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第五十一物語 「not win~嘲笑うために~」

体が動かない?そんなことはいいんだよ


「勝つ気は、さらさら無いんだけどね?」


そんな少しだけ格好つけた台詞が聞こえた。


「ね?ヒマリちゃん」


誰かが私の名前を呼ぶ。


まるで、深い眠りについた私の側を共有する(よりそう)ように。


私は私のことを上手く表現できないのに、それは私を呼ぶ言葉だとすぐに分かった。


それも一度じゃない。


本当はさっきから何度も呼ばれていた。


耳に伝わる外側の声じゃなくて、心に直接共有する(つたわる)ように内側から。


まどろみ、何も感じない。


ぼやけて、私が分からない。


そんな風に今の私はふわふわと浮いている筈なのに。


感じない、分からない、の中でも私は、ちゃんと、その声を知っていた。


「……ゆ……うと……さん?」






思考は現在に戻って、現実の中。


俺はナイアちゃんとの死闘の真っ最中。


「ふっ!」


地面を揺らす程、足を打ちならし、俺へと突っ込んでくる、ナイアちゃん。


夢の中で戦った時よりも、断然、速く、鋭い、その動作は、ついて行くのがやっとだ。


だが、あの時とは完全に違う点が二つ。


俺の共有の能力と刻闢爽雷(こくびゃくそうらい)を自由に操れることだ。


刻闢爽雷(こくびゃくそうらい)は、まぁ、あの時、開花してなかったとして、問題は共有だ。


共有をまともに使えても変わらなかったとは思うけれど、それでも、大分、違った。


それほどまでに、ナイアちゃんの実力と俺の間には天と地より大きな差がある。


硬直した体を動かそうとするも、動かないために雷撃を一発放ち迎え撃つ。


相変わらず、灰色に濁った雷は操ることは難しい。


一直線へと吸血鬼ちゃんへ飛んでいくが、意図も簡単に避けられてしまう。


だが、それで良い。


ナイアちゃんの気がそれたお陰で、俺の体は再び動く。


共有で感じる赤い目をしたナイアちゃんの意思は実直で読み取り辛い。


けれど、今やろうとしていることは何と無く分かる。


真っ直ぐで俺の顔面を向いているからだ。


顔パンはちょっと、勘弁……。


内心、冷や汗を感じながら、顔面に飛んできた右ストレートをギリギリでかわすことに成功する。


そのまま、続く攻撃のために距離をつめるナイアちゃんと、距離を離そうとする俺。


だが、動作は圧倒的にあちらの方が早い。


その差を読み取り辛い共有と刻闢で縮める。


流石のナイアちゃんの回復力も電気には効果が薄い。


本当は回復力が衰えているかどうかを見て、ナイアちゃんの能力を見分けるべきなんだろうけれど、そんな、余裕もあまりない。


互角かそれ以下。


それが今の俺とナイアちゃんの実力差を表す的確な位置だろう。


前に比べると大分、善戦している。


あの時は酷かったからな~。


思い出す、ボコボコにやられて、ヒマリちゃんを泣かせた心の中のことを。


結局、何も出来なかったあの時を。


刻闢爽雷(こくびゃくそうらい)が有るのと無いのじゃ、力が遥かに変わるし。


あの時は共有は別のところに割り振っていたからな~。


おっと、これは言い訳か。


と言うか、この状況も見たことあるような?


そうだ。あの時もちょうどこんな感じだった。






時は再び戻ってヒマリちゃんの心の中。


一瞬の内の静寂の中で。


「……ゆ……うと……さん?」


確かに、返事があった。


そして、ブォン!と。


そのタイミングに合わせるように、PCの電源をブチギリしたような違和感のある音が、世界に響く。


「…………きさま!」


憤怒の表情をしている吸血鬼ちゃんを無視して、ヒマリちゃんを呼ぶ。


「ヒマリちゃん?」


「……はい!ヒマリです!……ユウトさん!」


確かに、ちゃんと返事を返してくれた。


笑みを浮かべてくれた。


ブォン!と言う音と言う音が更に酷くなり、世界に歪みが生じる。


ふと、吸血鬼ちゃんを見ると、その顔は憤怒と驚愕に染まっている。


俺がヒマリちゃんを起こしたことに対する怒りと自分が今から消えると言うことに対する怯えだ。


この世界はもう時期消える。


いや、正確に言うと元の形に戻る。


ヒマリちゃんの心の形という本来在るべき姿へ。


本来、ここは、外部の環境に影響されたヒマリちゃんの心の在り方。


ここの主役である筈のヒマリちゃんが十字架に張り付けられて、意識を失っているなど、状況として不適切。


ならば、ヒマリちゃんを覚醒させれば、本来の姿に戻るのでは?と思ったが、どうやら、ビンゴだったようだ。


別に他に出来ることが無かったから、これしかしてないとかじゃないよ?


本当に、じゃないよ?


兎に角、まぁ、勝算が無かったわけでは無い。


というより、最初っから布石を置いていた。


共有の能力を発動させたのは、ヒマリちゃんに呼び掛るため。


吸血鬼ちゃんに対しては一切、共有を使わずに挑み、ヒマリちゃんに全部の領域を振っていたのだ。


戦闘中だったから、五感共有使えなくて、苦労したけど。


「まぁ、そう言うわけで、悪いな。吸血鬼ちゃん」


「ふざけるなぁあああ!!」


「ユウトさん!」


ヒマリちゃんが声をあげる。


激昂した吸血鬼ちゃんは、俺めがけてその身を隼のごとく加速させたのだ。


俺は慌てることなく、五感共有(リンク)を発動させ、吸血鬼ちゃんに対応しようとして、


「うっ!?」


視界が赤色に染まる。


何が起きたのか、理解出来ない。


理解しようとして、吸血鬼ちゃんの方を見て、その目が真っ赤に染まっていると気付いた時には、終っていた。


「果てろ……」


「ガグッ!?」


胸板への強烈な痛みを感じた瞬間、俺の体は勝手無いほど加速する。


「ユウトさん!」


ヒマリちゃんの声が遠く彼方からやってくる様な錯覚を覚え、慌てて体制を立て直そうとするが、ここは空中。


着地の衝撃に立て直す方向にプランを変更して、体を丸めると、直ぐに体を削るような地面との接触を受ける。


「ぐっ……」


数回、回った所で、勢いを殺すために方手を軽く地に合わせ、体制を立て直した。


直ぐに吸血鬼ちゃんを目で捉えようとして下げていた顔を正面に向かせる。


居た。


ただし、探し人はすぐ目の前に。


「ユウトさぁあん!!」


ヒマリちゃんの叫びが俺に力をくれるものの、その力が伝達するより早く、もう一度、俺はトラックの様な一撃に跳ねられる。


今度は声も無かった。


痛みと衝撃をうけた事実だけが体を通過し、遅れたようにその事実を刻んでいく。


身体が麻痺し、呼吸の方法が分からない。


「がっ……」


指先一つとして動くことなく、なすがままに飛んでいく俺が、忘れていた呼吸方法を思い出した、その時。


「やめてぇええ!!」


「終わりだ……」


(嘘だろ。冗談、きついぜ……)


俺を追従し、追い付いた吸血鬼ちゃんが、渾身のスイングを打ち放った。


完全に勝ちを確信して油断してた。


死んだ、なんて言葉があたかも軽い言葉のように頭を過り、またも事実だけが通過していく。


痛みは無かった。


全身が歪に曲がったような錯覚とあふれでる違和感。


あとは、空中にいる浮遊感に身を任せていると、唐突に地面と擦れ会う衝撃で体が削られる。


そのまま、ゴロゴロと転がり、ようやく制止したと思ったら、もう何も出来なかった。


体が動かず、過剰な刺激に驚いたように五感が断末魔の悲鳴を上げている。


それは俺の体の許容容量を余裕で飛び越え、脳も何も感じとれずにいた。


心の中の世界でアドレナリンが出るかは知らないが、痛みが緩和その感覚に似ていて、完全に異なる物だ。


「ユウトさん!!起きてください!ユウトさん!!」


ヒマリちゃんの声が聞こえた気がするけれど、それすらよく頭が処理できてない。


答えなきゃ……。


いつものように答えなきゃいけないのに。


「ユウトさん!!駄目です!!逃げて!!」


あぁ、ちくしょう。


何で、女の子心配させてんだよ、俺。


すぐに立ち上がれよ。


ちょうど、近付いてくる音も聞こえるじゃないか。


ここで、いつもみたいに一発かましてやれよ。


「ユウトさん!!駄目!!止めて!!私はどうなっても良いから!!」


ほら、立てよ。ふざけるなよ。


ヒマリちゃんが泣きそうじゃないか。


何で女の子を泣かせかけてるんだよ!


良いから、さっさと立てよ。


「………………」


チラリとヒマリちゃんを見る吸血鬼ちゃん。


そんなことしなくても、良いから、こっち向けよ。


今すぐ立ち上がってやるから。


ヒマリちゃんもそんなに吸血鬼ちゃんを睨み付けてやるなよ。


可愛いんだから、むくれない方が絶対いいよ。


「本当に、なんでもするのかしら?」


ああ、だから、止めろって言ってんだろ?


「ユウトさんに手を出さないと言うなら」


ヒマリちゃんも、二人で話して無いで、俺も混ぜてくれよ。


吸血鬼ちゃんは、まるで俺に興味を失ったかのように体を反転させヒマリちゃんへと向かっていく。


世界の崩壊までは、ヒマリちゃんから吸血鬼を引き離すのは、まだ時間がある。


二人の距離が近付いていき、それを見ていることしか出来ない。


「ふざ……け……んな」


吸血鬼ちゃんは十字架と鎖に縛られたヒマリちゃんを向いている。


その表情が何を物語るのか、背中からは読み取ることは出来ない。


吸血鬼ちゃんが十字架に触れるとヒマリちゃんの体は緩やかに下降する。


そのまま、右手をヒマリちゃんの前に差し出し、その手首に左手の爪で傷をつける。


緩やかに流れ落ちていく、血。


濃い紅のような純粋な綺麗な赤にヒマリちゃんの動きが固まった。


「飲め……」


吸血鬼ちゃんはその手をヒマリちゃんに更に近付けると、ぶっきらぼうにそう言った。


「これを飲めば……、優斗さんを助けてくれるんですか?」


「ああ」


元より俺に興味を失ったている吸血鬼ちゃんはどうでも良いのだろう。


俺は、この先の出来事が何と無く分かった。


いや、正確にはこの後どうなるか、予想がついた。


この血を飲むことにより、ヒマリちゃんは完全に吸血鬼となるのだ。


死人(ゾンビ)と言う、自分の意思で動かせない状態から、自分の意思で人を襲う、違う生物に。


理由なんか知らないけど、分かる。


これは、そういう展開で慈悲など無い。


「ユウトさん……」


ヒマリちゃんもそれが分かっているのか、俺を見て、瞳を潤ませ、だが、決意する。


何故か?決まっている、俺を救うためだ。


なんだよ?これは?


「ふざけんな……」


ここにはいつも助けてくれるマリ姉はいない。


主人公じゃない俺には、増援など来ない。


「これで、仲間が増える。後戻り出来なくなる」


吸血鬼ちゃんが重要なファクターを残した気がするけれど、そんなのは頭に入らない。


ただただ、動けない体で二人を見据えるだけ。


吸血鬼ちゃんが腕をヒマリちゃんの口許に持っていくのを見ているだけ。


「ごめんなさい……」


その漏れた声は誰に向けて言った言葉だろう?


俺にかもしれないし、マリ姉かもしれない。


親にかもしれないし、動物たち、もしくは全員かもしれない。


なんで、謝らせてんだよ。


なんで、泣かせてるんだよ。


何も悪いことなんかしてねぇだろうよ。


誰のせいだ?


俺のせいだ。


「ふざ……け……んな……」


ふざけんな。


ふざけんな、ふざけんな。


なんだよ?これは!


ヒマリちゃんは吸血鬼に従い、その血を体内に取り込もうと舌を伸ばす。


その伸ばした舌が、血に触れる、間際。


「そんな理不尽認めねぇ!」


世界が割れる。


ノイズなんか、比べ物にならない程、大きな音をたて。


決意を運命を嘲笑うかのように。


理不尽に抗うかのように。

状態共有(リンク)ver.吸血鬼『状態共有(リンク)血鬼(ヴンプ)状態共有(リンク)ver.壊れ行く世界『状態共有(リンク)崩壊(ブレイク)』」


求められた役割など知ったことじゃない。


「世界が見捨てるなら俺が救う」


さぁ、終焉の始まりだ。

もうちょい続きます。

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