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あなたはチュートリアルをスキップする派?しない派?

私はスキップする派です

 キキーッ!私はトラックに轢かれ……(SKIP!!

 「儂が神じゃ」神様が私を転生させ……(SKIP!!

 今、私は異世界に降り立った!


「いっせっかいっだー!受験戦争なんて無かったああー」


 私は荒野の真ん中で万歳ポーズをしながら歓喜の叫びをあげた。いやあ、いいもんよねえ。異世界。ついに私にもチャンスが、で、ここはどういう世界かっていうと……、どんな世界かっていうと……、わかんない。……スキップしたから。


 ああああああ。作者がチュートリアルを強制スキップしやがったせいで何をすればいいかわかんねえじゃねえか。


 思わず頭を抱えてしまう私。いやいや、まだ悲観している場合じゃない。周りを見て状況を確認しなければ。


 空!太陽がまぶしいです。雲もゆったりと泳いでいますね。


 前!赤茶の土と青い空しかありません。地平線なんて初めて見たなあ。


 後ろ!やっぱり荒野しか広がっていません。あとはロボットが1台!


 うん?ロボット?ってええええ!


 そこには、緑にカラーリングされた巨人がいた。3階建ての家ぐらいの大きさかなあ。逆三角形の頭部にひっついた2つの目が私を凝視している。その手にはリボルバーのような何かがあり、銃口を私に向けている。ひいっ!


「こんなところで人間が何をしているんだ」


 喋った!いやいや、何を言ってるんだ。おそらくスピーカーを通して、通話しているだけなのだろう。そう思いながらも、私にはロボットそのものが喋っているような気がした。


「えっと、ちょっと道に迷って、ここは何処なの?」


 私は何を言っているんだろう。荒野のど真ん中でここは何処と聞いたって、相手も困るだろうに。


「……ここは、ラグナー帝国の西端都市、アンスルトンシティの近くだが。お前はこのあたりに住んでるのか?」


 ロボットは親切にも私の疑問に答えてくれた。良い奴そうだったので、私はロボットに事情を話した。突然この世界に来てしまったこと。気づいたらここにいたこと。来たばかりでこの世界のことについて何もわからないこと。


「わかった。わかった。そういうことなら、アンスルトンシティまで連れて行ってやろう。大丈夫だ、あの町の病院設備は良いから安心しろ。手に乗れ」


 あああああ。精神病患者扱いされてる!わかってねえじゃねえか。


 そう言うと、リボルバーを持ってないほうの手、左手を私の前に差し出す。その間も、右手はリボルバーを持ったままであり、目はせわしく動かしており、まるで周囲に警戒しているようだった。


「囮……、待ち伏せの様子はない。自爆テロ、所持できそうな爆薬……、ほぼ無意味。……本当にただの遭難者……か」


「何か言った?」


「独り言だ」






「ねえねえ。あなたの名前って何なの」


 私を左手に乗せて緑色のロボットはバーニアを噴かせながら空をゆっくりと飛んでいる。何故ゆっくりなのかというと、全力で飛ぶとGで私の体がもたないからだそうだ。しかし、大丈夫か作者。物理知識全く無いのに難しい言葉を使うと後で後悔するぞ。これはコメディーなんだから。


「名前?聞くのか?」


 普通聞くよ!


「本体名は蟷螂の斧(ブレイブマンティス)。通称はカマキリだ」


 本体名と通称って、本名とあだ名ってこと?あまり、人間ぽく無い名前なのね。そういえば、最初「どうして人間がここにいる」と言ってたなあ。私たちが相手のことを「人間」って呼ぶことはあまりないから、たぶんこの世界は人間以外もいるんだろうな。

 これは私の予想だけど、カマキリは本当にロボットそのものなのだろう。中に人間が乗って操作しているわけではなく、あくまでロボット自身に人工頭脳みたいな、本人で考え、意志を決定させるための機関が搭載されているのだろう。

 そうなると、今向かっているアンスルトンシティというのは、人間の町では無くてロボットの町なのかしら。


「ふーん。見たまんまの名前なのね。私の名前は」


「お前の名前?コッコでいいだろ。鳥頭っぽいし」


 何じゃとおおー、馬鹿と言いたいんか、この昆虫が!いやいや。いかん。私は寛大なのだ。ここは抑えて別の話題にしよう。


「ねえねえ。アンスルトンシティって人間がいるの?」


「……本当に何も知らないんだな」


 私と話すのに飽きたのか、カマキリは呆れたようにつぶやく。


 ん?


「無知なお前に教えてやろう。アンスルトンシティ……というより、ラグナー帝国は我々機闘士(グラディエーター)の国だ」


 ふむふむ。ロボットのことは機闘士っていうのね。


「そして、我々の国では一部の例外を除いて、人間は奴隷として働いている」


 はえっ?どれー?


「お前も、シティ内の工場で働いてもらうことになるだろう。大丈夫だ、1日12時間労働、週休一日制、朝昼晩食事付、寮もオール電化だ。帰るところも無いお前には問題ないだろう」


 大ありじゃああああー。内容もブラックだしぃ!

 ちょっと!どういうことよ。せっかくの異世界ライフなのよ!奴隷生活でエンジョイなんてできるわけないじゃない。私帰る!

 

 下を覗くと遥かな大地が広がっていた。……これは落ちたら、死ぬわね。


「まあ、観念しな。悪いようにはしない」


 ああ、神様。どうして私をこんな世界に連れてきたのですか。私は自由を謳歌したかっただけなのに。誰か私を助けてください。


 その時である。

 私の祈りが通じたのか一体のロボットが高速で真っすぐこちらに向かってくるではないか。


「カマキリ!人間を連れてどこに行こうとするんだ!」


 おおおおっ!天の助け!

 銀のカラーリング!クワガタっぽい2本のアンテナ!ヒラヒラの赤いマフラー!なんか主役っぽい!


「ちいっ。あれは、無重力(グラビティゼロ)!めんどくさい奴がきやがった」


 どうやらお知り合いのようである。カマキリは迷わず右手のリボルバーを銀のロボットに向け、軌道の先を読んで銃弾を撃ち放った。

 銃弾はまっすぐ進み、このまま進むと銀のロボットに当たってしまう。そう思った時だ。

 銀の軌道は直角を描き、銃弾を躱す。高い旋回能力を銀のロボットは持っているようだった。


「くそがっ」


 カマキリが愚痴りながらも、続けて撃ち放つが、それをかわしながら、銀のロボットは私たちの距離を詰めていく。

 ブォン。

 重い音がすると、銀のロボットの手から光の刃が出てきた。


 それは正確に言うと、この世界でビームダガーと呼ばれる兵器であり

 荷電粒子を刃上に顕現させるための武器であり

 銀のロボットがそれを大きく振りかぶりながら、こちらに接近して、カマキリの左肩部を切り落とし

 カマキリの胴体と左腕の結合部はジュオッと蒸発音を立て、左腕は落下した。

 乗っていた私と一緒に

 

 ぎゃああああーー。


 私は重力に従って、地面に落下していこうとしている。絶対死ぬ。そう思った。もし、何故地球は重力を持つのかと聞かれたら、地球が人類のことが嫌いだから、数メートルの高さで死んでしまえるように、重力を作ったんだと回答したいとまで思った。


 が、その瞬間、私の体が軽くなった。いや、というか、浮いてた。

 別に私は空が飛べるわけでもない。なのに、突然落下が止まったのである。

 私の理解が追い付かないまま、今度は軽い衝撃を受ける。今度は空が高速で動いているように見えた。

 気づいたら、私は銀のロボットに抱きかかえられていた。どうやら、落下した私をキャッチしたのはこの銀のロボットだったらしい。


「大丈夫か?」


 大丈夫じゃない!大丈夫だけど!


「やってくれたなあ。ともどもにぃっ!」


 ああ、後ろ!

 後ろからカマキリが、まだ弾が残っているのかリボルバーを撃ちながらこちらに向かっている。

 

「すぐ入って」

 

 銀のロボットの胸元が開き、コックピットが出てきた。無人ロボじゃないの?

 私は急いで入ると、中には誰もいなかった。


「行くよ」


 銀のロボットは急発進をした。わわわっ。まだ、シートベルトもしてないのに!

 加速による衝撃を覚悟した私だったが……はらっ?

 意外にもほとんどGを感じなかった。コックピットの中にいるからだろうか。


「逃げるんじゃねえ!無重力(グラビティゼロ)!」


 銀と緑の追跡劇が始まった。



 うーむ。さっきまで死にそうだった私はコックピットのシートにふんぞり返って座っている。いやあ、何かこうしているとすごい余裕が出てきたわ。今なら、ゆっくり周りを見ていられそう。

 コックピットの中にはスクリーンが私から見て前後左右に合わせて4つあり、後ろのスクリーンにはカマキリがこちらを追いかけている様子が映っていた。手元にはディスプレイが一つ。そこには「自律思考中」と表示されている。ディスプレイの周りにはよくわからない計器が並んでおり、さらにその横にちょうど手で持ちやすそうな位置にレバーが、足元にはペダルが付いている。


「あんまり触らないでね。下手に触ると、脱出装置が作動して放り出されるから」


 色々、触ったり見ていたりしていた私に頭上から注意が飛んで来た。

 怖っ!あまり触らないでおこう。


 やることも無くなったのでもう一度後ろのスクリーンを見る。最初に見た時と同様にカマキリが追っていた。

 ってあれ?


「ねえねえ。あいつ、今、全然撃ってこないけど、弾切れなんじゃないの?」


 じっと見ていると、一定の距離を保ったまま、追いかけてきているだけである。


「たぶん、僕たちがアジトまで逃げるのを狙っているんだと思う。あいつらはアジトの場所知らないから」


 アジト?ああ、このロボットのアジトね。あんまり、気にしてなかったけど、こいつらどういう関係なんだろう。


「でもさあ、それだったら、このまま逃げてもどうしようも無いんだから、ここで、あいつ何とかしないといけないわけじゃん」


「まあ、そうだよね。ただ、あいつは僕と同じ第一世代の機闘士だから、普通に戦っても、勝てるかどうか怪しくてね」


 第一世代とか言われてもよくわかんないけど、たぶん同じスペックのロボットってことね。


「でも、あいつ片腕しか無いわよ。案外近接戦闘とかは……」


「実は隠し腕が2本ある」


 うそ!何そのロマン。


「背中に2本の鎌状の腕があってね。肩の後ろの方から飛び出すんだ」


 そうかあ。接近戦は難しいのね。うーむ。どうしたらいいのかしら。

 ふと、私にある考えがひらめいた。


「ねえねえ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」






 どこまで行きやがるんだ。くそっ。


 事態の膠着に困惑していたのは無重力達だけでは無かった。カマキリもまた、これからどうするべきか悩んでいた。


 カマキリ自身の本来の任務は、帝国に逆らうレジスタンスのアジトの捜索であった。一人怪しい人間を捕まえたが、まああれは関係ないだろう。馬鹿っぽかったし。だが、運よくレジスタンスの一員である無重力がやってきた。それで、アジトまで逃げることを期待して追いかけているのだが。

 考えを読まれているのか、同じところをずっと回っているような気がする。ここは諦めて無重力を墜とすことを優先するべきか?


 左腕こそ落とされたものの、まだ、2本の隠し腕が残っていた。接近戦なら分がある。背部から肩にかけて飛び出す2本の鎌状の腕は、霹靂の如し高速斬撃を可能としており、その武器こそ彼が蟷螂の斧(ブレイブマンティス)と呼ばれる所以だった。


 そんなことを考えていた時である。突然、目の前の銀機闘士の動きが止まり、こちらに向き直って、ビームダガーを構える。


 何を考えてる?


 念のため、一定距離を置いたところで、右腕でリボルバーを取り出して構えた。撃ちはしない。どうせこの距離なら避けられるからだ。


 均衡を破ったのは銀色の方だった。


 突然、縦横無尽にあらゆる方向に飛び回りカマキリをかく乱する。慣性の法則を無視したその動きをカマキリはあくまでも冷静に観察していた。


 あらゆる武器にそれぞれの間合いがある。その間合いの外から来る攻撃など怖くはない。そして、今のあいつの武器で最も間合いが長いのは……。


 この瞬間!


 カマキリの前に出てきた無重力は右手でビームダガーを構えたまま、左手で赤いマフラーを首元からほどき、振り放った。高強度繊維で作られたそれは鞭のようにしなりリボルバーを掴む。

 ミシッとリボルバーが歪む音を背景にカマキリがバーニアを全力で吹かせて無重力に殴りかかった。吹き飛ばされた無重力に追撃を仕掛けようと再度近づこうとするカマキリに赤いマフラーが巻き付く。

 吹き飛ばされながらも再び放ったマフラーはカマキリの右腕から左肩にかけてたすき掛けに絡みついた。


 右腕と右の隠し腕が動かない。だったらな!


 カマキリは左の隠し腕を出現させマフラーを切るために振り下ろす。だが、


 ガキン!

 それも、近づいてきた相手のビームダガーによって阻まれる。


 左の隠し腕は相手とつばぜり合い、右手と右の隠し腕はマフラーに巻き取られたままの状態で向き合う格好となった。

 

「力比べか?おもしれーじゃねえか!」


「いや、カマキリ。こうなった時点で僕たちの勝ちだ」


 ああん?何を言って……


 突如


 無重力の胸元のハッチが解放されて少女が射出された

 少女は涙目になりながらもカマキリの胸部にしがみつく


 両機はにらみ合ったまま動けない

 カマキリの拘束された右の隠し腕は呪縛を破ろうとして呻き声を上げている


 少女はカマキリのハッチ強制解放スイッチを押し、コックピットに潜り込んだ


「何なんだよ!小娘が!」


 叫ぶものの3本の腕が全て封じられている以上コックピットの中に潜り込まれたらどうにもならない。

 だが、カマキリにとって幸運なことに右の隠し腕が隙間からマフラーを切り裂き顔を出した。

 無重力は咄嗟に左手を差し出すものの

 右鎌は左手から左腕を縦に切り裂き、左肘の所で勢いが止まった。


「へっ、へへ!無惨だな」


 カマキリが自由になった右手で腰部からダガーを取り出して無重力にとどめを刺そう。そう思ったとき


 カマキリの体が四散した。


「だから、言ったろ。僕「たち」だと。でも、今回は面白かったよ」


 なっ。あいつ降伏装置を……


 頭部、胴体、右手、左の隠し腕、右足、左足に分かれてバラバラに落下してゆくカマキリの頭部に無重力が投げたビームダガーが突き刺さった。

 最後にカマキリが見たのは、いつの間にか脱出していた少女を右手で捕まえようとしている無重力の姿だった。

 カマキリの頭部は地面に激突する直前で爆発した。






 時はさかのぼる


「ねえねえ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


「なんだい?」


「あなた自爆装置って付いてる?」


「……ん?……って、君は一体何を聞いてるんだ!」


 うわあ。ドン引きされた。でもまあ、考えたらそうよね。ここで自爆して、カマキリにお目こぼししてもらうのも考えもの……って、それだと奴隷行きじゃあ!誰がやるか!


「いや、違うわ。あなたとあのカマキリってやつが同じロボットならやっぱりコックピットがあるだろうし。その中に入って自爆装置でも起動できたらなあと思って」


 そうだ。このままじゃ埒が明かないし、こいつがカマキリを倒せないって言うのなら私がやるしかないんだ。私の自由のためにも。


「……自爆装置は無いけど、降伏装置というものならある」


 うん?


 ロボットの話によるとこうだ。何でも、このロボットたちは元々人を乗せて戦うことを前提として作られたロボットらしい。そのため、中にいる人間のための機能もいくつかあるそうだ。

 その一つが降伏装置。負けが確定するとわかった際に体をパーツごとに分解する装置だそうだ。要は白旗を上げるようなものなんだろうな。何でそんな面妖な装置が載せてあるのかわからないんだけど。


「でもさあ。相手のコックピットに忍び込んで、降伏装置を起動させる?そんなの無茶苦茶だよ。失敗したら死ぬけどいいの?たぶん僕はフォローできないし。いざとなったら君を見捨てて逃げるよ」


 こいつ。あっさり言いやがるな。


「どっちにしても、ここであんたがここで落とされたら死ぬでしょ。なら一緒よ。それに大丈夫よ私は死なないわ」


「死なないって、その自信は何処から来るんだい」


「そりゃあ、もちろん、私は完全無欠の主人公だから」


 神様に選ばれたんだしね。


「完全無欠?」


「そう」


「完全無欠って、あははははははは。君は馬鹿か」


 ロボットは突然笑い出した。いやあ、ロボットでも笑うものなのね。


「でも、それぐらいがいいね。乗ろう。その賭けに」


「本当?」


「ああ、じゃあ、まずは脱出装置の仕方からね。両側のレバーを思いっきり引いて……」







 時は現在に戻る。


 はあー。死ぬかと思った。案外、自分から高いところを飛ぶのも怖いものね。

 私は再び、ロボットのコックピットの中で、できる限り足を思いっきり伸ばしながらだらけていた。

 今はロボットに乗せられながら、このロボットのアジトに向かっているところである。


「ねえねえ。あんたの名前は」


「名前?無重力(グラビティゼロ)、通称アーサスだよ。君は?」


 おお。ちゃんと聞いてくれた!どっかの虫けらとは大違いだ。


「私の名前は……」


 そこまで喋ってから沈黙する。


「どうしたの?」


 私の様子が変わったのに不審を感じたのか、問いかけてくる。


「イリスよ」


「それ、本名なの?」


「本名よ」


 私は断言した。昔の名前なんて知らない。今からはイリスよ。まあ、そんなことより。


「アーサス。あんたとカマキリってどんな関係なの?」


「……この国にいてそれを知らないのかい?」


 うわっ。呆れられている。ってそうじゃあなくて。

 私はロボットに今までの事情を話した。突然この世界に来てしまったこと。来たばかりでこの世界のことについて何もわからないこと。大体カマキリに話した内容と一緒だ。


「うん。わかった。とりあえず、アジトに着いたら……」


「精神科医は要らないから」


「うん?なんでわかったの?」


 お前もやっぱり思ったんかい。


「まあ、いいや。この国の事情について話すけど、どこから話せばいいのかな……」


 アーサスの語るところをまとめたらこういうことだ。

 もともとこの国はラグナー王国という平和な国だったらしい。機闘士と呼ばれるロボットたちの技術を独占していたものの、それを他国の侵略に使うこと無く、自衛用の戦力として整えているだけだった、という何とも有り得ないような国である。

 でも、2年前にクーデターが起こったらしい。主犯は、アーサスと同じ第一世代のロボットたちであり、そいつらは機闘士の権利拡大を主張して、反乱に踏み切ったそうだ。結果、王様は殺されてしまって、首都は機闘士達によって占拠されてしまった。占拠された首都では人間たちが工場で奴隷として働かされているらしい。

 その時にアーサス達は残った王族たちを保護して、抵抗活動をしているらしい。いつか、人間の自由と首都を取り返すことを夢見て。

 今向かってるのは抵抗活動をしているレジスタンスのアジトだそうだ。


「ふーん。第一世代の機闘士って何体いるの」


「僕とカマキリを含めて、全部で5体」


「何体がクーデターに関わったの?」


「僕以外の4体全員」


 うわー。大変なのね。


「じゃあ、カマキリは死んじゃったから、あと3体なわけ?」


「そうだったら良かったんだけどね。首都には専用の機闘士再生設備があるから、今頃カマキリの体も新しいやつを作り始めている頃なんだよ」


 なんじゃそりゃー!幹部は基本劇場版でしか再生しないってのにー!


「じゃあ、どちらにしても首都を取り返さないとダメなのね。大変ねえ」


「さっきから、他人事みたいに言ってるけど、イリスも大変なんだけどね」


 はえ?


「良く考えてみてよ。君はそのレジスタンスと一緒にカマキリを倒したんだよ。仲間に思われるに決まってるじゃないか」


 えっ?ちょっと待って。


 えーと、この世界は、ロボットが支配する帝国があって、それに対抗するレジスタンスがいて、このアーサスはレジスタンスの一員であり、助けられた私はレジスタンスの一味と認識されてしまったということは……。はっ!


「私のエンジョイ異世界ライフは!」


「無理だろうね」


「自由は?!」


「えっと、人間の自由を勝ち取るために戦っているのだから、今は自由が無いし」


 さらりと言うなー。

 ああ、なんていうことなの。せっかく異世界に来たのに……、これじゃあ、なんの意味も無いじゃない。


「そ、そんなあー」


 私の悲痛な叫び声がコックピットの中に響き渡った。


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