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町内巡回夜空ちゃん  作者: 長野 郁
3/5

夜空ちゃんドツボ

命からがらといった思いで帰宅した夜空ちゃんですが、自分の部屋に帰り着いて、制服を脱いで着替えようとして唖然として固まってしまいました。ボトムスが、スカート以外無くなっているのです。しかも、スカートも、どれもこれも裾が切り取られて丈が詰められてしまっており、股下2~3センチぐらいしかありません。ご丁寧にも切断面は、折り畳んで縫って、裾上げして仕上げがしてあります。



「……………………………!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



留守の間に、いったい誰がこんな手の込んだ事を…。顔色を白黒させて困惑する夜空ちゃん。確かに自分の服ですし、一応、人前に出られる格好ではある、というコトにはなる筈ですが、この丈は…、恥ずかし過ぎます。これでは、ろくに動けません。怒り心頭の夜空ちゃんですが、恥じらいのあまり、顔色は赤くなるばかり。はっと我に返った夜空ちゃんは、その短すぎる黒デニムのスカート姿で、本棚を、がしゃがしゃひっかき廻し始めました。やっぱり…。パンツの記事が掲載されていた雑誌が、ことごとく消え失せていて、スカートの特集の掲載された雑誌ばかりが残されています。まさか…。台所の奥に走って、ケースの中に押し込まれていた古新聞を床にぶちまけました。折込チラシを一枚一枚改めると、服の宣伝チラシが、スカートばかりで、女物のパンツが一着も載っていません。



「やられた………………………!!!!!!!!!!!!!!!!」



犯人は誰? PTAが手を廻したの? 弟とパパもPTAの回し者? 混乱するばかりで考えがまとまりません。






制服姿の夜空ちゃんが、息せき切って家に駆け込んでいってから、何時間が経ったでしょうか。私服に着替えた夜空ちゃんが、その切り取られてしまった短すぎる裾をしきりに気にしつつ、玄関の扉を開けて出てきました。家の裏の自転車置き場に向かい、愛車のマウンテンバイクを、門の前の道に引っ張り出しました。乗るつもりなのでしょうか? 乗ろうとして脚を後ろに振り上げる動作を始めた直後に、突然、彼女は、凍り付いたみたいに固まってしまいました。自分がスカート姿、それも今や裾を切り取られてしまったあまりにも短すぎるそれだということを、自分で失念していたようです。夜空ちゃん、しばらく両手で自転車のハンドルを掴んだまま、顔を真っ赤にして懸命に思案に暮れている様子でしたが、とうとうそのまま自転車に跨らず、押したまま小走りで駆け出しました。



あたりはもう夕暮れ、西には美しい夕焼けが輝いていましたが、夕日に背を向けて目もくれず、剥き出しの白い両足を西日に照らされながら、ギアの空転するカラカラという音をリズミカルに鳴らして、乗れもしない愛車を押して、はずむ足取りで街角の雑踏の向こうに消えてゆきました。どこに行くつもりなのでしょうか? それは、彼女自身にも、まだ分かっていないのかもしれません。いつ、この家に帰ってくるのでしょう? それも考えていないのかもしれません。



ですが、その一軒家に、その部屋には、彼女は、今、居はしません。帰宅したパパと弟がいつまで待っても、夜が更けても、彼女は帰って来ませんでした。



(完)

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