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店を探す第19話

 真昼の街に溢れる雑踏。

 人が、溢れ返っている。

 俺の元いた世界ならそう珍しい光景では無いが、この世界に来て初めて見た。


「すげぇなおい……」


 カナンマ村を出て3日目。

 ついに、デヴォラの屋敷があるダンジョンの間近の街に辿り着いた。


 街の名はマカジ。

 ここいらじゃ一番大きな、いわゆる都市に近い物らしい。

 今までの街村と違い、都市内の道は全て余す所無く舗装されている。


 そんな人混み溢れる石畳の街道を、俺達は行く。


「ぶおー」

「ああ、人がいっぱいだな」


 俺の腕の中で、サーガが感心した様な声を上げる。

 繁華街ってモンは生まれて初めてなんだろう。

 おそらく、シングも。


「何だ、今日は祭でもあるのか?」

「うい?」


 ワクワクしてるとこ悪いが、都会は常時こんなモンである。


「うわふっ、す、すまな…お、おい? ……謝罪する間も無かったぞ……」


 都会の人ってのは大体そんなモンである。

 人と軽く肩がかするくらい日常茶飯事。

 軽く会釈くらいはする人も多いが、我関せずって感じでさっさと行ってしまう人も少なくない。


「さて……んじゃ、『店』を探すか」

「あい!」


 探す店の名は『Dアラカルト』。ヒエンが教えてくれた、デヴォラの弟子がいる雑貨店。

 ちなみに、DアラカルトのDはデンジャーのDだとか何とか言っていた。

 一体どんな雑貨店だよ……とも思うが、駄菓子をメインに扱う武器屋がある世界だし、俺の固定観念なんぞ宛になるはずも無い。


 しかも経営者はデヴォラの弟子。つまりゲオルやヒエンと同系統。

 どんな破天荒な感じなのが来ても良いように、覚悟だけはしておく。


 ……そういやゲオルって、デヴォラの弟子って事は、魔剣も持ってんのだろうか。

 俺達を襲った時は鉄パイプだったが、鉄パイプで魔王を倒したとは思えないし。

 ……あの怪力無双のおっさんに魔剣とか、考えただけで頭が痛い。

 神様は俺を勝たせてくれる気はあるんだろうか。


 まぁ、こんなとこで神を呪っても仕方無い。

 気を取り直し、雑貨店の場所を聞くべく、人当たりの良さそうな人を探す。


「あぶ!」

「ん?」


 その時、サーガが何かを発見した。


「あいつは……」


 シングもお知り合いの様だ。


 サーガが見つけたのは、ちょっと離れた所にいた角と尻尾の生えた褐色肌の少年。

 要するに、魔人だ。

 今からオープンなのだろうか、ラーメン屋の前でのれんをかけている所だった。


「ヴァルダス!」

「うぇ?」


 シングの呼び声に反応し、魔人の少年がちょっと間の抜けた声をあげて振り返る。


「え……えぇ!? シングの姐さんとサーガ様じゃないっすか!?」


 人混みを掻き分け、俺達はヴァルダスと呼ばれた魔人少年の元へ。


「お前らの知り合いの魔人って事は……」

「ああ、魔王城の衛兵だった男だ。名はヴァルダス」

「姐さん、誰っすかこの人間」

「サーガ様の新たなお世話係、ロマンだ」


 違うっつぅの。まぁ世話はしてるけど。


 ……にしても、魔王城の衛兵さん、か。

 ラーメン屋の制服を完璧に着こなす現在の姿からは、想像もできねぇな。


「ヴァルダス、お前も生き残っていたんだな」

「あ、はい。ゲオルのクソ野郎に空の彼方まで派手にぶっ飛ばされまして、気付いたら森の外れに……」


 そしてこのラーメン屋の店主に拾われ、ここで住み込みバイトとして雇ってもらっているそうだ。

 空の彼方まで吹っ飛ばされるとか漫画かよ、って感じだが、相手があのおっさんなら有り得ない話じゃないか。


「にしても姐さん、魔王軍の中でも人一倍人間を嫌っていたのに……変わったんすね」


 シングと並び立つ俺に、ヴァルダスは嬉しそうな微笑を見せる。

 姐と呼び慕うシングに、良い変化が訪れていると確信している感じだ。


「お前こそ」

「いやぁ、もう、ここの親方は最高に良い人なんすよ」


 そういやシングも、最初は人間をやたら嫌悪してたっけか。

 ゴウト一家の包容力の前に改心し、今では欠片もそんな素振りは見せないが。


「やうー」

「サーガ様もお元気そうで……本当に良かったっす。あ、そうだ、ラーメン食ってきませんか? 親方のラーメンは天下逸品っすよ! それにベビーメニューもあります」

「あぶぉ!」

「おお、おいロマン、丁度良いんじゃないか?」

「だな」


 お昼時だし、腹の減り具合も良い感じだ。





 中々年季の入った内装の店内。

 俺達はカウンターに3人並んで、盛大にゲップ。


 俺は醤油ラーメン、シングは味噌ラーメン、そしてサーガは醤油ラーメン風味の特製おかゆを完食していた。


 ヤバイ、めちゃくちゃ美味かった。

 こう、どう表現していいかわからんが、とにかく美味かった。

 加工会社の人には悪いが、インスタントラーメンを投げ捨てるレベルで美味かった。

 もしもこの味を誰かにメールで伝えるならば、俺は容量一杯まで「ヤバイ」を連打するだろう。


 これがプロの技って奴か。


 俺達はよっぽど満足気な顔をしていたのだろう。

 無愛想な初老親方が、少しだけ口の端を綻ばせながら、お茶を出してくれた。


「あ、ありがとうございます」


 ああ、ただでさえラーメン屋なんてすげぇ久しぶりなのに、こんな良い店に当たるとは……たまんねぇ。


「流石はヴァルダスのイチオシだ」

「どうもっす」

「うい、あぶし!」

「サーガ様にまでそう言ってもらえると、鼻が高いっす」


 親方を本当に慕っているのだろう。その親方のラーメンを絶賛され、ヴァルダスも心底嬉しそうだ。


「しかし、本当に最高だったぞ親方殿! 物を食べて感動したのは久しぶりだ!」

「うぃっしゅ!」

「あ、今がチャンスっすね。ロマンさん……そのちょっと良いっすか」

「ん?」


 シングとサーガが親方に絶賛の言葉を浴びせ始めたのを見計らい、ヴァルダスが何やら小声で俺に話かけてきた。


「シング姐さん、どうっすかね?」

「どうって……?」

「あの人は、やたら責任感が強いんで……その、心配な事も多々あるんすよ」

「……ああ……」


 確かに、そんな感じではある。

 この前、風邪を引いた時も、休ませるだけで一苦労だった。


「……その、このお願いは、本当に、あなたが良ければで良いんすけど……」


 真剣な面持ちで、ヴァルダスは俺の目を見据える。

 瞳の色から、その真摯っぷりが充分に伝わった。


「姐さんの、『頼れる人』になってやってもらえませんか」

「頼れる人……?」

「はい。姐さん、あんまり人を頼ろうとはしないっす。辛い時でも、気丈に振舞おうとしちまうんす」


 まぁ、自分のために人を頼るのが苦手なタイプではあるだろう。

 ゴウトの世話になってる間も、事ある事に本当に申し訳なさそうに礼を言っていたし。

 その度ゴウトに「若い娘がそんな面するなって」と笑い飛ばされていたっけか。


「だから、姐さんが辛い時、ためらう事なく寄り掛かれる様な相手……姐さんとそんな関係であって欲しいんす」

「…………いやぁ、難しくね……?」


 ここで「任せろ」と言えたら格好良いんだろが、難しいモンは難しい。

 シングの強情っぷりは中々だ。

 それにちょっと俺を舐めてる節もある気がするし。

 男として、どんな女性にも頼られる様な漢ってのには是非ともなりたいとは思うのだが……


「大丈夫っす。俺が今まで見た中で、姐さんはあんたに一番心を開いてるっす。あとひと押しっす!」


 ひと押しって何がだ。


「何をこそこそ話している?」

「ほっふっ!? いえいえいえ! 何でも無いっすよ!」

「?」


 喋ってた所は見られてんだから、何でも無いは無いだろうよ。

 ほら、シングがめっちゃ怪しい物を見る目をしてるよ。


「あー……そうだ。なぁヴァルダスさんよ、『Dアラカルト』って店、知ってる?」


 話題を逸らすのも兼ねて、俺はヴァルダスに店の場所を聞くことにした。

 魔王城に勤めていたとは言え、ここに来てしばらく経つだろうし、街の中に関しては詳しいはずだ。


「え……あ、あの店に何か……?」


 あれ、何かすごい不安になるリアクションなのは気のせいかな?


「……悪いこたぁ言わねぇ、やめとけぇい……」


 うお、今まで無言無愛想を貫いていた親方が喋った。


「あの店は、女子供連れで行くべきじゃあねぇ……」


 ……どんだけデンジャーなんだよ、Dアラカルト……


「……どうしても行くってんなら、遺書は書いておけ、預かってやる」


 親方が静かに、俺にペンと紙を差し出した。


 親方の目が超絶本気なんですが。

 え、マジなの? 死を覚悟すべき場所なのその雑貨店。


「親方、流石に死ぬは大袈裟じゃ……死ぬほど恐い人ではありますが……」

「……ヴァルダス、おめぇはラフィリアの本領を知らねぇんだ……」

「ラフィリアって……」


 確か、ヒエンが口にしていたデヴォラの弟子の名前だ。


「こんなあいつ好みの小僧があの店に行ってみろ、一瞬で孕まされるぞ」

「俺は男なんですが!?」

「あいつの前に性別なんて何の意味ももたん!」

「何者なのラフィリアさん!?」


 危険って、変態的な意味でか。

 ってか、恐ぇよ。男が孕むって何事だよ。


「いいか、店の場所は教えてやる。だが、店に入ったら一瞬も気を抜くな……ベルトはキツくしておけ。念のため、お嬢ちゃんとガキも、貞操帯を……」

「見境い無いのその人!?」

「ああ、無い。あいつにそんなものがあるはずが無い」


 親方がわなわなと震えている。

 もしかして親方、ラフィリアさんとやらに何かトラウマになる様な事をされたのだろうか。

 ってか何で親方は貞操帯を2つも持ってんの?


「俺も1度街中で襲われかけた事はあるんすけど……まぁ確かに、ありゃ人間の腕力じゃなかったっすね。親方が駆けつけてくれなかったら……」

「街中で……」


 どうしよう、そのラフィリアさんってのに会うの、すごく恐いんだが。





 でも、A級ダンジョンに挑む勇気は無い訳で。

 俺達は教えてもらったDアラカルトへと向かった。


 一応、忠告通りベルトはキツくしておいた。


「ここか」

「だぶ」

「うむ、間違いないな」


 繁華街の大通りから少し外れた場所。

 人通りはほとんど無い、まさに裏通りって感じの小さな道。

 そこに、その店はあった。


 店舗規模はそう大きくは無い。まぁよくあるコンビニくらいの規模だ。

 明るい色味のレンガ造りに、店先には花が溢れている。

 そして何か、ふんわりした看板に、荒々しい達筆で店名が刻まれている。

 一体どの層を取り込みたいのか、よくわからん。


「……何か恐ぇな」

「ビビってんじゃねぇよクソガキ」


 おい魔剣コラ。お前だって話は聞いてただろうに。


 ……まぁ、ビビってても仕方無い。

 意を決して扉を開け、入店。


「いらっはーい」


 俺達を出迎えたのは、明らかに酔いが回って呂律が狂った、酔っ払いの声。

 店内はオシャレな小物屋って感じだ。

 雑貨店を名乗るだけあり、ストラップから工具、缶ジュースやら防犯グッズ等々、品揃えは雑多。


 そんな店内の床に、一升瓶を抱いて転がっている美女が1人。

 先程の声の主だ。

 こう、襟がよれまくって、ゆるっゆるな服を着ている。

 アレだ、前かがみになると、男的に見えたら嬉しい物が見えちゃうくらいゆるっゆるだ。

 そんな衣類の雰囲気と、大事そうに抱かれた一升瓶が、この女性の自堕落さを物語ってる気がする。

 まぁいわゆるアレか、残念美人。


「……あの……」

「うーん……男の子と女の子と赤ん坊の匂い……」


 こちらを一切見ずに、女性は寝言の様につぶやいた。


「あ、……さくらんぼの匂いだ……うんうん、イイよ~」


 すごい不気味な発言をしながら、女性がゆらりと立ち上がる。

 一升瓶を大事そうに抱きかかえて。

 そして、


「うひょ~、しっかも私好みな顔だ~……神様、ありがとぅっ!」

「うおぉうぁあああっ!?」

「やうぶっ!?」

「んなっ!?」

「貴様! サーガ様に何をするか!」


 何の予備動作も無く、酔っ払ったその女性が俺に飛びかかって来た。

 あまりにも突拍子の無い動きだったがために、俺はそれを躱しそこね、サーガとコクトウもろとも押し倒される。


 つぅかシングさん、わかってたけど俺の心配もしてください。


 ってかヤバイ、下半身を守らなければ……と本能的に感じたが、心のどこかで「何故抵抗する必要がある?」とか言い出す小さい俺もいる訳で。

 こういうイベントは歓迎したいけどやっぱ何かアレじゃん? と理性的な抵抗を推奨する小さい俺もいる訳で。


「……ちっ」


 俺の中の小さい俺達が葛藤を繰り広げていた最中、不意に、女性が舌打ち。

 そして、一瞬にして俺の上からどいてしまった。


童貞チェリー童貞チェリーでも非処女かよ」


 ペッ、と唾を吐き捨て、女性は酒を呷る。

 非処女って何の話だ……男には処女も何も……うっ、頭と尻が……


 ……いや、何かわからんが、助かったのならいいや。

 少し残念がっている俺がいるのは、気のせいという事にしておこう。


「で、お客さん、何か用?」

「どうしてあんな事した直後にそんな対応できるんだ、あんた……」


 ゆっくり立ち上がりながら、俺はサーガに怪我が無いか確認。

 うん、怪我は無いが、あの酔っ払いに完全に怯えている。

 あーよしよし、大丈夫だからな。


 まぁ折れてる訳も無いが、一応コクトウの安否も確認しておく。


「あの……魔剣豪デヴォラの弟子の、ラフィリアさん、ですか」


 俺がそう問いかけると、ピクッと反応し、酔っ払いの動きが止まる。


「……もう1度聞くわ、あんた達、何の用?」

「っ……!」


 雰囲気が、変わった。

 事の次第によっては一瞬で殺してやる、そんな気配が、酔っ払いの鋭い視線から感じられる。

 彼女は特に何もしていない。

 なのに、喉元に刃物を突きつけられている様な、恐怖の混じった緊張感に襲われる。


 ……間違い無い、この人が、魔剣豪デヴォラの、2番弟子。ラフィリア。


 テレポート能力を持つ魔剣の使い手、という情報誌しかこちらには無い。

 そんな未知数な女性が、敵意を宿した目で俺達を見る。


「答えなさい」


 小さい動きだが、はっきりとわかった。

 今、ラフィリアは何かを取り出そうとしている。俺達が少しでも妙な動きを見せれば、刹那に「それ」を取り出せる態勢。


 魔剣、なのか……?

 ポケットに仕込んでいる様子だが……


「あの、俺達、実はデヴォラさんの所に行きたくて……」

「何故?」


 無駄の無い口調、質問。

 本当、先程までの酔っ払い全開状態はなんだったのか、本当に同一人物かすら疑いたくなる。


 だが、臆する必要は無い。

 俺達は、この人と敵対する要素は無いのだから。


「修行を付けてもらうためです」

「修行?」

「は、はい、紹介状も送られてる……らしいです」


 ラフィリアが、黙る。

 俺達を1人1人、爪先から髪の毛先に至るまでじっくりと観察している。


「あうい……」


 あいつ恐ぇよ、とサーガが俺の服を強く握る。

 確かに、こちらを観察するその目には、曇りの無い敵意が逆巻いているのがよくわかる。そのせいか、先程の奇襲の時とは違った、真面目な恐怖を煽ってくる。


 ……万が一の時、シングとサーガを逃がす時間を稼げる様に、俺もコクトウへ意識を向けておく。


「……確かに、嘘を吐いてる匂いはしないし、魔剣も持ってる……」


 ふむふむ、とうなずいたラフィリアのその目から、攻撃色が抜ける。口元も緩み、先程までの締まりの無い酔っ払い顔が再臨。


「あっはー、怖がらせてごめんねー」


 ……二重人格かと思える様な切り替えっぷりだ。


「……何か知らんが…ゲオル並の要注意人物だと言う事はよくわかった……」


 シングのつぶやきに、俺はうなづいて同意しておく。

 掴みどころが定まらない分、ゲオルより質が悪いかも知れない。


「じゃあー、自己紹介しておこっか。私はラフィリア。あなたが言った通り、デヴォラさんの弟子ですよん」

「あ、俺はロマンです」

「シングだ」

「う、うい」

「サーガ、それとコクトウです」


 サーガは未だにラフィリアにちょっと怯えている様だ。


「今後、何かあればよろしくねー……それじゃ早速……」


 早速、俺達を屋敷に送ってくれるのだろうか。

 すんなりだな……何かこう、この人、対人コミュニケーションには結構ドライな感じなんだろうか。

 とにかく、必要最低限以上の詮索はしない主義らしい。


「じゃーん」


 ラフィリアが取り出した物。

 それは、抜き身のハンドナイフ。

 メリケンサックにまんま刃を付けた様な、変わった形状をしていた。

 刃の色は空色で、遠目に見ると錆びている様にも見えなくはない。


 あれがテレポートを使える魔剣か。剣ってかナイフだが……

 って、待て、ラフィリアがそれを拳に装着して、何かすごいキレの良いシャドーボクシングしているのは何故だ。

 刃が風を斬る音がすごく明瞭に聞き取れる、良い素振りである。

 え? 俺達をテレポートさせるんだよね? ナイフファイトする訳じゃないよね?


「よしよし、調子良好。じゃ、サクッと転送しちゃおっかー」


 サクッとって、何をサクッとするつもりだこの人。


「あ、あの……」

「あ、大丈夫だよー。私の『ソラギリ』は斬った物をテレポートさせるんだけど、テレポート目的で斬った時は対象にダメージを与えないからー」


 へぇ、そういうシステムなんだ。

 なら安心だ。


 いや、恐いよ馬鹿か。


 例え斬れないとわかっていても、ナイフで斬りつけられるのは抵抗あるに決まってるだろう。

「弾は全部抜いてあるよ」って実銃渡されたとして、はいそうですかと自分の頭に銃口向けてトリガー引けるか?


「あ、一応手元が狂うと……まぁ、そういう事もあるから、大人しくしててねー」

「そういう事って何!? っていうか酔いが回って既に色々フラフラしてませんかねあんた!?」

「うーい、じゃあまず君からねー」

「ひぃっ!?」


 ラフィリアが笑顔で接近してくる。


「ちょ、待っ、心の準備が…」

「だぶい! だぶい!」


 俺に迫ってくる、=サーガに迫ってくる事である。

 サーガが尻尾で俺の手をペチペチと叩き、「逃げろ! 逃げて!」と訴えている。

 心底ラフィリアが恐いらしい。


「おい貴様、サーガ様を怯えさせ…!」


 抗議しようとしたシングの額へ向け、ラフィリアは「えい♪」と軽い感じでそのナイフをサクり。

 一瞬にして、シングが空色の光に包まれ、消えた。


「シング!?」

「やい!?」

「はい、今度こそ君ねー。えーい、飛んでっけー☆」

「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 俺の話など欠片も取り合わず、そして逃げる間もくれず、ラフィリアはその刃を振るいやがった。



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