2章10節 ミノタウロス
一歩一歩と歩く度、地面が揺れ、立っている事すらままならない状況になる。
「逃げろヨウヘイ!!踏まれたら死ぬ!ってかあいつに追いつかれたら殺される!急げ!」
「待てシル!逃げてどうなる!いずれこのまま村に来るだけだ!なら、、ここでなんとかするべきだ!」
「俺らで立ち向かってどうなる!?倒す事が出来るのか?!どうにかなるのか?!」
「あるわけ無いだろ!」
「じゃあどうするってんだ!無駄死にに行くのか?!」
「あぁ!!もういい!お前は村にでも帰ってろ!!そしてすぐに村人を集めて遠くへ、王都の方へ逃げろ!どうせ何も出来ないが、僅かでも時間を稼げるかもしれない。その間に・・早く!!」
「ふざけるな!お前をおいて行けってか?!・・・・分かったよヨウヘイ!俺も残る。村の移動は他の奴らに任せる!」
「お、おい!シルさん!ヨウさん!あんたら2人残って何が出来るってんだ!」
「俺はヨウヘイが残るから残るだけだ。あんたは衛兵なんだから村の安全を第一に、すぐに避難してくれ!頼む!」
「あっ・・あぁ!分かった・・・死ぬなよ!」
「さぁ・・ヨウヘイ。勝算は?」
「見ろあの胸元。さっきまでは無かったが、青緑に光ってるだろ。魔法詠唱の時にもあの色の光が手元にあったから、何か関係があると思うんだ。」
「俺にカービンを貸してくれるか?」
「待て、お前じゃあ使えない。」
「そんな事言ってる場合か?使ってみなきゃわからんだろう。」
「いや、ならベレッタを使ってくれ。ここ、をこう引いて、で構える。そして、これを、こう覗きこんで、赤いのが見えるだろ?これを、狙いたい所にかまえて、トリガーを引け。」
「ト、トリガーってこれだよな?よし、分かった。で・・ヨウヘイ、お前はどうするんだ?」
「シルが援護してくれ。そして俺が突っ込んで、これを投げる。レモンって言うんだ。」
取り出したのはレモンと呼ばれるM26手榴弾。
殺傷目的としており、あの光の元に投げると、運が良ければ・・・・
しかし今はたとえ運であろうと、何か一つでも情報がほしい。
どうすれば倒せる、無力化できるか。
どうすれば死なずに、死なせずに済むか。
何でも良い。その情報を得るためという意味合いも込めで、これを使うと決めた。
できれば、残しておいて、これも量産出来る状態になれば使いたかったが、今は出し惜しみしている場合ではない。
それにこれで無力化出来れば、また他の時のためにもなる。
「よし、シル、お前が援護しつつ、俺が攻める。そして、レモンを投げる。うまく行けば倒せるし、うまく行かなくても何か情報がつかめるかもしれない。今は藁にもすがる思いだ。大丈夫か?」
「あぁ・・・オウケイ!」
「――っ!よし!行くぜ!」
そういいナイフとM26手榴弾を手に、今、目前の巨大で強大な敵をめがけ走りだす。
その刹那、自分の背丈程ある拳と、それを胴体とつなぐ太い腕が俺を薙ぎ払おうと右から振り出される。
これをモロに喰らえば即死だろう。一瞬でそう判断した脳は無意識の内に緊急回避をするよう、命を下し一瞬遅れて体も反応する。
勿論、地面と接する面は、ほぼ奴の拳辺り位で、それを前転のような動きで回避し、巨体の内側に潜り込む。
その隙を見て、シルが発砲する。
案外、弾道は巨体の目元を目掛け飛んで行くも、直前で、薙ぎ払ったもう一方の腕でそれを防ぐ。
しかし、この行動一つで、この巨体にあの小さな弾丸が、少なくとも目には通じると分かった。
仮に撃たれても何も問題がないのなら、ここで防ぎ、自ら隙を作るような真似はしないだろう。
そしてシルがまた、今度は逆の目を目掛け銃を放つ。
その弾丸は見事巨体の大きい眼球に当たり、一瞬バランスを崩す。
そこから元の姿勢に戻るまではとても一瞬だったが、
―――ヨウヘイはその隙を逃さなかった
バランスを崩したことにより、胸元の光の球体が僅かに傾き、光がこちらを見つめる。
そこを目掛け、手榴弾を投げつける。
その瞬間脳が活性化し、時間がとても遅く感じる。
ゆっくりと放物線を描き、その光の球体を目掛け飛んで行く物体は、
その光に当たるやいなや火花と煙を撒き散らし、爆発する。
見事命中したそれは、その巨体を無力化させるのには十分だった。
光が破裂し、輝きを失いつつも、空高く昇る太陽の光を反射させ、キラキラと落ちていく。
そして、輝きを失った光が消失し、巨体から煙がまきあがり、蒸発されたように辺りが熱気に包まれる。
よく見ると、さっきまではとても大きかったミノタウロスも、今では生まれたての子鹿程度の大きさになっている。
「やった・・のか?」
「あぁ・・・・多分な。」
シルがそう零し、ヨウヘイが自分の推測を言う。
しかし、推測といえど、核のような部分を破壊し、ここまで小さくなれば、また強くなる。とは考えづらい。
そうして暫く無言のまま、2人は動かなくなったそれを眺めていた。
そこで、ヨウヘイが、胸元から血が流れている事に気がつく。
そのこと自体、大きい事では無いのだが、その血が緑ではなく赤い、という事に驚いた。
「なぁ、魔族って、緑の血じゃないのか?」
「あぁ、俺もそう聞いていたんだけど・・・あぁ、ところで、どうだった?俺の、銃の腕前は?」
「あ、あぁ。思ったよりすごかった、というかお前本当に触ったの初めてかよ?」
「当たり前だろ?それまでは聞いたことも無かったんだ。」
「だとしたら才能があるな。初めてであの命中率はすごい。」
「まぁ、そう褒めるなって。ハハハハ」
「しかし、、コイツを倒したが、気がかりとなるのが、魔族の本軍の侵攻はどうなるんだ?」
「わからない。だが、それは騎士団がなんとかしてくれる。とりあえず、今はつかれたんだ!早く村へ帰るぜ。」
「あぁ。それもそうだな。」
そうして、魔族の偵察隊の侵攻は、案外呆気無く終わった。
―――はずだった。
これからまた、4月下旬頃まで不定期更新になります。
それと、6月上旬頃には、研修でまた色々とあるので、少し空くかもしれません。
その時期になれば再度ご連絡申し上げます
これからも応援よろしくお願いします!!