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怒れるベテラン……高い練度+加熱する憤り+冷静な思考=当然強い


 「オホーッ! 派手に決まったじゃん!」


 いいぞいいぞぉと笑いながら、〈レッドストライカー〉は爆風でバランスを崩さないように踏ん張る。

 工場から百メートル以上離れているが、人間の体重など容易に吹き飛ばすようなエネルギーが暴風として襲い掛かる。地面に片足を打ち込み、重心を低く構えてようやくその場に留まれるほどの威力だ。


 「成程。以前の意趣返しということか。我々が何か仕掛けていないか調べて回ったようだが、その間に自分たちは仕込みを終えていたとはな」


 ふと、背後で低い声がした。

 重厚な装甲を身に纏い、爆風に耐えながら接近してきた亀男が〈レッドストライカー〉の首を締め上げる。


 「へえ、てっきり前みたいに考えもなく突っ込んでくるかと思いきや、爆音に紛れて忍び寄って来るとはお利口じゃん? まあ、もう少し足音は殺した方がいいと思うけど」

 「抜かせ。こちらは心身ともに万全だ。安い挑発に乗ると思うな」

 「残念だけど、馬鹿にしてるだけで挑発ではないんだなあ。そのぐらいおまえらは俺の恨みを買ってるんだから、この程度我慢しやが……れ!」


 〈レッドストライカー〉は首に食い込む亀男の手を引き剥がしに掛かると同時に、その分厚い装甲に覆われた胸を蹴りつける。〈レッドストライカー〉の怪力に抗され緩んだ亀男の手は、凄まじい勢いで弾け飛んでいく〈レッドストライカー〉を取り逃がしてしまう。数十メートル以上の距離を取り、〈レッドストライカー〉はニヤリと笑う。


 「まあ、連携を意識できてるだけ他の〈ブラックパルサー〉共よりかは幾分マシって評価しといてやるよ」


 〈レッドストライカー〉は更に十メートル以上後退して笑う。

 直後に上空、巨大なクレーンの上から飛び降りてきた狼女の振り下ろした拳が、〈レッドストライカー〉が寸前まで立っていた地点に直撃する。衝撃にアスファルトが大きく抉れ、クレーターが形成された。


 「気付いていたのか」

 「気付きますとも。おまえらのおかげで不意打ち騙し討ちの類には敏感なのよ。一人姿が見えないなー、まあいっかーで思考を打ち切る程おめでたい性格じゃなくなった」


 狼女の口惜しげな言葉を受けた〈レッドストライカー〉は口元にうんざりとした表情を浮かべて毒づく。

 工場の爆発で視覚、聴覚に頼った索敵精度が一時的に落ちたのは事実だが、それでも相手の動きをある程度予想し、次の攻撃に備えることは出来る。爆発と亀男の奇襲で姿を見失いはしたが、すぐに死角に意識を向けて索敵し、次の行動を分析することは、強大な組織に立ち向かい続けた〈レッドストライカー〉にしてみれば容易な事だった。


 「どうやら、心身ともに万全なのは、我らだけではないと見えるな」

 

 亀男は無表情に〈レッドストライカー〉を見やって言う。


 「あったりまえのこんこんちきよ。手の掛かる後輩は頼もしい後輩にパワーアップして〈ブラックパルサー〉の墓穴掘ってる所だからな。前みたいにあいつの事を気にして大急ぎで戦うこともない。ゆっくり料理してやるから掛かってきなよ」

 「成程、絶好調の様だ。減らず口もいつも以上に沸いて出るな」


 狼女が吐き捨て、亀男も鷹揚に頷き、そして二人は笑った。


 「では楽しませてもらおう。それ程の余裕があるならこちらも遠慮はすまい」

 「慈悲を掛ける必要がないというのはありがたいな。気楽にやれそうだ」

 「遠慮!? 慈悲!? うわー、頭の気の毒な人らだわー。どの口で抜かしてんのその戯言……」


 〈レッドストライカー〉の言葉が終わる前に、狼女がその首筋に爪を突き立てに掛かる。

 素早く、そして極々小さな動きで回避するが、狼女の追撃はやまない。くるくると身を翻して躱し続ける〈レッドストライカー〉の鼻先や首筋を幾度も爪が掠めていく。それだけではない。一撃ごとに攻勢は苛烈さを増していく。斬撃はより鋭く、突きはより早く、後先考えない破滅的な攻撃だ。その執念の賜物か、ついに伸ばした右手の一撃が〈レッドストライカー〉の顔面を捉える。


 「貰った!」

 「残念!」


 だが、狼女は自らの過ちに気付く。

 〈レッドストライカー〉は足を止めていた。疲労やミスによるものではない。迎撃態勢を整えた故の不動だ。突き出された右腕の付け根に〈レッドストライカー〉の右手が、手首に左手が添えられる。


 次の瞬間、狼女は轟音を立ててアスファルトに叩きつけられていた。深く、巨大なクレーターが形成され、その中央で更に深く大地にめり込む。大ぶりな動きで隙の出来た身体に、思い切り背負い投げを掛けられたのだ。


 「ガアアッ……」


 衝撃に体内の空気を全て口から叩き出され、狼女は一瞬沈黙する。しかし、〈レッドストライカー〉に追撃を掛ける余裕はない。遅れて接近してきた亀男の重い打撃を躱し、反撃しなければならないからだ。


 「やるな! だがあまり図に乗るなよ!」

 「こっちのセリフだ! いつまでも調子こいて好き勝手やりやがって! おまえらなんぞ閻魔様も呆れて見捨てるぜ!」


 狼女と比べて、亀男は一撃一撃の速度は遅い。だが、重厚な装甲は狼女程簡単には〈レッドストライカー〉の攻撃は通さない。また、、機動性では〈レッドストライカー〉について行けないが、パワーに優れる為に重い装備を振り回して打撃を入れたり防御したりといった至近距離での戦闘には強い。二、三の打ち合いの後、一度距離を取るべく〈レッドストライカー〉は地を蹴る。


 「……逃がすと思うな」


 だが、跳躍の直前、足首をガクンと引き摺り下ろされる。

 クレーターから這い出した狼女が、渾身の力で〈レッドストライカー〉のブーツを掴んでいた。


 「……しつこい奴は嫌われぐうっ!」


 〈レッドストライカー〉の言葉を打撃音が遮る。

 振り抜かれた亀男の拳に弾き飛ばされ、〈レッドストライカー〉は火花を上げて地面を滑走、そのまま岸壁から海へと転落した。


 「いいアシストだ」

 「チッ、臓器の一つ二つはやられたかもしれん。急がないとな」


 亀男が差し伸べた手を取り、狼女は頭を振る。

 それ程に、〈レッドストライカー〉の投げは強力だった。ある程度は地面に衝撃が逃れたようだが、勢いの大半をその身に受けた狼女は少なからぬ損傷を自覚した。


 同時に、海から飛び出した〈レッドストライカー〉が岸壁に着地する。

 ずぶ濡れではあるが、戦闘服にも肉体にも損傷らしい損傷はない。ただ、濡れた感覚の不快さだけに口元を小さく歪めてため息を吐く。


 「しつこい奴は嫌われる……っと。言っとくけど亀のオッサンもだぜ? まあそれを言い始めるとおたくらみんなまとめてしつこいわ勝手だわで、好かれる要素皆無だけど」

 「しぶといな。精神的にも堪えた様子がない。二対一で追い詰められて、大したものだ」

 「激昂したと思えば、すぐにそのスカした態度に戻る。やりにくい相手ではあるな」

 

 亀男も狼女も憎々しげに呟くが、〈レッドストライカー〉は肩を竦めて鼻を鳴らした。


 「一撃貰っただけだしねえ。それに、一応は正義の味方ですもん。恨み辛み、怒り憎しみは溜め込んでるけど、その辺に振り回されるほど繊細じゃあやってけないよ。それに……」


 遠くで打撃音が響いた。


 「01の方も戦闘再開みたいだし、そっちに興味が映っちゃってさあ」

 

 あからさまな侮蔑の言葉に、〈メタコマンド〉二人が剣呑な空気を纏う。言外に、相手をするに値しないと言ったも同然だ。


 「ほう。舐められたものだな」

 「相手を怒らせるのは上手いようだな。後悔するぞ」


 二人が動く。狼女は青ざめた、しかし鬼気迫る顔で〈レッドストライカー〉に向けて突っ込み、亀男は殺気の籠った視線を突き付けながら歩み寄ってくる。


 「……ホント、勝手な連中」


 ヘッドギアのバイザーの下、〈レッドストライカー〉はすっと目を細める。


 「まあいいや。所詮おまえらは弱い者いじめしかしてないチンピラだって教えてやる」


 握り込まれた〈レッドストライカー〉の拳がゴリゴリと音を立てた。



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