26、 問題(もんだい)のこたえ
「ユタさま、皇帝陛下がおよびです。いっしょにいらしてください」
カパコチャのおまつりがおわって、何日かたったある日、お兄さまのめしつかいだというおじいさんが、部屋にぼくをよびに来た。
おまつりのすぐあとは、力がぬけてしまったように、何もすることができないで部屋にこもっていたけれど、ようやく元気がもどってきたところだった。
ぼくは、おじいさんについていった。
おじいさんは、宮殿のほそい道をくねくねとまがって、おくのほうへと歩いていった。そうしてたどりついた場所は、ぼくの知っている場所だった。あの『金の部屋』だ。
部屋の入り口でぼくをふりかえって、中へ入るようにというしぐさをすると、おじいさんは中にむかって頭を下げて、どこかへ行ってしまった。
『金の部屋』のいちばんおくの、あの『戦士と花』の絵の前に、お兄さまが立っていた。お兄さまは絵のほうを向いていたけれど、ぼくが近づいてきたのが分かったようで、ふりかえらずにぼくに話しかけてきた。
「ユタ、私がおまえに出した問題のこたえは、見つかったか?」
そうだ。お兄さまにそれをこたえなくてはいけなかった。ぼくはそれまで問題のことをすっかりわすれていたけれど、あわてることはなかった。もうちゃんと、こたえはわかっていたからだ。
「はい」
ぼくは、はっきりと言った。
すると、お兄さまはゆっくりこちらを向いて、しずかに言った。
「では、こたえをきかせてもらおう」
ぼくは、お兄さまの目をまっすぐ見ながら、ぼくの考えたこたえを言った。
「お山に行くピウラを、ぼくは止めることはできませんでした。カパコチャのおまつりで、本当にたくさんの人が、ピウラたちにたすけてほしいとさけんでいたのを見たからです。お山に行かないでとぼくがたのんでも、ピウラはその人たちをすくうために、ぜったいに行くと言ったでしょう。
それなら、ピウラは、どうしたらうれしいのだろうと考えました。それはきっと、ピウラのいのりがとどいて、たくさんの人がしあわせになることなんだと思いました。
お山にいるピウラのいのりで、かなしんでいる人やつらい目にあっている人がへったら、こんどは、都にいるぼくたちが力をかして、もっとたくさんの人がしあわせになれるようにたすけてあげることが、ピウラのよろこぶことなんだと思います。
ぼくはこれから、たくさん斧のけいこをして強くなります。勉強して、たくさんのことを知ろうと思います。そしてピウラのいのりに少しでも力をかせるような大人になりたいと思います。ほんの小さな力かもしれないけれど、そうすることが、ピウラもすくって、それからくるしんでいる人をたすける方法なんだと思います」
ぼくの話をじっと聞いていたお兄さまが、そっとぼくのかたに手をおいて言った。
「あのあと、いっしょうけんめいにこたえをさがしたのだな。そして、いろんなことを知ったのだな。
おまえが出したこたえが正しいかどうか、それは、今はわからない。それは、おまえが大人になったときにわかるだろう。そのこたえが正しかったといえるような大人になるのだ、ユタ。そのこたえを、けっしてわすれるでないぞ」
ぼくは大きくうなずいて、「はい」とへんじをした。お兄さまはにっこりとわらってうなずくと、また金の絵のほうを向いた。
ぼくも同じように絵を見上げる。
戦士のかかげる『チャスカの花』は、お山の上でいのりをささげるカパコチャと同じだ。チャスカと同じ名のこの花を見ているうちに、どこからかチャスカのわらい声が聞こえてきたような気がした。
それからすぐに、お兄さまは戦争に行くことになった。『年取ったお兄さま』のいのちをうばって、『お父さま』にけがをおわせた南の戦争は、なかなか終わらなかったのだ。
お兄さまにしたがって、たくさんの男の人も戦いに行くことになっていた。
お兄さまが戦争に行く日、まちにはカパコチャのおまつりのときのように、たくさんの人が見おくりに出ていたけれど、あのときとはちがって、みんなかなしそうな顔をしていた。だれもが、戦争に行く人たちの無事をねがって、あの赤いカントゥータのえだをにぎりしめていた。
きっと心の中で、ピウラやクワンチャイやオマの兄さんにおねがいしているんだろう。「どうか戦争が早く終わりますように」と。
ピウラたちの役目の大切さを、そのときもぼくは思い知った。
ピウラのいのりをたすけるために、強い大人になろうとちかったぼくだけど、こんなたいへんなときに、まだ何の力にもなれないことがくやしかった。
でも、だからよけいに、いっしょうけんめい斧の練習をした。宮殿の語り部にいろんなお話を聞きにいった。
そしてぼくも、遠いお山のほうを向いて、まいにちまいにち、おいのりをした。
早く戦争が終わって、お兄さまも、お父さまも、戦争に行ったたくさんの人たちも、無事にもどってきますように、と。
 




