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「し、信じられない…」
サラのぐねぐね飛行攻撃による遠心力をものともせず、遂には自宅まで着いてきてしまった少年に目をやる。
「お願いします!弟子に…」
「わ、分かった、分かったから!」
なお必死に頼み込む少年に少し辟易しながら、サラは深くため息をついた。
「とりあえず、家に帰ってくれない?私も忙しいんだから…」
「で、でも…」
「もう遅いでしょ?明日また来たら考えるわよ。だから今日は…」
嘘だ。そんなつもりない。
だって、彼は人間で、私はポンコツ魔女で。だから絶対に無理なのだ。
申し訳ないが、諦めてもらうしかない。
金輪際会わないようにしなければ。
「…分かりました…でも、あの…せめて、助けてもらったお礼をさせてください。」
「お礼って…人間の子供から貰えるお礼なんてないわよ。私は立派な魔女…」
ぐぅぅぅ…
ちょ、し、静まれ私の腹!!立派な魔女って言ってるのに!!
「…魔女さん、お腹すいてるんですか?」
「ち、違うの、これは!」
ぐりゅりゅりゅりゅ…
「…?お腹下してるんですか?」
「違うわよ!!お腹空いてるの!!」
な、なんてデリカシーのない子なの!子供だからなの!?
「…そっか。じゃあ、ボクご飯作ります。」
「え?ご飯って…」
「ちょっと待っててくださいね。」
そう言って、彼は台所へと消えていった。
~30分後~
「…出来ました。」
「ちょ…なにこれ!?え!?」
たった30分で出てきた料理は、これでもかというくらいに美味しそうで、ホカホカで。とにかく、なんというかピカピカしていた。
「い、いい匂い…!これ、つ、作ったの!?」
「はい。どうぞ。」
「…~~!!いただきますっっ!」
もう立派な魔女とか、年上なのにとか、そう言うプライドを全部投げ出してサラは料理に飛び付く。
あぁ…この熱い料理…!
火は出せるくせに使えなくて
いつも買ってきたレタスを洗ったりパンをちぎったりして食べるしかなかったこの一ヶ月間…!
美味しい、美味しすぎるわ!
「…よかった、喜んでもらえたみたいで。」
あんまりにも必死にがっついていたサラは、その時はじめて少年が静かに笑っているのに気がついた。
口元に手をやり、クスクスを笑う彼は、子供なのにどこか大人っぽい仕草だ。
「な、なんで笑うのよ。」
「いや、魔女さん、結構子供っぽいんだなって。料理も全然出来ないみたいだし…」
「そ、それは…!仕方ないでしょ、忙しいんだから…」
「それにしては、道具や食材、揃ってましたね。やってみようと努力したんですか?」
に、とほくそ笑む彼は、先程まで箒の柄にしがみついて離さなかったハチャメチャさはなく、子供らしからぬ殊勝な顔をしていた。
「ふ、ふん、あんただって、子供の癖に可愛いげのない笑い方して。声あげて口開けて、はっはっはー!って笑えばいいのよ子供は。」
「…は、っは?」
きょとん、と少年は首をかしげる。
「こうよ。はっはっはー!!」
子供ならまだしも、15歳の乙女がやるのはどうかと思うが、サラは自分でやってお手本を見せてみた。
「…はっはっは…」
少し恥ずかしそうに、少年は繰り返した。
「声が小さい!はっはっはー!!」
「はっはっはー」
「笑顔が足りないわ!はっはっはー!!!」
「はっはっはー!」
「ふふ、いいじゃない。素敵よ。」
最初の笑顔よりぐんと子供らしくなって、明るく笑った少年に、サラは満足し微笑んだ。
「…ボク、こんなに声だして、口開けて、笑ったのはじめてです。…楽しいですね。」
「笑顔は人を明るくするわ。いつも、笑顔でいるのよ。」
って、これはお母さんの受け売りだけどね。
ちょっと年上ぶりたくて、サラは少年の頭を撫でた。
「…っ、はい…」
すると、少年はうつ向いてしまった。
頬をみると、少し赤い。
あれ?もしかして…照れてる?
「ふふふー、可愛いなぁ、ぎゅーってしてあげようかぎゅーって!」
「これ以上触りたいなら弟子にしてください。」
「えぇ!なんで!」
「でなきゃセクハラで訴えます。」
「ちょ、料理作れるからって立場逆転しないでよね!」
騒いでいるうちに、すっかり遅くなったので、サラは町で彼の家の近くというところまで彼を送った。
まぁ、色々あったけど悪い子じゃなかったし、っていうか、苛められてたのよねあの子…妙にたくましいというか、しっかりしてる気がしたけど。
でも…これ以上関わって、また弟子にしろ!なんて言われても困るし、もう会うこともないだろうな。
そんな事を考えながら、彼女は自分の家へ帰っていったのだった。