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紅い鉄槌……割とドライな正義の味方

 顔面に拳を叩き込まれ、01は岸壁を派手に滑走した。


 「ぐっ……あ……」


 激痛と衝撃に、仰向けに倒れたまま呻く。

 特殊合金性の頭蓋骨は健在だが、豪快に脳を揺さぶられた為か意識が朦朧としている。そのくせ、激痛だけははっきりと感じるのだから始末が悪い。


 だが、いつまでも寝ているわけにはいかない。

 歩み寄ってくる首領の足音が恐怖心を刺激し、呆けている脳を無理矢理にたたき起こした。


 仰向けの体勢のまま大地を叩き、反動で跳ね起きる。そのまま跳躍で素早く後退して首領との距離を開く。


 「まだ立つか。これほど痛めつけられてもまだ向かってくるその闘志、実にいいぞ」


 楽しげに笑う首領の言葉通り、01はここ数分でかなりのダメージを負っていた。回避に徹していれば、首領の攻撃もかなりの部分を回避できるが、一撃でも貰うとそれが大きく響く。戦闘不能に至るような損傷はないが、出血量は次第に増え、特殊合金の骨格もあちこちが少しずつ軋んでいる。強化された細胞と移植されたナノマシンが懸命に修復に掛かっているが、栄養を十分にとって安静にしていても治癒にはそれなりの時間が掛かるだろう。傷を負った状態で首領の重く鋭い打撃を必死に躱し続けているが、このままではジリ貧だ。


 このままでは。


 01はブーツ、脛当ての部分からナイフを引き抜いて身構えた。


 「よくもまあ、それだけ隠しているものだ。逃げ回るのには飽きたか? それとも、捨て鉢になったわけではあるまいな?」

 「このまま押し切られるのは面白くありません。少しでも可能性の高い選択をするのはおかしくはないでしょう。それに、あなたの守りを崩すというのはやり甲斐がありそうです」


 眼前の敵に向けて、一直線に駆け出す。

 首領はその場で身構え、迎撃の構えを見せる。恐らくは確実に反撃を受けるだろうが、01は臆することなく突っ込んでいく。


 狙うは首領の懐、人工心臓だ。

 面積が小さく照準を定めにくい首を狙っても防がれてしまう。ならば、仮に外しても他の部位に損傷を与えられる可能性が大きい胸を突く。特殊合金性の肋骨は強固だ。しかし対<レッドストライカー>用の装備である高周波ナイフをさらに改良した電磁ナイフであれば、通る可能性は十分にある。


 腰だめにナイフを構え、突貫する。


 「まるで鉄砲玉だな。まあいい、まったくの悪手と断言も出来んしな」


 首領は突っ込む01を半歩身を引いて躱す。まず01を迎撃してくるのであれば、対処のしようもあった。だが、単純な突撃を敢えて受ける程首領は慢心していない。体重を乗せ、重く早い一撃ではあるが、回避するのはさして難しいものではなかった。


 回避しつつ、首領は眼前を空振りしていく01の無防備な背中に手刀を叩き付け


 「ぐっ!?」


 叩き付けようとする寸前、その小さな背中の体当たりを胸に受けていた。

 もとより体重を乗せた体当たりだ。回避されれば、通り過ぎざまの一撃をやり過ごせても、その後数瞬は無防備に体勢を崩してしまう。突撃前にその懸念を抱いていた01は、首領が回避に移ると同時に僅かに速度を落とし、突撃体勢を変え、ナイフの突きではなく体当たりに切り替えたのだ。


 もちろん、強引にも程がある姿勢制御だが、それでもどうにか背中で首領を弾きとばすことに成功した。無茶の代償に体勢を大きく崩してしまったが、それを立て直して釣りがくる程に首領の体勢は崩れている。また、ある程度予定していた行動だけに対処も首領より早い。01は前方に転倒する勢いのまま地面に跳び込み、前回り受け身を取って素早く立ち上がり、首領に先んじて立ち上がる。


 「っ!」


 思わず、口の端が小さく歪む。

 首領は激突の勢いから数メートル以上吹き飛び、着地出来ぬまま地面に落下していた。既に起き上がる動作に入って入るが、それでもまだ片膝を地に着いたままだ。

 

 好機到来。


 01は右腕で素早くナイフを投擲し、投げ抜いたままの手首からアンカーを射出。更に立て続けに左の手首からもアンカーを撃ち込む。

 起き上がった首領はナイフを手で弾き、地面に叩き付ける。だが、追撃してくるアンカーまではいなし切れず、左手で防御するよりなかった。


 ズムッ、という音を01の優れた聴覚が捉えた。装甲の殆ど施されていない戦闘服を貫き、首領の左腕にアンカーが突き立った音だ。


 この機を逃すわけにはいかない。

 01は渾身の力でアンカーと自分の手首を繋ぐワイヤー巻き寄せた。


 小柄な01だが、<メタコマンド>であるい以上その筋力は非常識なものだ。発揮されるエネルギー量は首領を中空に引きずり上げるには十分過ぎる。巻き取りの勢いに任せて、01は首領を地面に思い切り叩き付けた。

 轟音と共にアスファルトが爆ぜ、土煙が吹き荒れる。首領の姿も掻き消えるが、お構いなしに01はワイヤーを引っ掴み、再び首領を自分の頭上へと引きずり出す。またも轟音。やはり01はワイヤーを引き、首領を地面に強かに打ち付ける。吹き上がった土煙から三度首領を引きずり出そうとした時だった。


 「あまり図に乗るなよ?」


 声がしたと認識した時、01は空中へと放り出されていた。両手首に繋がっているワイヤーが、凄まじい勢いで引き返されたと理解したのは、アスファルトに深々と身体がめり込んでからだった。


 「……ア?」


 事態を理解したにもかかわらず、思わず魔の抜けた声を上げてしまった01の身体が再び引きずり上げられる。見下ろす視界に入ったのは首領の姿だ。引きずられることのないよう、左右のブーツを脛までアスファルトに突き刺して身体を固定し、01を魚の様に吊り上げる姿。続いて目に映るのは、恐るべき勢いで迫ってくる地面。


 「ウアッ!?」


 正面から大地に打ち付けられ、目の前に火花が散る。衝撃に身体が悲鳴を上げる。

 体勢を立て直そうと思考を始めた時、既に01は空中に放られていた。


 「ガアッ!」


 背中から叩きつけられ、意識が飛びそうになる。


 「グッ……!」


 続いて正面から。


 「ガハッ!」


 そして背中から。


 「グッ!」


 正面。


 「ガアァツ!」

 

 背中。


 激痛と衝撃に跳びそうになる意識に鞭打ち、01はワイヤーの破断を思考する。

 神経系を走る電気信号からその意志を受けた戦闘服は、ワイヤーは首領の手元付近で自らを断ち切った。ビンッという、高い音と共に切断されたワイヤーごと、01は勢いのまま放り出され、海へと落下する。

 固いアスファルトに叩きつけられることに比べればあまりにも些細な衝撃ではあったが、それが最後の一押しとなり、01は意識を完全に手放した。






 「グッ……!」


 渾身の力を込めた拳は音速に達していた。

 肘から先だけでも数十キロ近い重量の装甲を纏って打ち出された、文字通りの鉄拳は虚しく宙を切った。


 速度と質量を兼ね備えた一撃を悠々と回避した<レッドストライカー>は、振り向きざまに亀男の横腹を思い切り蹴りつけていく。


 「ガハッ……」


 分厚い装甲、その下に仕込まれた衝撃吸収材を内蔵した分厚いスーツをして、その破壊力は殺しきれなかった。

 

 亀男の突きが音速ならば、<レッドストライカー>の蹴りは完全に超音速だ。強固な特殊合金の骨格で繋ぎ合わされた関節が引き千切れそうになる勢いで吹き飛ばされた亀男は、やはり凄まじい勢いで大地に叩きつけられた。人口の臓器が体内で激しく揺さぶられ、幾つかはその慣性に抗えずに引き千切られる。振り回される血液の勢いに負け、血管が爆ぜて視界が赤く染まった。


 一方で<レッドストライカー>はケロリとした顔で立ち回っている。やはり爆発的な衝撃が加わったはずの脚で軽快に駆け回って狼女と並走し、彼女の攻撃を打ち払い、弾き、手刀で叩き伏せた。


 「……流石は、<レッドストライカー>と言いたいところだが」


 亀男はギシギシと歯を鳴らして<レッドストライカー>に撃ち落された狼女を見やった。


 「馬鹿な……カタログスペックを上回る力とは理解していた。だが、この力は一体何だというのだ?」


 幸い、呼吸器官は生きている。だが、亀男は凄まじい息苦しさを感じていた。少しずつ減少しているが、血液が懸命に酸素を運んでいるにも関わらず、次第に顔色が悪くなってくる。

 傷を少しでも治癒するために細胞が酸素を消費している事を差し引いても、これ程の酸素欠乏状態はおかしい。


 大地に叩きつけられた狼女が素早く立ち上がるのが見えた。

 <レッドストライカー>の手刀が、亀男に入った蹴り程には深くも強力でもなかったこともあろうが、狼女が素早く受け身をとり、衝撃を最小限に殺したことがその迅速な立て直しに繋がったのは間違いない。


 鋭い爪はいくつかが折れ、残っている爪も欠け、刃こぼれしている。それでもがむしゃらに<レッドストライカー>の首を狙うが、届かない。


 <レッドストライカー>は爪を躱して狼女の懐へと跳びこみ、鳩尾に肘を鋭角に叩きつけた。たかだか数十キロに過ぎない狼女の身体は軽々と吹き飛び、亀男のすぐそばに落下した。


 「……生きているか」

 「どうにか、まだな……」


 亀男の問いに、狼女は荒い息の下で答えた。


 「全く、とんでもない奴だ……。何発もらった?」

 「数えていない。かなり必死に逃げ回ったつもりだが、それでも逃げ切れないとはな……」


 そこまで言い、狼女は血煙を吐き出した。


 「やられたのは呼吸器か?」

 「さて、な。自己診断機能が働かない。喉なのか胸なのか、腹かもしれんが……ゲホッ」


 咳き込む息を整えようとする狼女を一瞥し、震える手に力を入れて立ち上がる。


 「震え、か……」


 ガクガクと痙攣する自身の掌を亀男はじっと睨む。


 「さて、もういい加減ボロボロだと思うんだけど」


 そんな亀男に冷徹な声が掛けられた。

 爆発、炎上を続ける工場を背負う形で、幽鬼のような影が歩み寄ってくる。


 「提案。もういい加減降参しない? 前科が山積みだから見逃すってわけにはいかないけど、大人しくお縄になるってんなら命まで取らないぜ」


 <レッドストライカー>はいつも通り飄々とした声で言い放つ。

 だが、亀男は瞳……ヘッドギアのバイザーに隠されている筈の目にかつてない程の冷たい物を感じた。


 「機能としての手加減は出来る。けど、こっちもいい加減に<ブラックパルサー>にはうんざりなんだ。まだ突っかかってくるなら、流石に俺の堪忍袋も爆発するけど?」


 どこか親しげにさえ思える態度と裏腹に、<レッドストライカー>からは明確な殺意が感じられた。

 亀男は、思わず一歩後ずさりすると同時に、息苦しさと手の震えの原因を理解した。


 恐怖だ。

 高性能の<メタコマンド>である<レッドストライカー>を相手にしている以上、殺される覚悟はしていた。だが、まさかこれだけの差を見せつけられるとは。

 確かに前回の戦闘では、単純な身体能力が今回よりも向上していた。その状態で押し負け、撤退を余儀なくされたのは間違いない。今回は思考はクリアになっているが、前回より身体能力が劣っている。押されるのは道理だが、それを差し引いても恐るべき実力だ。


 「……面白いな」

 「あ?」


 だが、亀男は笑った。

 

 「壁は高い程乗り越え甲斐がある。確かに貴様には勝てまい。が、貴様が強ければ強い程未練なく逝ける。一撃入れればその事実一つで勲章に値する。どう転んでも誉だ」

 「……だが、出来るなら一撃でも多く入れたいものだ。血の一滴でも流させることが出来たなら僥倖」


 狼女もどうにか立ち上がって身構える。


 「……あっそ」


 瞬間、<レッドストライカー>が凄まじい怒気を発した。


 「口を開けば勝つだ負けるだと、くだらねえ。遊び半分で殺しまくってきたおまえらなんぞが誉だとかほざいてんじゃねっての」


 次の瞬間、亀男は顔面を大地にめり込ませていた。

 <レッドストライカー>の踵が脳天に叩き込まれたのだと、理解する時間もなかった。


 理解する必要はない。自分が倒れ伏したと認識すれば十分だ。吹き飛ぶ意識を無理矢理手繰り寄せて跳ね起きる。目に入ったのは、狼女の背中。凄まじい勢いで亀男目掛けて吹き飛ばされてくる。


 回避する。

 受け止めることも出来るが、この勢いを無理に止めるよりも勢いが死ぬまで転げた方がお互いにダメージがない。亀男は狼女への追撃を防ぐべく<レッドストライカー>へと襲い掛かり、そして殴り飛ばされた。

 一瞬だけだが、今度こそ意識を手放した亀男は十メートル程飛んでまた地面に倒れ伏す。


 「……っ」


 それでもどうにか立ち上がる。

 既に体内の臓器や機器の多くが損傷し、失われた血液も少なくない。満身創痍の肉体を叱咤し、力を失っていく手足で超重量の身体を支える。


 一撃入れるどころか、反応さえ出来なかった。

 屈辱に歯を食いしばり、<レッドストライカー>の姿を探す。


 だが、相手を捕捉する前に背中に強烈な蹴りを入れられ、亀男はやはり吹き飛ぶ。


 (馬鹿な……! 手も足も出ないだとっ!?)


 これが<レッドストライカーの本気だと言うのか。一撃でも多く入れるどころか、相手を捕捉することさえままならない。

 亀男は気付いていなかったが、<レッドストライカー>の動きはとにかくトリッキーだった。本来、相手に接敵するにも距離を取るにも、最短距離を一気に詰めるのがセオリーだ。だが、<レッドストライカー>は明らかにセオリー外の動きを取り入れている。


 亀男が本気になった<レッドストライカー>を捕捉できないのは、その性能差だけでなく、あまりにも正道から外れた外連味に満ちた立ち回りに原因があった。

 

<レッドストライカー>はひょいと動いた。背後から突っ込んでくる狼女の跳び蹴りを一歩下ががりつつ身を翻すだけで躱し、そのまま肩を拳で一撃する。

 あくまでも軽い一撃ではあったが、軽装の狼女は姿勢を崩す。しかし、転倒にまでは至らない。素早く態勢を立て直し、折れた爪を喉元に突き立てようと迫る。


 「何っ!?」


 狼女の驚きの声が聞こえた時、<レッドストライカー>狼女の真横を側転で横切っていた。

 先程とは打って変わった、派手で無駄の多い動きに気を取られて反応が遅れた狼女の背後、立ち上がりざまに手刀を振り下ろして肩甲骨付近に叩き付ける。


 感覚は浅い。

 狼女が偶然にもよろめき、手刀は肩口を掠るだけに留まった。


 それでも狼女はその反応速度に物を言わせ、振り向きざまに<レッドストライカー>の横っ面を蹴り飛ばそうとする。

 だが、僅かに遅い。<レッドストライカー>は既に跳躍し、狼女の頭上で前方宙返りに入ろうとしていた。蹴りは<レッドストライカー>の足元を虚しく切り、残ったのは自らの蹴りに振り回されて再びよろめく狼女だけだ。

 <レッドストライカー>は、着地と同時に身体を捻り、狼女の胸に脛を叩き付ける。


 そもそも、<レッドストライカー>は正規の戦闘訓練の類は受けていない。武道、武術の類も経験はなかった。

 だが、素人なりに格闘センスは光る物があった。常人が思い至っても、実現は出来ない非常識な挙動を行えるだけの身体能力と、それを戦闘に取り込む能力は高い。戦いを組み立てる、言わば殺陣と演出の才覚。それを極めた<レッドストライカー>の戦闘技術は、正規の訓練を受けた<メタコマンド>を圧倒出来るだけの物にはなっていた。

 望んで得たわけではない力で、自分や他人の命を守る事を強いられたが故の、卓越した技術から繰り出される突飛な行動が<レットストライカー>の攻撃なのだ。


 「ぐあっ……!」


 吹き飛んだ狼女は十メートル以上も離れた場所、立ち上がろうとしていた亀男に直撃し、そのまま更に五メートル近く転がり、ようやく止まった。

 一度追撃の手を止め、身構えたまま<レッドストライカー>は様子を窺う。


 これだけやれば投降を考えるだろうというのは、甘い考えだ。

 だが、それでも最後に一度、<レッドストライカー>は判断の機会を設けた。


 時間にして十秒も経たない内に、二人は立ち上がった。

 満身創痍、ズタズタの姿だ。戦闘服は大きく破損し、血と土煙に塗れている。特殊合金の骨格も、いくつかは完全に破断しているはずだ。この短時間の打ち合いで、相手の骨を叩き折る嫌な感覚を、<レッドストライカー>は何度も味わっている。戦闘服か、それとも体内の機器が破損したのか、傷口からは夥しい血液だけでなく、火花が不規則に噴き出していた。


 それでも、二人の<メタコマンド>は凶悪な笑みを浮かべた。

 折れた爪を振りかざし、血の吹き出す拳を握りしめ、<レッドストライカー>目掛けて突っ込んでくる。


 「……」


 <レッドストライカー>はうんざりとしてため息を吐き、肩を竦め、そして跳んだ。

 派手で荒い動きではなく、鋭い動きで迫り来る敵に迫り返す。


 死力を振り絞って駆け寄ってくる狼女目掛け、右足を突き出す。

 それで終わりだった。狼女は強烈な蹴りにとうとう対処できず、転倒し、<レッドストライカー>のグローブと地面に挟まれた。<レッドストライカー>は躊躇も遠慮も一切なく、そのまま狼女を蹴りつける形で真上に跳躍する。


 数十メートルの高さまで上昇するのと同時、狼女は自身の内部から生じた爆炎に飲まれ、消えた。体内の機器が損傷し、その耐久力の限界を迎えたのだろう。


 それを見届けた<レッドストライカー>は、勢いに任せてさらに上昇し、頭上に聳え立っていた巨大なクレーンのアーム、その頂点へと到達する。

 激突直前に素早く身を翻し、天地逆になった<レッドストライカー>は足元のアームへと着地し、頭上に広がる造船所、その一角でこちらを見上げる亀男を視線で突き刺す。


 次の瞬間、ガアンという音が響いた。

 自分の足場になったアームが、その脚力に耐えかねて捻じ切れた音だと理解した時、<レッドストライカー>は既に亀男の顔面に手刀を振り下ろしていた。


 唖然としていた亀男の顔に、やはり不敵な笑みが浮かんだのが見えたが、その心中を問い質すことも察することも出来なかった。

 次の瞬間、亀男もまた、凄まじい衝撃に耐えかね、爆発炎上していたからだ。


 「……はあ、すっとした」


 爆炎が霧散し、その中から現れた<レッドストライカー>。言葉とは裏腹に、その声はどこか重々しかった。

 怨敵が最期まで楽しげだったことが気に食わないのか、敵とはいえ命を奪った事自体がおもしろくないのか、理由はいくらでも思いつくが、それが正しいのかはわからない。


 「まあいいや。あんな連中より、気にするべきモンがあるし」


 気持ちをさっさと切り替え、<レッドストライカー>は踵を返す。

 後輩が危険に晒されていれば助けてやらねばならないし、活躍しているならその勇姿を見届けてやらねばならない。


 「あー、先輩って大変」


 <レッドストライカー>は楽しげにぼやき、怨敵と後輩がいるだろう地点へ走り出した。



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