7、 おこりんぼうのピウラ
ぼくはその日からピウラのめしつかいみたいになった。
ピウラ……あの日、ぼくがまよいこんだアクリャワシで出会った女の子だ。ピウラをおこらせたらぼくは世にもおそろしいバツを受けなくてはならない。それを知っていて、ピウラはぼくをつごうよく使った。
ピウラは気まぐれにアクリャワシをぬけ出してくる。たいていは太陽が日時計のちょうど西南にかげを作る午前中だ。その時間、本当なら太陽の巫女― アクリャ ― であるピウラはおいのりをささげに太陽の神殿に行かなくてはならないらしいのだが、どういうわけか、だれにも見つからずに外出できるようだった。
時間はだいたいきまっているのだが、きまぐれというのは来ない日もあるからだ。
しかし、ピウラにめいれいされているぼくは、その時間に宮殿とアクリャワシをつないでいるうら道で待っていなくてはならない。一日中待っていて、日がくれてもピウラが来なかったこともあった。
これではまるっきりピウラの言いなりだ。はらが立つけど、バツはそれ以上におそろしかった。
いつの間にか、ピウラは宮殿の子どもたちにまじって遊ぶようになった。しかも、子どもたちの中の女王さまのようで、みんながピウラの命令にしたがうようになった。
宮殿の子どもたちは七つになると勉強や武術を教わる学校に入らなくてはならない。めしつかいの子どもでも学校に通う子は多かった。ぼくは六つだから遊んでいる子どもたちの中では年上のほうだ。だからぼくより少し年上に見えるピウラが、おそらく宮殿の遊びなかまの中ではいちばん年上なのだと思う。
それにその気の強さから、だれもさからえなかったのだ。
みんながピウラにさからえないことでほっとしている自分がいた。ぼくだけがピウラに弱みをにぎられているんじゃ、なさけない。
よくよく考えてみれば、アクリャの仕事をさぼってアクリャワシを抜け出してくることを知っているぼくは、ぎゃくにピウラのひみつもにぎっていることになるじゃないか。
あるときそのことに思い当たって、ぼくはピウラに強気で言ってみた。
「ぼくがアクリャワシにまよいこんだことを言ったら、ピウラがアクリャワシからぬけ出してくることも言ってやるぞ」
ピウラは、ぼくを見てまたバカにしたようにわらったが、その言葉には観念したようだ。
「やっと気付いたの? そうね、おたがいさまってことになるわね。わかったわ。これからあんたは同じひみつを持つなかまよ」
気の強いピウラは、それでもかちほこったようにニヤニヤとしていた。
しかしぼくはもうピウラにびくびくすることはない。強がっていてもおしおきはこわいのだろう。ようやくピウラはぼくを友だちとして見てくれるようになったのだ。
毎日だいたい決まった時間にやってくるピウラは、そのうちオマよりも親しい友だちになっていた。
ピウラはアクリャワシでしかられたことや自由に遊べないことをぼくにこぼすようになった。ほかの人にはぜったい言ってはいけないことなのだろうけど、アクリャワシの生活はピウラにとってつらいことがいっぱいあるようで、ぼくが聞いてあげることでピウラの気持ちもおちつくようだった。
「先生がしつこく言うの。きちんと服をととのえなさいとか、その口のきき方は何ですかとか。とくにあたしにばっかり言うのよ。だからすねてにらんでやるの!」
「先生って?」
「アクヤリャにいろんなことを教えているおばさんたちよ! アクリャワシでは自分の家族に会えないからいつもふきげんなのよ」
そんなピウラを見ていて、ぼくはママコーナがしかりたくなる気持ちが何となくわかって、心の中でくすっとわらってしまったが、ピウラのことはきらいにはならなかった。それよりも、がまんしながらきびしいアクリャワシでくらしているピウラはすごいなと思った。
そうやってピウラのふまんを聞いているうちに、ピウラならぼくのなやみも聞いてくれそうな気がして、ある日ぼくはだれにも言えなかった話をピウラにうち明けることにした。
つまり本当のお父さまとお母さまが分からないけど、すごく年上のお兄さまがいることや、お兄さまはとてもえらい人のようでみんながお兄さまに頭を下げていたこと。そして本当のお母さまに会いたいと思っていることを。
いがいにもピウラはぼくの話をしんけんに聞いてくれた。宮殿の中の子どもたちのように、それを聞いてぼくをへんな目で見ることもない。
「じゃあ、兄さんに聞けばいいじゃない? 兄さんなんだから、母さんは同じ人でしょ?」
ピウラはすなおに思ったままを口にする。なぜかぼくにはそれがとてもうれしかった。
「ちがうんだ。お母さまがちがうのにお兄さまなんだって」
「ふぅん。よく分からないわ。あたしには兄さんも姉さんも、弟も妹もたくさんきょうだいがいるけど、みんな同じ父さんと母さんの子よ」
「へぇ。いいな、ピウラは! そんなにたくさんの家族がいるの? いつもみんないっしょでしょ? うらやましいなぁ」
ぼくがそう言って目をかがやかせてピウラを見ると、なぜかピウラはかなしそうに目をふせた。
「かるがるしくそんなふうに思うもんじゃないわよ。あんたって、本当にシアワセな子ね! お母さまお母さまなんて泣いてないで、自分がシアワセだってことに気づきなさいよ!」
そう言い終わると、急にするどい目でぼくをにらみつけて立ち上がり、ピウラは宮殿からアクリャワシにぬける道のほうへと走りさってしまった。
このとき知らずにピウラをきずつけてしまったことを、ぼくはずっと後になって気づいたのだ。