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1-1

魔法学校ワールド・マジカリアを卒業して早一ヶ月…


それは、サラ・エスタールが一人前の魔女になってから一ヶ月たったということだ。

そして、彼女は今、新しい住まいであるペトの町の空を、箒にまたがり飛行しながら、途方に暮れていた。


「…一人暮しって…大変だわ…」


何を隠そう、生まれて15年、初めての一人暮しだ。

なんとか食いぶちは見つかった。

ペトの町は老人が多く、サラのほんの少しだけ得意だった魔法薬が、売れそうなのだ。

問題は別である。


「…うぅ…お母様のグラタンが食べたいっ…」


そう、サラは魔法薬は作れても、通常の料理がてんで苦手だったのだ。



「なんで魔法って、ご飯には効かないわけ?っていうか、なんで私は料理を勉強しなかったんだろう…!」


答えは分かっている。やらなかったからだ。実家で暮らしていた頃は、お母さんの温かい料理をふるまわれていたし、魔法学校は寮制で、台所に立たなくても寮母さんによる温かい料理が出てきた。



「もう…いやよ!またリンゴをかじるしかパンを食べるしかないのかしら…せめて、温かいスープが飲みたいい…!!」



ぐるぐるぐると町の空を旋回しながらサラは悶絶した。


独り言が妙に多いのも、空を飛ぶのは自分と鳥くらいなので構わない。

っというか、一人暮らしをはじめてから独り言が妙に増えた気がする。


「はぁ…ワガママ言ってる場合じゃないわよね。今日こそ、台所と向き合うのよ…」



静かに決心し、ペトの町へ買い物をしようと下を見る。



…あれ?



すると、広場の一角が、なんだか穏やかではない雰囲気であるのに気がついた。


なにあれ…?1人の男の子に、よってたかって…


5人ほどの男の子の1人が、その男の子を押した。

力強く押された男の子は、その場に倒れる。


そして、次々に蹴られていた。


「っな…!にあれ!許せない!!」



サラは、咄嗟にそこへと全速力で飛び…



男の子達の前に、立ちふさがった。



「あんたたち!!!」


あらんかぎりの大声で、怒鳴る。


「多人数でよってたかって、恥ずかしくないの!!!やめなさい!!!」



「なっ…なんだよこいつ!」


「しってるぞ!最近この町にきた魔女だよ。」


「あ?よそ者じゃねーか!俺達の遊びの邪魔すんなよ!」



1人が、サラに向かって石を投げた。

しかし…


サラは、防御の魔法をだし、その石を弾き返す。


「…っ!こいつ!バリア作りやがった!」


「ふん、魔女だってこれくらいできるわ。もっと凄いことしましょうか?」



そう言って、サラは手のひらを出し、手のひらの上に火をともした。


「この火は本物よ。あんたたちにひっどーい火傷を負わせることだって可能なんだから。いじめられる気分、味わあわせてあげましょうか?」


「げ…!」


「な、なんだよこいつ…行こうぜ!」



捨て台詞を吐き、子供たちは去っていった。



はぁ…よかった。私の防御魔法も、小石とネズミくらいなら弾き返せるのよね。

火も、あれ以上は大きくならないけど、脅しには有効みたい。


ほっと、一息をつく。



「あ…あの…」


後ろから、小さな声が聞こえる。

いじめられていた子だろうか。


「あ、キミ、大丈夫なの?怪我とか…」


「ボクを弟子にしてください!」



振り向くと、こんなに綺麗な土下座がかつてあっただろうかと思えるほどの、頭を強く地面に付した綺麗な土下座をする少年がいた。


その異様な光景に、サラは少したじろぐ。


「…え、…え?」


「ボク、感動しました!おねぇさんみたいな強い人、はじめてみました!だから…ボクを弟子にしてください!」


以前顔を強く地面に伏したまま、一気に捲し立てる少年に少し引いてしまうサラ。



「い、いや、まず顔あげてくれない?これじゃあ…」


なんだか、今度は私がいじめてるみたいじゃないか!


「いいと言ってくれるまで、あげません!」


「なにその根性!?」


そんな根性があるのならいじめられたりしないと思うんだけど…っていうか早く顔あげて!この状況がいや!


「わ、わかった、わかったから。話を聞いてから、ね?」


そう言うと、少年はゆっくりと頭を持ち上げた。


って、何この子…!


髪の毛が銀色で変わってると思ったけど、瞳はもっと変わっていた。

大きなくりくりの瞳は海のようなブルーで、吸い込まれそうに綺麗だったのだ。


か、可愛い…!ってか、変わった風貌ね…


ペトの町の人間はみな髪の毛は茶色か黒で、瞳も暗めの色である。


こんなに目立つ風貌だから、仲間外れにされていたのかしら…


まじまじと、少年の顔を見つめてしまうサラに、少年は続けた。


「…ボクを弟子にしてほしいんです。あなたみたいに、強くて、優しい人ははじめてなんです。だから…」


じっと、サラの目を見つめ、少年は言う。

そのけなげな様子にサラは少しぐらついた。


け、結構可愛いかもしれない…弟子かぁ…

そしたら私、師匠?わぁ!なんだかカッコいい…


って、ダメよ!!!


「や、やっぱり、ダメだわ!ごめんね!」


思い出した。

サラは、一人前になったといってもまだ一月。弟子をとるのはあまりにも早い。通常、魔女が弟子をとるのは、一人立ちしてから15年ほどたってからだった。


「な、なぜですか!?」


「だっ…ダメなものは、ダメよ!」


しかも、私なんてポンコツなんだから、この年で弟子何てとったらみんなに何て言われるか…!

っていうか、この子人間だし!!

魔女の弟子になれないし!!


「ご、ごめんねー!」


慌てて、サラは箒に股がって飛んだ。

しかし…


「ちょ、は、離してよ!!」


少年が、しっかと箒の柄を握りしめ、ついてきてしまっている。


「い、いや…です!!」


ホントにこの子の根性なんなの!?


「は、離してー!」


「弟子にしてくれるまで、離しません!!」


「いやーっ!!」


結局、

できるだけ振り落とそうと飛んでいるうちに、サラは少年を自宅まで連れてきてしまったのだった。




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