嘲笑! 挑発! チンピラVSいじめっ子! 1 ……悪行はいつも正義の御旗の下に
「悪のある所、必ず這い出て、世のため人のため、〈ブラックパルサー〉の野望を踏みにじる! 人呼んで、超カックイイ頼れるヒーロー! 〈レッドストライカー〉!」
男のことなど意に介さず、一節ごとにポーズを決めてド派手に名乗りを上げたのは、本人の言うとおり、〈レッドストライカー〉に間違いなかった。
「……あれ?」
ふと、〈レッドストライカー〉は怪訝そうな顔をする。キョトンとした様子で一瞬考え込み、ポーズを決めたままそっと後ろを振り向いた瞬間。
轟音と共に、巨大な火柱が〈レッドストライカー〉の背後に立ち上った。
「うおおおおおおおっ!?」
至近距離での大爆発に泡を食った〈レッドストライカー〉は大きく体勢を崩したが、すぐに元のポーズを取り直す。が、やはり相当に驚いたのかしばらくは肩で息をしていた。
「ちょっ、01! フェイントは無しだって!」
「申し訳ありません。少し点火に手間取りまして」
ひょいと〈レッドストライカー〉の隣に跳び出した少女が、彼のクレームにぺこりと頭を下げて詫びる。
マッチの箱を手にしているその少女は、〈タイプα01〉に相違ない。
「やはり電気式の点火装置を使った方が良かったのでは? この道具は力加減を間違えると、すぐに折れてしまうのですが……」
「思いついたのがさっきだったし、まさか都合よくガソリンが放置してあるなんて思わなかったんだよ。知ってたらもっといろいろ用意してたんだけどなぁ」
どうやら、先程の爆発を担当したのは01らしい。話の内容から察するに、〈レッドストライカー〉が提案して01に手伝わせたようだが……。
「てめえらおちょくってんのかああああっ!」
処刑人を眼前に戯れる二人に、男の怒りは早くも頂点に達した。
多くの構成員が見守る中で完全に無視されるという屈辱に激昂し、着込んだ戦闘服の背面に装備していた長刀を抜いて突き付ける。特殊合金性の刃が日の光を浴びて煌めいたが、返って来た反応は冷ややかだった。
「大声出さなくても聞こえてるよ。大体、この時代に矢文で脅迫状送ってくるような奴におちょくってるとか言われたくないし」
「そのような意図はなかったのですが、ご不快に思われたのならお詫びします」
肩を竦めて嘲笑を浮かべる〈レッドストライカー〉と、素直に頭を下げる01。いずれにしろ余裕を感じさせる態度であり、それがまた男の神経を逆なでした。が、相手が煽りに来ているということは、要するにそれだけ追い詰められていることの証左でもある。そう考え、男は冷静さを取り戻す。
「はっ、そう必死になるなよ。俺を怒らせようって腹らしいが、無駄なことだ。俺は処刑人だからな。おまえら哀れな死刑囚なんぞにムキにならねえよ」
「そうかい、そりゃどうも。んで、わざわざ呼びつけて何の御用?」
「分かりきってるじゃねえか。おまえら裏切り者の処刑に決まってる。抵抗してもいいぜ? だが、そん時にゃあおまえのお友達が可哀想なことになるがなぁ?」
男はくつくつと喉を鳴らして笑う。
そうだ。取り乱す必要はない。人質も手の内にあり、大勢の〈メタコマンド〉と戦闘員が奴らを取り囲んでいるのだ。どう足掻こうと結果は変わらない。奴らはこの場で無様に嬲り殺しになる。それだけのことでしかない。
口端を吊り上げて嗜虐的に笑う男の言葉に、しかし〈レッドストライカー〉と01は怪訝そうな顔をした。
「はい? 誰がどうなるって?」
とぼけた言葉に、男の怒りにまた火が入りかける。
「見てわからねえか、おまえのお友達をぶち殺すって言ってんだよ! 鉛弾至近距離からぶち込んで、頭をぐちゃぐちゃに弾きとばしてやるぞコラアッ!」
戦闘員たちに目配せし、倒れる少年少女の頭をライフルで小突かせる。
が、〈レッドストライカー〉は眉一つ動かさない。それどころか肩を竦めて、小首を傾げて一言。
「? やれば?」
「……何?」
ヒーローを自称する男は、あっさりと友人たちを見捨てた。
「て、てめえ! ふかしてるとでも思ってんのか! あんまりふざけてっとホントにこいつらぶち殺すぞおっ!」
「どうぞ」
顔を赤くして怒鳴る男に、〈レッドストライカー〉は無慈悲なほどに冷たく返す。
慌てたのは男の方だった。人質を盾に、裏切り者には徹底的な屈辱を味あわせるつもりだったのだ。跪かせ、徹底的に痛めつけ、命乞いをさせてからゆっくりと殺す。どんな言葉で嘲ってやろうか、どこから切り刻んでやろうかを何度も妄想し、自分に仲間からどんな賞賛が浴びせられるかとほくそえんでいたのだ。
だというのに、こんな裏切りがあっていいものか。
「野郎、脅しじゃねえって……」
「はよせえや口先男」
ため息交じりに、心底呆れたらしい声で、男の言葉は切り捨てられた。
ぷつっ、とこめかみで妙な音がした。
「……っ、殺せえええっ! その屑どもを挽肉にしてやれえっ! 撃てえええええええええええ!」
戦闘員たちは頷き、ライフルの引き金を躊躇も容赦もなく引き絞った。
男に向けて。
「ぐあああっ!?」
〈メタコマンド〉の肉体は非常に頑健だ。それを包む戦闘服もやはり強固で、種類によって差はあるが、ライフル弾程度ではびくともしない。
だが、戦闘員たちが至近距離で放ったライフルはメイドイン〈ブラックパルサー〉、悪魔の超科学で生み出された殺戮兵器だ。〈レッドストライカー〉や01程に手間暇掛けて製造されていない男の身体と戦闘服に多少のダメージを与えるには十分すぎた。
「て、てめえら! 一体なんのつもりだあっ!?」
全身から火花を散らし、煙を上げながら尻餅をついた男は大きく目を見開いた。その表情は驚愕に染まっている。信じられない光景を見た者特有の困惑さえ浮かばない顔を引きつらせて見据えた先には、事実信じられない物があった。
「な、何だとぉ……?」
目の前にいたのは、忠実な部下などではなかった。
「どーもー、人質要員(笑)でーす! 屑どもに不意打ち喰らった挙句、無様に尻餅着いた気分は如何かしら~?」
まだ銃口から煙を吐いているライフルを男に突き付けたまま、ツインテールを揺らして少女が意地悪く笑う。
「おいお~い、あんまりいじめてやるなよ。可哀想じゃねえか~。ほら、プルプル震えちゃって、あと五秒くらいで泣いちゃうぜ?」
肥満気味の少年も銃口を微動だにさせないまま、しかし気遣わしげな眼で男を見下している。
「おまえら煽るなぁ。完全にいじめっ子じゃねえか……」
「えっと、慎太君。それ、地味にあの人をいじめられっ子認定してる……」
ライフルを持っていない二人は、持っている二人より数歩後に下がって呆れ気味の表情を浮かべてため息を吐いた。一見諌めているような物言いだが、こちらも地味に男を煽っている。
「な、何がどうなっていやがる……」
確かに、ほんの一瞬前まで地面に転がっていたはずの少年少女たちは、しかし服装に汚れも乱れもなく、意地悪い笑みを浮かべて男を見下ろしている。一般人は当然、軍隊でも迂闊に手出しできない最強の存在、〈メタコマンド〉を相手に、いたずら小僧をとっちめてやろうとでもいうような気軽さでだ。周囲に潜んだ〈メタコマンド〉たちが困惑し始めているのがわかった。
昨夜は簡単に拉致できたのだ。コンテナ車に潜んでいた戦闘員に不意打ちで催眠剤を嗅がせ、そのまま荷物の様にアジトに持ち帰れた無力な子供。
それが、訓練された兵士でさえ蹴散らし、蹂躙してきた男に余裕の笑みを見せつけている。
確かに、男が指揮する部隊が彼らを拉致したことは事実だ。
だが、それは主観的には事実ではあっても現実ではなかった。
続きは上手く行けば今日中にでも投稿できそうです。
だから、それまで頑張っておくれよ、PCちゃん? いつぞやみたいにデータを道連れにブルースクリーンとか、ダメよ?(フラグ)




