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4.勇者爆誕!?『王都ナンナ/王城イーヴ』

 勇者ダイスケ。本名を岡本 大輔という日本生まれの少年だ。


 「ダイスケ殿にはこの大陸より南にある大陸、暗黒大陸へと行って魔物を統べし王、通称魔王を討伐していただきたい。」


 パメラの国王であるエルメス四世にたいしてダイスケは「可愛い女、美人な女。女さえくれりゃあなんでもしてやんよ!」


と発言したという。その発言を聞いた大臣はニヤリ、と笑いダイスケのもとへと歩み寄った。



※※※



 エルトシャン王国。女王レーティアを筆頭として有能な人材が揃っている国である。

 パメラ王国のように魔物を狩ることに力をいれているわけでもなく

 アズムール王国のようにダンジョンが盛んなわけでもない。

 シャナン皇国のように武術の国と言うわけでもなければ

 アルテナ共和国やエルトシャン王国のように食材に力をいれているわけでもない。

 なにかに力をいれているという訳ではないが、エルトシャン王国に対してやたらちょっかいを出してくる国、コルーダ帝国。 


 そんなエルトシャン王国を目の敵にしているコルーダ帝国に所属していることとなっているユウキは、「近いうちに戦争を仕掛けるからその時内部から暴れまわるために地元住民になり済ませ」と言われ、数名の工作員と共にエルトシャン王国の王都ナンナへと訪れていた。


 「ナンナの果実はとても美味しいんですよ、何せナンナの裏にあるトラキアの森には精霊や妖精が沢山いらっしゃって土壌から水まで全てが格別な環境で創られてますから!」


 ユウキの隣を歩く自称凄腕工作員のメイリーがナンナの情報を色々と教えてくれる。

 2週間前に極秘で召喚された彼女からすればどんな情報でもありがたいのだが、メイリーのくれる情報は仮にこの世界に永住するとしたら欠かせないであろう情報が多く、コルーダの帝王は自身の心の内を読んだ上でそういったところで恩を売るつもりでメイリーを私のもとへと寄越したのではないかとユウキは邪推している。


 「あ、今のうちに言っておきますが、うち(コルーダ帝国)ここ(エルトシャン王国)、戦争なんて一切起こり得ませんから。」


 「え、でも帝王様は戦争を起こすっていってたけど」


 「あー、あれは建前です。帝王様はエルトシャンの女王様に惚れてますから最近きな臭いパメラ王国から危害を与えられないようにと、万が一のときの為に潜入させたのだと思いますよ。」


 苦笑をしながら、目の前にいる自国の勇者を改めて観察するメイリー。

 黒くて程々に長い髪の毛をツインテールにし、旅人が好んで着る服装の、動きやすい革で出来た質素で見映えのしない上下セットに身を包んでも尚、愛嬌が見てとれる顔立ちをしている彼女。

 帝王様は召喚されても本望(・・・・・・・・)だといえるような人物を召喚ワードにしたという。その為、もしパメラ王国がエルトシャン王国にちょっかいをかけてこなかったとしても、豊かなことで有名な王都ナンナでなら充分豊かな暮らしができるであろう。そこまで考えてここへと潜入させただけではなく、従妹である私をこの娘につけたんだろうな等とメイリーは考えていた。


 「そうなんだ、帝王様はツンデレなんだね。まぁそれはともかくとしてメイリーさん。果実も良いけど私としては魚が食べたいのだけれど。」


 「魚ですか。魚はアルテナ共和国のが美味しいのですが生憎この街へは輸出していなかったかと。」


 「ええー、マグロ、サンマ、ぶり、さば、イワシ、鮭、あじ、アンコウ、鮎、ホッケ、美味しい魚が食べたいよー。コルーダ帝国だと美味しかったけど肉と野菜ばかりで魚料理なんて一度も出てこなかったんだもん。」


 「…なら、ブリギッド産のものとなりますが取り扱ってそうな料亭がありますからそこへと参りましょうか?」


 「ほ、本当に!?やったー久しぶりのお魚~♪」


 嬉しそうに小躍りするユウキを引っ張り向かうのは、ナンナの中でも人通りの少ない裏路地のなかに建つ寂れた感じのお店である。

 どうやら目の前の少女は食べることに割りと全力を捧げてるかわりに多少のことはどうでも良いらしい。帝王の色々な思惑が入った嘘をツンデレと一言で言い表しさっさとフェードアウトさせたことに驚きつつ、下手に色々聞かれなくてすんだメイリーは安堵の溜息をそっと吐くのであった。



 「おっちゃんー、居るー?」


 寂れた外見から想像できた寂れた内装。がらがらな店内へとメイリーが声をかければ、

 「居るよぉーぅ。」


 と、店の奥から返事と共に派手なピンクのエプロンをしたチョビヒゲがチャーミングなおじさんが出てきた。メイリーを見た途端に笑顔へとかわり両手を広げて歓迎の意を示す。


 「メイリーちゃんではないかい。久しいのぅ、お隣はお友達かい?」


 「こちらはトラキアの森の攻略しにこの街へとやって来たユウキさんです。こちら、この店の店主であるヴァージさん。」


 「ども、ワシはこの店を切り盛りしちょるヴァージというもんだ。トラキアの森攻略とは腕がたつのか?」


 「はじめましてユウキです。ええ、神聖魔法以外の全魔法にて適正があったのと、小さい頃から剣術を習っていたので腕には自信があるのです」


 コルーダ帝国を出る前にさんざん叩き込まれたことをすらすらと言えることに安堵したユウキとメイリー。


 「ところでおっちゃん。今日は魚料理出来る?別に魚の種類は問わないから。ユウキが食べたいんだって。」


 「ははは、確かにコルーダでは魚料理は出ないからなぁ。それなら丁度良い。つい昨日孫娘がダンジョン攻略の際に手に入れたけど、使わないからあげるっていってくれたキンイロオオグイザメがあるぞ」


 ヴァージのその言葉に目を大きく開くメイリー。


 「キンイロオオグイザメって『リンクタワー』200階辺りの魔物ですよね!?売れば一財産になるほど売る部位も沢山ある魔物なのになぜ?というよりも、予算的に…」


 「さぁのぅ?10分もあれば出来るからそこら辺に座ってまっちょれ」


 と言うが早いがさっさと厨房へと引っ込んでいってしまったヴァージ。


 残されたメイリーにユウキが言う。


 「たべてみたいんだけどなー。わたし。でもよさんがあぶないならわたしがまんできなくないよ。」


 「判りました。わかりましたよ!キンイロオオグイザメでもなんでも良いですよ!でも今回だけですよ!?」


 「わーい。」



 そして、出された20メートルはありそうなキンイロオオグイザメのソテーは殆どユウキひとりで美味しい美味しいと食べきってしまったそうな。

 その光景を見て嬉しそうにまたおいでとヴァージは優しく微笑む。

 なお、お会計は50万パール。パール=円の価値観で大体あっている。これでもキンイロオオグイザメの相場から見れば物凄くお安くなっている辺り、キンイロオオグイザメは一財産本当に稼げるほどの大物である。


       



※※※



 エルトシャン王国王都ナンナ。時刻は八時頃、月もそろそろ顔を本格的に出してきた頃に王城イーヴの屋上で正座をして瞑想する女性の姿があった。

 その女性が向いている方向から一人のまだ少年と呼べる風貌の男が、まるで駆け上がって来たかのような動きで屋上であるその場へとあらわれた。

 服装は解る人が見ればそれと解る、学生服と呼ばれるものであり、靴だけはやたら軽そうで羽根のアクセサリがついているものを履いていた。


 「へぇ、噂には聞いていたがずいぶんと美人さんじゃねえか、美味しそうで嬉しいぜ。」


 少年は下心満載といわんばかりの顔で女性を見てしゃべる。

 正座をして瞑想していた女性はその言葉を聞いても反応らしきものを見せずに正座を続けている。


 「へ、だんまりかよ。でも今投降するってんなら手荒なことはしないでやるぜえ。」


 「ここは王城ですよ?許可なく足を踏み込んだ時点であなたは罪人。こちらの台詞です。今投降するならパメラへと裸にして帰すだけで留めてあげますよ?」


 ゆっくりと、目を開ける女性。その瞳は静かに怒りの炎が煮えたぎっていた。

 義弟を行方不明にしたのは間接的にこいつのせいだと確信している。故に怒りの


 「やってみろよぉ!この世界は、俺がルールなんだよ!てめえを素っ裸にひんむいて俺に従順な態度になって恥ずかしい姿で連れ廻した後にベッドの上で辱しめてやるぜ!」


 「下劣な、やれるものならやってみなさい。わたくしが、あなたのその性根を叩き直して差し上げよう。」


 「ああ、やってやるよ。てめえはさっき言ったよなぁ。|やれるもんならやってみろ《・・・・・・・・・・・・》と、即ちそれは肯定と受け取る!素っ裸になっちまいなぁレーティアちゃんよぉぉぉ!!!」


 愛刀を手に取り瞬時に切り捨てようとしていた女性―レーティアの身につけていた衣服が全て消え去った(・・・・・)。気にもかけず、声も出さずに刀を振るおうとして、動きが止まる。


 「この世界には祝福(ギフト)とか呼ばれるものがあるみたいだけどよぉ、俺みたいに異世界から召喚された奴には突発性異能(サプライズ)とかいうのが高確率で与えられるんだってな!」


 突発性異能(サプライズ)祝福(ギフト)とは違い物ではなく一個人に直接与えられる神からの贈り物。祝福(ギフト)よりも珍しく、主に異世界から召喚によって喚ばれし勇者等が与えられるものである。この世界に生まれし者でも中には天然物も居るが。


 「俺の突発性異能(サプライズ)は俺の言葉で示した事を真実にしてしまうってもんさ。ただし、自身以外が関わる事柄には相手から同意を得なければ効果はないがな!」


 楽しそうに種をバラしていく少年。この状況ならば最早勝確、種をバラしも問題ない。


 「そしててめえは俺の言葉に肯定の言葉で返した!つまりは素っ裸で俺に従順な態度を示して、恥ずかしい姿を不特定多数の奴等に見られちまうってことだよぉー、天才のレーティアちゃんよぉお!!!なんとかできるとか思ってんなら無駄だけど抗ってみろよ、無駄だけどなぁ!!!!」


 笑う少年にたいして顔を歪めることしか出来ないレーティア。確かに彼女は全ての分野において天才といえるスペックを持っている、しかし突発性異能(サプライズ)のもたらす強制力には敵わない。せめて、同じ神からの贈り物である祝福(ギフト)を出すことが出来ていたならばまだ対抗できたかも知れない可能性があるが、時既に遅し。

 自身の身体が一切の行動を封じられていることに気付いたレーティアに出きることは唯ひとつ。


 「……………この下種め。」


 忌々しげに言い捨てる。彼女には最早言葉での攻撃しか残されていなかった。


 「それしか出来ねえもんな、じゃあ喋るな。ふははは、これでてめえは何も出来なくなったなぁ!!」


 喋ることすらも封じて最高にご満悦な少年。


 「ははははは!こんな美人で勝ち気な女を俺のものに、好き勝手にできるなんてなぁ!大臣とやらの言った通りすげえ美人でマジテンションやべえわ!!異世界に召喚されてよかったぁーー!!!」


 大喜びしている少年。

 彼はこの時喜ぶのは後にしてさっさと次の行動を起こすべきであった。そうすればもしかしたら間に合ったかも知れない。だが、


 「本当に運が良いよね。こんな美味しい場面で出てこれるアタシも、多分一生で一番の危機の時に考えられる中で一番の助っ人が来てくれたレーティアも、そしてこの世界に来たばかりなのにもう壁にぶつかれるキミも。みーんな揃って運が良いよね。」


 いつのまにかそこにいた。そうとしか表現できないほど完璧に、彼女はいつの間にかそこに居た。

 闇夜を照らす黄金のごとき髪をポニーテールにして、ヘソ、膝、肘を丸出しにした独特の衣装の上から旅用であろうマントを羽織った少女が、宙に浮かんで茶色い年代物の大きなスーツケースの上に座っていた。


 「なんだて「あ、五月蝿いから黙ってて。あと、動いてもダメ。」―――――――?!?!」


 少女が人差し指を口元へと持っていきシーッと注意するような仕草をすれば、少年の口はピタリと閉じてしゃべれなくなった。いや、 喋れないだけではなく身動きひとつ出来なくなっていた。


 「アタシはさ、本当は今日処か一昨日辺りには既に弟に会いに行くためにこの大陸を離れる予定だったんだよね。でもアタシの想い人が行方不明になったって聴いてもうがむしゃらに探し回ったんだよ。結果的にはアタシは役に立たなかったから見つかった想い人とちょっと話をしてからお爺ちゃんのところへお土産渡して、ついでに想い人治してくれた親友のところに挨拶しに来てみたら、なにやってんの?」


 何処からともなくシーツを取り出してレーティアへとかけてから、スーツケースから飛び降りそれでも足を床に着けることなく数センチのところで浮いている少女


 「でも、元々キミの要求に答えるための過程で想い人は行方不明になったわけだから、それがなければアタシがこの場にいることもなかったのにね。つまり自業自得ー。」


 とても愉快そうに笑う少女に対し無言で俯いているレーティアと無言で喚き散らしている少年。


 「ああ、アタシのせいで喋れないのと、従順になるように言われてたせいで喋れないのの二人だから返事が来ないのかー。」


 納得と言わんばかりにうんうん頷く少女。その瞳はこれからおこす事が心底愉しいと言わんばかりの輝きを宿していた。


 「アタシと出会えてよかったよ、キミ。最初から強いとやりがいないっしょ?だからなくしてあげます。」


 パチン、と指を鳴らす。ただそれだけ。それだけで少年の持つ突発性異能(サプライズ)の力がなくなった(・・・・・)


 「でもここでアタシがあらわれなければ多分レーティアにその隠し持ってる隷属首輪を嵌めることは出来ただろうから、更に大サービス!」


 動けず喋れない少年の懐から無骨な黒い首輪を取り出す。

 先程とは違い、今度は人差し指を自分の目の高さくらいまであげてアピール。


 「レーティアには隷属の首輪つけてあげる!力を失うし多分国の援助も受けられないけどレーティアに1年以内に触ることが出来ればレーティアはキミの奴隷に堕ちるよ!だから頑張ってね」


 最上級の笑顔を浮かべ、レーティアの白い首に無骨な黒い首輪を嵌める。レーティアが驚愕した目で見てくるがお構いなしに少年の頭を掴み宙に浮かんでいたスーツケースの中へと(・・・)叩き込む。


 「で、レーティアも一年の間にあの子に触られたら奴隷堕ちだからね。しかも解除不可のレベルAだから」


 隷属の首輪にはランクが存在する。ランクFが最低ランクで所有権の証明くらいしか効果がない。最高ランクがAで、解除不可で持ち主が奴隷を棄てても奴隷状態は解除されず、一生奴隷として生きていかなければならないというものだ。絶対命令権等様々なオプションもついている為、非常にお高い代物であるがそれを先ほどの少年は持っていた。


 「――――――――――っ。な、何てことをしてくれた、わたくしに隷属の首輪をつける必要は無かっただろう!?」


 「アタシが居なければレーティアは既に隷属されてた挙句、裸でパレードだったんだからさ。寧ろそこまでもってこれた彼にチャンスをあげるべきだと思ってね。」


 迫り寄るレーティアをひらりとかわし少女は続ける。


 「アタシは自由に愉しく(・・・)生きると決めてるんだよ。想い人に想いを重ねるのだって同じ愉しさを求めてるから。今回助けたのは毒を治したお礼。」


 「…そうか。ならばわたくしとしては誠に遺憾ながら、それを受け入れよう。どうせ首輪は一年たてば外せるのでしょう?普段はなにかで隠しておけば良いし。」


 フワリ、と宙に浮かぶトランクへと姿を現したときのように再び座る。ただ、なにか想うことでもあったのか、自分が落ちないように器用にトランクを再度開き、金の鎖に柄も何もなくひたすら金に光る懐中時計を投げ渡す。


 「アタシは想い人本人しか助けないよ?娘だろうと妹だろうと義姉だろう

とさ。それしてれば首輪は認識されないよ、きっと、じゃあね。また会うとき奴隷じゃないことを楽しみにしてるー。」


 そのままトランクは宙を滑り、少女は何処かへと消えていった、恐らく弟のもとへとだろうが。


 レーティアは懐中時計を首につけた後、憂さ晴らしにパメラへと侵攻する事を半ば確定事項として決めて、自室へと戻るのであった。

ユウキさん、一日来るのが遅かったために完全に観光のためだけの御来国になりました。

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