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1-5

「説明してくれる?」


サラは、少年に言った。


少年は少し汚れており、サラは、家の風呂に入らせた。服はサラのもので、白いTシャツが少年の膝辺りまでに広がっていた。こう見ると、少年は女の子のようにも見える。今は少年に水を与え、少年は黙ってそれを飲んでいた。


「…ボクは、三年前の記憶がないんです。」


ポツリ。彼は呟くように語り始めた。


少年の話はこうだった。


三年前……つまり、5歳頃から名前以外の記憶がなく、実際に今自分がいくつなのかも、分からないという。

気がついたらペトの町におり、さ迷い歩くうちにあの家に拾われたという。


「……あの男の人はまだマシな方でした。他の町の人は、ボクの髪と目が……珍しいというか、怖かったみたいで。特に老人が多いので、災いの前兆何て言われて。」


男は、周りの町人に「町から追い出せ」と言われたが、それを無視していたという。


「売るつもりだったみたいです。ボクが、もう少し成長したら。」


その為に、毎日家の家事を全て行わせ、時にはボロボロになるまで重労働をさせたこともあったという。

それでも、家に置かれるだけマシだった。外に出て一人で生きていくには、彼はあまりに幼かったのだ。


しかし、最近はサラの元に行くようになったことで、男は少年が逃げようとしていると思ったそうだ。

結果、男は少年を家に閉じ込め、出ていけなくした。


さらに、罰として、食料もろくに与えなかったそうだ。


「こっそり、盗んでは食べてたんですけどね。ついにばれちゃって……そしたら、師匠が来てくれたんです。」


「……な、によそれ……」


彼女は、信じられなかった。いや、信じたくなかった。

どうして、この少年にそんなことが出来るだろうか。

サラは、良い母親と、父親に恵まれ、教育を受け、親友もいる。

それなのに、この少年には、それがない。

魔女と人間とはいえ、同じ、人ではないのか。どうして。


彼女は気がつくと一筋の涙を流していた。


「……師匠?」


「あ、あんたは、悔しくないの?そんな……っ」


「悔しいもなにも……どうしようもなかったので。」


「なんで助けを求めるとか……っ!」


「……はい。だから、助けてくれる人を見つけたんです。正確には、魔女、ですけど。」


言葉を耳にし、ハッとして彼の顔を見る。

彼は、サラをじっと見つめていた。


「……でも、やっぱり師匠が迷惑ならボクはもう、旅に出ます。一人でもやっていけるような気もしてきたんです。貴女みたいな人がいるって、知ったから。」


そんなの、ずるい。

そんなことを言われたら、サラの返す言葉は一つだ。


「……いいわよ。弟子にしても。」


「…………!」


「そのかわり!…ちゃんと、ご飯は作ってね。」


「……はい!」


ぱぁ、と少年の顔が明るくなる。

その屈託のない、笑顔にサラは微笑みを返した。


「……師匠!」


ぎゅっ、と少年がサラの体を抱き締める。


「ちょ、なにするの!」


「嬉しいです。ありがとうございます!」


「そう……って、あなた、名前!」


「え?」


「名前よ!これから弟子にするっていうのに、名前が分からないんじゃ不便だもの。」


「名前ですか?ボクは、」


シン


それが、彼の中で唯一知っている確かな名前だった。


「分かった。シン、これからビシバシ行くからね!」


「はい!」


こうして、新米魔女サラは、年下の弟子をとることになったのだった。

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