3章2節 酒場
「うおぉ・・すげぇ・・」
そこは辺り一面街明かりに包まれ、街灯や家々の優しいオレンジに染まっていた。
その奥には、一際大きい石造りの建物、王城がある。
しかし、もう後14時だと言うのに、この場所まで街の喧騒が聞こえる。
イエストの村も十分騒がしかったが、ここまで五月蝿いのは祭りの時位ではないだろうか。
「正直、俺も産まれて2度目なんだが・・やっぱりすげぇデカイな。」
「俺は初めてだよ・・・こんなうるせぇ所・・・」
「なんだ?騒がしいのは嫌いか?」
「どちらかと言えば静かな方がいいな。」
というのも、五月蝿すぎると前の世界の物騒なアレを思い出してしまう。
この世界に来てまで、前の職の事を思い出したくは無い。
まぁ、背中に銃を背負ったおっさんが言える事でもないのだが。
その後、王都内で宿泊出来る施設を探しまわったが、やはりどこも満員状態であちらこちらと歩き回る羽目になった。
「もうこの際ボロくさそうなとこや、酒場宿でもいいだろ?俺は久々に酒が飲みたい。」
「うーん・・まぁヨウヘイが言うならそれでもいいけど・・・てかメニがあるから良いとこ泊まろうとか言ったの誰だっけ?」
「あー分かった分かった俺が悪かったよ!ほら。あそこなんかどうだ?賑わってるだろ。」
「あーもうそこでいいぜ。」
そんな会話をしつつ、酒場宿へ向かう。
なんとか文字を読むことはできるが、こちらでもやはり達筆な人はいるのだろうか。それとも筆記体のようなものがあるのか。どちらにせよ、自分には読む事は不可能だった。
シルも看板を見ながら顔を顰めていた。
どうやら読めないのだろう。
中へ入ると、淡い青の制服に純白のエプロンを見に纒った女性店員がいた。
「ようこそレベッカへ!お二人様ですね?ただいまお席が満杯ですので立ち飲み、相席でもよろしいでしょうか?」
「え?はい?!すいません聞こえません!」
中がとても騒がしく、その灰色の髪に獣耳のついた女性店員の声は聞き取れなかった。
そういい聞き取れないとジェスチャーで告げると、店員も苦笑いで後ろに目をやる。
どうやら数人のグループが揉め合っているようだ。
するとシルが俺に近づき
「なぁ、あれ・・マズイぞ。奴ら結構名の馳せたモンスター狩りの集団だ。俺でもよく耳にする。しかも両方人数が多いぞ。別の店に行こうぜ?」
と囁いた。
なるほど。有名なグループ同士の揉め合いか。となると周りの奴らも仕返し恐れて口出しできないでいるというわけか。
「あ・・・あの・・・っ・・・やめて・・ください・・他の方に迷惑が・・・」
「あぁ?!嬢ちゃんは黙ってな!待ってろよ?もうすぐしたら俺らと一緒に飲もうぜ?!」
「うるせぇ!この子はてめえら見たいな雑魚ギルドじゃなくて、俺らと飲むんだよバーカ!」
「はぁ?!どっちが雑魚だ!おめえらこないだ俺らの狩場荒らしてたろ!?ふざけんなよ!」
「あのっ・・・うぅ・・・」
「うっわぁ・・どう思う?ヨウヘイ。あいつら女の子の取り合いであんなに揉めてるんじゃね?」
「あぁ、とても見過ごせるような状況じゃないよな。」
「だよな・・あっ!おい!ヨウヘイ!待てって!面倒事に・・っ!・・・ハァ・・」
シルの注意もきかずに、揉め合いしている2つのギルドの元へ向かう。
昔から、シックスセンスなのか相手を見て自分より強いかどうかがある程度だが、わかるのだが、奴らからは自分より強いと感じ取れなかった。
武器を使われたら、こっちも使うまでだ。
「おい貴様ら!一人の女性の忠告も聞けずに、よくもまぁ公衆の面前で騒げるものだな!有名ギルドが、笑わせるな!」
「あぁ?んだとテメェ。誰に向かって口聞いてんだゴラァ!!俺が獣狩りのオズベルと知って声かけてんだろうな?」
「獣狩り?ハッ雑魚狩りの雑魚ベルの間違いじゃないのか?それとどうした?そっちのお前。雑魚相手に怒り狂いやがって。お前らも弱小ギルドってか?あぁ?あれか?こっち雑魚狩りで、こっちは弱い者狩りか?ハハハハハ!」
「んだと・・おっさん良い度胸してるな?よぉしオズ。ここは一度手を組むぞ。コイツぶっ殺す!」
「うるせぇ!指図してんじゃねぇ!お前ら雑魚は指くわえて影にでも隠れてろ雑魚!」
「いいぜ?弱い奴らなんだから全員で掛かってこいよ?おっさん一人に大勢でな?」
「お前らぁ!やっちまえ!!」
「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」
その掛け声と共に大勢の男が襲い掛かってくる。
そして、タイミングを見極め・・!
パアアァァン!
と音響手榴弾が炸裂する。
事前に耳栓をしておいたので、自分には影響は無いが、この酒場の中の自分以外全員が暫く聴覚が機能しないだろう。
その隙に、ギルドの奴らを拘束する。
着用している衣類同士を巻き合わせる、短い時間でたくさんの捕虜を捉えるために習得した技だが・・まさかこのような形で使えるとは。
「ぐっ!・・・あぁ!!?んだこれ?!おまっいつの間に?!・・あれっ?解けねぇ!おい!早く解け!クソッ!・・」
「嫌だね。二度とこの店と他人に迷惑かけないと誓えば、そのまま外に引摺りだしてやるよ。」
「はぁ?!ふざけんな!早く!」
「言う事聞けなければ、こっちにも手段はあるな。」
そういい、ウィルからもらった短剣を見せつける。
「は?・・・なんだよ・・ソレ・・ローズンデライトじゃねえか・・・!」
「なんだ?知ってるのか?なら話が早いな。だからさっさと・・」
「あぁあ!悪かった!!すまん!もう迷惑はかけない!だから・・それを早く閉まってくれ!!」
「あ、あぁ?ま・・まぁ分かったならいいが・・おーいシル、こいつら外に出すの手伝ってくれ。」
「あ・・・・あ、あぁ。分かった」
暫くして、酒場の中も掃除し終わり、また活気が戻ってきた頃。
「あっあの・・ありがとうございます。さっきは本当に怖くて・・・うぅぅ・・」
「あああ泣かないでくれ!いやいや。俺はただ困ってる人は見過ごせないだけで・・あぁそうだ、お嬢さん名前は?」
「あっ、えーと。王国騎士団魔法科見習いのユニって言います。」
「えっ?騎士団?」
辺りが静まり返った
フラグが立ちました