What is "お弁当"
「なあ、主に言うお弁当ってなんだ?」
「これまたいきなりだな」
何時ものようにケンジが変な事を聞いてきた。
今は昼休み。
いつもと変わらず、俺の昼飯は妹お手製の弁当だ。
対してケンジの昼飯は購買で買ったパンが3個だ。
しかし、ケンジは何を言いたいのであろうか。
前言ってたみたいに手作り弁当が欲しいのだろうか。
俺は話を進める為にケンジに話しかける。
「それだけじゃ意味が分からん。説明しろ」
「あ~と、前に俺の母ちゃんの弁当がサバ缶(醤油煮)と米だって言ったよな」
「ああ。それがどうした?」
「その話を友達に話したんだよ。知ってるだろ、2組の沢辺」
「ん……ああ、アイツね」
俺は弁当に入っている冷凍食品であろうハンバーグをつまみながら、ケンジが言う沢辺の顔をぼんやりと思い出す。
そいつと何かあったのだろうか?
「あの話を聞いた後の沢辺の感想がさあ―――――」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「って事があってさ。酷くない、これ」
「確かにそれは酷いな」
「だろ。なんでサバ缶が醤油煮なん…………」
「そこはサバじゃなくてヤキトリ缶だろ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――――だったんだよ」
「何故、誰も弁当が缶オンリーである事に突っ込まないんだ!!」
「そう、それだよナリ!」
俺がケンジの話に突っ込みを入れると、突如ケンジが反応した。
いきなり過ぎてビックリしたわ。
「いきなり何だよ?」
「俺が言いたいことだよ。つまり、俺はその会話で思った訳だ。人によって『弁当』のイメージが違う、って」
ああ、なるほど。
ケンジが言いたかった事を理解した。
俺にとって缶詰の弁当はまったくもってギャグ以外の何物でもないが、ケンジや沢辺のように不思議に思わない人もいる、という事か。
俺はおかしいと否定していたが、もしかしたら意外にいるのかもな、缶詰弁当の人。
そんな感慨深くなりながら、弁当の玉子焼きを箸で掴み食べようとすると、
「も~らい!」
パクリと横からかっさらわれた。
「あっー!?サチ、てめぇ!よくも俺のおかずを」
俺は盗んだ張本人を半目で睨む。
しかし、当の本人は気にせずに玉子焼きを咀嚼する。
『小早川 紗智』
もう一人の俺の幼馴染みだ。
サチとは別のクラスで、たまに俺達の教室に来て昼飯を一緒に食う。
容姿はどちらかと言えば美少女のカテゴリーに入るのだろうが、こいつからは魅力を1ミクロンたりとも感じない。
昔からの付き合いだし、男友達みたいなものだ。
「う~、もひゃひゃもひゅもひゅ」
「喋るか食うかどっちかにしろよ」
「もぐもぐもぐ、ゴクン。ごちそうさま。今日はだし巻きかあ。残念だなあ、私、甘い方が好きなんだ」
「お前の好みなんて聞いてないぞ。なんだ、甘いのにしろってか」
口を開いたと思えば、味のリクエストかい。
俺が呆れていると、ケンジがさっきの話をサチに切り出した。
「なあ、サチの思い浮かぶ弁当って何だ」
「ん?また変な話してるの。飽きないねー。私は海苔弁だなあ」
「何だかんだ言っても、答えるんだ。てか、海苔弁とは。これまた地味だな、チョイスが」
いや、海苔弁が美味いのは分かるよ。
俺も好きだし。
でも、もっと女子らしい選択肢があろうに。
「お前も一応女子なんだし、取り繕えよ。嘘でもいいからキャラ弁とかさ」
「えー。だって、海苔弁って安いのにボリュームあるじゃん」
「お前は給料日前のサラリーマンか」
そんなどうでもいい話をしていると、ケンジも話に加わる。
「キャラ弁当ってあれだろ。蓋を開けてみっと頭がアンパンのキャラとか未来の猫型二足歩行ロボットとかを模した弁当だよな。俺、あれは弁当とは思えないなあ」
「それまた何で?」
俺はケンジの発言を聞き、質問していた。
ケンジは買ってきた惣菜パンをかぶりついて語りだした。
「いやな、『キャラ弁』は弁当本来の目的には向いていないんじゃないかと思ってな」
「本来の目的?何それ」
ケンジの言葉にサチは首を傾ける。
俺もサチと同じ気持ちだ。
「弁当は食事の為のものだって事だよ」
「そりゃ……………まあ、なあ」
ケンジの言葉の意図がイマイチ分からん。
サチが急かすように言った。
「つまり、なんなのさ」
「つまりだ。キャラ弁は食事を阻害してしまうのでは、と言う話だ」
「阻害だぁ?いやいや、むしろ逆だろ。弁当に遊び心を加えて、食べる側を驚かせ、喜ばせるとかして、食事を楽しめるじゃん。そこがキャラ弁の良さだろ」
まさか、どっかの女子みたく「可愛すぎて食べれない」等という理由かじゃないだろうな。
「確かにそうだ。しかし、ある問題点が1つある。それは『色』だ!」
「「色?」」
「そうだ。キャラクターを再現する際、例えば先程挙げた猫型ロボットの場合、大半を占めるのは青と白だ。これが何を意味するか分かるか」
「………………ああ、なるほどな。青色、寒色が引き起こす効果か」
「どういうこと、ナリ?」
俺はケンジの主張を理解した。
サチは未だに分かってないようだ。
「簡単に言うと、青色とかは食欲減退の効果が有るんだ。ほら、真っ青なサンドイッチなんて食う気失せるじゃん」
「ああ、なるほど~。あ、そうだ!さっき購買で買った『新商品 未来のネコ型ロボットパン』があるんだけど。買ったのはよかったけど、改めて見ると青いパンって気持ち悪いね」
「気持ち悪いなら、何で買ったんだよ」
「食べる?」
「いらねえよ!」
ちゃんと聞いていたかはともかく、サチも理解してくれてはいるようだ。
青色が食欲減退を引き起こす理由は消化の働きを弱める、自然界の食材においてほとんど無い色だから脳が毒だと認識するだとか諸説ある。
これを応用してダイエットになどにも使われている。
最後にケンジが付け加える。
「勿論、これは青色に限った話であって、全てのキャラ弁を否定しているだけだからな。キャラ弁見たら、普通ににスゲーと思うし」
「あ、そうだ。キャラ弁と言えば、前にハルカちゃんも作ってたよ、キャラ弁」
「「マジか!」」
俺は思わずハルカちゃんの方を向く。
現在ハルカちゃんは数人の女子と一緒に席を囲み、談笑している。
いろいろと女子力高いオカマだな、おい。
その話に興味を持ったのか、ケンジがサチに詳しく聞いた。
「で、何のキャラクターだった?ポ○モンとか○NE-PEACEのトナカイとかか?」
「モナリザ」
「「次元が違うっ!?」」
ハルカちゃんの想像を越えるレベルの高さに愕然とする二人。
しばし呆然としていると、ケンジが突然立ち上がった。
「ちょっとハルカちゃんの弁当見てくる!」
「え?て、ちょっと待て、ケンジ」
慌てて制止の声をかけるが、ケンジはすぐさまハルカちゃんに接近し話しかけた。
ハルカちゃんのいる席からは離れているため、何を言っているのかは分からない。
その様子を見ていると、サチが俺の机に寄りかかって口を開いた。
「結局、お弁当はお弁当以外の何物でもないよね。お腹が膨れて食べた人が満足する。それで十分でしょ」
「…………サチ。上手くまとめた感じに言ってるが、実は弁当の話に飽きただけだろ」
「うん。正解」
否定しないんかい。
まあ、そこがコイツの良い所なんだが。
そんなサチに呆れ半分感心半分でいると、ケンジが残念そうな顔で戻ってきた。
俺は不思議に思いケンジに聞いた。
「どうしたケンジ?弁当見せて貰えなかったのか」
「いや、ハルカちゃん見せてくれたよ。ただ、今日は時間が無かったらしくて、キャラ弁じゃなかったもぐもぐ」
「そりゃ、毎日キャラ弁作るのはキツイだろうしなあ。しょがないだろ…………何、食ってんの?」
「ハルカちゃんの弁当の中身。え~と、何て名前だっけな?」
「貰ったのかよ。で、卵焼きか?それともハンバーグとかか?」
「確か……『和牛フィレ肉のパイ包み焼き~ウエスタン風~季節のソースを添えて』だったな」
「絶対時間あったろ、ハルカちゃん」