敗走……ちょっと、拙いか?
〈ブラックパルサー〉戦闘員は知性らしい知性は持たない。
戦闘員、という表現も正確ではないとも言える。
員とは、人間を指す言葉だ。戦闘を行う人間だからこそ、戦闘員という言葉で表される。
そういう意味では、彼らは厳密には戦闘員とさえ呼べなかった。
人間の死体を利用して作り上げた兵器。それこそが〈ブラックパルサー〉の主要な戦力だ。
体力に優れる人間の遺伝情報を弄り回し、培養、量産することが戦闘員製造の第一段階。骨格や臓器を始め、各部を優れた物に置き換え、遺伝子操作によって桁外れに強化された肉体
を補強する第二段階。非常に高性能ではあるが、情報の入力、ソフトウェアの形成に莫大な時間と労力が必要な脳という器官を切除し、命令に従って行動するだけの、最低限の機能を備えた人工知能を移植する第三段階。
物量こそを武器とする戦闘員の製造に、〈メタコマンド〉のようなコストは掛けられない。
タンパク質で構成される人体の培養には、〈ブラックパルサー〉の技術をもってすればコストはほとんど掛からない。加えて、改造する部位も少ないため、さらにコストは抑えられる。人工知能故に高度な作戦の遂行には高い知性を有する指揮官が必要にはなるが、欠点らしい欠点は他にはない。
それでも、あらゆる点で彼らを圧倒する性能を持つ〈メタコマンド〉に対しては戦力としてはあまりに矮小だった。
ガンッと、鈍いが大きな音が響いた。
〈レッドストライカー〉の打ち出した拳が、特殊合金で形成された戦闘員の頸椎を破断した音だ。
一番早く迫って来た戦闘員を一撃のもとに倒した〈レッドストライカー〉は、そのまま次の敵を迎え撃つべく構えなおす。
手に手にナイフやロッドを握り、俊敏かつ不気味な動きで大量の戦闘員が迫りくる。
真っ黒な戦闘服を着込んだ一団が怒涛のように迫る様子は一言で不気味と言えたが、〈レッドストライカー〉はまるで怯まない。敵が迫る勢いさえ利用して、接近してきた二体の戦闘員の胸に両腕を叩きつける。肋骨ごと心肺を叩き潰され、その二体も瞬時に沈黙する。
「次っ!」
倒れる戦闘員の傍を駆け抜け、次の獲物を目掛けて〈レッドストライカー〉は拳を振り上げた。
〈レッドストライカー〉の戦い方は、基本的に躊躇を見せない。群がる雑兵を容赦なく打ち据え、破壊していく。
そもそも、〈レッドストライカー〉は戦闘員との戦闘はあまり好きではない。彼は基本的に平和主義だが、〈メタコマンド〉と戦う際はそれなりに好戦的にな面が顔を見せることもある。平気で他人の命を踏みにじれる人間性と対峙すれば、人がいい人間ほど怒りで行動できる。
しかし、対戦闘員戦は命のやり取りをするのに、相手が人間としては完全な死体なのだ。生命活動は維持しているが、それだけの人形でしかない存在。やたらと不気味であり、哀れだった。故に、人間に成れなかった彼らを彼岸に渡してやるためにも、迷いなく暴力装置と化す。
きらり、と背後で何かが光った。
それが振り上げられたナイフの反射する光だと理解するより早く、〈レッドストライカー〉は後ろから迫る戦闘員の鳩尾を蹴りでぶち抜く。内臓器官のせいで成人男性より少しばかり重い体が軽々と吹き飛び、他の戦闘員を巻き添えにして大地に転がった。
さらに前後から迫る戦闘員をそれぞれ片手で持ち上げ、他の戦闘員に叩きつけた〈レッドストライカー〉は01の様子を探った。
やはり大量の戦闘員がアリのように集る中、01も奮闘していた。
襲い掛かる戦闘員を力で弾き返し、圧倒する〈レッドストライカー〉とは対照的に、01は優雅に踊るような動きで次々に戦闘員を打ち倒していく。
両手にナイフを握ったまま素早く駆け、戦闘員のただ中を駆け抜ける。
直後に、01とすれ違った戦闘員の体から盛大な火花が飛び散った。低品質とはいえ、それなりの強度を誇る戦闘服が強い摩擦と衝撃によって破壊されたのだ。当然、その内部の体もだ。
戦闘員も果敢に攻め込んではいるのだが、01に攻撃を届かせることができない。
もとより、〈メタコマンド〉と戦闘員の性能は比較するのがバカバカしくなるほどに差がある。物量の差でそれをひっくり返すこと自体は可能なのだろうが、01の機敏さを見るとそれは難しそうだった。
集団に囲まれるというのは確かに不利な状況だ。しかし、敏捷さで圧倒している01は、それを気にする様子もない。相手に反応する隙も与えず、すれ違いざまに大量の火花を散らし、戦闘員を蹴散らしていく。
「へえ、意外にやるもんじゃない」
〈レッドストライカー〉との戦いでは、経験や技量の差に追い詰められていたが、01も高度な技術によって編み上げられた戦闘兵器だ。
戦いのイロハはまだ知らなくとも、その身体能力で十分に戦闘員には対処できる。
「よそ見とは余裕だな」
「っとと!」
亀男の冷たい声が〈レッドストライアー〉の意識を引き戻した。
気付くと、戦闘員に紛れて亀男が十メートルほどの距離まで接近していた。しかも、抱えた無反動砲の砲口を〈レッドストライカー〉に突き付けている。
「やば……」
「死ね」
すぐさま回避に移る。
〈メタコマンド〉相手に飛び道具は意味をなさないというのは、完全に正しい認識ではない。頑丈なボディーを堅固な戦闘服で覆っているとはいえ、それでも人体という脆い物体を元に改造されている。拳銃弾程度ならともかく、対物ライフルなどの大威力な銃撃、あるいは砲撃を雨のように浴びれば全くの無傷とはいかない。桁外れの機動性を得るために、戦車や戦艦のような強度を排しているのが〈メタコマンド〉という兵器だ。人間が正面から銃撃してくるならともかく、不意を突かれたり、回避できないほどの面制圧を受ければ当然被弾する。まして、〈メタコマンド〉がわざわざ対〈メタコマンド〉戦に持ち出すような武器をもろに受ければどうなるか知れたものではない。
戦闘員の包囲から飛び出すのと同時に、亀男の構える無反動砲が火を噴いた。
回避は、少し難しい。
〈レッドストライカー〉は今、亀男と01を結ぶ直線上にいる。流石に戦闘員とは違い、知性を有した相手だ。回避されても、01に大なり小なりダメージを与えるつもりらしい。〈レッドストライカー〉が攻撃を躱せば、01の周辺に着弾する。
そう考えた時には、既に砲弾は〈レッドストライカー〉の鼻先にあった。
「なんの!」
回避という選択肢を封じられた〈レッドストライカー〉は、しかし歯をむき出しにして笑った。
迫りくる砲弾に向けて左手の甲を滑らせ、軽く弾く。頑丈なグローブに包まれた手に衝撃が走るが、関係ない。もとより、戦車の主砲ほどもある一撃を繰り出せるほどの強度をもつ拳だ。ダメージを負うには程遠い。あらゆる意味での超高コストは伊達や酔狂で掛けられたわけではないのだ。
軌道を逸らされた砲弾は明後日の方へと飛び去り、山肌に直撃した。轟音と共に白く煙る爆煙が吹き上がる。
一撃から逃れた〈レッドストライカー〉は亀男に向けて突っ込む。当然、敵も砲口を向けてくるが、構わない。同じ〈メタコマンド〉同士とはいえ、既に互いの距離は十分に縮まっている。〈レッドストライカー〉の敏捷性は他の〈メタコマンド〉と比較してもかなり高い。この至近距離で狙いを定めることは不可能だ。
「もらった!」
瞬時に懐に潜り込み、亀男の顎を思い切り殴り上げるべく、拳を握った時を振りかぶった時だ。
「ん?」
視界の隅を過った影に注意を取られた。
戦闘態勢に入り、思考速度、情報収集量も跳ね上がっている〈レッドストライカー〉でもそれ以上考える前にその影は急接近し、彼の身体に直撃した。
「ぐえっ!」
カエルが潰れたような悲鳴と共に、〈レッドストライカー〉は衝撃に飛ばされた。バランスを崩し、背中から砂利の上に倒れこみ、そのまま数メートル滑走する。
「いってえな、何だってンだよ……ん?」
ぶつくさ言いながらも素早く起き上がろうとし、〈レッドストライカー〉は硬直する。
「……失礼しました」
いつの間にか、と言うべきか。いや、おそらくはたった今〈レッドストライカー〉を弾き飛ばしてそのまま勢いで倒れこんできたのだろうが、相も変わらず無表情に押し倒してきてい
る01がぺこりと頭を下げた。
「お、おう……」
〈レッドストライカー〉は思わず黙り込む。
もともと01は器量よしだ。顔立ちもそうだが、スタイルもいい。まともな格好をして普通に街中を歩けば、大抵の通行人は立ち止まって目を奪われるだろう程度には美しいのだ。
その美しい少女に押し倒されているという状況に一瞬だけ、不覚にも完全に意識を奪われてしまった。
とはいえ、〈レッドストライカー〉も戦士である。戦闘中にラッキースケベを楽しむほどのんきでも豪胆でもない。
「おい、さっさとどいて……」
そこまで言ってまた黙る。
01の顔色が目に見えて悪くなっていることに気付いたからだ。無表情だった顔に少しずつ冷や汗が滲み、苦痛の色が浮かび始める。
「おまえ……」
まさか、このタイミングで?
いや、いくらなんでも早すぎる。〈レッドストライカー〉の知る限り、もっと間隔を置かなくてはありえないはずだ。だが、しかし現に……。
「血液浄化の時間来ちゃったわけ!?」
「どうやら、そのようです……」
「嘘ぉん……」
どこか力なく告げる01の言葉に眩暈を覚えるが、だとするとなおのことのんびりとはしていられない。
「おい、早いとこどいてくれないと……!」
「申し訳ありませんが、それは無理そうです。ご迷惑を掛けますが、自助努力で、何とか……」
だが、01は〈レッドストライカー〉の言葉に従わなかった。それどころかより一層苦しげに息を見出し、〈レッドストライカー〉の上に倒れ伏す。
「お、おい!?」
大慌てで無理矢理体を起こし、01を抱え上げる。
ひとまず連れて逃げようかと背中に手を回した瞬間、ぬるりとした感触があった。ぎょっとして細い背中を見下ろすと、黒い戦闘服越しに鋭い裂傷が数本走り、そこから少なくない血液が流れ出ていた。
「……」
01の肩越しに、狼女が笑うのが見えた。右手の先、グローブに装備された鉤爪から血が滴っている。
腕の中、01は苦しげな呼吸を繰り返すだけだ。身じろぎさえしない。
本格的にまずい。
改造人間兵器であっても、血液の色は赤だ。だというのに、01の背中を濡らす血液は錆色を通り越し、既に鈍色に近づいている。
血液の劣化があまりにも進行しすぎている。これでは量が十分にあったところで満足に酸素を運搬できまい。その上出血は続いているのだ。戦闘はおろか、じきに生命の維持さえ危うくなるだろう。
「ちょっ、マジかよ……」
流石に〈レッドストライカー〉も顔面を蒼白にした。
同時に、弾かれたように01を肩に担ぎ上げて立ち上がる。〈ブラックパルサー〉の相手は後回しだ。安静にさせるのはもちろん、早急に適切な処置を施さなければならない。
しかしどうする?
周囲を睨む目に映るのは、多数の戦闘員と〈メタコマンド〉二体による包囲網だ。自分一人ならともかく、立つこともままならない01を連れて突破することは可能だろうか。未だに相手がどれだけの力を有しているかもはっきりしていないのに。
仮にこの囲みを抜けたところで、01の血液を浄化できる設備が他にあるとは考えにくい。
じりじりと狭まってくる包囲網に一歩後ずさりながら〈レッドストライカー〉は小さく唸る。
(どうするか……。こいつらが管理してる場所なら浄化設備もあるだろうけど)
わざわざ二人を引き込んだくらいだ。この近辺に〈ブラックパルサー〉の新たな拠点があるという可能性は高いだろう。そこなら浄化設備もあるはずではある。
問題はそこに押し入って設備を使うことが出来るかどうかだ。まさかこの場にアジトの人員全てが集っているわけではあるまい。戦闘員や〈メタコマンド〉がそれなりに配置されて警備にあたっているはずだ。
〈レッドストライカー〉一人なら、おそらく問題にはならない。敵が施設の利用や技術の流出を恐れて自爆でもしない限りは、確実にアジトを制圧できる。しかし01を連れたままとなると話が大きく変わってくる。流石に重症者を担いだままではまともに戦えない。一度01をどこかに隠すというのも不可能だ。いくら採石場の周囲が山林であっても、隠れる場所はない。体温や排出される二酸化炭素の検知など〈ブラックパルサー〉でなくとも容易に行えるし、加えて〈メタコマンド〉なら01の心音や呼吸音を拾い上げることなど造作もない。〈
レッドストライカー〉が戦っている間に発見され、始末されるのがオチだ。
「なあ、01。おまえも次元の壁を越えて俺にちょっかい出しに来てたんだろ? どうにかこの場所からエスケープできないか?」
期待せずに担いだ01に問いかけたが、意外にも返答があった。
「可能ですが、少しばかり時間が必要です……」
「時間がいるっていうのは?」
「この場所に私たちが引き込まれたということは、おそらくこの付近に転送用の設備があるはずです。それを利用すれば……」
「どうすればいい?」
「私には探査機能はあまり与えられていません。周囲に大電力を持ったコンデンサーが四基、ないしは六基設置されているはずです。探せますか……?」
「やってみる」
苦しげに01が息を吐くのと同時に、〈レッドストライカー〉は跳躍する。
戦闘員の投げつけた大量の電磁ナイフを回避して、素早く山肌に着地する。直後、回り込むように斜面を駆け上ってくる狼女の足音を聴覚で、亀男に無反動砲が向けられたことを視覚で確認する。
「ちっ、しばらく逃げ回るけど大丈夫か?」
「ご心配なく。暫し、お世話になります……」
肩に担ぎ上げていた01を胸に抱き直し、〈レッドストライカー〉はすぐさま回避運動に移る。数瞬の後、山肌に砲弾が散発着弾し、派手に爆炎を上げた。
狼女からはひたすら逃げる。無反動砲も立ち止まったりしなければ簡単には喰らわない。戦闘員は接触したら蹴散らす。行動を決めた〈レッドストライカー〉は駆け、跳びながらヘッドギアに内蔵されたスキャナーを作動させる。
幸い、それらしい存在はすぐに見つかった。
先程まで戦っていた地点を中心に、強い磁気を帯びた物体が六基、地面に埋蔵されている様子がバイザーに表示されている。
「早速あったぞ! それっぽい反応が六つ、地下三メートルぐらいに埋めてある!」
「地中ですか……。その内一つで構いません、何とか地上に露出させられますか?」
「さらっと無茶言う子だねー!? さすがに砲弾やらナイフが雨あられと振ってる中で穴掘りはしんどいんだけどー!?」
文句を言いながらも、〈レッドストライカー〉は採掘の手筈を組み立てる。
幸い、コンデンサーは固い岩盤の下ではなく、柔らかい土の下に設置されているようだ。さほど大きなエネルギーは必要なく余計な土を取り除くことは出来るだろう。敵の隙を見て拳を打ち込めばある程度は掘れるはずだ。もっとも、敵もすぐにこちらの意図に気付いて妨害してくるのは確実だ。
「これを……」
「あん?」
01を見下ろすと、小刻みに震える拳の中に、単一電池ほどの小さな金属製の円筒をいくつか握りしめていた。
「指向性の高い爆薬です。お役に立つかもしれません」
「発破を掛けろって? まあ、やりようによっては何とかなるかな?」
爆破作業自体は何度か経験はある。しかし、それはあくまでも〈ブラックパルサー〉のアジトを破壊するために行ったもので、埋没物を掘り出すといったデリケートな作業ではない。
「う~ん……」
そうこうしている間にも、頭上を砲弾が掠め、ナイフが足元に突き立っていく。さらに狼女がかなり距離を縮めてきていた。01の体力を考慮しても、猶予はあまりないだろう。
「あんまし分の良い賭けにゃならんと思うけど、外しても恨みっこなしよ?」
「はい。あなたに成し得ないなら、私にも成し得ないでしょう」
「過分な信頼をありがとうよ」
一瞬の間、〈レッドストライカー〉は悩んだ。
もし失敗すれば、そのまま01の生命に関わりかねない重要な判断だ。だが、やらなければどちらにしろ01は危険な状態から脱することは出来ない。
ええい、どうとでもなれ。ダメだったらその時だ。
腹をくくって一気に速度を上げる。傷に響くのか、01が微かに呻いたが、今は耐えてもらうよりない。
数人の戦闘員と接触するが、構っていられない。両腕は01を抱えるために塞がっているので、文字通り蹴散らして突破する。視界の隅で〈メタコマンド〉二人が怪訝な顔をしているが、好都合だ。怪しまれてはいるが、こちらの意図は読まれていない。
バイザーに映るコンデンサー目掛けて一気に駆け、そのすぐ近くで停止する。
「ちょっと待っててなー?」
返事を待たずに01を砂利の上に降ろし、そのついでに砂利を掌いっぱいに握りこむ。
「っせい!」
同時に、渾身の力で投擲する。
ドンッ、と大気を衝撃波が揺さぶり、周囲の砂利や土が舞い上がる。同時に、音速を超えた手から放たれた無数の砂利が山の斜面へ、まるで散弾のように迫る。
「!?」
それらは、二人を砲撃しようと構えていた亀男と、既に狙いを付けていた無反動砲を直撃した。
ごくごく小さな質量しか持たない砂利だが、〈レッドストライカー〉という生きた凶器の腕力で叩きつけられたのだ。威力は銃弾以上の物になる。そんなものが幾つも直撃しても耐えられるほど、その砲は頑健に作られていなかった。
閃光、そして轟音。
砲の炸薬が衝撃に晒されたらしく、亀男の無反動砲が爆発したのだ。
戦闘員は状況が判断できず、また、指揮を執るべき狼女も驚愕に動けずにいる。その隙を突き、〈レッドストライカー〉は大地を拳でぶち抜く。
重い衝撃音と共に、砂利と土が舞い上がる。全力で拳を打ち込めば、コンデンサーごと地面に大穴を開けてしまうため、軽い一撃ではあった。だが、それでも多少の―01から託された指向性爆薬を設置するには十分な穴を穿つことは出来た。
敵が大勢を立て直す前に素早く爆薬を仕掛けると、〈レッドストライカー〉は01のもとに駆け戻る。
「準備出来た! あとよろしく!」
「承知しました」
次の瞬間、盛大な土煙が舞い上がる。地中で発生した爆発がかなりの量の土を吹き飛ばしていた。
〈レッドストライカー〉は01を抱え、すぐさま爆発の熱気も冷めやらぬ起爆地点へと跳躍し、効果を確認する。
上手くいったらしく、地面に空いた大穴の底に四角い容器が顔を覗かせていた。
「っ! 何をしている! 掛かれ!」
流石にこちらの意図に感づいたのか、狼女が戦闘員たちをけしかける。
「で、どーすりゃいいんだ!?」
「しばらく、誰も近づけないで頂けると助かります」
01は苦しげに喘ぎながらも容器そばに膝をつき、上部のハンドルを操作して蓋を開く。〈レッドストライカー〉はそれだけ確認して穴の上に飛び出した。
既に数十の戦闘員が迫り、狼女もこちらの隙を窺っている。
「っしゃあ! 掛かってこいチクショー!」
大穴に集いくる大量の敵を食い止めるのは容易なことではない。が、やらなければならない。
〈レッドストライカー〉は拳を握りこみ、戦闘員の群れに飛び込もうと足に力を込める。
「済みました」
「はえーなオイ!?」
と、そこで01から声が掛かる。
〈レッドストライカー〉は手近な戦闘員を数体倒し、そのまま01のもとに取って返す。
「んだよ、時間稼ぎいらなかったじゃん!」
「思いのほかうまくいったもので」
どうやら内部のコンソールを弄っていたらしい01は苦しげながらも一安心といった表情を浮かべている。
「んで、後は!?」
「特には何も。このまま……」
突然、強烈な眩暈が襲い掛かった。
地面が消失し、奈落に落下するような平衡感覚の消失。視界が強烈に歪み、暗闇と閃光が交互に視界を埋め尽くす。
それが空間境面の破損による作用だと思い出す前に、〈レッドストライカー〉は意識を失った。




