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会談! 小僧とオヤジ! in 古見掛市外! ……正義の味方はご機嫌斜め

 夕刻 D市市街地 ファミリーレストラン


 店内に満ちているのは、一言で言えば居心地の悪い空気だ。

 平日の夕刻ともなれば、学校帰りの学生などで賑わうのだが、今日に限ってはそういった活気に満ちた様子では決してない。大勢の客がいるにも関わらず、そこに賑わいは存在しなかった。


 店内にみっしりと詰めかけている客は、服装も性別も年齢も種もバラバラだが、一つだけ共通点があった。


 皆、尋常ならざる鋭い目付きで、料理を口にしつつも店の最奥付近の席を睨んでいる。客に留まらず店員でさえチラチラとその席を観察し、厨房では包丁だけでなく、明らかに戦闘用のナイフや刀剣の類が研がれつつある。更に、店外にも明らかに緊張感を漂わせた物が複数、周辺を警戒するように視線を巡らせていた。

 いずれも、古見掛市の住民である。客だけでなく、店員も古見掛市内にある同じチェーンの店舗から潜り込んだ人間だ。

 迷惑にも、本来のD市の住民はあからさまに空気の悪い店の様子を察して、入店前に回れ右をしている。

 

 そんな剣呑な視線の集中する先にあるテーブル席で、大河原圭介はあからさまに不機嫌な顔で対面の席に座る男―〈ブラックパルサー〉首領を睨みつける。


 「つーかさ、もう少し場所考えろよオッサン。何だってこんな街中のファミレスなんぞを会談場所に指定してくんのか、俺の脳みそじゃちっともわからねえ」

 「不満か? 言っておくが料亭なんぞ防諜の役には立たんぞ。出入りする人間が極端に限られるからな、いつ誰が出入りしたかを外から見るだけでも相当な情報が漏れるし、口の堅いだけの素人の店など、本業の工作員にしてみれば盗聴も盗撮も造作ないことだ。ならばいっそ人混み紛れた方がまだ気休め程度にはなろう」

 「そーゆーことを言ってんじゃねえよ!」

 「む……? 料理の事を言っているなら、それこそ貴様の期待するようなものはないぞ。現代人から見れば貧相なものばかりだ。やれハンバーグだスパゲッティだのといったハイカラな食い物はない。まあ人の金で贅沢をしたいというのはわからんでもないが」

 「誰がテメエの金で飲み食いなんかするかっての! わざわざ街中を指定する理由にゃあ、周りの人間を盾にしようってな姑息な思惑しか思いつかねんだよって話!」


 珍しく余裕なさげにテーブルを叩き、圭介は首領に怒声を浴びせる。声量自体はごく抑えたものだが、殺気立った声には違いなかった。


 「はっ、何を言うかと思えば。むしろこうして出向いてきたことはかなり危険な賭けだと思うがな。何せこの店内だけでも、貴様よりはるかに腕の立ちそうな客や店員がゴロゴロしているだろうに。ましてあの街に直接など」

 「悪いが卑怯卑劣を絵に描いたようなクソ野郎共のトップを安心して迎え入れるほど、あの街も俺も平和ボケしちゃいないんでね。本音を言えば今すぐ袋叩きにしてお巡りさんか清掃業者に収集してもらいたいくらいだよ。あ、坊さんでもいいけどな」

 

 腕を組んで拒絶の意を表わし、どっかりと席にふんぞり返る圭介の顔は、知り合いが見れば目を疑うような険しい、というよりもガラの悪い表情が浮かんでいた。下から睨み上げるような目つきと犬歯を剥き出しにして歯ぎしりする様は、間違いなく正義の味方ではなくチンピラのそれだ。

 実際、圭介は人のいいお調子者ではあるが、その内には非常に攻撃的な面が間違いなく存在していた。〈メタコマンド〉に改造された当初は、来る日も来る日も〈ブラックパルサー〉からの追跡に晒され、逃げ延びるのが精一杯だった。だが、次第に理不尽が彼の怒りを刺激し、追跡してきた〈ブラックパルサー〉の部隊を衝動的且つ徹底的に叩き潰して以来、非常に獰猛な性格に荒んでいた時期もある。次第に余裕を持って戦いの日々を過ごせるようにはなったが、それでも諸悪の根源を前にすると、当時の怒りの感情が蘇ってくるのを押さえるのは難しかった。


 一々細かいことを考えていてもキリがない。確証はないが、この男が嘘を吐く理由もないのだ。圭介はこの男を〈ブラックパルサー〉の首領、大勢を踏み躙って来た悪漢の親玉として対することにしていた。


 「で、話があるとか戯言を抜かしてたけど、何の用でわざわざ俺を呼び出したわけ? 事と次第によっちゃ、この場で……」

 

 圭介はいきり立つが、視界の隅で店員が腕で×の字を作って首を横に振っているのを見て、少し居住まいを正す。

 本心ではこのまま攻撃を仕掛けたい所だが、何しろここは古見掛市ではない。これ程の人数が揃っていても、下手に行動を起こしたくないのは事実だ。前回の様に他の街の住民を巻き込んだ真似をされると事態の処理が難しい。店外、というよりも街中に大勢の(暇な)古見掛市民が紛れて不測の事態に備えているものの、積極的に荒事を起こすわけにはいかない。

 それに、単純に店を壊すわけにもいかない。


 「……表に出てもらうことになるぜ。その後は豚箱か墓地にでも行ってもらうけどさ。そういや、あんたの葬式って何宗で出せばいいんだ?」

 「成程、貴様に加えてこの人数でタコ殴りともなれば、数分であの世行きは免れんな。だが、もうしばらくはこちらの思惑に付き合ってもらおう。貴様らからしても頭ごなしに否定できる話ではないと思うが?」

 「一応聞いてやるよ、一応な」

 「〈タイプα01〉を、私と戦わせろ」


 圭介は一瞬だけ沈黙し、その後声にならない呻きを上げ、最後に素っ頓狂な声を発した。


 「……はぁ?」

 「今すぐとは言わん。だが、近い内にあの小娘を出せ」

 「悪い、意味わかんないわ」

 「まあ、一言で理解しろとは言わん。まずは理由からだが、一つは、単純に私がアレと戦いたいからだ」

 「ああ、やっぱり女の子いたぶるのがお好きな変態オヤジでしたか。合点がいったよ」

 「もう一つは、アレに真っ当な人生を送らせたいならば、必要なことだからだ」

 「……はぁ?」


 圭介はもう一度素っ頓狂な声を上げるが、首領は大真面目な表情を崩さない。


 「どっちも納得行かないねぇ。もちっと納得のいく説明をしてもらえない?」

 「よかろう。少々長くなるがな」





 「戦わせろ、というのはそのままの意味だ。奴と私が殺し合う、だから止めるなというわけだ」


 箸で定食の焼き魚の身を摘み上げ、首領は何でもない事の様に言った。


 「当然だけど、こっちは止めたいんだよね。あんたにあいつを殺されるのも、あいつの手をあんたなんぞの血で汚させるのもまっぴら御免だ」


 カツ丼をガツガツと掻き込みながらも、圭介は丼越しに首領を睨む。あんた、と発音する度に、箸で相手を突くように指し示す様は、何とも行儀悪く映るが、これでもかなり感情を押さえている方だ。


 「アレの過去については聞き及んでいないか? お節介な貴様らの事だ。根掘り葉掘り穿り返していると思ったが」

 「……生憎と、あいつは何も知らない様子だったよ。おたくら何か知ってるわけ?」


 なかなか要領を得ない首領の話に圭介は苛立ちを募らせる。せっかく食べているカツ丼も今一つ味がわからない。本来ならこの男と同席で食事などまっぴらという思いもあるが、他の何かに多少は意識を向けておかないと不快感と怒りばかりが積み重なっていく。

 

 「む……。そうだったな。少々どころでなく長くなるが、そこから話さんといかんか。あくまで、〈ブラックパルサー〉構成員としてのアレの過去というつもりだったが、そこに至るまでを知らん以上は理解も遅くなる」

 「勿体ぶった話しぶりは好きじゃないんだけどねえ。こっちはあんまり頭良くないから手短に頼むよ」

 「スマンな。出来る限り要約するとしよう」


 店内の客(を装った古見掛市民)達も、話が進まないことに少々苛立っている様子だ。中には既に料理を食べ尽くし、追加の注文を頼む者もちらほら出始めている。店外に待機している者も、これが何らかの陽動、時間稼ぎの可能性を鑑み、古見掛との連絡、周囲の監視、その他の情報収集に注力している。

 首領としてもこのメンツに暴発されては流石に困るのか、マイペースながらも腕を組み、「ふむ」と考え込み始めた。


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