第3話 追求
昨日のあの衝撃的な出来事から一夜明けた。昨日の見た夢もあの少女が出てきてとても不気味であったためあまり眠れなかった。
そういうわけで、一世は寝不足のまま学校に来て、机に突っ伏して寝ていた。そんな彼を心配してか千花夏が傍に来てくれた。
「大丈夫?かずくん?顔色悪いよ?」
心配そうに見つめる千花夏を心配させまいとなんとか笑顔を作った。
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと寝不足でな…。」
寝不足というよりもほとんど寝ていない。夢の中であの少女に殺されるというあまりに不吉な夢を見たことと昨日の出来事によるものであった。
一世のことを気を使ってくれたのかそれ以上は何も言わずに1人にしてくれた。千花夏の行為に感謝し、改めて寝ることにした。
しかし、なぜあの少女は、あんなところにいたのか?そして男を焼き殺したこと。彼女が男を殺すことに使用した力は紛れもない異能である。
一般的にはその力を罪力と呼ばれている。罪力とは咎人が生まれながらに持つ力だ。
男の風やカマイタチ、少女の炎はまさに罪力である。今まではニュースでの出来事にしか過ぎなかったが、昨日初めて咎人を見た。
正直、好奇心も湧いたが同時に恐怖だって感じた。ほっておけば危険であると思った。咎人はこの世の中では平等の理念に反した存在として罪人扱いされている。
確かに、今の日本は平等というものに、重きを置かれている。現在では、男女差別はもちろん、障がい者差別、部落差別などあらゆる差別なくなっている。
そのため普通の人間を超える異能力を持つ咎人はそんな社会の秩序を乱す存在になるだろう。
だからといって、何の罪もおかしていないのにそこに存在しているだけで逮捕されたりしている。一世はそのことについて前から疑問に感じていた。
そんなことを頭の中で考えていると、先生がやってきた。HRの時間になったのだ。考えるのをやめて前を見ると、一世は衝撃を受け、唖然としていた。
なぜか?それは真知子先生の隣にいた少女が原因だった。
「はーい!みんな、今日はこのクラスに転入生が来ました!みんな仲良くしてくださいね!
じゃあ自己紹介お願いしますね?」
真知子先生は横にいた少女に自己紹介をするように頼んだ。そしてその少女は先生の顔を見てコクリと頷いた。
その少女は深紅の髪のロングヘアそしてカチューシャをしていた。昨日の少女のように。
「初めまして。私の名前は室園遥夏。宜しくお願いしますね。」
机に座っている生徒にニッコリ微笑んだ。男子は大盛り上がりしており、女子は高級な装飾品を見るような目をしていた。
だが、一世は全くそんな盛り上がりなんてできなかった。なぜなら、昨日の目があってしまったからだ。もしバレたら殺されるかもしれない。そう思い、なるべく目を合わせないようにチラチラ目をそらしていた。
しかし、そんなことをしても無駄であった。彼女は、俺と目があった瞬間、不敵な笑みを浮かべたのだ。「見つけたぞ。」と言わんばかりの眼差しは俺を再び恐怖に陥れた。
「とりあえず、空いてる席に座ってもらおうかな。あ、御崎君の横が空いてますね?じゃあ、そこに座ってもらおうかな〜。」
真知子先生は転校生の遥夏に一世の隣の席に座るように呼びかけた。
「はい、わかりました。」
礼儀正しく言うと、空いてる席まで歩いていった。そして席につくと、一世の方を見て一言
「昨日は、どうも…。」
と一世にだけしか聞こえない声で話してきた。それを言われた一世は一気に心拍数が上がった。ドキドキしているのとはまた違う。とてつもない恐怖によるものであった。
彼女の言葉の続きが、耳から幻聴のように聞こえてきた。「よくも見てくれましたね。」と。
「な、なんのことかな?」
一世は冷や汗をたらたらとかきながらも平静を保った。だが、そんなとぼけ方をしても無駄だった。
「昨日、あの裏通りで私を見たでしょ?こっちはすべて知ってるのよ?御崎一世くん?」
「な、なんで?俺の名前を?」
自分のフルネームを言われさらに恐怖感じた。名前など一言も名乗っていないのに、なぜが知っていた。この少女は一体何者なんだ!?と心底思った一世である。
「また、この話は後でしましょう?」
遥夏はニッコリと微笑み席に着いた。そして、いつも通りのHRが始まった。いや、一世だけはいつもとは違っていた。
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HRが終わったあとに、大勢の人に囲まれた遥夏だった。いろんな質問を受け答えしていた。
やがて授業が始まるとみんな席に着き始めて、遥夏の顔が一世に見えた。その時に一言
「放課後、昨日の裏通りでじっくりと話しましょう?逃げたらどうなるかわかる?」
そう言われた。そんなことを言われた一世は気が気ではなく、全く授業に集中できなかった。
そして、授業も終わり放課後になった。既に彼女の姿は消えており、一世も急いで指定された場所に向かった。
昨日の裏通りについた時に遥夏はその場所に既にいた。彼女の目はさっきの学校での目とは明らかに違い狩りをするライオンの目のようになっていた。
「きたわね。御崎一世、ということで、死になさい。」
「ま、まって!俺は何も見てない!!」
遥夏は一世に自分の手のひらを広げて見せてきた。それは昨日の男との出来事と全く同じであった。
「とぼけるのはやめてもらえるかしら?あなたは男が灰になるところまで見たでしょ?」
やっぱりバレてる。昨日、目があったし当然かもしれない。だが、それを認めてしまえば、殺されるのが最期だ。
一世は見てないと首を横に振った。
「俺は男が炎で灰になるところなんて見てない!!!」
「へぇ、私の不滅の鎮魂歌を見てるじゃない?私をバカにしてるのかしら?」
―――し、しまった!つい、口を滑らせてしまった!―――
そんなことを思っても時既に遅く、遥夏は笑っていた。だが、目は全く笑っておらず、さらに恐怖を一世に与えた。
「貴方も昨日のあいつのように一瞬で殺してあげる。その方が気が楽になるでしょ?」
遥夏はどんどん一世に近づいてきた。一世は後ずさりしようとしたが、彼女はそうはさせなかった。
後ずさりしようとしている一世の後ろに炎の壁を作り出した。逃げ場を失ってしまった一世には走馬灯が見えていた。
―――あぁ、俺死ぬのか…。―――
既に逃げ場を失った一世は諦めてしまった。目の間にあるのは絶対の死。何事が起きようと覆らないもの。
腹をくくるしかなかった。
「死になさい。憐れなる咎人に裁きを下そう不滅の鎮魂歌。」
一世に見せていた右手の平から炎が現れた。一世は諦めようとした。しかし、頭ではわかっていてもやはり怖いもので、思わず両手でガードするような構えをした。
炎が一世の前まで来てその身体を包もうとしたその時、異変が起きた。
なんと炎が突然消えてしまった。
「え?な、なんだ。どういうことだ?」
何が起きたのか全くわからなかった。まず生きているのか?それを確認するために、頬をつねった。しかし、しっかりと痛みがあり死んでるわけではなかった。
じゃあなぜ、炎が突然消えたのだろう?
「ど、どういうことよ!?どうして私の炎が消えたの!?」
驚いていたのは一世だけではない。遥夏の方もいや、遥夏の方が驚いていた。確実に一世を殺そうとしたのに、何故か炎が消えてしまった。
自分のミスではない、だとしたら?一体なんで?そんなことを考えていた。
あまりのありえない出来事に遥夏は一世にこの一連の出来事について追求してきた。
「どうして私の炎が消えたのよ!?あなた何者なの!?」
そんなのこっちの方が聞きたい。炎が消えるなんて、向こうがやったのではないのか?だとしたら一体どうして…。
全く知らないというかをして遥夏を見た。
「俺だって知らないよ!?」
「もしかして…。あなたは咎人!?」
あまりにも話がぶっ飛んでいた。俺が咎人だって?ありえない。産まれたこの方一度も能力なんて使ったこともない。
それに咎人検査にも一度も引っかかったことは無い。それなのに咎人だなんて…。
遥夏の方は1人納得していた。そして色々と考え事をしている。そしてその険しい顔から口を開いた。
「御崎一世。私のあとをついてきなさい。」
遥夏は一世の方を鋭い目つきで見てきた。そして、指をクイクイと動かして、「ついてこい」と指示をしてきた。
「わ、わかった。」
本当は逃げたいところだったが、また逃げたら今度は本格的に殺されると思ったので指示に従うことにした。
彼女の後ろをついていき、裏通りをさらに歩いていくと彼女は突然足を止めた。
そして一世に少しだけ待つように促した。そして左耳につけていたインカムのスイッチを入れた。
「こちら遥夏。昨日の言っていた一般人を殺そうと思ったんだけど、様子が変だったから辞めたのよ。うん……そう……。だからそっちに連れていくわ。……うん。てことで転送お願いね。」
誰かと会話をしており、その中で殺すなんて言葉が出てきてゾッとした。やがて会話も終わり、俺の方を鋭い目つきで見てきた。
「あなたそういえば誰かに似てるわね……。気のせいかしら。」
「多分初対面だから人違いだろ?」
さっきまでの緊張はなくなっており、普通に話すことが出来た。とはいっても相変わらず目つきが怖いので、あんまり目を合わせることできなかった。
「そぅ、まぁいいわ。今から転送陣が出てくるからその輪の中にはいってね?」
て、転送陣?なんだそれ?魔法かなにかか?と思ったが、突っ込むのは辞めた。既に咎人と関わってしまった時点でもう普通ではないと思ったからだ。
とりあえず頷いた。その方が賢明だから。
しばらく待つと彼女が言うように魔法陣らしきものが現れた。これがおそらく転送陣っていうものだろう。
言われた通りに輪の中に入った。
「いいわよ。転送して。」
インカムにそう言うと、突然転送陣から光がでてきた。その光が二人を包み一瞬にして別空間に飛ばされた。
一世はただ驚くことしかできなかった。というよりも何が起こったのかいまいち状況が呑み込めなかった。
さっきまで裏通りにいたのに、気づいたらどっかの建物の中にいた。遥夏の方は驚くこともなくどんどん建物奥へと入っていった。
「お、おい、俺をどこに連れていく気だよ?」
「黙ってついてきなさい。燃やすわよ?」
「聞いてるだけじゃねぇか!?ひどすぎるだろ!?」
発言を認められず思わずムカッとしたが、色々と面倒なので、それ以上何も言わなかった。
彼女の後ろをとぼとぼとついていくと、ドアがあった。
彼女はドアの横にあった。パスワードコード入力装置のところにいきものすごいスピードでコードを入力していった。
どんな指してるんだよ。と突っ込みたくなるがあえて何も言わなかった。どうせまた理不尽なことを言われるだけだから。
コードを入力した後ドアは自動でゆっくりと開いた。
「な、なんだここ!?」
思わず一世は目を疑ってしまった。