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第1話 浪人生、死す

中谷智也ナカタニ トモヤ、18歳。身の程知らずに東大を志望するも不合格。滑り止めの慶應どころかMARCHすら全落ちし、浪人が確定した男。彼は今、決意に燃えていた。


今年こそ、今年こそ俺はやってやる!


今までの俺は受験を舐めていた。だがこれからは違う。


現役のときはゲームばかりで全く勉強しなかった俺だが、今から緻密な計画を立て、そしてそれを実行し1年で東大に受かってみせる。


そして俺を馬鹿にしていたやつらを見返してやるんだ!!!!


楽な人生を送りたい。東大に行けば、楽に就職し、楽な仕事について毎日楽に暮らせるはずだ。これが、トモヤが東大を志望した理由であった。


だが今となっては、楽な人生を歩むことよりも、偉大な理由があるんだ。東大以外のところに行くことは、俺のプライドが許さない!!絶対東大だ!!!




よし、母さんにも俺のこの熱い思いを伝えなきゃな。


「母さん、俺、次は絶対に東大受かるから。待ってて」


トモヤの思いとは対照的に、母はもう勘弁してくれよと言わんばかりの表情である。


「あんたねえ、そんなこと言ったって自分の成績分かってるの? 全然勉強する様子もないし、就職した方がマシよ」


「う、うるせー!! 俺は変わったんだ、今から本気出すんだよ!!」


くそ、舐めやがって。俺の本来の力を分かってないんだ。あ、いやでも待てよ。今はこんなことにイラついている場合じゃないんだ。


トモヤはイラつきをこらえて母に切り出した。


「あのさ、俺予備校行きたいんだけど……」


「ダメよ、そんなお金ないし、どうしても行きたいなら予備校代はバイトして自分で稼ぎない」


トモヤの説得は小一時間続いたが、結局予備校に行くことを認めてもらえなかった。せっかくやる気になったのに出鼻を挫かれトモヤは意気消沈した。




はあ、ちょっと外でも歩くか。


すでに日の落ちた街へ繰り出す。夜の冷たい風が、トモヤを少しだけ冷静にさせた。


はあ、まあたしかに、家は裕福ではないし、いきなり予備校なんて言っても認めてもらえないのも仕方ないか。帰ったらもう一回、真剣に話してみよう。そうすればきっと分かってくれるはずだ。


ここで突然角から現れた通り魔に刺され、トモヤは死んだ。あっという間の出来事だった。


気がつくと、なんか宇宙みたいなところで目の前には女神みたいな人がいる、お決まりの光景。


「あなたは今、通り魔に刺されて死にました」


女神の声は美しかった。トモヤは不思議とすぐに自らの死を受け入れることができた。


そうか、俺、死んだのか。はあ、東大だとかなんだとか、もう死んじゃったら意味ねえよな。


「あなたは私が就任してからちょうど100万人目の死者ですので、特別に記憶を引き継いだまま異世界に転移することができます」


え、今なんて??

異世界? それってあの、よくあるあの展開!?!?


「ぜひお願いします!!」


「わかりました。それではあなたを異世界に送ります。では新しい人生をどうか楽しんでください」


こんなことが現実にあるってマジかよ!!

ちょっと急展開だが、俺は異世界ライフを満喫してやる! チート能力にハーレム、東大なんかどうでもいいような楽で最高な日々が待っているに違いない!!


期待に胸を膨らませ、トモヤは異世界に降り立った。よくある異世界ファンタジー的な街並みが広がっていた。魔法、モンスター、冒険者、騎士。それがこの世界だ。ここにトモヤの異世界生活が始まったのだ。




1ヶ月後、トモヤは首都トーテムの冒険者ギルドにいた。首都のギルドというだけあって、美しい装飾が施された荘厳な内装である。その中は名だたる冒険者たちが行き交い活気に満ちている。


トモヤのすぐそばには銀髪の美しいプリーストが控えていた。彼女の回復魔法の実力はこの街随一だとうたわれている。


碧い海を思わせる輝きの瞳に、トモヤは吸い込まれるように感じた。まるで身動き一つ取ることすら叶わない。いや、彼は今身動き一つ取れないのだ。


プリーストはぷっくりと紅を帯びた唇を開いた。


「駆け出しの冒険者がいきなりモンスターと戦うなんて信じられません! 私の仲間がここに連れてこなければ、あなたは死んでたんですよ!?」


トモヤはモンスターに半殺しにされ、彼女に治療されているところだったのだ。


「うう、すいません。もうこんなことしません」


「すいませんじゃないでしょ!! 自分の実力もわからないなんて、そんなんで冒険者なんて無理ですからね。ほら、もう治療は終わったからとっとと帰ってください」


「くうぅ、そこまで言わなくても」


トモヤは涙をこらえながらギルドを出た。


数時間前、アルバイトをしてようやく稼いだ金で武器を揃えた彼はモンスター討伐に出向いたのだ。だが、街の近辺にいる雑魚モンスターにすら攻撃は効かず、何とか覚えたはずの魔法も慌てるあまり発動すらしなかった。


瀕死のトモヤは通りすがりの冒険者に助けられ、あのプリーストのもとに送られたのだ。


くそ、俺めちゃくちゃ弱いじゃねえかよ。何なんだよ、チート能力どころか能力ゼロじゃねーか。


いやそれにしてもほんとに危なかった。危うく死ぬところだったな。助かって本当によかった。


絶望と安堵、そして次にはやり場のない怒りが押し寄せた。


もう異世界なんてクソくらえだー!! こんなのあんまりだろ!!! 俺は楽に生きたいだけだってのに。


街の広場。絶望、悔しさ、怒りの渦中でもだえるトモヤの目にもそれは留まった。


「ん? 何だこの貼り紙。『トーテム大学を目指す君たちへ。トー大模試開催のお知らせ』?」


体に電撃が走るのを確かに感じたような気がした。


「これだ」


「やっぱ俺には、これしかない! 待ってろトー大!!!」


あまりに大声で叫んだため周囲の人々に白い目を向けられているのだが、彼はそんなことに気付きもしない。


「うおおおおおお!! やってやるぞおおおお」


トモヤの受験生活が再び始まった。志望校はトー大である。

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