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13、 まいご

 


 まがりくねった通路(つうろ)を走っていくうちに、ぼくはおかしなことに気づいた。

 行っても行ってもあの水桶(みずおけ)中庭(なかにわ)にたどり着かないのだ。どこまで行っても建物(たてもの)と建物のすき間のせまい通路がつづいているばかりだ。

 さすがにこんなに遠くはなかったはずだ。ぼくはやっと、入りこんだ通路がちがっていたことに気がついた。



 どこへ行っていいのかわからない。でも、ちがう道を先にすすんでも意味はない。ぼくは来た道をひきかえして、さいしょのわかれ道を、来た道とはちがうほうへまがってみた。


 しばらく行くと、美しいもようの(ぬの)が入り口にかけられた小さな部屋(へや)の前に立っていた。

 中からさっき織物(おりもの)のやかたで聞いたような、とんとんたんという音が聞こえていた。しかし織物のやかたのようにたくさんの音ではなく、ひとつだけの小さな音だ。

 ぼくはつい、まどによってその中をのぞいていた。


 中には女の子がいた。おそらく織物のやかたにいたアクリャたちと同じくらいだと思うけれど、女の子というより女の人といったほうがいいかもしれない。そう思う理由はその人が、織物のやかたのアクリャたちよりずっと大人びていて、とてもきれいな顔をしていたからだ。

 とんとんたんと布をおっていくその手つきもとてもなめらかで、そのすがたにうっとりと見とれてしまう。織物のやかたでしかられていたアクリャのものとはくらべものにならないほど、おり上げられる布のもようは美しかった。


 こまったことに、ぼくは何かにむちゅうになると、自分のやらなくてはいけないことをわすれてしまうくせがあるらしい。そのときぼくは、ピウラとのやくそくも、自分がアクリャワシでまいごになっていることも、すっかりわすれてしまっていたのだ。


 どのくらいぼくは、その女の人と彼女(かのじょ)がおる布に見とれていたのだろうか。

 ふと、女の人が織物の手を休めて顔を上げた。その先にまどからのぞいているぼくの顔があったから、おどろくのも無理はない。目をまんまるにして、女の人はぼくの顔をじっと見つめた。

 ぼくはもう、かくれることもできなくなって、女の人の目をじっと見つめ返した。

 ここで彼女がおどろいてさけんだら、ぼくはもうつかまるしかない。けれどもその人はだまってぼくを見つめているだけで、声を上げることはしなかった。

 ぼくのほうがよほど、おどおどとした目で見ていたのかもしれない。

 しばらくぼくを見つめていた彼女がとつぜんくすっとわらった。

 そして口をおさえてうつむき、いっしょけんめいわらいをこらえようとした。それでもおかしくてしかたないのか、わらいをこらえながらも(かた)がふるえているのがわかった。

 何がそんなにおかしいのか、理由が分からないから、ぼくは彼女のようすをただじっと見つめていた。 女の人はしばらくそうしたあと、目になみだをためてふたたび顔を上げると、しずかにぼくに話しかけてきた。


「あなたは空から落ちてきた(かみなり)の子かしら? かわいいお顔がまっ黒よ。ふいてあげるから中に入ってらっしゃい」


 ぼくはその人が言うままに、部屋の入り口にまわって中へと入っていった。女の人は手もとにおいてあった布を持ってぼくのところにやってくると、ぼくの頭をそっとおさえて顔をやさしくぬぐってくれた。


「これで少しはきれいになったかしら? こんなお天気の日にどこから落ちてきたというの? どこかに雨をふらせに行くと中だったのかしら?」


 まるでぼくが雷の子だと信じているような口ぶりだ。ぼくをからかっているのか、本気でしんじているのかわからない。でもぼくが宮殿(きゅうでん)からやってきたことを言うわけにはいかないから、ぼくはとりあえずうなずいた。


「でもおかしいわね。あなたが着ているのはピウラの服ではなくて?」


 はっと気づいて、ぼくはまっ赤になった。そうだ。ぼくは女の子のすがたをしていたのだ。

 アクリャワシでは服のもようでだれかが分かるようだ。だからピウラの服を()りて来たことはもうすっかりばれてしまっている。


「ごめんなさい。ぼくはどうしても知りたいことがあって、ピウラと服を交換(こうかん)してアクリャワシ(ここ)にしのびこんだんです。でもピウラに無理やりたのんだのは、ぼくです! ピウラはわるくないんです」


 どうしようもなくなって、ぼくは女の人に正直(しょうじき)に話した。

 これで、ぼくはひどいバツを受けることになるかもしれない。それよりも、ぼくのせいで、ピウラまでもがバツを受けることになったら大変だ。

 けっきょく、お母さまには会えなくて、ぼくのわがままでピウラにもめいわくをかけてしまうなんて。


 しかしそんなおそろしいことになるかもしれないと分かっていながら、つい正直に話してしまったのは、その人にはうそをついてもすぐに分かってしまうような気がしたからだ。

 はじめて会った気がしない。その人は、ぼくの心の中をすべて知っているように思えた。





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