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オヤジ共の考え 現在編 ……混在混乱!? 時系列!

 「首領」

 「む?」


 かつて、<レッドストライカー>の手で壊滅的な被害を受けた<ブラックパルサー>のアジト。

 崩落の危険がない事を確認し、粉々になった機材や焼け焦げた資材を片づけただけの手入れを終えたそこで、組織の首領は部下の声に振り向いた。


 「先程、古見掛攻略用アジトで収容した<メタコマンド>の意識が回復しました。<レッドストライカー>との戦闘を含め、詳細は未だ聞き取り中ですが、その中に一つ、お耳に入れておきたいことが」

 「何だ?」

 

 部下は手元の資料を一瞬見直し、僅かに困惑した様子で告げた。


 「<レッドストライカー>に、<タイプα01>が同行しているらしいという話が出ています」

 「そうか」

 「現在、撮影機の映像を解析に掛かっています。間もなく結果は出ると思われますが、彼らの証言を聞く限り、かなり確度は高いかと」

 「ふむ。組織の離反者が出ること自体はおかしくないが、よりにもよって対<レッドストライカー>部隊の一員があれとつるむとはな」

 

 やれやれと言った様子で首領はため息を吐くが、部下の男はそれを見てにわかに表情を険しくした。


 「こういった事態は、想定されていなかったと?」

 「何?」


 妙な物言いに、首領は片眉をピクリと上げた。


 対<レッドストライカー>部隊の開発を推し進めたのは首領だ。

 <メタコマンド>にはそれぞれことなった特徴がある。大抵の場合、彼らには得意分野が存在する。諜報、暗殺を想定して高速での近接戦闘を重視して開発された者もいれば、殲滅戦用に射撃に優れる者もいる。戦闘力と引き換えに、様々な特殊能力を備えた工作活動用の<メタコマンド>も存在している。

 対して、<レッドストライカー>は万能タイプの<メタコマンド>だった。

 素材が人間である以上、どんな能力を付与しても、それを操る感覚は人間であった時の延長線の上にある。得意分野が存在し、それにのみ特化した<メタコマンド>は、他の面の性能が低い。

 器用貧乏では意味がない。<メタコマンド>という大きな括りでは、人類社会に対して圧倒的な有利に立てる。だが、それは適材を適所に投入する采配があってのことだ。


 大火力を誇る砲艦で、陸地の敵陣を攻撃するのは非常に有効な攻撃だ。小銃しか持たない歩兵は、海上の艦に手を出すことは出来ない。どう頑張っても弾は届かないし、当たったところで外装に傷がつくのが精々だ。砲弾が雨のように降りしきる中、歩兵は逃げ惑うしかない。

 だが、無数の攻撃機が待ち構えている所に突っ込めば、どれだけ堅固な装甲を備えた艦でも長くは持たない。敵機の性能が低くとも、砲撃の間を掻い潜り爆弾や魚雷を放ってくる小さな敵には大威力の砲も役には立たない。


 対して、<レッドストライカー>は万能の兵器と言えた。

 

 機動力、攻撃力、防御力、戦闘継続力、索敵力などが、全てが並はずれて高い。

 戦艦以上の火力と防御力を備え、戦闘機を超える機動力を持ち、ソナーやレーダーばりに目鼻の利く歩兵だ。戦艦が相手取れば、弾幕の中を掻い潜って接近し、致命的な威力の砲撃をしてくる。戦闘機で追い落とそうとすれば、互角以上の機動力で背後を盗られ、対空陣地のような弾幕によって叩き落とされる。そのくせ身軽に潜入や工作活動をこなせるので発見自体が非常に困難になる。


 全ての能力が標準以上であるが故に、能力の偏った<メタコマンド>では必ず弱点を突かれる。下手をすれば、長所でさえ競り負けるこの強敵を相手にするため、首領は対<レッドストライカー>専門部隊を考案したのだ。


 索敵能力や戦闘継続力を切り捨て、代わりにその他の能力を向上させる。これにより、比較的安価かつ簡易に<レッドストライカー>と同等の性能を持つ<メタコマンド>を量産することが可能になった。もっとも、手間暇と金を大量に使ってようやく完全な試作品を一体完成させたところで、組織そのものが事実上の壊滅を迎えてしまったわけだが。


 「どういう意味だ?」


 <メタコマンド>の長短所をしっかりと把握している首領だが、それでも普通に考えれば今回のような事態は予測などしていようはずがない。だが、部下はそう考えてはいないようだ。


 「<レッドストライカー>を処分するための要員を製造する。それ自体は理に適っています。計画を急ぎ、結果間に合わなかったことは首領の慧眼と考えておりました。奴の危険性を良く理解されており、その前に<ブラックパルサー>が大きな打撃を受けたことはその証左であると。ですが、本当にそうなのかと、正直疑問に思っております」


 部下の声は強張っていた。顔には汗が滲み、全身を緊張させて挑むような目つきで首領を見つめている。いや、睨んでいる。


 「<レッドストライカー>を叩くにしても、あまりにも専門部隊に重きを置き過ぎておられたように思います。専門部隊以外に方法がないわけではなかったはずです。奴の存在を避けて活動範囲を再設定するだけでも組織の消耗はかなり遅れたはず。しかし、あなたは他の幹部の意見を肯定された」

 「<レッドストライカー>、恐るるに足らず。<ブラックパルサー>の力で徹底的に撃滅すべし。威勢はいいが、現状の認識が全くできていなかったな」

 「その通り。あなたはそれを理解していながらその方針を容認された。結果として多くの戦力が磨り潰されることになりました。組織の崩壊は加速度的に進み、結果は現状の通りです。例の、<タイプα01>はしっかりと完成した上で」

 「まるで今の現状……<レッドストライカー>と01を組織の反逆者として配置したように思える、か」

 「それは……いえ、その通りです」


 一瞬臆した部下は、しかしはっきりと首領への不信を口にした。

 数秒間の沈黙が流れたが、やがてそれは不敵な笑いに崩された。


 「ふっ、ははははっ! 笑わせる! 如何に私とてそんな博打を打つものか! いや、そんな遠まわしで不確定なもの、博打ですらない!」

 「……」


 ひとしきり笑った後、首領はようやく口を閉じた。それでも口元には愉快そうな笑みが浮かんでいる。


 「まあ、完全に的外れと言うわけではない。私の予想など遥かに超えて、都合よく事が運んだのは事実だ」


 どっかりと床に腰を下ろし、首領は部下を見上げる。


 「<レッドストライカー>を始末するのに、αシリーズの完成を待っていては間に合わん。それなら組織の活動が一時的に縮小することも覚悟して、既存の戦力を一気に投入し、物量で潰した方が余程早くて確実だ。だが、それでは困る」

 「<レッドストライカー>がいなければ、αシリーズ……01の完成を待つ必要がなくなる。既に<メタコマンド>さえいれば、<レッドストライカー>以外に敵はないのですから」

 「然り。そうなれば金食い虫のαシリーズ開発は当然中断となり、01は完成しなくなる」

 

 部下は瞑目してため息を吐き、首領の隣に腰を下ろした。


 「01……あの洗脳実験用の検体が、それほど気になるのですか? わざわざαシリーズ最初の一体に、人格を移植する程に」

 「逆に訊こう。今の<ブラックパルサー>の構成員に、01一体に釣り合うだけの価値があるか?」

 「……確かに、あなたが首領の座に就かれる前から、この組織は腐敗の一途を辿ってきました。先代の首領が謀殺された後は、その座を狙った幹部同士の派閥争い、蹴落とし合い。結果大勢の幹部が自滅同然に消え、残った者は臆病風に吹かれて遁走」

 「威勢ばかりがいい短慮さでさえ、相手が一般人でなければ発揮できんのだ。自分よりも圧倒的に弱い者を相手に力を行使できる大義名分欲しさに組織に参入した馬鹿共の命全てを代価にしても、あの小娘が最期に見せた足掻きには遠く及ばん。人格移植に携わったおまえも、それは良くわかっているだろう」


 首領の言葉に、部下も知らず知らずの内に頷いていた。


 忘れはしない。

 

 洗脳実験体として使い捨てられ、焼却処分を待つばかりだった少女が最期に見せた足掻き。あれは、人間の生きる意志の現れた。

 社会に対する不満(それも身勝手な逆恨みや八つ当たり)程度の動機で組織に入り、<レッドストライカー>という強敵の存在を決して本心から認めず、無理矢理自分を慢心させて挑んでは果てていったつまらない者たちに比べても、見苦しくも美しい足掻きだった。

 だからこそ首領の目に留まり、手厚い治療さえ受けられたのだろう。


 「信じられませんよ。結局、意識が戻ることはおろか、生命の維持さえ出来なくなったというのに」

 「だからこそ、完全に死ぬ前に冷凍保存して新しい器を創り上げたのだ。単なる与太者とは違う、生きることに貪欲な強者に相応しいボディーをな」

 「記憶消去の技術を発展させた人格移植技術開発。あれもあなたの裁量でしたね。我が組織には全く不必要な技術を、何故あれだけ注力して練り上げるのか、当初は不思議に思いましたが」

 「それだけの価値はあった。意識さえ戻らぬほどに薬物や電気ショックで破壊された脳から、人格だけはしっかりと移植できた。おまけに身元を洗って生前の人間性を調べてみれば、検体となる前の人格と遜色ない程の再現度だった。本当に、あれは単なる再現だったのか、私は未だに疑っている」

 「……こんなことは言いたくありませんが、私も同感です。単なる人格のコピーではなく、それこそ魂が乗り移りでもしたかのような。事実、移植直後にオリジナルの肉体は生命活動を停止し、人格データや記憶も再現できませんでした。機材も人格や記憶をキチンと拾えていなかったということですよ? だというのに、ああして自立行動している」

 「死してなお生きようとした奴の生への執着を思えば、あながち絵空事や妄想と断じることもできまいよ」


 部下はガシガシと髪を掻き毟り、亀裂と煤で無残な姿へと変わった天井を仰いだ。


 「あの二人の方が、組織全体よりも価値がある、と。しかし、ただ彼らを生かす為なら、わざわざあの街に侵攻する理由はないでしょう」

 「うむ。だがおまえは……いや、そろそろ時間か」


 首領はすっくと立ち上がる。

 部下は腕時計を見やり、数少なくなった指揮官クラスの<メタコマンド>との会議が始まる事を思い出す。


 「悪いことは言わん。<ブラックパルサー>を去れ。おまえとて組織の理念に共鳴して参入したわけではあるまい? そういう意味では認めがたいが、今の<メタコマンド>共よりは余程見所がある」

 「様々な技術と、好き放題に研究できるという意味では素晴らしい組織でしたよ。それに、あなたの姿勢は決して嫌いではなかった」

 「くははははっ、抜かしおるわ。他に評価できるところはなかったと、正直に言わん所は褒めるべきか責めるべきか」


 部下に見送られ、首領は部屋を退出する。

 振り向きもせず、いつも通りに悠然と立ち去って行く姿を見届け、部下は肩を竦めてため息を吐いた。

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