第二章『幽霊の痕』
さあ二章です。
まあぼちぼち、誰かが死ぬんじゃないかなあとか、予測してるあなた。
作者は気分屋なので、唐突に方針を変更します。
例えば急にヒロインを出したり、出さなかったり。
乞うご期待!
第二章『幽霊の痕』
「昨晩、角田隆二さん、二四歳が自宅でなくなっていることがわかった。署から帰宅後自分の腹部に、刃渡り二〇センチほどの包丁を突き刺して死亡したそうだ。」
署長の言葉に沈黙が広がる。
そりゃそうだ、昨日まで容疑者候補として挙げられていた者だ。
そして、アリバイが認められ、これからまた、健全で整頓された社会に戻っていくことが約束されていたはずだった…
「勝手な判断かどうかはともかく、本田くんの言ったとおりだったわけだ。」
「…すみません、局長…」
「い…」
「赦されるわけねぇだろ」署長の言葉を遮るように、本田さんは声を荒げ、牧田さんの胸ぐらを掴んだ。
「ふざけるなよ、善良な市民をこんなところに連れ込んで、更には罪まで押し付けようとした。そんな人間を俺たちは見殺しにしたんだぞ」
「まぁ、本田くん落ち着きなさいな、確かに善良な市民が犠牲になった。だがどうだ、ホシの動きは見えてきた。そういう起点も大事だよ」
なだめる署長に不服そうにうなずく本田さん。
「そうですよ、生体認証、それからここの防犯カメラを確認して行けば、犯人に繋がりますよ。」
近頃の技術革新はすごいものだと改めて思う。まだ追える可能性は残されているのだ。「名前のない幽霊」の残り香は確実にそこにあるはずなのだ。
「何言ってんだよ、今回は自殺じゃねぇかよどう見ても」
「山上、決めつけは良くない。角田も同じ中学の同級生、被害者の共通点だ、同一犯だってありえる。」
「他殺だと言いたいのか?」
「はい。これは他殺です。ものは試し、現場に行きましょう。」そうして、僕の意見に賛同した本田さんと共に現場検証に向かうことにした。
2
「にしても以外だな、お前がこの一件を他殺だと見た。」
「そうですよね。僕も意外でした。あの状況なら、確かに自殺と断定してもおかしくはないですけど、なにか怪しいんですよね…」
「わからなくもない、自殺と決め込むのには証拠が無い。ただ、他殺を決めれるほどの証拠もない。」
「そのための検証ですからね。」
気合が入っていたのは間違いない。同級生二人が死んでしまった。僕の身の周りで、不審な死が溢れていた。それは、死というものが、如何に近くに存在し、人間が如何に脆いものかということを知らせていた。オート運転中の車内で拳を握りしめていた。
「熱くなるのは結構だけどよ、気を付けろよ、飲み込まれないようにな。」
「はい!」そういうやり取りをしているうちに僕らは現場についた。
「まずは…認証の解析からですかね?」
「いや、それは向こうがやってくれてんだろ、こういうマンションの認証は直でつながっていることが多い。」ホテルなどの公共スペースは、一旦情報処理を外部委託するか、それ専用の部署があったりするが、マンションや住宅となると金額が高くなる。それ故、政府が行う一括に登録すればいくらか安く済むということらしい。
「じゃあなにを…」
「そうだな、床や壁に傷がないか、探してみてくれ。俺は遺書の類を探る。」
「わかりました。」
こうして殺害現場での捜査が始まった。入署して以来初めてだった。人が死んだ現場をじっくり見たのは。椅子には、乾ききった赤黒い血の跡があり、床にも血溜まりができていた。
殺人などよっぽどの事だというご時世故、遺体はすぐに遺族の元に届けられるようになっている。それが困難させるのだ。被害者はどんな手口で、どうやって殺されたかが現場を見てもわからないのだ。それ故に、現場検証をせず、会議室で映像を確認し、認証を確認するのだ。そうすれば必然的に殺人犯は絞れてくる。証明は簡単。認証が残った方が実行犯だと言うこと。
しかし、今回はその認証が効かない幽霊。現場検証は難航の色を示していた。
「一時間近く探しましたけど、床にも壁に目立った傷はありませんでした。しかし、椅子の近くで、乾いた血溜まりがありました。椅子にも同じく血痕が残っていました。」
「なるほどな、こっちも同じく何も見つからなかった。狂気とされたナイフも見つからずだ。ただ、遺書が見つからなかったのは予想通りだ。」
「本田さんは、角田が死ぬことを読んで、ここに保護しようと言ったんですよね。なんで読めたんですか?」
少し間を置いて本田さんはこう答えた。
「…刑事のカンっていうのかな。俺だったらそうする。中学の同窓会で一人殺した。しかもあんなやり方で、異常な恨みだ。場当たり的とは言えないレベルでな。だとしたら、他のやつに恨みを持っていてもおかしくはない。それに角田は元木の同級生で仲が良かった。同じグルーピングだった可能性も否定できない。なら、恨みの対称になりうると思った。まあ全然離れた点と点だから、論理性はないがな。」
「なるほど…でもあれですよね。遺体はもうこの場所にはなく。更に認証も、おそらくあの幽霊なら、あてにならない。どうします。」
「どうしますって言ったってな…おそらくガイシャはこの椅子に座って腹をぶっ刺された。そんで刺して逃げた相手を追うために立ち上がったが、力尽き倒れた。って感じだろうなこの血痕見る限り。それに誰かいたのは確かだ、机の上にコップが2つ。来訪者に出したんだろうがな。」
「なるほど。やはり他殺ということで…」
「おいこの棚の下、なんか光ってるぞ!」本田さんが遮り、僕も覗き込む。
それは血のついたナイフだった。
「早速その柄を認証機器に突っ込め!捕まえたぞ幽霊さんよ」
わかりました。といい、僕は認証機器に突っ込んだ。この機器は生体認証同機されていて、指紋や肉片などから誰が触ったかなどがわかるようになる。この機器のおかげで、鑑識という役職も減りつつあり、今や絶滅危惧だ。
「出ました!」
「よし、見せろ!」
舞い上がった僕たちだったが、その結果は僕らを迷宮の果に追い込んだ。そのナイフの柄からは、角田の指紋が検出された。そういえば、署長が朝言ってた。角田はナイフを突き刺して死んだのだ。そりゃそうだった。
少し後ろ向きな面持ちで僕らは会議室へ戻ることにした。
3
僕らが出ている頃会議室では…
「山上くん確かにこのケース、自殺と断定してしまいがちだが、早まるのは良くない。認証も、カメラも、現場も何一つ見ていなかったじゃないか。」
「いや…わかりきったことじゃないですか、わざわざ現場に行かずとも、認証はここで制限付きですが見ることもできる、カメラも同じです。何も古いやり方に固執しなくても…」
「そこまで言うなら、やらなくちゃな、俺達も。角田を殺したのは幽霊なんかじゃないって証明しなければ。」
この事件、自殺だと断定されては困るのは、現場に行ったアイツらでけではない。何より、警察というものの、あり方そのものに響きかねない。被害者は警察の取り調べを受けたあと、気が動転して、自殺した。とでも報じられれば困るからだ。しかしながら、その手はもう遅いだろう、ネットメディアの拡散により、警察が取り調べを行った後、被害者が自殺したという書き込みが何件も上がるのは目に見えている。それにこの事件は、人が死んでいるのだ。自殺とはいえ、生体認証があるご時世に、若い人が連続して死ぬなど、例外中の例外。メディアの盛り上がりはこれまでにない、混乱を生みかねない。
「とはいえ相手は幽霊ですよ、ログを洗っても変わらないですって」
「山上、ぼやいてる暇があるなら、部屋のカメラデータを検索しろ、ログは俺がやる。」
「わかりましたよ…やりますよ…にしても珍しく、この件を他殺と考えてるんですね。」気だるそうに山上は質問する。
「まあな、一応取り調べを行ったのは俺だし、責任は感じている。できることはしてやりたいと思ってな。」
黙々と作業を続けていくが、生体認証はやはり角田のものしか残されていないようだった。
「こっち前と同じだ、山上なんか手がかりあったか?」
「はい…全然、角田、死ぬ素振りを見せていません。帰ってすぐにシャワーを浴び、そのまま仕事か何かをパソコンで触っています。」
気がついた。認証のログを確認して思ったのは、生体が消える、つまり死ぬまでに時間がかかりすぎていた事だ。ログから見て、署から帰ってきて二時間程度生きていたのだ。そして目を疑った。
「誰かを迎え入れていますよこの動き」
確かに、山上の言う通りだった。だが、それが誰なのかははっきりわからなかった、というより、姿は見えなかった。程なくして角田は腹に包丁を一突き。その後何かを追いかけるように椅子から立ち上がるも、力尽きた。
「自殺。何でしょうか。」
「どうだかな、だがこの角田の顔を見ればわかる。誰かと喋っていた。」
「だけれどその姿は見えない。」
幽霊という言葉で片付けてしまわないと、事の説明がつかない。
「すまない氷上、角田の顔をもう少しアップにしてくれないか?」
この生体認証とカメラが標準装備となった今、その情報は大概、情報屋と言われる民間会社が管理するか、政府が管理する。そして、大半のマンションや住居は金のかかる民間を避け、政府にすべてを委ねている。
そしてこのビッグデータは、新しくできた内閣情報庁が管理する。そして、警察各局は、情報局というものを於く。とはいえ、人員削減更には、この東京の端くれの警察署故、当警察署の情報局員というのは数少ない。紅一点であり、唯一の情報局員が、氷上結子である。
「もう、牧田君、貴重な情報局員を死なせる気?働き詰めなんだけど…新人が来たら」
「急いでるんだ。早くしてくれ!今度いい香水買ってやるから。」
「あっ気が変わった。男に二言は無いよね。ちゃんとシャネルのNo.5買ってね大樹」
「こら、職場だぞ!」
「ごめんごめんついねぇ」
結子は俺の同期であり、恋人だ。大学の部活からの付き合いだ。もう7年くらいになるのだろうか。同じ職場だと知ったときはびっくりした。
「これでどう?」
「ありがとう」
はっきりと見えてくる角田の顔。
どんなことを喋っているのかはわからないが、何かを、底にいるかもわからない、誰かと話している用に見える。
そして、死ぬ手、彼は発狂している用に見えた。何かに憑かれたように狂いだし、自分自身を包丁で突き刺した。一部始終を確認したとき、現場から奴らが帰ってきた。
4
「なんだよ」
「いや、だから、すまないと。これは立派な他殺だということを認める。だけれど、それを証明するすべを俺たちは持ち合わせていない。」
「ああ、それはこっちもだ、なにか見つかるかと思ったが、遺書は愚か、幽霊の足跡さえつかめなかった。凶器の包丁もガイシャの指紋と血液しか取れなかった。さしずめ、もめてたまたま持った凶器が腹部に刺さったかと思ったが、そのもめた痕跡すらありゃしねぇ。」
「だが、人影は見えた。」
「そうだ、確かに。角田以外の人間がいたという痕跡はそこにあった。」
映像検証の方でそれは実証された。
確かに、角田以外に誰か居るはずなのだ。そのように見える。
「この…名前のない幽霊だっけかな。かなりわかってるな、しっかりカメラの死角を把握し動いている。カメラに認識すらされていない。」
珍しく署長が口を開く。言われてみればそうだ、一切彼はカメラに写っていない。普通はどんなところであろうと、少しでもかすれば、生体認証と合わせてロック―四角で囲まれる―されるはずだが、それが一つしか無い。
「写らないというより、写れないんじゃないんすか?」
「それはどういう?」
「答えはシンプル、生体認証で補正を掛けるなら、この結果が当たり前だろうがよ。生体はもとから一つしか反応はねぇからな。ちなみに、このマンションの防犯カメラもそういうシステムだ。」
「それって防犯って言えるんすか?」と、山上がいつものように、生意気に口をはさむ。それに対して、牧田さんは懇切丁寧に、返す。
「今の御時世、生体認証が無い『生きいた人間』という存在はありえないからな、そういう前提があって、今のシステムが成り立ってる。」
「その前提を享受して、皆は今生きている。安心安全で、善良な生活が手に入る今を。」署長はそういう。確かにそうだ、このシステムを疑うという事が破滅へと導く。しかし、今回のおそらく、連続殺人はそんなことを行っている場合ではない。そう思えた。
「次の、犯行が行われる前に、一旦話あわねぇか?」
本田さんの提案だった。確かに幽霊を相手に、ここまで何もなしに、受け身で挑んできた。ここらで、練り直すのが妥当策だと思うが、
「そんなことして何になる、相手は認証が効かない、カメラにも写らない、亡霊のようなものを追いかけているんだぞ。今ある情報をより集めたとしても何もならんだろ」と牧田さんは反論した。
「何かが起こってからじゃ、おそすぎるんだよ。前の一件で学んだろ、お前の待ちの判断が、裏目に出た。いつもそうだったじゃねぇか!」
「なんだと…被害者が出て悔しがってるのはお前だけじゃない、俺だってできれば救いたかったさ…」
「そんな過ぎたことばかり考えるのはやめろ。これ以上の被害を出さないために、どうするかが大事じゃねぇのかよ。」
またいつもの如く、会議室に沈黙。こうなっては、どうにもこうにもならない。確かに次の一手を考えるのが、いますべきことなのだろうが、打つ手が無い。意見を出し合う空気でもなかった。そうこうしているうちにも、幽霊は次の手を打ってくる。間違いなく、なんの証拠も残さず。
「ただただ、見ているだけで終わってしまうんでしょうか…」
そうつぶやいていた。自分の無力を恨んだ。
「やりようがな…」
「みんな。ちょっといい?」回線越しで氷上さんの声だった。
「医務関係の情報ソースにつないで、遺体の検証を見せてもらったわ。これを見てほしいの。」
会議室のモニタに二人の遺体が移される。
めった刺しの元木、腹部のみの角田。同一犯にするには、特徴は無い。しかし、両者共に、あらがった痕跡はなかった。被害者の爪からも肉片などは検出されなかったということだった。
「角田のは自殺になってもおかしくは無いんだけど、両者とも争った形跡がないのよね。そこが妙に感じるわ。」
「確かに、ふたりとも、幽霊と遭遇していたはず…」
「その通りなの本田くん!一人目の元木に関しては、あんなにひどく痛めつけられているのに、もめたあとすらないの。」
「と、言うことは、されるまま…元木は殺された…」
「そうか、わかったぞ、幽霊は、痛めつけるためにこれを行った。まるで、いじめのようにな。」
「それだと本田、角田に関しては同説明をつける。」
「人影は見えていた。それなのに、自死したというのは可怪しい。なにかあるはずだ。角田が死に至る何かが。氷上、この部屋の音声は、できれば角田が死ぬ直前のもので。」
「ちょっと聞き取りづらいけど…これくらいなら。」
〈『や、やめろ。おれが何をしたって言うんだ…』
………
『これが、なんだって言うんだ。お前は、なにもんだよ。わけが分からねぇ。』
………
『わかった、俺が…俺が悪い。悪いんだ。俺が』〉
このあと発狂し角田は自ら腹を刺した。
やり取りの相手の声は聞こえづらく何かわからなかった。
「これは、心理誘導の類かもな…」と本田さんが口を開く
「私もその線に掛けるね。」
「氷上まで…心理誘導なんてもの信じるのか」牧田さんは驚いていた。
だがここで決は出た。角田は自死に見せかけた、殺人だったということだった。このあと少し会議が続いていつもより二時間ほど遅れて帰宅した。
少しだが、引っかかる点があった僕は、家に帰りメモを作った。
被害者 一人目 露の間 めった刺し
二人目 自宅 腹部一指し(マインドコントロールにより)
両者とも、時間をかけて殺された。
いじめ。のような痛めつける感覚?
また思い出した。いじめ。これで、死人が出たことだ。小学生五年生の夏。彼は飛び立った。
その二年後、世間は生体認証というシステムを始めた。なんでも、人を管理する。そんな社会だ。思えば、彼は認識される事なく死んでしまった。いじめを無視され、存在を無視されたのだ。
本田さんの考え方を思い出した。もし、もし僕が彼で、今も生きていたならと…
そんな事を考える。彼はどうしたのだろうか。どうしたかったのだろうか。
あのとき僕がそれに気づけていれば。彼を救えていたのだろうか…
睡魔が襲ってきた。そういえば、最近は激務続きであまり寝むれていなかった。今日はしっかり寝ようと思った。
まあいろいろあって、音楽物語論を削除しました。
まあそりゃそうよね。カオスストーリーズにでも持っていこうかな(笑)
さてさて、二章目です。
女性キャラ登場です。まあサイコパスの唐之杜さん的なポジションですね。
ただ、あんなグラマーで、おおらかな人間では無いです。
まあ彼女の話についてはまた後々にでも。
二章の解説をば、
まあシンプルな話にしました。わざと、いろいろ推論させてごたつかせたけど、角田の死はかなりシンプルに作りました。
まあ思うのは、最近暑いですねということと、「刃渡り20センチほどの包丁」って、「バールのようなもの」感あってなんか耳障りがいいですよね笑。