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〈ブラックパルサー〉再び! ……大体予想通りの展開




 「おまえってホントに〈ブラックパルサー〉らしから……」


 そこまで言って、圭介は取水塔の陰へと振り向いた。

 そこに潜んでいた息遣いがにわかに活発化するのを聴き取ったからだ。


 同時に、何かが鋭く光るのが見えた。


 一瞬のことだった。

 如何に常人離れしているとはいえ、圭介の感覚器官も戦闘態勢に入っていない以上は最大機能は発揮できない。

 何か冷たく光る小さな物体が迫っている。それだけしか判断することは出来なかった。


 しかし、それだけ判断できれば十分だった。


 両足に力を籠め、思い切り横に跳ぶ。

 直後に、たった今まで自分が立っていた地点に何かが直撃するのが見え、そのまま視界が炎で埋まる。


 「うぉあっちぃい!」


 投げつけられたのが爆発物だったと得心するまもなく、高熱を帯びた爆風と、燃え盛る炎が吹き荒れる。


 「アチチチっ!」


 爆炎の中から飛び出した圭介―戦闘服を纏った〈レッドストライカー〉は岸辺に着地して身構えた。

 二十メートルほど先で、巨大な火柱が空に吸い込まれて消えていくのがいやでも目に入る。


 「また派手にやらかすんだから……」


 腰に手をやり、大きくため息を吐くのと同時、すぐそばでズシャリと大きな足音がした。


 「ふむ、どうやらあなたの予想した通り、私も攻撃対象……あるいは被害が及んでもいいと判断されたようですね」


 同様に爆発をやり過ごしたらしい01が平然と立ちながらあまりよろしくない推測を述べた。

 

 「のんきなもんだよなぁ。怪我とかしてない?」

 「お気遣いなく。私も貴方と同等のスペックは与えられていますので、あの程度なら」

 「そりゃ何より。しかし、どうするかねこの状況」


 圭介が呟くのと同時に、周囲にズシャリという足音が幾つも響いた。

 圭介と01を取り囲む形で着地した影は全部で十六。その内十四体は見覚えのある〈ブラックパルサー〉戦闘員だ。


 残る二人は―


 「久しぶりだな。大河原圭介」

 「この地でも貴様と関わることになるとは、幸いというべきか、不幸というべきか」

 「げっ……おまえらいつかの」


 〈レッドストライカー〉が露出している口元を引きつらせるに足る相手、それなり以上の腕を持つ〈メタコマンド〉だった。

 一人は二十代半ばらしい女で、後頭部で束ねた髪を風にたなびかせている。グローブの先端、指先には金属製の爪が装備されていた。

 もう一人は身長百八十台を逸脱しそうなほどの大男だ。見るからに重厚そうな分厚く巨大な装甲を多く備え、遠隔攻撃用の携帯式の無反動砲を手にしている。



 「……お久しぶり、切り裂き魔の姉さんに大砲屋のおっさん。おっかしーなー、前にコテンパンにしたはずなんだけど、無事だったの?」

 

 口調は砕けているが、顔にはうんざりした表情をありありと浮かべて〈レッドストライカー〉は二人に手を振る。

 記憶が正しければ、この二人は以前遭遇、交戦し、多大なダメージを与えて撤退させたはずだ。致命傷ではないにしろ、再起不能程度には追い込んだつもりだったのだが。


 「ふふ、その節は世話になったな。礼の一つもせずに朽ちる気にもなれなかったから、こうしてまた会いに来たのだ」


 グローブだけでなく、ブーツにも追加された爪を光らせて女が笑う。


 「〈メタコマンド〉の強みはその運用性の高さにもある。破損した部分は脳以外いくらでも替えが効く。貴様にはない組織力が我々の大きな武器の一つ」


 無反動砲の砲口を〈レッドストライカー〉に向け、男は憮然とした様子で語った。


 「そりゃまた、わざわざどうも。しかし替えが効くって言うけど、それはもう替えってレベルじゃないっしょ。どしたの、その戦闘服のオプションは」


 〈レッドストライカー〉は肩を竦めてから二人を左右の人差し指で指した。

 眼前の二人の装備は、前回交戦したときに比べて明らかに差異があった。


 女の戦闘服はもう少し重装甲だったはずだ。肩や膝にこそ硬質な装甲版が据えられているが、他にも薄い軟質のサポーターが体の各所にあり、衝撃を殺す役割を担っていた。

 今回女が着ている戦闘服は、それらの代わりに毛のような繊維質がほぼ全身を覆っている。その隙間から各装甲が辛うじて覘いているいるような状態だ。簡単に表現すれば獣を想起させるとでも言うべきか。

 男も前回と様子が違う。かつても重装甲だったが、今日はそれにも度が過ぎる。各種急所はもちろん、胴体部分には分厚い装甲が幾つも重ねて装備されている。特に背部の装甲はこれまで〈レッドストライカー〉が見たこともないほどに厚かった。


 (……なんつーか、本格的に怪人っぽくなったねぇ。具体的に言うと世界に衝撃というかショックを与えそうな感じの……「ショックを与える者」っぽいデザインにしたんだ。生っぽさはないけど、〈狼女〉とか〈亀男〉とか、どことなくそんな感じがする)


 彼らの姿に、〈レッドストライカー〉は動物を想起した。

 灰色掛かった毛に覆われ、爪を備えた狼と、強固な甲羅を背負った亀。

 〈レッドストライカー〉も01も、ある程度人間工学に基づいてデザインされた戦闘服を着ているのに対し、どこかおとぎめいた出で立ちに少々面食らう。


 「そう馬鹿にしたものでもないぞ? 確かに珍妙な見た目かもしれんが、実用的だ」

 「技術は常に先へと進む。その道筋で時に不可解な方向へも向かうが、その果てにあるのは新たな技術よ」


 そう言いつつ、狼女と亀男が動く。

 狼女は爪を構えて足腰に力をため込み、亀男は砲の引き金に指を掛けた。


 「あ、ちょっとタンマ。ストップ」


 その光景に、〈レッドストライカー〉は両手でタイムアウトのジェスチャーを取る。


 「何だ、まだ話足りないか?」

 「話ってわけじゃないけど、一つ気になることがありまして。狼さんが物騒な物をチラつかせながらこっちに来るのはわかるんだけど、亀さんはなんでそのぶっといのをあいつに向けてるのかなーって」


 少し離れて立っている01が、いつの間にか亀男の構える砲の射線上にいるのに気付き、〈レッドストライカー〉は内心慌てて問う。

 狼女は〈レッドストライカー〉に一歩踏み出した足を止め、亀男は01に向けていた砲口を僅かに外した。


 「用心の為だ。流石に見覚えのない顔が貴様と平然として話していては、こちらも警戒せざるを得ん」

 「だな。〈ブラックパルサー〉の不倶戴天の敵、〈レッドストライカー〉とのんびり話し込むような奴だ。おまえと通じていると判断されても仕方ないだろう?」


 〈レッドストライカー〉は困ったような顔で01に囁く。


 「……おい、完全に怪しまれてるぞ。弁解の一つもしといたほうがいいんじゃないのか?」

 「そうですね。誤解を受けるというのはあまりいい気分ではありません」

 

 そう言うと01は〈ブラックパルサー〉構成員たちの方へと一歩踏み出し、口を開いた。


 「お初にお目にかかります。私は〈ブラックパルサー〉、対大河原圭介専門チーム、α隊所属の〈タイプα01〉と申します」

 

 ぺこり、と頭を下げる01に、二人の〈メタコマンド〉は怪訝そうな顔をした。


 「α隊の先行稼働組がいるという報告は受けていたが、それがどうして〈レッドストライカー〉と共に動いている?」

 「別に行動を共にしているわけではありません。戦う上で周辺被害が出ないよう場所を移したいという提案を受けたので、ここまで移動してきただけです」

 「はっ、何の冗談だ? 周辺被害? それこそ私たちの望むところだろうに」

 「私としては、彼と戦うことが出来ればそれで構いませんので。あなたがたの作戦を邪魔するつもりもありません。ですが、私と彼の戦いが終わるまでは、手出し無用でお願いしたいのですが」

 「ちょっ……」


 あまりにもずけずけと言い放った01に、〈レッドストライカー〉が思わず声を上げた。

 要約すると、「邪魔すんな」である。


 「勝手なことを。〈レッドストライカー〉を倒すことが今の我々の目的だ。おまえにどんな思惑があるかは知らないが、わざわざ一対一で戦う道理がどこにある?」

 「物量で磨り潰すのが王道にしてもっとも効率的だ。我々も暇ではない。貴様の遊びが済むまで待ってやるわけにもいかぬ」

 「ですからムグ……」

 「ちょっと黙れって! 誤解の上にさらに面倒な誤解を塗りたくるのはよくない!」


 掌で01の口を塞ぎ、〈レッドストライカー〉はそれ以上の失言を無理矢理遮る。

 弁解どころかこれでは挑発と取られても仕方がない。事実、〈メタコマンド〉二体は01に対してかなりきつい視線を向けた。


 「あーもー、言わんこっちゃない」

 「ムグムグ」


 返って相手を煽るだけの結果に、〈レッドストライカー〉は口元を引きつらせる。

 そして、煽られた一団は手に手に様々な武装を構え、二人の方へと歩を進め始めた。


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