ファンタジースターオンライン
俺の名は『ユウヤ』日本で一番強い男だ。見た目もなかなかイケメン、ギルドメンバーからも慕われている。
ーーというのはゲームの中での話だ。
現実は高校も行かず引き篭もっている、いわゆるニートというやつだ。
しかし、このVRMMORPG『ファンタジースターオンライン』では、前回の対人の全国大会で優勝した腕前だ。だから日本一強い男というわけだ。
1日中プレイしているおかげで、レベルはカンストで、ステータスもマックスだ。
このゲームは、バーチャルの世界で剣や魔法そして様々なスキルを駆使して仲間と協力し、クエストを攻略していくという内容だ。
今日も、2日徹夜でやり続けていて、俺がリーダーを務めるギルド『友愛の国』で、仲間と会話をしていた。
「ユウヤ、そういえば今日もずっとログインしてたけどいつからやってるの?」
友愛の国で設立当初からの親友のアイが話しかけてきた。
最初は俺とアイの二人で始めたギルドだ。ユウヤのユウとアイで友愛の国だ。
アイは女キャラクターで、ポニーテールの活発な子だ。
まぁ、あくまでゲームの設定だから現実の性別はわからないが。実は年上のおじさんかもしれない。
俺にとっては現実なんて関係ないけどね。アイは俺が唯一頼れる相棒なのだ。
「んー、一昨日の夜からかな」
「おとといって・・・。あんまり無茶したらダメよ?だからさっきの戦闘で攻撃ミスってたのかぁ。少し寝たほうがいいよ」
アイはいつもこうして俺の心配をしてくれる。
「わかってるよ。でも、星屑の花だけは今日中に見つけておきたいからその後ログアウトするよ」
「そっかぁ。ならあたしも付き合ってあげるよ」
星屑の花は次のクエストのために必要な素材だ。
森の中に咲いてるのを見つけなければならない。
「わかった。じゃあ早速行こうか」
「うん!じゃあみんな、ちょっと行ってくるね」
アイがギルドのメンバーに声をかける。
「行ってらっしゃい、団長、副団長!」
そして、メンバーに見送られ俺達は森へ向かった。
森に入るとすぐにモンスターが現れた。
それを剣で一撃で倒しながら進んだ。
この森はザコモンスターしか出ないので楽だ。
俺の職業は魔法剣士。攻撃魔法と剣のスキルに特化している。攻撃力は高いがそのかわりHPはそこまで高くなく、補助魔法も使えない。
ちなみにアイの職業は賢者。回復魔法や補助魔法に特化している。
しばらく二人で森を歩いていた時のこと。
頭の中に声が聞こえてきた。
『・・・・けて』
「えっ?」
俺はとっさにアイを見る。
「ユウヤなんか言った?」
アイの声じゃないみたいだ。
「いや、俺は何も・・・」
するとーー
『助けて・・・・』
また頭の中に声が聞こえてきたと思った次の瞬間、目の前に激しい閃光が現れた。
「な、なんだ!?」
「きゃっ!なにっ!?」
俺とアイはほぼ同時に声を上げた。
そして俺達はそのまま意識を失った。
本来なら、VRヘッドギアをつけているだけなのだからゲームの世界で何が起きても意識に干渉することはないはずなのに・・・。
目を覚ますと、俺達は見たこともない夜の草原に寝ていた。
隣を見ると、アイが気を失っている。
俺は起き上がり、アイに話しかける。
「アイ!大丈夫かっ?」
しかし、目を覚ます気配がない。
戦闘中の状態異常で『睡眠』状態があるがそれとは違う感じだ。本気で意識を失っている。
こんな状態を見るのは初めてだ。
「アイ!目を覚ませ!」
俺はそう言って思い切りアイの頬をひっぱたいた。
「痛ったいわね!何するのよっ!?」
アイが目を覚した。
「よかった、アイ。目を覚ましたか。って、え?」
このゲームはVRのはずだ。
「もう!ヒリヒリするじゃない・・・って、え?なんで痛いの?」
ゲーム内で触れたりする感触を感じることはあっても、痛みを感じることは絶対にない。
「そんなこと俺に聞かれても・・・とにかく叩いてごめん」
「もういいわよ。ってゆうかここどこ?FSOの世界・・・よね?」
ファンタジースターオンライン、略してFSOだ。
「わからない。ん?アイ!あれを見てみろ」
「えっ?」
二人で空を見上げると、月が欠けていた。
三日月とかそう言うのではなく、物理的に欠けて、欠けた月の部分が周りに光っている。
「何、あれ・・・」
アイが唖然とした表情で呟く。
「とりあえず、運営に連絡してみよう」
俺はそう言ってメニュー画面を出そうと、手をスライドさせる。
「あれっ?」
しかし、いつまでやってもウィンドウが出てこない。
「もう、何やってるのよ」
そう言いながらアイも同じ動作をする。
「えっ?なんで」
やっぱりウィンドウは出てこない。
「どういうことだ?」
「そんなのあたしに分かるわけないでしょ」
しばらく二人でウィンドウを出す動作を繰り返すが一向に表示されない。
「もう!なんで出ないのよっ!」
アイがついに怒り出した。
「メニューが出ないんじゃ、ログアウトも出来ないな。しかたない、どっかの町まで歩いて他のプレイヤーを探して連絡をしてもらおう」
「そうね・・・。それしかないかも」
そして、俺達はどこかの町を目指して歩き出した。
しばらく歩いていると、アイが何かの気配に気付いた。
「ユウヤ、探知魔法に何かかかった!」
アイは探知魔法で、周囲のモンスターを見つけることができる。
「よかった。魔法は問題なく使えるみたいだな」
そして、草むらから狼のようなモンスターが現れた。
「なんだ、初めて見るモンスターだな」
「ええ。あたしも見たことないわ」
とりあえず倒すことにした。
「ハアァァッ」
俺は狼めがけて切りかかる。
するとあっけなく倒せた。
「なんだ、ザコモンスターじゃないか」
「そうね、見たことないモンスターだからもしかしたらと思ったけど・・・ねぇ、ユウヤ」
「ん、どうした?」
「おかしいわ。消えないの」
「消えないって何が?」
「モンスターよ」
そう言われて、倒した狼を見ると血まみれで倒れたままだ。
通常、モンスターを倒すと、血などは出ずにエフェクトがかかって消えるだけだ。
「確かに妙だな。なんかおかしい・・・。ちょっとアイ、俺の頬をつねってみてくれ」
俺は確かめるためアイに頼んだ。
「わかった」
アイはそう言って、俺の頬をつねる。
「痛っ!痛い痛い痛い!!もういいっ!」
「え?もういいの?」
つねられた頬が、かなりヒリヒリする。
「やっぱり痛みを感じるみたいだ。てゆうか強くやりすぎだ」
「さっきの仕返しよっ。だからさっきあたしも言ったじゃない」
やはり、痛みを感じる。
「ねぇ、なんか喉が渇いちゃったんだけど」
「えっ?なんだって?」
「だからさっきから喉がカラカラなのよ」
「いや、それはおかしいだろ」
ゲーム内では、食事などをする必要は全くないためお腹が空いたり喉が渇くことはない。
「実際に渇いちゃったんだからしかたないじゃない。ユウヤなんか水とか持ってる?」
「たしか収納に世界樹の雫があったとおもうけど・・・出せるのかな?」
俺はそう言って、手を円を描くように動かし次元収納を出す動作をする。
すると、描いた円が光る。
「よかった。収納は出せるみたいだ」
そして俺は収納に手を入れて世界樹の雫を取り出してアイに渡す。
「んくっ、んくっ」
それをアイが飲み干す。
本来は喉を潤すものじゃなくて、HPを回復させるためのアイテムなんだけど。
「なんか、ただの水ね」
まぁ、元々ゲーム内で口に入れるアイテムには味などないんだけど。
「とりあえず先へ進もう」
俺達はしばらく歩いて月明かりの下を進んでいく。
「ねぇ、ユウヤ。あれ見て?」
アイが遠くを指差す。
「えっ?」
俺はアイが指差す先を見てみると、地平線の向こうに壁のようなものが見えてきた。
「とにかく行ってみよう!」
そして、俺達は見えた壁を目指して進んだ。