第三章『守るべきもの』
更新が遅くなりました。
超スペクタクルSF小説。第三章です笑
第三章『守るべきもの』
1
よく眠れなかった。最近ウチの署はややこしい案件を引いてしまったようだ。
そう、あの殺人事件と自殺(他殺の可能性が高い)の二件。俺は、報告書に追われていた。
記
本書は、先月二八日起こった、元木悠介殺害事件と、その翌日起こった角田隆二死亡事件に関するものである。
先月二八日二三時頃。東京プリンスホテル「露の間」にて、元木悠介氏二四歳が死亡しているのが確認された。凶器は、アイスピックのようなもの。縄で拘束され動けなくなったところを滅多刺しにされ、出血多量。清掃員が「露の間」にて二三時頃発見し、一一九番通報。病院に搬送後死亡が確認された。
ホテルへ聞き込みの結果。同封資料にあるよう、元木氏は発見される前に生体認証が消えていることがわかっている。
しかし、この容疑者らしきものは見つからず。生体認証も確認されていないことから、我々は、元木の知り合いで、同級生で、生体認証を操ることができる者を観点に捜査を開始、。都内在住のシステム・プログラマー角田隆二氏が捜査線上に上がり、翌二九日、任意同行と事情聴取を取った。
アリバイは危うかったが、システム・プログラマーといえ、生体認証を懐柔するものではないと判断(同封資料にて説明)そのため、自宅へ送還。その翌日。集金に来た大家が怪しく思い、鍵を開けると、角田隆二氏が自宅で腹部に包丁を刺し、倒れていたのを発見。
本件は様々な検証を行った結果。
刑事副長 牧田雄志
以上
行った結果。どうだったのか。自分でも決めかねていた。
果たしてあれは誰だったのか。それを証明できなければ、この件は他殺になり得ない。
ただ、紛れもなく、あの部屋二〇三号室に、角田以外の誰かがいたはずなのだ。
そういうものだけなら良いが、問題はもっと複雑だった。
自分が担当した聴取の後で、その当人が自殺をすれば…警察の信頼は失墜し、もっと言えば自分の立場がなくなってしまう。この署に来た当初、エリートだともてはやされていた。そりゃそうだ、検挙率は高かったし。いくつもの事件と向き合ってきた。この街の人達にもそれなりに愛され。刑事副長という座までついていた。順風満帆に進んでいくはず。そう思っていたが。そんなときに、聴取した者が自殺でもすれば、今まで自分が貫いてきた努力が泡になると思っていた。学生の頃からしてきた、あんな思いはもうしたくないと思っていた。
結局自殺か、他殺か明言できないまま。眠りについた。
そんな自分を移すかのように、次の日の会議室は揺れていた。
2
最近は殺人沙汰が近くで二件起き、この署は少ない人員を総動員していた。
なかなかにタイトだ、年明けすぐに立て続けに二件とは…と署長も嘆いていた。そんな会議室は今日も賑やかだった。
議題は、自殺か他殺かではなく、連続犯か否かという論争だった。
「んで、明確な証拠はあるのか。」
「無いわけではないんですけど…」
珍しく、高松が、本田に意見してる。
「じゃあなんだってんだ、その連続犯だと思わせたものは。」
「まあそう熱くなるな本田。」
「なんだと、これが、連続犯かそうじゃねぇかで、かなり変わってくるだろ。」
「ま、まあそんなに大きなした事では無いんですけど、まず、手口が似ているということです。生体認証をくぐり抜け、殺人を犯す。そこから、対称を確実に、殺した。そういうところが似ているなと、思ったんです。そして、被害者のふたり、中学だけでなく、小学校も同じところでして、そこが、怪しいなと…」
「つまり、君は小学校の同級生に犯人がいるのでは無いかと、そう踏んだのかね?」
「い、いやあそこまでは、ただ、同窓会にまで来て、殺しに来て、その同級生を殺すには十分な関係かなと…」
「まあ、言わんとしていることはわかる。が、一人目は、システムプログラムに秀でていた。そこで、認証をかいくぐり一人殺した。そして、二人目は、心理誘導で、自死に追い込んだ。しかも、認証をくぐり抜けてだ。こう思わんかね、裏に大きな協力者がいると。この生体認証の穴を見つけた者が、そういう殺しを雇っているのかもしれんぞ。」
「まあ、確かにだ、今のは署長の意見が正しいと思う。この2つの畑違いの殺しができる人間は一人じゃなかなか無理だ。」
「どうだかな、案外、この幽霊ってのは、器用かもしれねぇぞ。」
「どういうことだ?」本田の言うことは、たまにほんとうによくわからない。
「一人で様々なことができるってことだ。今やいろんな職が分業した。一人で何から何までやる時代は終わった。今の警察だってそうだ。ビッグデータを扱う情報局ができた。これで、俺達は現場に行くことも、張り込みをすることも少なくなった。そして、生体認証により、誰がどこにいるのかを把握される世の中になり、人を殺すなんてことは難しくなった。それ故に、ありえないって考えだした。が、案外、旧時代の考えで動いているのかもしれんぞそいつは、なんせ、認証されてこなかったんだからな。」
「貴様、この期に及んで、まだそんな存在がいるとでも?」
「ああ。いるさ、人を殺すことができるやつなんて。そんなの、お前の頭ん中にもいる。」
「なんだと?俺は、人は殺さないさ、何があっても。」
「あっそ。お前のそういうとこが、命取りになるぜ、この幽霊を追うなら。」
「おれは、幽霊なんて存在はいないと思うし、それを証明してやる。」
サイレンが鳴る、緊急通報だ。
「こんなときに…」
「局長、俺は、高松と現場向かいます。」
「わかった、情報は二人の端末に送っておく。」
「え、あっ、はい」
本田と、高松は、早々に会議室から出ていった。
3
自室に戻り、資料を整理しようとした。
「牧田君入るよー」
やはり、生きている人間は生体認証にかかる。部屋の認証機器に署長の名前が出る。
解錠を選択し、署長を中に招き入れた。
「資料作成、進んでるかな?」
「まあ、あと少しってとこですね。」
「まあ今回の件はなかなかに、難事件だからね。時間がかかるのは仕方ないことだよ。」
「そうなんですか、いまいち、俺には実感なくて、死人が出る事件ってのはもう珍しいですから。」
「そうだね、まだ私が現場にいた頃は、殺人はよく起きていたよ、ニュースを見れば、誰かがころされたり、行方不明と言うなの死人になったりした。その度、捜査は難航し、そうなってくると、自分の時間がなくなってね、小さい息子を残し、妻と別れたんだ。まあ仕方ない話だ。その後、技術革新のおかげで、警察は激務に追われず済むんだがね。」
「そんなことがあったんですね…」
「昔話をしすぎたようだ。まあ君にも守りたいものってのがあるだろうが、守るべきものを見失ってはならんよ。」
そう言って、署長は部屋を出て会議室へと戻った。
守るべきもの…それはなんなのか、それが俺にはわからなかった。
生体認証の機器はご丁寧に壊されていた。
「ここまでやってくるとは…」
部屋の壁には血で、gohstと書かれていた。
「大胆過ぎるな…前までのやつならこんな事しないはずだ。」
被害者は、都内在住。稲田介、二四歳宅で、生体認証が途中から消えたことを怪しみ、大家が見に行ったときには、この家に、この惨殺された遺体が残っていた。
「遺体は間違いなく、この家の住人、稲田で確定だろう。連絡が取れていないらしい。」
「また、幽霊の仕業何でしょうか…彼もまた、同じく、同級生です。しかも、小学校も同じ。」
「三件立て続けとなると確かに、同一犯な気もして来ないがな…これまでとは違う…なにか大胆過ぎる。」
幽霊の犯行なら、生体認証器具を壊す必要は無い。生体認証の効かないイレギュラーなのだから。なら、やはり、署長が言った通り、親玉が、何らかの生体認証対策を施し、仕向けているが、今回はそれが効かなかった。ということか。
「本田さん、遺体の鳩尾あたりに傷が…」
「なんだと?見せてみろ。」
星型に鳩尾は切られていた。金属反応を検知した結果。
「やっぱり、ここに仕込んでやがったか。」
「何をですか?」
「盗聴器の類だ。刑事が現場に来て死体に近づくと、そう踏んで仕掛けたんだろう。」
「でもどうやって、そんなことを予測できたんですか?いまは、普通は殺人が起きたらまず司法解剖に回されるじゃ無いですか。」
「よーく考えろ、俺らを現場に仕向けたんだよやつは。」
「まさか。認証機器を壊したのはそういう事。」
「ああ、そうさ、大抵認証機器が壊れれば政府に通知が来る。そして、今回の場合は大家が判断し、緊急事態と認定、そこから、政府に緊急通知が行き、俺達がまず出動する。」
「そのための、器具破壊だったってことですか。」
「おそらくな。なかなか洒落たことしてくれるぜ…もう部屋には、特になさそうだから、戻るぞ。急ぎだ。」
『幽霊』か…それも良い、けれど僕は生きているよ。
一度死したかもしれないけれど、まだ生きている。
本田。面白い警察がまだ、この国にはいたものだ。僕を認識しようとしてくれるとはね。
「父さん、もう少し、この鬼ごっこ、楽しめそうだよ。
さあ、次の準備もしないといけないし。そろそろ、切るよ。」
4
緊急通報から、奴らが帰ってきた、また、同じ、二四歳で、都内在住の目黒中出身の人間が殺されたらしい。少しだけ、やり口が変わっていて、同一犯と疑うには少し、難しい。また、俺は、市民を守れなかったのだ、警察としての役目を果たせなかった。
「何くらい顔してやがる。」
「いや、責務を果たせなかったと、また、犠牲者を出してしまったと思って。」
「何言ってる、てめぇ一人で、どうこうなった話じゃねぇよ。次の犠牲が出ねぇように考えろってんだよ。」
「だけど、相手は幽霊だろ、まあ土台無理な話だ…」
「辛気くせえ事言うなよ、まだ、俺らに勝機はあるはずだ。今度こそ俺らから一矢報いてやろうじゃねぇか。」
「そのとおりだ、本田くんの言う通り、この一件は手口が大胆になっている。同一犯と仮定するなら、なかなかなヒントになったんじゃないか?」
「そう、なのかもしれないですけど…」
という流れで、次の一手をああでもない、こうでもないといいながら、考え今日は解散になった。
記
本書は、先月二八日起こった、元木悠介殺害事件と、その翌日起こった角田隆二死亡事件に関するものである。
先月二八日二三時頃。東京プリンスホテル「露の間」にて、元木悠介氏二四歳が死亡しているのが確認された。凶器は、アイスピックのようなもの。縄で拘束され動けなくなったところを滅多刺しにされ、出血多量。清掃員が「露の間」にて二三時頃発見し、一一九番通報。病院に搬送後死亡が確認された。
ホテルへ聞き込みの結果。同封資料にあるよう、元木氏は発見される前に生体認証が消えていることがわかっている。
しかし、この容疑者らしきものは見つからず。生体認証も確認されていないことから、我々は、元木の知り合いで、同級生で、生体認証を操ることができる者を観点に捜査を開始、。都内在住のシステム・プログラマー角田隆二氏が捜査線上に上がり、翌二九日、任意同行と事情聴取を取った。
アリバイは危うかったが、システム・プログラマーといえ、生体認証を懐柔するものではないと判断(同封資料にて説明)そのため、自宅へ送還。その翌日。集金に来た大家が怪しく思い、鍵を開けると、角田隆二氏が自宅で腹部に包丁を刺し、倒れていたのを発見。更に、翌三〇日遺体で発見された稲田介殺人事件と、本二件は生体認証をかいくぐった者、そして、被害者の素性から、同一犯である可能性が高いと仮定して、捜査を続行ちゅうである。
文責 副刑事長 牧田 裕治
そう記し、俺はパソコンを閉じ、帰路についた。
帰り道、結子と話をした。
この一件の事、将来の事、様々な話をした。
今、何を守るべきなのか、市民なのだろうか、それとも、今となりにいる、彼女なのだろうか、それとも、署に配属している皆なのだろうか。やはり、わからない。というより、俺は、みんな、総てを失いたくないのかもしれない。幽霊事件の一件で、思い知らされた。こんな社会になっても人は人を殺せる、その力があると。
だからこそ、俺は恐れる。今、ここにいる彼女が、仲間が、市民が、消え失せてしまうことに。彼らが殺されるかもしれないと、そう思うのは初めてだった。
5
タバコに火をつける。
幽霊、相手にとって不足は無い。望むところだ、そう署長と話していた。
局長に言われ、相棒の、牧田には今日は強く当たりすぎたなと、少し反省した。
ただ、事実だ、ああいうやつは最後の最後、システムに裏切られる。
ただいいやつなのだ。キャプテンなり、そういうまとめ役を積極的にやってくれる。だが、その責務に毎回首を締められてる。そんな馬鹿なやつだ。だから、最後に、選択に迫られるだろう。何を手のうちに残すのか。その時、やつはどうするか、きっと慌てて正常な判断ができなくなる。だから、そうなる前に、助けてやらんとと思った。それがこの理不尽な対応につながった。
ガキみてぇだ…とつぶやけば、署長は。まだガキでも良いじゃないか。となだめてくれたが、正直そんな慰めは無用だ。早く大人になって、高松を育てねぇと、と思った。
実を言うと、氷上さん、登場させる予定は構想段階ではなかったです。
まあ、女性キャラを入れると面白いかなと思って。
あとは、牧田くんのカセが増えて、いろいろ動きづらくなっていいかな、みたいな感じです。
次回は、牧田、本田、氷上の学生時代のお話です。
彼らがどういう人生の夏休みを過ごしていたか、お楽しみに。
では、皆さんばいにゃちは〜、さようなら