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★風邪を引いちゃった第14話

「ごちそうさまでした…っと」

「あぶあうあー」


 満天の星空の下、俺達は焚き火を囲み、夕食を済ませた。

 サーガはリンゴの剃りおろし、俺とシングは1つ前の街で購入しておいた乾燥パンとそこの川で取った魚だ。


 俺達が『サンシエルバの山道』を抜ける頃にはすっかり日も暮れ、次の村までも距離があった。そのため、俺達は山道を抜けてすぐの川原にテントを張り、夜営する事にしたのだ。

 ちなみに、サーガの「あぶあうあー」は「ごちそうさまでした」に限り無く近い意味を持っている。


 リンゴの 磨り下ろしを食い終えたサーガは、満足したのだろう、俺の膝の上でぷひーとゲップ。

 相変わらずふてぶてしい野郎だ。まぁ悪くない…むしろグッドだけどな。いや、グッドでも無い、ファンタスティック?


「……にしても、ネックレスって、何か違和感あんだよなぁ……」


 俺の首には、小さな石が括りつけられたネックレスが下がっている。

 石の色はガラスの様な半透明色。

 宝石の類では無い。いわゆる魔石とか言う奴、らしい。


「まぁ、普段から付ける習慣が無いと、そう感じるだろう」

「やう」


 このネックレスは、あのE級ダンジョン管理者、イコナからもらった物だ。

 イコナのダンジョン、『魔石の揺り篭ダークネスコールマイン』のクリアボーナス、らしい。

 ライオンの件を解決した後、「大したお礼はできねぇけんど」と言って、1つだけくれたのだ。


 シングは「その手の装飾品は余り好きじゃない」との事。

 サーガだと、こういう細かい物は飲み込んでしまう危険性がある。

 コクトウはそもそもネックが無い。

 …という消去法で、俺が付ける事になった。


 何でも、持ち主に『危険』が迫るとこの石の色が濁るらしい。

 要するに、危険探知機みたいなモンだ。

 初心者向けとされるE級ダンジョンのクリア報酬としてはピッタリのアイテムだろう。


 ……まぁ、正直この調子で旅が続くなら、無用の長物だが。


「さて、そろそろテントに入るか。この時期は虫も増え始めている。サーガ様が蚊に刺されでもしたら大問題だ」

「おう、そうだな」

「だっぷ」


 蚊くらい平気じゃい! とサーガは言っている。

 虫刺されの恐怖を知らんのは幼さか。掌や足の裏を刺された後のどうしようのさなったら無いぞ。


「虫ケラなんぞに怯えてんのか、情けねぇ」

「まぁお前は怯える必要も無いわな……」


 しっかし口を開けば悪態ばかり吐く魔剣だ。そして結構頻繁に口を開くから質が悪い。

 ゴキブリの群れに浸してやろうか全く。


「少し早いが、就寝の準備をするのも良いだろう。サーガ様も少しうっとりし始めているしな」

「どぅーい!」


 まだまだ夜はこれからだぜ! と言うサーガの目は、確かに眠そうに蕩けている。

 あぁもう、「まだイケるし……」とか強がりながら目をこすっちゃって……可愛いなこの野郎。

 しっかし食欲満たしたら即座に睡眠欲か。

 赤ん坊は羨ましい。


「あ、そうだ、眠ると言えば……」

「何だロマン、アタシに何か文句でもあるのか」

「お前な、いい加減布団を蹴っ飛ばすの止めろよ。ガキじゃねぇんだから」

「あっぷ?」

「まぁ、一応お前もな」


 ここ最近、気候の温暖さが増してきたせいか、シングもサーガも寝相が悪い。

 夜中に何回布団をかけ直しても朝起きたら蹴っ飛ばしてやがる。

 まぁ、サーガは仕方無いとして、だ。


「暑いんだから仕方無いだろう」

「油断してると、この時期でもすぐ風邪引いちまうぞ」

「アタシの免疫を舐めるな」


 フン、とシングがふんぞり返る。

 サーガも意味も無くそれを真似て、「ぷい」とふんぞり。


「お前らな……」


 夜中にシングに布団をかけ直す際、その太腿に対してやるせない気分になる俺の気持ちを考えて欲しい物だ。

 大体何でこいつのパジャマ、全部ホットパンツ丈なんだよ。思春期まっさかりの高校男児には少々辛い物がある。


「大体、アタシ達魔人は人間より数倍丈夫なんだ。そうそう風邪なんぞ引かん。心配してくれる事には礼を言うが、無用だ」

「……そーですかい」


 ま、そこまで言うなら、もう何も言うまいよ。





 小鳥の囀りがやかましく感じる時間帯。

 朝日に照らし出されるテントの中で、俺は溜息を吐いた。


「……何だ、その目は……」


 ぜぇ、ぜぇ、と息が途切れ途切れのシング。

 顔面が真っ赤で、目が虚ろだ。


「……昨日の会話はフラグだったか……」

「また旗の話か……?」

「いや、もう何か、……もうね。アレだ。話を振った俺が悪かったよ」


 完全に風邪を引いてやがるよこいつ。

 わかりやすいくらい風邪だよこれ。


「っ……しかし、アタシともあろうものが……何と情けない……!」

「だう?」


 大丈夫? と聞きながら、サーガがシングの頬をペチペチと叩く。


「ああサーガ様……心配をかけてしまって申し訳ありません……死にたい」

「弱気になり過ぎだろ……」


 体調を崩すと人は後ろ向きになると言うが、そこまで行くか。


「とりあえずあれだな……マスクは無ぇから、この布巻いとけ」


 サーガに伝染ってはシャレにならんし、そんな事になればシングが本当に自害しかねない。


 ……さて、どうしたものか。

 このままここに留まって療養すべきか、それとも村を目指し、そこの医療機関を頼るべきか。

 まぁこの様子じゃ、シングは歩くのも辛いだろう。

 それに症状は重いが、ただの風邪っぽいし。今日1日、ここで安静に……


「準備は……オーケーだ……行くぞ、ロマン」

「はぁ? おい、大丈夫かよ?」


 鼻から下に布を巻き、シングが起き上がろうとする。

 しかし、尻を浮かせる事もできずダウン。


「ぐぅ……」

「無理すんなって」

「やい」

「そぉだぜ。テメェらは軟弱なんだかんな。大人しく寝とけ小娘」


 コクトウもイヤミっぽいではあるが、一応シングを気遣う様な発言をする。

 この魔剣も気を遣うくらい、シングはフラッフラなのだ。


「う、うるさい……アタシの不注意のせいで足が止まるなど、あってはならん事……だぁぁぁ……」


 シングは再度起き上がろうとしたが、またしてもぶっ倒れる。

 こりゃもう完全にダメなパターンだろう。


「もう大人しく寝てろって。1日くらい…」

「うぅぅぅぅ……うぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅ……」


 すごく悔しそうにシングが唸る。目がすげぇ潤んでる。

 どんだけ悔しがってんだよ……

 まぁ確かに、自分が誰かの足を引っ張ってしまうというのは良い気分では無い。

 特に、シングの性格を考えれば、それはとてつもない拒否反応の出る事だろう。

 俺に注意されたにも関わらず対策を怠った結果、ってのもあるし。


「……ったく、仕方無ぇな……」




「お、下ろせ……自分で歩けると……言っているだろう……」

「はいはい、さっきもそう言ってブッ倒れただろ」

「うぐぅ……」


 俺の現状を説明しよう。

 まず、肩からはエナメルバッグ。腰にはコクトウ。

 胸には、「今日は抱っこの気分」と訴えて来たサーガをベビーショルダーで縛り付けてある。

 背中には、シング。

挿絵(By みてみん)

 まぁ、要するにおんぶである。

 両手と背中に感じる柔らかな感触は役得という奴だ。

 これくらいの見返りは頂戴したってバチは当たるまい。


 っていうかすごい状況だよな。

 コクトウを人で数えるなら、俺達は4人パーティ。

 その4人が4人、現在一塊になっている。


 ま、ゴウトの元で培ったタフネスがあるから、重量的な意味では全く問題無い。


「これに懲りたら、ちゃんと布団被って寝ろよ」

「……わかった……」


 素直なシングも悪くないな、とか考えつつ、俺は歩を進める。

 シングの精神衛生的な面を考慮するならば、さっさと次の村に向かうべきだろう。




 サンシエルバの山道を抜け、数時間程歩いた所にある村、『カナンマ』。


 村の中心には水路が通っており、おそらくこの水路を中心に発展したのだろうと思われる。

 意外と建物は多い。まぁどれもレトロな感じの木製屋で、街で見かけた様なレンガ造りは一切無い。

 確かに街に比べると規模は小さいが、村としては大きい部類だろう。


 とりあえず俺達は、このカナンマの村で唯一の町医者の元へ向かった。

 その町医者が開業している建物は、外装は普通の民家だが、中はきちんと待合室と診察室が区別されていた。


「ただの風邪ねぇん」


 何か異様にグラマーなその女医は、そう簡単に結論を出す。


「まぁでも魔人が風邪なんて珍しいわぁ。お腹でも出して寝てたの?」

「うぅ……」

「で、即効性のある薬とぉー、じっくり治すタイプの薬があるけど……」

「即効性の方で頼む……!」


 シングの要望を聞くと、その女医は何故か診察台に転がるシングから視線を外し、俺らの方へ。


「じゃ、坊や達はすこーし待合室に行っててくれるかなぁ~?」

「え、何…………了解」


 すぐに俺は察した。


 女医が薬箱から取り出した小さな紡錘形ぼうすいけいの白い物体。

 アレは、アレだ。うん、風邪の特効薬に限り無く近いアレだ。

 見てるだけで何か知らんけど尻に違和感を感じてしまうアレだ。


「よーしサーガ、待合室の窓から雲の数でも数えて来ようぜ」

「あう? あい」


 何で? 別にいいけど、とうなづくサーガを抱っこしながら、俺は待合室へ。


「あ、お、おい貴様? な、何をする気だ? うひゃわっ!? 何故脱がす!? って待てやめろ!? それをどこに入れる気だ!?」

「はいはい、大人しく大人しく。力抜かないとキツいわよ~」

「っぅ!? ま、待て! ひ、広げるな!」

「まんまだと入れづらいでしょぉ。ん、あ、もう。尻尾で邪魔しなーい、の」

「ひにゃっ!? し、尻尾を引っ張るな! ふ、ぃ……ち、ちかりゃが……」

「さ、一気にイくわよぉ」

「ま、ひぇ、やめ…」

「はぁぁ~い、挿、にゅーん☆」

「ひょ、まっ、た、たしゅけ、ロマ…ッ~~~~~~……」


 何か、俺に助けを求める様な声が聞こえた気がする。

 つぅかあの女医さん絶対ドSだ。声が超絶楽しそうだった。


 ……まぁ何だ、座薬って、恐いよね。





「もう嫁に行けない……」


 両手で顔を覆って待合室のソファーに座り込むシング。

 お前にそういう恥じらいがあったのか、とも思うが、何かすごいションボリしてるので今はそっとしておこう。


「だ、大体何なんだあの投薬方式は……!? 馬鹿なのか! 開発者は誰だ!? アタシの最大魔法で吹き飛ばしてやる!」


 どうやら、魔人には座薬という文化は無かったらしい。

 そこそこ年齢いってから初めての座薬体験か。そらご乱心もするわな。


「でもまぁ、結構元気になったじゃん」

「やい」

「やかましいったらありゃしねぇがな」


 まだ顔は赤いし、瞳の色も正常とは言い難いが、息は落ち着いてるし、立ち上がってもフラつく程度。

 先程までの立ち上がる事すら難しい状態に比べれば、かなりの回復具合だろう。

 座薬がすごいのか、魔人の回復力がすごいのか、はたまた両方の相乗効果か。


「ぐぅ……だが、アレだけの事をしたのに全快では無いのは、いささか見合ってないぞ……!」

「しょうがねぇだろ」


 風邪の特効薬なんて作れたら、ノーベル医学賞物どころか世界中から賞賛される程の快挙だと聞く。


「ま、何だ。これで今日1日この村で安静にしてりゃ、明日にゃ全快確実だろ」

「な、ふざけるな。もう平気だ、休む必要など……」

「そろそろ俺だって、ゆっくり休みたいんだよ」


 この村の先は、しばらく森や山が続く。

 ここを出てしまったら、次にゆっくり休めるのはいつになるかわからない。

 不完全な回復状態で出て、またぶり返されても面倒だ。

 適当な理由を付けてでも、今日はしっかり休んでもらう。


「むぅ……この軟弱者め……」

「へいへい、すみませんね」


 風邪っ引きに言われたくねぇっつぅの……



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