25、 カパコチャのおまつり (その2)
「ピウラぁー !」
ぼくはおもわずさけんで、かけだした。
輿はたくさんの男の人にかつがれているので、どんどんすすんでいってしまう。ぼくは、あふれる人のあいだをかきわけるのがやっとだ。
人にぶつかってどなられたり、ひめいを上げられたりしながらも、かまわずに人ごみの中をすすんでいった。でも背の高い大人ばかりで、前がぜんぜん見えない。
ようやく輿の通り道に出たけど、そのときには輿ははるか遠くに行ってしまっていた。
ぼくはまた人ごみの中にもぐり、こんどは大きく外がわを回って、輿のぎょうれつが向かっているまちの門へとまっすぐに走った。
走って走って、門のところにやってきたとき、すでにぎょうれつはまちを出てしまったあとだった。
門のところに立っていたお役人が、手でぼくを止めて、おもそうな木戸をしめてしまった。
ぼくはまちをかこっている高い石のかべにそって走った。
どこかにかべの上にのぼれる場所がないだろうかと、ひっしにさがした。
ちょうどかべの上にえだをのばしている大きな木があった。ぼくは木の根もとに持っていたカントゥータをおくと、みきのくぼみに手をかけてよじのぼった。みきはざらざらしていて、手や足がきずだらけになった。でもむちゅうだったから、いたいとも思わなかった。
ようやくかべの高さまでのぼり、えだをつたって、かべの上に立った。
石かべの上は、ぼくの両足をそろえたくらいのはばしかない。その高さはおとなの背の高さのなんばいも高かった。下を見てしまうと足がすくんでしまう。ぼくはまっすぐに門の方を向いて歩き出した。
門の近くまで来ると、まちはずれの丘をのぼっていくぎょうれつが見えた。いちばんうしろにいるのが、ピウラの輿だ。
「ピウラぁー。 ピウラぁー」
何度か輿に向かってさけんだけど、かべの中からひびいてくる街のさわぎがじゃまをして、輿にまでとどきそうになかった。
輿は、どんどんはなれていく。
ぼくはそのとき思いついた。ピウラの本当の名まえをよんだら、さわがしい音の中でも、ピウラは聞きとってくれるんじゃないかと。
大きく息をすって、ぼくはおもいっきりその名をさけんだ。
「チャスカぁー。チャスカぁー」
その声がとどいているのか、分からない。でも、ぼくはそのまま、さけびつづけた。
「チャスカぁーー。
ぼくは、強くてかしこい大人になる。こまっている人をたすけられるような、大きな力をみにつける。チャスカがお山の上で、たくさんの人の幸せをいのっているなら、ぼくはこの手で、たくさんの人をたすけてあげるんだ。
チャスカのおいのりを、ぜったいにむだにしないように、力をかせるようになるために、強くてかしこい大人になる。
だからずっと、お山の上で見まもっていてよー」
ぼくは、声がからからになった。それいじょう、何もさけぶことはできなかった。
輿が止まらずに小さくなっていくのを見て、ぼくはけっきょく、ピウラに何もつたえられなかったのだとわかった。
それでも、いまピウラ……チャスカにちかったことは、ぜったいにまもりとおしてやるんだと、心にきめた。
小さくなっていく輿を見つめていたぼくの目に、しんじられないものがうつった。輿の上にいる小さなせなかから、上にむかってまっすぐに手がのびていた。高く上げたその手が、左右にゆれだした。
チャスカが、ぼくに手をふっているんだ。ぼくの言ったことを、ちゃんと聞きとどけたよと答えるように、手は大きく左右にゆれていた。
見えないことはわかっていても、ぼくも大きく手をふりかえした。そしてかれた声をふりしぼって、さけんだ。
「ありがとうー。ずっと、ともだちだよー。ぜったい、わすれないよー」
もう、本当に小さく小さくなってしまったせなかが、さいごに両方のうでを上げて大きくふったのが見えた。そして輿は、おかの向こうへときえていった。




