表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/60

開戦……実力行使の前には恫喝的な口喧嘩を行うのが礼儀やも


 「さて、いよいよ三十分を切ったか」


 古見掛市に複数存在する港湾施設。その内一つに展開する市の職員達は様々な機器を手に入念な調査を行っていた。

 地図に記されているもの以外にも、古見掛市には多数の港が築かれている(明らかに一つの市には過ぎた数と規模である)。その中にある、現在は使用されていない施設に散らばり、市役所の職員や警官達は入念な下調べを行っている。


 〈レッドストライカー〉大河原圭介と〈タイプα01〉が、〈ブラックパルサー〉と決別する一戦の前準備だ。


 「第二ドッグ、目視、赤外線、音波、空間波動、重力変動いずれも検知できず。科学的には異常は見受けられませんね」

 「霊子、魔力もないね~。オカルト的にも問題ナッシングかな」


 造船施設にいくつも並んだ赤錆びた巨大なクレーンの上から飛び降りてきた、別の職員たちが報告する。スーツを身に纏った機械の人型と、白衣を纏った小柄な老人は、それぞれ索敵、監視能力に長けた調査員だ。複雑な構造物の集合体である港湾施設は、あらかじめ何らかのトラップを仕掛けるには最適の場所だ。管理は市が行っているし、改修に備えて定期的な検査も入っているが、相手は悪の組織だ。如何なる罠を仕掛けてくるか知れたものではない。事実、前回の戦闘ではトラップによって苦汁を飲まされている。事前に徹底的な調査を行うことは絶対に欠かせない作業だ。〈ブラックパルサー〉は異次元から直接古見掛に侵入する技術を持っている。無論、この近辺の次元には干渉できないように様々な工作をしてはあるが、用心にし過ぎはない。


 「観測班、そっちはどうだ?」

 『放射線値正常、不審な電波もなし。爆発物等も、既知の物は存在していませんね』

 「了解。面倒を掛けるが、このまま本番まで頼む」

 『任せといてください。時間外手当、美味しいです』

 「あっそ。んじゃ戦闘が終わるまで延長な』

 『ええっ? 最初からその予定では?』 


 観測機器を弄っていれば幸せという観測班との交信を終え、書類に現時間と異常なしの旨を記入する。

 

 「しかし、何でまたこんな場所を選んだんだろうね? 別にこの場所じゃなくても、適当な無人の空間を用意することは難しくないだろうに」


 老人が周囲を見渡しつつ疑問を呈する。

 作業用に大量の照明が持ち込まれた港には、打ち捨てられた機材や車両、廃材が無数に佇んだままだ。トラップを仕掛けてくれと言わんばかりのこの場所でなければ、事前の調査ももう少し小規模で済んだのは間違いないだろう。


 「供養でしょうな」

 

 スーツ姿の、表情など存在しないロボットがどこか重々しく呟く。


 「数年前に古見掛に組み込まれたこの空間は、そのはるか前に化学テロで惨状になったと聞いています。犠牲者の怨念が長く残り、この街に編入されるまでは解体や再建は手が付けられなかったとかで、祟り港、などというあだ名まであったそうです」

 「あれ、そうなの? 変だなぁ、私が見る限り、むしろボロいながらに爽やかな感じがするんだけど。幽霊の類も見なかったが」

 「この街の生命力に中てられて、生前の理性を取り戻した犠牲者は既に退去しているそうです。で、爆破も解体も好きにやってくれと言ってくれたそうで」

 「成程。若者の為に役立てて、そのドンパチでちょっとでも解体の手間も省けるってわけか」


 背後で話し込む二人の話に、職員は微妙に顔を顰める。

 確かに、彼らの話に間違いはないのだが、そこに補足すべき事実があることを彼は知っていた。


 犠牲者の霊や、施設に宿っていた付喪神の類が、どうせなら面白おかしくやってくれと目を輝かせてこの話を提案してきたこと。そして彼らが対岸に酒や料理を用意して見物を目論んでいる事などを。

 ただ、純粋なる犠牲者たちの善意に感心している二人に敢えて伝える事でもないので黙っておく。大河原圭介が、彼らの提案に是非と乗った事も含めて。

 

 「お二方、時間も無いので、そろそろ次の場所に向かっていただけると助かります」

 「おお、すまんね」

 「失礼しました。すぐに向かいます」


 



 

 「いやあ、何か申し訳ないなあ。直前までいろいろ手伝わせちゃって」


 戦闘服に身を包んだ〈レッドストライカー〉大河原圭介は、施設の入り口で肩を竦めた。予定時刻ギリギリまで調査を続けてくれた人員がようやく撤退を終えた合図の発光信号が、施設の至る所で輝いている。


 「大掛かりな作業になってしまいましたね。ここまでしていただいたからには、無様は晒せません」


 やはり新品の戦闘服を着込んだ01も同意を示す。

 

 「ま、そういうわけだ。これだけ大掛かりになると引っ込みつかないかもだけど、一応訊いといてやるよ。降参するなら今の内だぜ?」

 「フッ、小生意気な小僧だ。言っておくが、こちらも貴様らの首を叩き落とすつもりでいる。背後の大人に助けを求めなくてもいいのか?」


 〈レッドストライカー〉の挑発に、〈ブラックパルサー〉首領は口端を吊り上げて笑った。

 以前にレストランで対談した時に比べて、精神的に随分と余裕が見られる。頭が血が上った相手ではなく、冷静な強者の風格は相手にとって不足はない。ただ、直接相手取るのは首領本人ではないが。


 「ちょっと01さん、聞きまして? このオッサン、色々と拗らせ過ぎてとうとう脳みそがショートしてしまったみたい。どこか良い病院ご存じない?」

 「病院ですか? あいにくと、私がご紹介できるのは、自分がお世話になった古見掛市中央病院ぐらいのものですが」

 「うん。冷静なコメントありがとね」


 〈レッドストライカー〉に淡々と生真面目に返事を返した01の様子は以前と変わりない。だが、その出で立ちには少なからぬ変化が見えた。

 長く伸びていた髪は、せいぜいが肩甲骨に届く程度まで短くなっている。視界の確保や動きやすさという点では、以前よりもずっと改善されているだろう。そして、着込んだ戦闘服は更に大きく様変わりしていた。全身を包む黒いスーツの上に幾つものサポーターや装甲が増設されている。〈ブラックパルサー〉の刻印は当然刻まれておらず、グローブやブーツ、装甲の一部は青と赤に塗装されており、以前よりも鮮やかな色彩だ。


 (さて、小娘の方は多少なりともメッキを纏ってくれたか?)


 この街の実力から考えて、恐らくは組織を上回る技術で作られた装備だろう。だが、そこにおんぶだっこの状態では困る。それを使いこなせるのかどうかを図りかねる。〈レッドストライカー〉と違い、表情や態度に変化が見られない01は、果たして前よりは歯ごたえのある相手になっているのか。


 (〈レッドストライカー〉の態度から見て、多少は改善されたか?)


 恐らくは間違いないだろう。以前の体たらくのままならば、〈レッドストライカー〉がこれほどリラックスはしていない筈だ。瞳に敵意と怒り、敵に対する破壊衝動を燃やしてはいるが、冷静さを欠いたり、焦りを抱いている様子はない。


 「では、処刑を再開するとしよう」

 「忍ばせている伏兵には期待せんことだな。奴らが手を下す前に、貴様の命は終わらせる」


 狼女と亀男が一歩踏み出して不敵に笑う。

 生還を考えることは絶望的な状況であるが、〈レッドストライカー〉を打ち破る事は成し遂げるという執念を背後に感じて、首領もまたニヤリと笑う。


 「と、いうわけだ。貴様こそ惨めに命乞いをしたほうがいいと思うが?」

 「……あんまりふざけたことばっかり抜かしてんなよ、腐れジジイ」


 ふと、〈レッドストライカー〉の顔から笑みが消えた。


 「こっちもさあ、おまえらのバカさに付き合わされてただでさえクソ迷惑してんだわ。カッコつけんのもいいけど、あの世で被害者に土下座する準備は出来てんだよな?」


 冷めきった眼で言い放ち、バキボキと指の関節を鳴らす。


 「01、おまえも遠慮しなくていいからな。こいつらのせいで余計な苦労背負い込んだわけだし」

 「被害者云々の話になると、私もあまり大層なことは言えない立場なのですが……」


 そう言いながらも、01の顔にすっと好戦的な色が差した。


 (ほう……?)


 そこに静かな怒りを感じ取り、首領は小さく驚く。虚ろを埋める為でも、惰性でもなく、内心に明確な敵意を抱いての闘志である事は明らかだ。  

 

 「ただ、一歩間違えれば私が彼女たちに危害を加えていたかもしれないというのは、考えてみると腹立たしいですね」

 「何?」

 

 言葉の意味を首領が理解する前に、01も一歩踏み出し、首領に鋭い視線を向けた。


 「八つ当たりと言われては返す言葉がありません。〈ブラックパルサー〉にこれといった感情も抱いてはいません。が、自分が過去に汚点を刻んでしまったこと、その原因が組織にあることは事実だと認識しています」


 ベルト背面のホルスターからナイフを抜き放ち、呟く。


 「高みに向かうための踏み台となって頂くことに、遠慮はありません」

 「ふむ、前よりはマシな様子だな。ならばよし」


 次の瞬間、全員が数メートル飛び退き、身構えた。


 「雑談は終わりだ。始めるとしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ