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加熱する戦い……激突! ヒーローマニア二人!


「いやはや! やってくれる!」


 吹き飛んだ工場の跡地とも言うべき場所で、全身に煤を浴びた首領が愉快そうに手を叩きながら笑う。

 その顔に浮かんでいるのはかなりの狂相だ。いかな〈メタコマンド〉とはいえ、古見掛市謹製の高性能爆薬が引き起こした大爆発の爆心地付近にいたのだ。肌は焦げ、金属片がいくつか突き立っている。だが、浮かんでいるのは凄惨なまでの笑み。目に流れ込む血を拭い、心底楽しげに口端を吊り上げる。戦闘服にも少なからぬ損傷があり、そこからも血が滴っているが、気付いてもいないようだ。


 「……あれで倒せるとは思っていませんでしたが、これほどはつらつとした様子を見せられると気が滅入りますね」


 01はそんな首領の姿に表情無く呆れ畏れる。

 

 「まさかこうも早く傷を負わされるとは思わなんだ! 小細工とはいえ上出来だ!」


 首領は愉快そうに言い、一つ深呼吸した。


 「だが、まだ貴様の実力を見せてもらってはいない。貴様の発想ではないからな。〈レッドストライカー〉か、はたまた他にブレーンがいるのか。いずれにしろ貴様は指示を完璧に実行したに過ぎん」


 顔に突き立った金属片を引き抜きながら、首領は瓦礫の上で一歩踏み出す。


 「練習通りとはいえ、先程の動きは中々だった。それなりに修錬は積んだようだな。ならばそちらも見せてもらおう」


 次の瞬間、首領は01の眼前にいた。

 最低限の関節の動きで最短距離を突っ切って接敵し、殴り掛かる。その動作自体も最低限かつ素早い。


 その素早い一撃を、01は弾き飛ばした。

 躱すことは出来なかった。距離が近すぎる。かと言ってそのエネルギーをまともに受ければ、防御など貫かれてしまうだろう。故に、打ち込まれる打撃の軌道を真横からの裏拳で曲げる。そのまま相手の懐を横切って背後に回り込み、距離を取る。


 「……〈レッドストライカー〉がよく使った手だな。流石、よく仕込まれている。一撃入れなかったのはいい判断だったぞ。下手に突っ込んで来たらそのまま叩き潰してやったのだが」

 「あなたが一撃で攻撃を打ち切るなど、不自然に過ぎますからね。その辺りは、大河原圭介に嫌という程に叩き込まれました。彼は中々に……そう、意地が悪いと言うのが最も適切ですね。不意打ちや誘いの類には詳しいですよ」


 振り返る首領に向けてナイフを突き付け、01は一歩足を進める。

 先手を取られるのはそれだけで不利だ。〈レッドストライカー〉が直々に稽古を付けたとはいえ、首領との間には大きな差がある。相手のペースに乗せられる危険性は、01も理解していた。


 「成程。ではもう少し難易度を上げてみるとしようか」


 首領が駆け出すのと同時に、01も大地を蹴る。

 お互いの距離は短い。〈メタコマンド〉の運動能力ならば一瞬で激突する。突き出された拳をギリギリのところで回避し、斬りかかる。当然、首領は迎撃に掛かる。否、打撃自体が誘いだったのだろう。突き出した01の右腕は首領の右腕に蛇のように絡め取られ、身動きを封じられる。危うく関節を極められる直前、小さく跳ねて素早く横っ腹に蹴りを二発。そのまま渾身の力を込めた左肘で首領の右肘を打ち、拘束を解いて脱出する。


 首領は素早く追撃してくるが、ここは逃げない。今距離を取っても状況が振り出しに戻るだけだ。


 「遊び半分では、怪我をしますよ」


 突っ込んでくる首領に向けてナイフを突きだす。当然首領は身を躱すが、01は手首を捻り、スナップスローだけでナイフを投げつける。首領は構わず突っ込んでくる。あくまでも手首の力だけで放られたナイフだ。直撃したとてそれほどの傷にはならない。それよりも隙を晒している01に接敵する方を優先したのだろう。そしてそれは失策だった。


 「グウウウッ!?」


 首領の肩に突き立てたナイフから紫電と火花が撒き散らされる。ナイフに内蔵されていたバッテリーから大電力が傷口へと直接流し込まれたのだ。全身の筋肉が自由を失い、一時的に完全な行動不能に陥る。01は瞬時に体勢を整え、その場で左足を軸に回転する。遠心力を発生させると同時に、右足を身体に引き付けて力を溜め込んだ。半ば背を向けたまま、渾身の力で首領を蹴り飛ばす。大型車両でも容易に蹴り飛ばす01の脚力によって、首領は殺人的な衝撃、加速を伴って吹き飛ばされる。二十メートル程宙を飛び、アスファルトに叩きつけられ、それでも勢いは止まらない。大量の破片、土煙を巻き上げながら更に十メートル以上を滑走し、さらに放置されていた資材に突っ込んでようやく止まる。


 「……遊びとは聞き捨てならんな。こちらも命を懸けているつもりだが」


 流石に衝撃のダメージが大きかったのか、少しふらつきながら首領は立ち上がった。01の言葉が心外だったのか、少々不愉快そうな表情を浮かべている。だが、目に見えた外傷はない。01は思ったほどに自分の攻撃が通じていないことに少しだけ生じた焦りを宥めながら口を開いた。


 「遊びです。命を懸けているといっても、あなた方にとって命はさしたる価値はない。ある意味で、〈レッドストライカー〉に出会う前の私よりも、あなた方が戦う動機は軽い。あの時、私も自分が死ぬ事を大して問題視していませんでしたが、遊び半分ではなかったつもりです。不安から逃れるという、消極的な動機ではあっても。〈レッドストライカー〉が〈ブラックパルサー〉を打倒し得たのは、性能だけでなく、そういった意志の力が大きかったのでしょう」

 「まるで今の貴様には言うだけの意志があるかのような物言いだな」

 「かつてよりは望ましい状態にあると思いますよ? あなた方よりは命を大事に思っていますし、自分がこれ以上罪を犯してはならないということも意識はしています。虚実は、貴方を倒すことで証明しましょう」

 「ならやってみろ」


 首領は肩からナイフを引き抜き、放り捨てる。

 

 「小細工がいつまで通用するかな?」

 「小細工ぐらいは大目に見て欲しい所ですね。私は〈レッドストライカー〉の指導があってようやく戦いの基礎を身に着け始めた所なのですから。手段を選んでいる余裕はありません」

 「通用するかという話なのだが、まああまり細々と重箱の隅を突きはしまい」


 01は駆け出し、首領との距離を一気に詰める。

 

 「図に乗るなよ、小娘」


 だが、首領は目つきを鋭くして迎撃態勢を取る。守りを固めている相手の懐に跳びこむのは危険だ。01は一度停止し、相手の隙を伺う。その一瞬の停止、ほんの僅かに前方につんのめりながら姿勢を制御するその一瞬で、首領は01の眼前に滞空していた。


 「!?」

 

 あまりにも早い首領の接近に、01が思わず息を飲み、そして次の瞬間にはその息を全て吐き出した。

 首領の放った鋭い突きが01の鳩尾に叩き込まれ、細い身体を中空に発射していたのだ。衝撃で飛ばされた身体に手足や首が付いて行かず、凄まじい負担が掛かる。更にあまりの威力に意識が飛び、受け身も取れないまま01は大地に叩きつけられた。


 「気概は買おう。だが、まだまだ経験が足りん。まあそれでも時間稼ぎ程度は出来るだろう。〈レッドストライカー〉めがあの二人を下すまで逃げ回れれば上々だ。二人掛かりで掛かって来た方が得策と思うがな」


 首領の挑発を聞いている余裕はない。背中を強打した01は激しい咳と吐き気に苦しみながらも、立ち上がるので精一杯だ。


 「ゲホッ……グッ、流石に、簡単には行きませんか。ですが、悪くありませんね。っ……手強いですが、戦う相手としては、最適です」

 「あくまでも独力で私を打ち破るつもりで立つか。実に素晴らしい」

 「……あなたにも思惑はおありでしょうが、私にも私の目的があります。目下、私にとっての最大の障害であるあなたは排除したい。そして、<レッドストライカー>に合流されては、彼があなたを一人で倒してしまいかねない。望ましくはないですね」


 息を整えながら言う01に、首領は小さく首を傾げた。


 「障害を排除するのに、自力であることにこだわる理由は何だ? 貴様は合理的な考えを好むように思えるが、八つ当たりの為に取るリスクとしては大きすぎるぞ?」

 「別に独力で戦うことにこだわるわけではありませんが。それに八つ当たりの為だけではありません。先程申し上げた通り、私は、自身が高みに向かうための踏み台としてあなたに対しています。<レッドストライカー>、大河原圭介に追いつく為にも、彼に頼り切るわけにはいきません」

 「……何?」


 首領の目が、僅かに見開かれる。


 「<レッドストライカー>、大河原圭介に追いつく。それは、奴を倒せる程の存在になるということか?」

 「それもありますが、正しい解釈ではありませんね。彼の様な存在になりたい、といった所でしょうか。どのように説明すべきかは、少々悩みますが……」


 一瞬難しい顔をした01は、すぐに頭を振って身構えた。


 「ただ、あの様に自由で楽しげで、強い存在を目指したいとしか。どう表現するかは、あなたを倒してからゆっくりと学んでいきます」

 「憧憬、羨望……そんなところか。成程、確かに奴の生き様、あり様に焦がれる気持ちはわかる」


 首領も身構え、どこか嬉しげな……思わぬ同好の士を見つけたかのような笑みを浮かべた。既に傷も熱傷も癒えつつある顔と相まって、それはひどく穏やかな好々爺めいた姿だった。


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