御法唯葉は思い出す
それでも彩乃は、学校を辞めて組織に所属することとなった。奏凪の為とはいえ、その奏凪本人が既にこの世から消失、つまり死亡している。意味なんてないと言えばそれはその通りだ。彩乃は奏凪のような患者がこれ以上出ない為に…なんて高尚な意識では決してない。彼女にはもう奏凪に縋りつく以外の行動原理がない。そしてそれは彩乃自身も理解をしているのだ。
それをわたしはどんな面持ちで傍観していただろうか。
奏凪はもう戻らない、奏凪はそんなこと望んでいないと、殴ってでも辞めさせればよかったのか。心を鬼にして、あるいはAIが入る前の心無いロボットのように。けれどもわたしは彩乃のその後の行動については否定することはなかった。
結局のところわたしも奏凪の最期については容認できない感情が心の底に渦巻いているのだ。アンドロイドであるわたしが一個の存在として意識をしているのだろう。それは…なんと…人間らしい感情か。それとも近くの人間である彩乃に感化されて、生み出されたシステム的なエラーだったのだろうか。わたしの本心としては前者であることを望む。
そんな馬鹿馬鹿しいことを考えながら歩いていたら、彩乃が属する白黒組織の研究所にたどり着いていた。ちなみに歩行中はアンドロイドの機能により無意識化で近くの人や自動車を識別しているためぶつかることもない。
この研究所は基本的に病院と繋がっている。いつものように関係者入り口で手続きを済ませ、彩乃のいる研究室へと足を運ぶ。その途中、何度か研究者や看護師とすれ違った。さすがにここに一年も通っていれば顔見知りもできる。多少の世間話を交えつつその場を離れる。
ここにもアンドロイドの職員はいる。アンドロイドを兵器にさせないために人間と同等の力程しか出せないようにプログラムされてはいるが、外科医の精密動作や、看護師の力仕事など人間よりも良いポテンシャルを発揮できる仕事もある。アンドロイドの性能も基本的に個体差があり、優秀な個体は医師として働くことも可能になっている。