるときっちり収まる。そして書棚は現れた時と同じように消えた。
「ずいぶんごゆっくりでしたが、何か手違いでもありましたか?」
「へあっ?」
両手を振り上げたまま固まったサクヤに再度声がかかる。
「魔王決戦までは必要なので、時間になれば速やかに介入して終わらせるよう指示したと思うのですが、変ですねぇ」
「あ、そ、その、ですね」
「最終決戦は大技や極大魔法が放たれてアブナイ場面ではありますが、あなたに渡しているモノなら誤差の範囲で回避できるはずですよね?」
「・・・はぃ・・・」
「時間軸を見てもそれほど問題なく終わる案件ですが・・・何か言うことは?」
「すみませんでしたっ!戦闘時間の見積もりが甘すぎましたっ!」
「なるほど。『勇者』の力配分を見誤ったのが原因ですか・・・」
椅子にゆったりを腰を下ろし、紅茶を手にした男性の横には正座を決めたサクヤがいた。
「あの『勇者』・・・マコトくんの能力は、はっきり言ってチート過ぎました。あれでは、あの世界の誰も勝てないと思います」
「ふむ。もともと世界を移動すると力がつくものですが、それだけでは理解できないほどの上昇をしていた、という事ですか」
「はい、そうです。思うにですね、召喚陣、もしくはその施設の土台か何かに、力を増幅させるような情報を埋め込んでいたんじゃないのかなぁと」
「確かにそう考えるのが一番しっくりきますね」
優雅な手つきで紅茶を飲み干し、ソーサーに戻す。空になった紅茶セットは空中に溶けて消え去った。
「あの世界には古代シェラゼライト文明の残り火がありますからね。その可能性もありますか。わかりました。今回の件はお叱りなしとしましょう」
「ほ、ホントですか・・・?」
「はい」
「よ、よか、った・・・くっ、安心したら、足が、しびれて、立て、ないぃぃ・・・っ!」
ひっくり返って足を抱え、悶絶するサクヤをよそに、灰色の男性は考えに耽る。
召喚などという方法を見出した生き物が悪いのか、それを可能とするだけの知識を持たせた存在が悪いのか・・・答えはいまだに見つからない。だが、神ならぬ身に過ぎる力は世界の根幹を揺るがし、危うい天秤をひっくり返すだけだとわかっている以上、確実に止める必要があった。揺れ動く時空軸を特定して紛れ込んだ異世界因子を元に戻し、その時点で可能な限りの修復を行う。その目的でここ、時空監視施設は存在しているのだから。
(それにしても、最近は同じような揺らぎが多い。しかも、特定の人間種がたびたび関係してくるようだ。本当の原因はそこにあるのかもしれない。だが・・・)
男性の視線が横に流れる。さっきまで転がっていたサクヤが、涙目で足をさすりつつ、ようやく復活するところだった。
(この人間種がそのような力を引き起こす要因となるだろうか?)
太陽系第3惑星、ソルもしくは地球と呼ばれる星の北半球にある小さな島国。そこに住まう人間種が結構な頻度で案件に現れてくるようになったのだ。
もちろん、話の通じない者たちばかりではない。大半は素直に説得に応じ、事後の処理も問題なく終わるのだが、今回のように大惨事となる案件には、必ずと言っていいほどここの人間種が絡んでいるのだ。
サクヤが向かいの椅子に落ち着いたタイミングで口を開く。
「ところでサクヤさん、あなたが住んでいた地域には何か特殊な事情があるのですか?」
「は、はい?特殊な、事情、ですか?」
「ええ。ここしばらくの状況を見てますと、ニホン、ですか、そこの方たちの案件が非常に多いようですのでね。そういう地域の特性でもあるのかと思うのですよ」
「ああ~そうですねぇ、特性、特性、と。ん~、ある、のかなぁ?」
「おや、思い当たることでも?」
「はいぃ。日本では普通の人が異世界転生や転移をして、俺様無双するお話があるんですよぉ。その中で召喚を取り扱ってるものもあるんでぇ、そっちの影響もあるのかな、と」
それを聞いた男性の額には青筋が浮かび、背後からは不動明王のオーラが出た、ようにサクヤは感じた。
(ひぇぇっ~~・・・)
その殺気に耐えられず、何とか収めようと言葉をひねり出す。
「で、でもっ、犯罪を助長する、んじゃないんですよっ。訳も分からず異世界に連れていかれて、必死に、生き延びようと足掻くうちに、さ、最強に、なっていくって、いう、お話が、多くってぇ、グスッ」
もはや半泣きになっているサクヤに気づき、無意識に出ていた殺気を鎮める。
「ああ、すみません。あなたにどうこういう事ではありませんから。そうですか、それは知りませんでしたね・・・」
一概にそれだと断じるのは早計だとしても、何らかの関係があるとみるべきだろう。
(いや、そういう物語で素地があるから、召喚の邪法に引っ掛かるのかもしれない。一度調査を・・・)
そこまで考えた時、白い部屋にブザーが響き渡り、赤い光点が点滅する。
「あ、また召喚ですねっ、確認しますぅっ」
男性の威圧がなくなり安堵したサクヤが、逆にハイテンションになって部屋の一隅に走り寄る。いつの間にかそこに出現していたコンソール盤に向かっていくつかの命令コマンドを吹き込み、その動きを注視する。
「施設長、判明しましたぁ~。すぐ近くのようです~」
(これもニホンとかの人間種なら、早急に何とかしないといけませんね)
ため息交じりにそんなことを考えながら、男性は対処に動き出す。
当分の間、ここは暇になりそうもない。何せ、人員は施設長とサクヤしかいないのだから。つまり、サクヤに休みはない。気の毒だが。
(この状態では長続きしませんね。もう一人か二人ニホンから召喚するとしましょうか)
時空監視施設長のヒトガタを維持しながら、『神』は、そう心に決めた。
蛇足ながら付け加えておきます。
ゲームのRPGで主人公たちが人の家に入ったりツボを割ったりしてアイテムを入手していますが、あれを現実でやったらどうなんだろう?・・・と思ったのがきっかけです。SFの要素そのものはあまりありませんが、後半部分の舞台設定上入れておいた方かいいかな、と。




