偽の勇者の真相
完結です。
気がついた時には、もう勇者と呼ばれる者は喚ばれていた。
さっきまで確かに寝間着姿で会議室にいたのに、魔導師としての正装の黒いロープに白い仮面をつけて魔導の部屋にいて、他の奴らと共に喜んでいたのだ。心のこもっていない言葉だったが。
確かに、勇者と呼ばれる男を見ると、整った顔立ちにこんな事が起こっていても冷静で顔色も変わらない。その態度は確かに勇者と呼ばれるに相応しいと思った。しかし、態度だけが立派だったとしても役に立たなければ意味がないのだ。
しかし、そんな不安をよそにその男はたった三日間で歴史や地図を全て頭に入れ、魔法では、新しい魔法まで開発したのだ。俺にすら成し遂げる事の出来なかった事を顔色すら変えずに簡単に成し遂げた。剣術では、この国最強の戦士と言われるタマシ・マルーナ殿を圧倒的な力で負かした。こんな結果を出されては、勇者と認めるしかないではないか。
その想像通り、誰もが期待通りの勇者だと言った。これならば立派に地界との繋がりを絶つ事が出来ると思う様に成った。
そうして、貴族に正式に知らせるため舞踏会が開かれるようにとのお達しがきた。
姫と踊る事で王家と勇者の関係を知らせ、さらに顔を知らせておくことで旅がしやすくするのが目的らしい。
気がつけばここまで勇者の為に動いている王家に不安を感じながら準備を整えていく。
舞踏会当日、王の言葉とともに入ってきた勇者は凛々しく堂々として、さすが勇者ということだろう。
しかし、周りの視線を浴びた途端に目の中に殺気が混じったように見えた。まあ、姫と目があった途端に殺気は薄れたが、何か底知れぬ不安を感じた。
目的であった王家との繋がりの強調は出来たし、姫と仲良くなれた事でお披露目会の意味は成した。
こうして、お披露目会は不気味なぐらい静かに終わった。あの男はただニヤニヤといやな笑いを浮かべていただけだったのが怖かったがな。
こうして、数日後に全ての準備を終えた勇者は旅立って行った。俺の心に不安を残して‥‥‥
勇者の旅立ちを見ていた猫背の男はあの嫌な笑いをしていた。
そして、不自然なほど唐突に姿を消したのだった。
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旅に出て気がついた事は、全然疲れないということでしょう。
私が開発した魔法である『目視できる場所なら瞬時に移動出来る』は大変便利で普通何日もかかる山越えを、たったの数分でできました。
そのため、覚悟をしていた野宿をする必要もなくなって凄く快適な旅となっています。
魔力については、森の何やらというおじさんに桁が違うと断言されていたのですが、少し不安でした。しかし、今は全く魔力の事を考えなくても良いぐらいあることは感覚で分かります。
「しかし、暇ですね。まだ、魔物にあってもいないですし」
ポツリと呟いた途端、後ろからうなり声が響いてきました。
「おや、噂をすればってやつですね 」
出て来たのは、狼に似た生き物でした。よだれを垂らし、完全に理性はありませんね。
こいつが初の殺しの獲物ですか‥‥‥
なんだか、変な汗が止まりませんね。一流品のナイフもカタカタと震えています。
おかしいですね~ 頭はこんなに冷静だというのに。
『グルルル。ガフ』
唸っていた狼らしい奴はまるであざ笑うように吠えた。
そのことに気がついたとき、私の中の何かが切れた。
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心地いい空間にいることに気がついた。
「ここは、どこだろう? さっきまで確か私は戦っていたはず? 」
疑問は次々と浮かび上がります。っと、少し視界がぼやけましたね。
視界がはっきりした瞬間に、目の前に髪が青い坊主が現れました。
そいつは、私を見たとたんに顔をしかめましたよ。しかし、こいつにしか聞く相手が居ないですね。仕方がない。
「おい、お前。ここはどこだ。そして、お前は誰だ? 」
私は、問いかけました。えっ? 言葉遣いが違うって? 当たり前でしょう。子供なんですから、敬語を使う意味が分かりませんね~
すると、突然頭の中に声が響いた。
『やはり、お前は無理だな。思っていた以上に期待外れだ。さっさと返すのが先決だな』
そう言う声が響いた瞬間に、言葉の意味を飲み込む前に元の場所、狼らしきものが倒れている所へ戻ったのだった。その時の記憶を失って。
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俺は焦っていた。あの嫌な男であったアナール・ラッペンが消えたのだ。しかも、王にその事を聞いてもそんな奴がいたなど、記憶にないと言いやがる。
ふざけるな、あいつの案に乗って勇者を召喚したんだろうが! それを忘れただと。だったらなんで俺は覚えてるんだ。おかしいだろうが。
どんなに訴えてもただの勘違いであり、召喚する事を決めたのは王自身だと言われる始末だった。
その晩夢を見た、不思議な夢を。
そこは、居心地がいい場所だった。目の前には思わず頭を下げたくなるような気迫を纏った青い髪の男の子がいた。
俺が緊張しているのを見抜いたのか、ふと優しい笑みを浮かべると頭の中に声が響いてきた。
『そんなに緊張しないでくれよ。森の賢者と呼ばれる男よ。僕はこの世界を束ねる神と呼ばれる者だな。まずは、謝らせてほしい。こちらの都合であんなのを召喚してしまったことを』
その響く声には深い後悔の念が詰まっていた。その顔も、くしゃくしゃに歪んでいる。その顔を見たとき、思わず声が出ていた。
「どうして、召喚だったのですか? 」
ただ単純に疑問に思ったのがそれだった。そもそも、なぜ召喚だったのだろう。確かに勇者は強いだろう。しかし、この世界にも強い奴はいたはずだ。
『敬語じゃなくていいよ。はぁ、僕も最初は神託を強い奴に降ろして、祝福を掛ける予定だったんだよ。でも、僕は神の中ではまだ小童と呼ばれるぐらい力がまだまだ弱いんだ。その事を神の先輩に言ったら『異世界から召喚すれば? 』と言われたんだよ。召喚だと力が勝手に上乗せされるので、僕でも強い奴を呼べるから大丈夫だって。今では、後悔しているよ』
その声には、疲労感が隠しきれていなかった。
「後悔? あいつの力は実際に凄かったぞ? 」
すると神は、こちらが怯むようなほの暗い瞳をこちらに向けた。
『ハハハハハ。魔物とも戦えないんだよ! どうしたらいいんだろ‥‥‥ 』
とうとう、虚ろな目でこちらを見つめてくるのは、ある意味ホラーだったが、そこで夢から覚めた。
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血の匂いがする。吐き気が襲いかかってきた。そうして、私は暫く意識が朦朧としたままどこかに向かっていた。心が壊れないように自己防衛しているのだろうか? 目の端に何かが動くと何も考えずに身体が動いた。私がどこに行くか聞いていなかった事に気がついたのは、城を出てから一日たった頃だった。ふと、瞳に光が戻った。
そこは、底が見えないほど深い谷だった。のぞき込むと底から魔物が這い上がってくる。
ここが、言っていた地界と繋がっている場所なのだろう。
身体を見ると沢山の切り傷と、血が全身にかかって悲惨なことになっている。
しかしそれを見ても、もはや何も感じない。それどころか笑いが込み上げてきた。
「フハハハハハ。たどり着いている。勝手に、ハハハハ」
狂った笑い声に、魔物達が寄ってきた。しかし、そんな事には全く気がついていなかった。
そして、気がつくと身体は、熊のような魔物によって切り刻まれていた。
最後に目に映ったのは、猫背でニヤニヤと笑っている男の姿だった。
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明るい光を感じて、目を開けた。そして待っていたのは、人々の歓声だった。
ああ、この反応は私は確かきちんと目的を果たせたのですね。確かに朧気に記憶にもあの割れ目を封じた記憶がありますね。
ふふ、良くやったでしょう? 勇者の務めを果たせたのですから。
周りの方達も笑顔で私のことを見ていますね。
うん? おかしい、周りの奴らは召喚されたときに居たメンバー? 姫は?
しかし、王は無情にも質問する時間も与えずににこやかに口を開いた。
「良くやってくれた勇者よ。約束通り元の世界に返そう」
王様がそう言った瞬間、見に覚えのある光に包まれた。
こうして、私は帰ってきたのでした。夏休みの最終日に。
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俺は、また居心地の良い場所に来ていた。
目の前には、前と同じく神がいらっしゃる。
あの後、なぜか市民、魔物問わずに切りかかる危険人物だったはずの勇者は、しっかりとお勤めを果たしたことになっていて無事元の世界に送還された。
神がすがすがしい顔をしているということは上手くいったのだろうか。しかしまあ、死んだはずの奴らは、生き返ってたし問題ないか? しかし、何の用だろう?
『なんか、ゴメンね。何度も呼び出して。しかし、やっぱり駄目だったね。勉強ができて、頭が良い男だけじゃ。調子にのるし態度と性格悪いし。はあ、何で他の奴らと一緒に記憶補正しちゃったかな? しなけりゃ良かったよ~ 』
「記憶補正? 」
『うん、記憶補正。君には、魔力が多くて効かなかったけどね。ねえ、聞いてよ~ あいつと会ったんだけど、酷いんだよ。偉そうにしてるし、見下してくるし。時間を巻き戻してあげようと思ってたのに、いらついたからそのまま送還しちゃった! 』
「そう言えば、あのアナール・ラッペンは誰だったんだ? 」
それを聞いたとたん、目を泳がせた。
『あ、あれは、僕です。ついでに全部片付けたのも僕。本当は、神は干渉したら駄目なんだけどね。裏ルートで、あいつの体を操ってやったんだ。その所為で亡くなった人も居たから反省してるよ。生き返したけど、僕の子供達なのに‥‥‥ はあ』
それを最後に意識が戻った。
こうして、勇者騒動? は幕を閉じたのだった。
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一方、神は、『次は、純粋で粘り強くて、体がちゃんと作ってるやつにしよっと』と言ったとか、言わなかったとか、言ったとか?
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