人気のない学校の廊下と冬の夕暮れ
時刻は17時。 生徒最終下校時刻を告げる音楽が学校の敷地内全体に流れる。私は校内のパソコン室にいた。完成期日がすぐそこまで近づいている授業の課題がまだ出来ていないので、居残りして作業をしていたところだ。 室内には私の他に女子が2人の3人だけ。同じクラスだが普段話すことのない2人だ。私はパソコンをシャットダウンし、帰り支度をする。紺色のコートを羽織り、黒のマフラーを巻く。 今は1月末だ。 パソコン室を出ると冷たい空気に包まれぞくぞくとした。大体の生徒は既に帰宅しているか、部活動のために校舎にはいない。 そしてこのパソコン室は建物の4階の一番端に位置するので、人気がない。パソコン室から歩いて少し離れると、まるでこの世界に自分一人しか存在しないような、そんな気持ちになる。この学校の周辺は田舎で、校門を出るとまさに山と田んぼの風景なので、人気が無くなったこの時間帯の、この季節の校舎内は本当にしんと静まり返っている。外はもう暗い。私の歩く足音だけがスタスタと響く。 そんな時、一人歩きながら何気なく横目に見た、窓の外の景色に思わず立ち止まった。校舎の前に広がる田んぼの向こうに、同じくらいの高さの屋根の家々が並んでいて、既に陽は沈んで、家の黒いシルエットのなかにぽっと優しい灯りが灯っている。その向こうには道路があって左右に車が行ったり来たりして、その向こうにはちょっとした街明かりがあって、その上には私の視界を横に水平に、一直線に、どこまでも続く見事なグラデーションを彩った空があった。 一番下が濃いオレンジ色、その上が少し薄くなったオレンジ色そこからだんだんオレンジ色が薄い紫色に、水色に、青色に、紺色に、最後は深い濃紺色となっている。綺麗だと思った。 そして同時に寂しいような、切ないような、そんな気持ちにもなった。何かとても遠い記憶を思い出すような、感傷に浸るというのだろう。 例えば私が今見ているこの風景を一枚の写真や絵画のごとく、四角形に切り取ったとして、私はこの切り取った世界の中でずっと今の気持ちを味わえたら幸せかもしれないと思ってしまうような、そんな感覚。そうしてから時間にして1分くらいだろうか、後ろの方から私と同じく居残りしていた残りの二人の話し声が聞こえてきた。 私はさてと、また歩き出す。ほんのつかの間の素敵な気持ち。