終局
最終話
「あ、おはようございます!ユウトさん!」
何時ものようにヒマリちゃんのが先に起きている。
駄目だ、二度寝したい。
ヒマリちゃんに起こされたから、それは許されないけど。
しゃあなし、ヒマリちゃんの膝で我慢しよう。
「ひゃっ!?ユウトさん!?」
「あと、10分…………」
「あ、あう、あう………………」
あぁ、この心地が最高だ。
この柔らかさとフィット感、安心感。
これならあと五時間寝れる。
「ゆ、う、ちゃん?」
「さぁて!目が覚めたぞ!おはよう、マリ姉、ヒマリちゃん!」
「誤魔化されないわよ?」
ですよねぇ。
バチバチ!
人差し指と親指の間で、電流を流す。
やってるのは3色の雷の実験。
青の雷が指の間を揺らぐのをじっくりと観察する。
むぅ。
徐々に形を変える青の雷。
そのまま、暇をもてなす余し、二つの指の間で星マークを作る。
イメージ的にはペン回しの練習をして、ペンを自在に操れる様にする感じ。
そのまま、形をハートに移行。
だけど、これが中々難しい。
試行錯誤した上でハートが出来ずにグニャグニャして来た所で投げ出す。
無理だ。
今度は、溜めておいた水に指をつける。
「んぎゃっ!」
一瞬、静電気の様にピリッときた。
制御がうまくいってない証拠だ。
だけど、青の雷には威力が殆ど無い。
特に支障は無い。
取り敢えず水の中で上手く操ることは今はまだ出来ないということはわかった。
空気中で操るのが限度か。
青の雷を引っ込めて、黒の雷を呼び出す。
ここの入れ替えまで5秒。
ダメだ、時間かかりすぎ。
今度は黒の雷を星型にしようとするが、これも上手くいかない。
うむむ。
黒の雷は何故か触ることができるので、強度の変更を試してみる。
雷なのに、触れるとはこれいかに?
電子の代わりに分子が移動してるのかねぇ?
柔らかくなれ、柔らかくなれ。
そう思い、黒の雷をいじるけど硬いまま。
ダメだ、どうしようもねぇ。
今度は白の雷。
時間にして10秒。
ぐぬぬぬぬ!!
白の雷を指の間で発生させると好きに暴れる。
イメージとしては小さな落雷。
あと、バチバチ音が大きいから怖い。
これ、どう見ても普通の雷だよなぁ。
こういう王道な能力は個人的に使い辛い。
どうしても後回しにしてしまう。
さて、楽しい科学の実験の結果だが、ナイアちゃんとの攻防で目覚めた雷について。
3色に分岐しました。
それぞれが特徴を持っています。
名前は、刻闢爽雷。
以上。
後は分かりません。
分からないなら分からないなりに有効活用の方法を模索してるが、結果として活用方法は戦闘にしか無さそうだ。
いや、攻撃力が足りなかったから大歓迎なんだけど。
これからどうやってこの能力を活用するか、それが問題だ。
力が足りないのは仕方ない。
だが、手段が無いのは改善しなければいけない。
手を変え品を変え、騙し虚をつく。
そういう意味で、この能力をどう使うか。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃ、分かりやすいんだよなぁ。
共有くらい有用性、汎用性があり、不透な能力が使いやすい。
だけど、それじゃあダメだった。
そんな手札がありながら、俺はナイアちゃんに負けた。
勝つなんて図々しいことは言わない。
だが、何も出来ない現状ではダメなのだ。
これから先、ナイアちゃんと同格か格上の相手に会った時、どうしようもなくなってしまう。
そんな訳で、化学実験を頑張っている。
なんだ、これ。
本当はマリ姉に稽古をつけて貰いたいんだけど……。
窓から見える外にいるのはヒマリちゃんとマリ姉。
2人は組手を行っていた。
ヒマリちゃんも思うことがあったのだろう。
戦い方を学びたくて、マリ姉に頼みこみ、ヒマリちゃんがマリ姉に弟子入りした形だ。
そして、ヒマリちゃんはその才能をメキメキと伸ばしている。
更に根が真面目なのか空いた時間があればマリ姉に教わったことを反復している。
下手したら直ぐに俺を追い越して行くかもしれない。
おちおち年上面もしてられない。
更に、ヒマリちゃんみたいに真面目な鍛錬を出来ない俺は、今更ながらマリ姉に稽古を頼むのに罪悪感を感じてしまっている。
人の時間を取るってのは案外申し訳ないことなんだと気付くのがかなり遅かった。
仲が良いとこういう所が曖昧になると気付かされた。
そんな訳で、マリ姉に稽古を頼むに頼めなくなってる。
まぁ、いいや。
言いたいこととしては、ヒマリちゃんは変わろうとしているということ。
マリ姉はどうなんだろ?
まぁ、思うことはある様だ。
そして、俺は……。
元々、一つの目的があって来た、異世界。
金集めの依頼受ける傭兵まがいの仕事は滞在時間の延長と旅費、ネームを売るためなどの理由がある。
目的は一貫として変わってない。
ヒマリちゃんの寄り道は別にポリシーだから許容範囲。
だけど、ナイアちゃんは?
あの後、ナイアちゃんを探した。
物理と情報双方で。
だが、痕跡は見つからず、完璧に見失った。
このまま捜索を続行することは不可能だし、非効率だと判断した。
だが、気を抜くと今にもナイアちゃんを探しに行きそうになる自分がいる。
未練タラタラだ。
それが正解なのだろう。
時間をかけて、見つけなければならないのだろう。
ナイアちゃんを救う義務が無いなどの言い訳をするつもりは無い。
だから、今直ぐ!
「時間が無い……」
落ち着け、黒石優斗。
自分のミスに押し潰されそうになるな。
本来果たそうとしていたものを忘れるな。
全てを救え。
だが、その中に彼女が居ることが前提だということを忘れるな。
そして、前者は後者より優先されることはあってはなら無い。
半年。
この世界での残りの時間はどれだけ見積もってもそれだけしか無い。
それまでに彼女を…………。
そんなことを考えてるんでしょうね。
「どうしたんですか?マリナさん?」
「いや、何でもないわ……、ちょっと、休憩にしましょうか」
ヒマリちゃんは吞み込みが早く、育て甲斐があるのだけれど、焦りがあるのよねぇ。
その気持ちは悪い物だとは言わない。
だけれど、それでは困るのだ。
ヒマリちゃんには素質がある。
京奈ちゃんや七緒ちゃんとはまた違った素質。
まだ、小学生のヒマリちゃんにはにとっては酷だと思うけれど、まだ、小学生だから、もしかしたら一番、相応しく成長してくれるかも知れない。
彼の隣に相応しく。
止めましょう、少し、ユウちゃんのがうつってしまった。
ユウちゃんの心が読めるのは必ずしも良いことではないのだ。
どれだけ、気丈に振る舞っても影響されてしまう。
「マリナさん!お願いします!」
やる気満々のその笑顔が心に罪悪感の影を落とす。
「そうね。再開しましょうか」
もしかしたら、ヒマリちゃんじゃないかも知れない。
これからの旅で出会うかも知れない。
だけど、この信頼に応えるのは悪いことじゃないだろう。
半年。
この世界での残りの時間はそれよりきっと短いだろう。
それまでに、彼に…………。
ユウトの持っている端末へと一通のメールが届く。
それは次なる事件の始まり。
『奴隷のコロシアムによる大会に出る依頼の件、受注、受けたまりました。
つきましては、依頼者と直接会って詳細をお聞きください。
場所と時間を添付しておきます』
主人公がいるコロシアムへの招待券。