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旅立ち

「新しい人生の旅立ち」という言葉は、誰もが華やかに聞こえるだろう。

でも、実際はそんなに華やかではない。


それは、私の魔法学校での成績が、可もなく不可もない、普通のものだったからだろうか。友人のアリアのように、成績がトップで卒業後の進路も安泰だったら、もっと華やかに見えたのだろうか。とにかく今、行われている卒業式は、私にとってあまりにも退屈だった。

卒業生一人一人が、校長先生から名前を呼ばれ、立ち上がって卒業証書を受け取って行く。それを横目に、座っている私は、下を向いてあくびを噛み締めた。…眠い。

しかし、それももうすぐ終わる。私の名前が呼ばれるまであと、3人、2人、1人…。

「サラ・エストール!!」

2メートルはあろう大きな体格の校長先生が、これまた大きな声で私を呼んだ。

「はい。」

可もなく、不可もない、私の返事。立って、普通に歩いて、普通に校長先生の前に立つ。ここで悪目立ち出来るような突飛性は持ち合わせていない。

「以下同文です。」

以下同文かい。最初の人はいいよね。全文言ってもらえるんだから。まぁいい、この卒業証書さえ受け取れば、私は晴れて魔女の一員になれる。

「ありがとうございます。」

小さく返事をして、丁寧にお辞儀をする。そして、すごすごと退散。すぐにまた次の人が呼ばれる。

列に戻りながら、手の中にある卒業証書を見つめた。

【あなたは、この魔法学校ワールドマジカリアの全ての魔女訓練過程を無事終了し、本日をもって一人前の魔女となったことを認可します。】

そこに踊る字を見つめていると、少しワクワクした気持ちになった。鼻から息を吸い込んで、吐く。自分が魔女になったことを自覚した。

「サラ、よかったね。」

席に戻ると、近くにいた友人のアリアが話しかけてきた。アリアは、美人で、頭がいい。それでいてそのことを鼻にかけない、まさに非の打ち所のない魔女のように思う。なぜ、こんな平凡な私と友達で居てくれるのかは分からないが、在学中はアリアにお世話になりっぱなしだった。そのアリアは、今日は最後の方に呼ばれるらしい。その後に行われるアリアの卒業生代表挨拶が今から楽しみだ。

「ありがとう。アリア、頑張ってね。」

「もちろんよ。」

ブイ、と指でサインを送るアリア。私も、同じポーズを取った。

アリアの卒業生代表挨拶が終わったら、いよいよ式も終わる。

私達は、魔女になるのだ。


**


受け取った卒業証書を握りしめ、魔法学校ワールドマジカリアの門を出た。手にしっかりと持った卒業証書を確認するかのようにもう一度、握りしめる。もう、あまりここに来ることはないんだろうか。なんだか、まだ実感が沸かない。

在学中は、結構大変だった。私は、あまり成績良くなかったので、アリアに助けてもらってばかりだった。

…これからやっていけるんだろうか…。

魔女は、一人前になると、住む街を決めなければならない。基本、一つの街に一人の魔女が住むことになっているので、新米の魔法使いや魔女達は、まだ誰も住んでいない街を成績順にあてがわれる。私は、山に囲まれた小さな街だ。

住むところは決められるが、そこから何で食べていくかは、一人一人の裁量に任される。私は、魔法薬の制作がどちらかというと好きなので、それを売って暮らしていく算段だ。でも、薬が売れなかったらどうしよう…。山もあるし、シカやイノシシが取れたら、しばらくはそれを売って暮らそうか…。

「サラ!」

ぶつぶつと考えを巡らす私の後ろから、よく聞き慣れた声がした。振り向くと、アリアが笑顔を浮かべながら走ってくる。

「アリア、特待生パーティは終わったの?」

「んー…、だって、サラが居ないんだもん。つまんないから出てきたわ!それより、アリアはもう行っちゃうの?街はどこだっけ?」

「うん。西の方にあるペトの街って所よ。」

「あーそっかぁ!遠いなぁ…。あーあ、なんで一緒の街じゃあ駄目なのかしら!」

「帝都ニルヴィーに住めるなんて凄いじゃない。アリアにしか出来ないことだわ。」

特待生は、帝都に住むようにと規定がある。

優秀な魔女や魔法使いは、帝都に住み国の王族を守る使命があるのだ。

「う~…でも、私、絶対遊びに行くから!っていうか、住むから!大きな家にしといてよねサラ!」

「あはは…いきなりは無理なんじゃないかな…」

この後も、私とアリアは時間の許す限り、学園に居て思い出を語り合った。

しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ、もうアリアと別れなければいけない。

「…サラ!!元気で!!」

「アリア…!絶対、遊びに行くから!!」

そして、お互いに腕がちぎれるんじゃないかというくらい手を振り合い、私たちはそれぞれの町へと飛び立った。


一本の箒にまたがって。

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