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不死身の男……どこまで行っても比喩は比喩1

前回の投稿内容が前々回の物と全く同じ内容になっていました。

投稿時の確認を怠った自分のミスです。読者の方にご迷惑をお掛けしたことをお詫びします。

既に内容は本来の投稿内容と差し替えてありますので、読んでやって頂ければ幸いです。


 古見掛市中央病院 受付付近


 「ったく、圭介の野郎、一言掛けてからドロンしたっていいじゃねえか。こちとらわざわざ補習終わりまで待っててやったっつーのによ~」

 「まあ仕方ないだろうよ。当の本人に伝えずに、こっちが勝手に待ってたんだ。01の事もあるし、あいつも一々俺たちが待ってるかどうか、確認する程に暇じゃあるまいよ」

 「にしたって一言くらいありゃあ、01の見舞いだってこんな遅い時間に来ることもなかったんだぜ?」

 「それを言うなら、おまえと李の奴がいつまでも暇つぶしのゲームにのめり込んでるからだ。今日日、通信ケ○ブルなんぞどこで売ってるんだよ」

 

 後頭部で両手を組み、不満げに天井を見つめながら歩く博次を慎太が宥める。


 「でも何かしんみりしちゃうわよねえ。あの浮いた話の一つもなかった圭介の奴が、こうして足しげく通い妻してるなんて。あたしらの中で唯一の独り者だったわけだし、お姉さん感激だわ。ねえ、フミカ?」

 「っうぇえ!? う、うんそうだねって、いやあの、違くてだね! え、え!?」


 どこか意地悪く笑う佳奈美に突然笑いを振られたフミカは一瞬同意しそうになり、発言の内容がそこそこに気恥ずかしい物であることを再確認して否定しようとするも、決して否定できない事実でもあることに行き当たって混乱している。


 「おい博次、あの女時たま平然と恥ずかしい事抜かすんだが、何とかならんのかよ」

 「無茶言うない。あいつの頭から色事引っぺがすなんざおまえ、爆弾から爆薬抜くようなもんだぜ。安心安全だが、そりゃもう爆弾じゃねえや」

 

 軽口を叩きながら病棟への通路を進んでいく。既に夕方から夜に移りつつある時間の為、人影はまばらだが、それでも邪魔にならないように縦一列になって進んでいくのは、周りへの気遣いか、はたまた先程までのめり込んでいたパーティーが一列になって移動するゲームの影響か。


 「えーと、確かこっちの辺……あれ?」


 先頭を進みつつ01がいるであろう病室を探していた佳奈美はふと首を傾げた。目的の病室の前に見知った顔を見つけたからだ。


 「ん? やあ、君たちか」

 「む、依頼者のご友人」


 病室の傍の壁に背を預けているのは、気の優しげな少年と怜悧そうな幼い少女。生活相談事務所の所長と補佐役だった。


 「あ、あれ? 債権者さん、そんなとこで何を?」

 「ちょっ、よしてよ。それじゃ僕たちが取り立てに来たみたいじゃない。まあ、君たちの飲食代を立て替えたことは返済完了まで決して忘れはしないけどね」


 佳奈美の言葉に一瞬所長が慌てるが、言葉が終わる前に苦笑いを浮かべる辺りは流石に大人の余裕と言ったところか。


 「01さんのお見舞いに来てくれたのかな。けどゴメンよ、今取り込み中みたいでね。僕たちもいつ入れるかわからなくて待ってる所なんだ」


 所長はそう言って肩を竦め、困ったように笑って病室を親指で指した。 

 




 

 「いやはあ、参った参った。確かに完全におまえのこと舐めてたわ。もう少し痛くなさげな所にもらうつもりだったんだけどなあ」


 裸の上半身に包帯をぐるぐると巻いた圭介はケラケラと笑う。

 ベッドの上ではあるが、元気そうに身を起こして快活に話す姿はいつもの圭介と変わりない。重篤な傷を負った圭介ではあったが、あの後すぐに病院に担ぎ込まれ、迅速かつ適切な処置を受けていた。


 「お身体は、もうよろしいのですか?」

 「そりゃもう、古見掛印の医者は優秀過ぎておっかないレベルだし、〈ブラックパルサー〉を叩き潰した男があの程度でダウンするわけにゃいかんでしょ。まあ、昔は結構ヤバい深手を負ったりもしたけどねえ」


 得意げに胸を張る圭介の言葉を、01は浮かない顔で聞いていた。


 「あー、どしたん? そんなしけた顔しちゃって。まあ、いつも明るい顔にはちょっと遠いかもだけど」

 「……」


 どこか気まずげに問う圭介にもすぐには答えない。


 「何だよ何だよ、もしかして気にしてんの? だとしたら間違いよ? やれって言ったのは俺だし、おまえはちゃんと無茶だって警告してくれたわけだしさ」

 

 圭介は探るような視線で01を見やる。

 その視線を01は最初正面から受け止めたが、すぐに顔を伏せて目を逸らしてしまった。


 「……どうなのでしょう、自分でもよくわかりません」

 「あらら、『別に罪悪感を覚えているわけではありません』、くらいは言われそうに思ってたんだけど」


 01の様子に、むしろ圭介の内に気の毒な思いが沸いてくる。


 先の戦闘からまだ二時間と立っていないが、圭介の傷はほぼ完治している。古見掛市の医療技術もさることながら、圭介が自分で言った通り、彼自身の回復能力も常人の、というよりも通常の生物の常識を完全に逸脱している。栄養液の点滴や輸血、大量のタンパク質を摂取する必要こそあったが、摂った先から傷口の修復素材として使用されたそれらは、既に傷をほぼ完全に塞いでしまっている。まだ微かに痛みがあるが、完治と言える状態になるまで恐らくはあと数分も掛かるまい。

 

 (マズったかなあ、あのやり方は……)


 先程の戦闘訓練の目的がデータ取りであるというのは嘘ではない。ただ、01に伝えていないデータを収集する目的があったことは紛れもない事実だった。


 圭介を傷つけた際に、01がどのような反応を示すか、というデータを。


 01は一般的というには少々特殊な感性を有している。だが、虐殺行為にある程度の抵抗を覚えていたのは間違いないようだ。

 それは、彼女の内に倫理観の残滓の様なものが存在しているのか、単に生理的な嫌悪を覚えたに過ぎないのか、はたまた全く違う要因によるものかはわからない。だが、01が死生観をまるで学ばない内に自分の意志で命のやり取りをしてしまうことにどうしても抵抗感があった圭介は、何らかの手がかりを求めて先の戦闘訓練を考え付き、実行に移したのだ。

 医療スタッフが準備をしていたのも、01の身体データ収集だけでなく、圭介の負傷に備える意味があった。 

 

 だが、思っていたよりも01の反応は顕著だった。

 01との戦闘で、圭介は何度か地に伏している。無論、動けなくなるようなダメージを負ってはいなかったが、それでも躊躇ない01の攻撃を受けた経験がある。

 正直、もう少しきつい一撃を受け、もっと味気ない態度を取られるものと思っていたのだが。

 もっとも、圭介自身が情操教育的に考えるとかなりよろしくない姿を見せてしまったのも事実だ。多少のダメージを負うことは覚悟していたし、痛い思いをするという予想はしていたが、のたうち回った揚句に意識が飛ぶような衝撃と激痛を喰らったのは久々だった。派手に苦しんだ圭介の姿が、01を悪い方向に揺さぶってしまった可能性はある。


 「あなたも、あれほどの血を流すのですね」


 ふと、01が口を開いた。


 「ん?」

 「いえ、確かに資料で見る限り、あなたもある程度の負傷をしているという情報もありました。ですが、実際にあなたが血を流し、倒れ伏して動かない姿を見るのは初めてでしたので……。どうも、実感に欠けると言いますか。私の知るあなたは、常に笑って決して斃れることはない……そんな筈がないことはわかっているのですが、その光景が想像できないような、何と言えばいいのか……」

 

 01が紡ぐたどたどしい言葉に、圭介は腕を組んで考え込む。


 「それは、俺がやられちゃったのが信じられなかったってことかい?」

 「ええ。あなたから余裕ある態度が失われるというのは……考えたことはありましたが、それもあなたとお会いした直後までですね。あなたと拳を交え、過ごす内に、それが次第に考え難い事になっていたのは間違いありません」

 「ああ、俺にやられるイメージばっかりだったから俺がやられちゃったのに混乱しちゃったと」


 得心しかけた圭介だったが、01は肯首しなかった。今一つ納得しかねる様子で首を傾げ、難しい顔を浮かべて中空を見つめる。

 

 「……混乱した、というのは事実です。が、そうですね。むぅ……」

 (唸った、01が唸った。こんな人間らしい仕草初めて見たかも)


 口に出さないまま、圭介は見当違いな関心の仕方をする。そうしている間にも01は無心に思考を行っていたようだが、やがて圭介に視線を戻す。僅かに疑問の残っているような顔であったが、それでもいつもの無表情に殆ど戻っていた。


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