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3.死へと誘う『リンクタワー』250階

 「結局。ファルストナシアの実家が悪いんでしょ?じゃあルーチェに頼んで何とかしてもらえば。」


 事の顛末を聞いて厄介ごとはすべてルーチェに回そう。とエルが言うのに対して残念そうに首を振る金髪縦ロール娘。


 「レーガランス家はパメラの中でも名門としても貴族としても名高いお家ですわ。正面(・・)切って難癖つけても意味がないかと。爵位としてはこちらの方が格下ですので。」


 「では正面(・・)を切らなければよいのですね?」


 「当家と全面戦争になった場合困るのはそちらでしてよ。とでも言ってやりますから、全面戦争になったらあなた達に任せますわ。」


 「それは凄まじいまでの駄策だよルーチェちゃん。もうちっと頭を使おうぜぇ?」


 突如聞こえる低い声。

 声がした方向をドルトルーチェが振り向いてみれば無精髭にボサボサな髪、薄いピンク色のアロハシャツを着ていてダボダボなジーパンと胡散臭さが満タンなおっさんが立っていた。

 いつの間にか立っていた事に関して何かを言うこともなく気にせずに話を続けるドルトルーチェ。

 彼、アルフォンスは気がついたらそこに居る、そういう人間なのだとここに居る全員が認識しているからである。


 「では、アルフォンス。貴方ならどうしますの?」


 「まぁこれは前から聞きたかったんだけどさ、何人も娘が居るんなら何で結婚しないわけ?」


 「え?私がテルとってこと?」


 「ほかにいないじゃん。で、どうなの?」


 「え…………………………っと、ルビーにエメラルド、カインにルシェカの誰かに殺される自信があるし、そのリスクをおってまで結婚したいとは思わないわね。」


 「ですわね。」


 「確かにご主人様(マイロード)と結婚できるのはその4人以外いないかと。」


 「…まぁそれならアリステルじゃなくても良いや、誰かと結婚しちゃえよ。そうすれば向こうさんも強く出れないだろ。結婚した旦那さんの強さによっては旦那さんの命が危ないけど。」


 その言葉に一斉に動きが一瞬止まる。

 ファルストナシアは顔を赤くし、サファイアは目を極限まで開き、ドルトルーチェは鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をしていた。


 「偽装結婚!それですご主人様(マイマスター)、偽装でご主人様(マイロード)と結婚してしまえば良いではないですか。それもシャナン皇国の貴族ベルサーチ家とでは無く、エルトシャン王国の王弟アリステル様として!」


 「サファイアさっき自分でいってたこと忘れたの?あの4人に私殺されるかも。」


 「流石に愚妹達は大丈夫だと思いますが。…いえ、公的にはご主人様(マイマスター)が正室で他4人に側室はた仲良く収まって貰いましょう。そうすれば誰が結婚するかで喧嘩することもなく、全員平等で落ち着くと思いますが…。」


 「確かにそうすればエルトシャン王弟の妻という位置になりますから、レーガランス家としても納得がいくであろう縁談になると…流石ですわアルフォンス。」


 「でもレーティアって確かルビー、ルシェカ応援派。偽装とはいえ結婚を支持してくれるかどうか…。」


 「そろそろ言わせてもらおか、エルトシャン王国と繋がりあるなんて知らなかったし、そもそもその話題のアリステル本人は何処言ったよ。」


 「「「え」」」

 「申し上げておりませんでしたか?雇い主の癖に使えないですねロール。早く説明してください。」


 ~縦ロール娘アロハに説明中~


 「え、何。じゃあ、あいつ等転移石で飛ばされて行方不明なわけ?」


 「そうなんだ。だから私のせいでもあるから気に病んでたんだけど」


 「一応ルシェカ様にその事を伝えたところ探しに単身向かいましたので、オパールの祝福(ギフト)を渡しておきました。」


 「じゃなくてさ、ルビーが居て帰ってこないんだったら50階の倍数なんじゃないの?確か転移不可の領域があるって噂あったろ。それにオークションか闇市に行けば50の倍数の階で座標特定済みの転移石位売ってんだろうしな。」


 「…オパールにルシェカ様に連絡を取って50の倍数階を探すようにと伝えるように言って参ります。」


 部屋を早足で去って行くサファイア。それを見て、ため息をつくアルフォンス。


 「要領悪いのはいつものことだよアルフォンス。」


 「そうだろうけどよぉ。とりあえずさぁ、エルトシャン王国の女王様とは文通する仲だからさ、今すぐこれるか聞いておいてやるよ。」


 ブォン、と音をたててアルフォンスの手の中に一枚の紙が現れる。彼の祝福(ギフト)であり、好きな人に好きな時間に1日一枚のみ送ることができるという不思議な紙である。因みに圏外もあるらしい。


 「今すぐって……無理ではありませんこと?機関車を使ってもエルトシャンからでは2日はかかりますわよ。」


 「女王様には祝福(ギフト)の翼があるんだよ。空を使えば一時間もかからないで着くだろうさ」



※※※



 26年前に二代目冒険王と呼ばれたサーフェイスという男のパーティがクリアされたと言われる『リンクタワー』250階。当時クリアしたばかりのサーフェイスはこういったと言われている。


 「249階までとは違う、異次元みたいなところだ。状態異常の対策を怠ったら死んでしまうぜ。」


 と。



 ぐったりしたエメラルドを背負い走るアリステル。その横を水を撒き散らしそのまま周りの敵へとぶつけるルビー。

 彼らは急いでいた。

 毒。それを扱う魔物がこのフロアの魔物の中に潜んでいたのだ。気付いたのはその毒によってエメラルドが倒れてから。愛用の大剣を落とし倒れるエメラルドを見て二人は思う、あれ?ヤバイんじゃね。と

 エメラルドの実力はルビーに劣りはするものの、一流の冒険者を名乗ってもお釣りが来る程度には高い。そんなエメラルドの弱点はまさしく状態異常なのである。そして、ルビーはともかくアリステルも状態異常に強いとは言えない。


 「ルビー、そこにWのマークが見えますよ。あと少しでスタート地点です。」


 「パパ!無茶しないで、いや、無茶しないと今にも倒れそうなのは知ってるけど!

 私は体内の毒を水でひたすら薄めてから吐き出してるけど、パパは対処できないんだから!」


 現にアリステルの顔色は悪い。そもそも彼は祝福(ギフト)以外は常人レベルの才能しかなく、旅をしていた影響で身体能力やら判断能力やら反射神経やらは上がっているものの、ルビーのように壊れたスペックを誇っている訳ではないのだから。このタワーでいうと50階相当(冒険者中堅級)の能力しかない筈なのである。

 それでも、高い階ほど魔物が強くなる『リンクタワー』の250階で未だに地面とキスをしていないのは単純に、

 気合い(・・・)である。


 尤も隠している札や秘密兵器もいくつかあるもののこの状況を打破するには使えない。というよりも使えない。使う隙がないのだ。


 そもそもこの階自体ルビー1人でも厳しい所である。1人であれば体内に魔力炉を積んでいる彼女が魔法をひたすら打ち続ければよいし、被害も自身の身体だけ気にかけていれば良いわけだ。そもそも身体のスペックだけでもラピスを含む姉妹の中で一番高いルビーからしてみれば、さっさと駆け抜けて転移陣のところまで魔物を置き去りにして走り去ってしまうのがベストである。


 しかし現状は愛しすぎてヤバイパパと、心の底では一番信頼している()が同行して尚且つ危険な状態と言える。そもそも2人ともある意味特殊な魂を持っているのだ、リザレクション(蘇生魔法)で蘇るかが怪しい以上死なせるわけにはいかない。


 当初はルビーが先行して転移陣を使用し、ファルストナシア達を回収後一度屋敷へと戻り、魔物退治やらダンジョン攻略に長けてる面子を喚んで、救援に来てもらうという方針であったが、どうやらこの階に居る魔物には猛毒を空気中に蒔く習性があるらしく、毒を無効化できるルビーが抜けると生存率0となるためにルビーは残ったのだ。


 なんとかこの無駄に広いダンジョンをルビーとアリステルは苦労しながらも通り抜けてきた。これ以上は自身の身体が保つ気がしないと、アリステルはここで切り札をひとつ切ることにする。


 「転移してから2日…。正直僕はもう辛いのでせめて道を作ってから落ちますね。もう少しなのであとは頼みます。」


 アリステルの祝福(ギフト)であるカメラの色が緑から赤へと変わる通称多数攻撃(連写モ)モード。

 視界に写る魔物すべての魂を一瞬にして抜き去るそれは毒に侵されているアリステルにとってはキツいというものではなく、エメラルドを背負ったままその場へと倒れ込んだ。


 「パパ!?ちょ…や………っ」




※※※



 『ラナの森』のご近所に存在するドルトルーチェ邸。その屋敷の一室にて緊迫とした空気が流れていた。


 「で、わたくしを喚んだというわけですか。」


 エルトシャン王国女王レーティア=クレモント。アリステルと義姉弟の誓いを結び、表面上は「うちの国では何も悪いことをしていないから」と指名手配していないアズムール王国とは違い、「女王たるわたくしの義弟を指名手配する?とんでもない!」と真っ向からアリステルの指名手配を拒んでいる女傑である。

 そんな彼女をこの場に喚んだ良くわからない男、アルフォンスとドルトルーチェを両隣に座らせファルストナシアは対面の女王を見つめる。



 「…別に実家が婚約者を送り込んでくるのが面倒で嫌だと言うだけならわたくしが偽装結婚の相手を見繕ってあげても良いですが。」


 不機嫌そうな態度を見せるレーティア。そもそも彼女からすればエルトシャン王国の王弟アリステルを傷つけられたと言う名目でパメラに宣戦布告してもよいかなと思っているほどである。そんな最中で現時点では自分とは一切関係のないともいえるファルストナシアの事などどうでもよいといっても良いレベルなのである。

 一応ルビーを応援している立場であるレーティアとしては、ルビーを生み出したということもありファルストナシアのことはある程度は認めている。

 しかし、あくまでそれはルビーの母親(おまけ)としてであり、本人には興味がないのであった。その為、


 「ハッキリと言うのであれば、ファルストナシア殿。わたくしは貴女が義理の妹になるのは認めたくありません。」


 彼女がこう答えるのも当然であり、納得の結果と言えよう。


 「ルビーかルシェカ。この二人以外は現状わたくしは認めるつもりはないので。」


 ピシャリと言い切った後、サファイアが淹れていった紅茶を飲み「美味しい」と呟き一息いれる。


 「とまぁ、牽制はこれくらいにして、パメラの動きがが怪しいということは知ってますか?」


 一息いれ終えた後のレーティアの言葉にアルフォンスが頷く。


 「え、私全く知りませんけれど…。なんですのそれ?」


 「噂では別の世界から勇者だか英雄だかを召喚したらしいな。あくまで噂だが。」


 「そのとおり。もしかしたらだが、ファルストナシア殿はその勇者だか英雄だかの嫁さん候補として宛がいたいのではないか?」


 「婚約者とやらに連れて帰らせて、そのまま供物にすると言うことか。その婚約者はその後暗殺なりして始末しちゃえば良いもんな。」


 「何せその召喚された者は可愛い女の子さえくれればくれた分だけ国のために何でもしてやるといったそうだからね。レーガランス家の立場を考えて、ファルストナシア殿のような才色兼備たるご息女が家出に近い形とはいえ居るのならば利用しない手はなかろう。」


 「なかなか立派な情報だがよぅ…。その情報源は何処なんだ?それによって話は変わるが?」


 「ふふ、聞いて驚くなよ。フイリップ宰相殿だ。こんな国についてはいけんと情報を売ってくれたのでね、一応同意を得てから魔法、薬、魔道具と考え付くかぎりのものを使って、自白させての裏取りしたから間違ってはいないはずだ。」


 「流石に外道すぎはしやせんかねぇ…。」


 レーティアは静かに微笑むと席をたつ。


 「まぁ気にする必要はない。恐らく今回はファルストナシア殿がリンクタワーに出掛けたことによるものだろう。屋敷に居るかぎりは大丈夫だと思うぞ。

 長居しすぎたようだね、わたくしはアリステルたちの様子を見たら国にに戻ることとするよ。失礼。」


 一礼をした後に扉へと歩くレーティア。後ろ姿へと「私は情弱なのかしら…。」と呟いている金髪縦ロールが居たが誰も気にしなかった。

 レーティアが去った後には残されたアルフォンス、ドルトルーチェ、ファルストナシアが疲れた顔をしていたとか。



※※※



 「ルビー。邪魔をするよ」


 うとうとしながらも解毒処置をされてすやすやと眠るアリステルとエメラルドのベッドの横に座り見守るルビー。

 レーティアが入ってくるのに気がつくとぱぁぁっ、と表情を明るくする。


 「お義姉ちゃん!さっきエメラルドが寝言を言ってたんだよ!もう大丈夫だよね。ね。」


 子犬のようにすり寄ってきて可愛い奴だ。等と思いながらもキリッとした表情を維持しつつレーティアは眠る2人を見る。


 「わたくしが処置をした以上、失敗はありません。このまま寝ていれば次第に良くなりますよ。…死神と呼ばれるわたくしの義弟がこのような毒で倒れるとは情けない。ですが娘を守りきったのは称賛いたします」


 レーティアが来たときとほぼ同時に、屋敷へとエメラルドとアリステルを抱えてルビーが泣き状態で帰ってきたのを見たときに「私を喚んだ理由はこれなのか?」と思った程、毒の質が高かった。

 【凡人を1、天才を10、として見た場合全ての才能が12くらいある】と評された天才の中の天才であるレーティアであっても解毒に少し手間取ったほどだ。並の医者や司祭に見せても解毒は叶わなかったであろう。そう考えればレーティアが屋敷に居たのはタイミングが良かったと言える。


 後半部分を聞き取れなかったルビーが「なぁに?」と聞き返してくるのを頭を撫でることでやり過ごす。


 一通りエメラルドとアリステルを見た(診察)のち、ルビーを撫で続けて少しの談笑を楽しんだあとレーティアは自慢の祝福(ギフト)の翼を使い自国へと帰っていった。





 余談だがこの日の翌日、『リンクタワー』の到達記録が300階を突破した事が転移陣の転移先から判明したという。誰が到達したかは定かではないが、記録から9階も一気に進んだことから噂のパメラ国の勇者ではないかと噂されているという。

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