第四十八物語 「and condescend~そこにいたるまでに~」
「ゆ、ユウトさぁ~ん……。起きてください……」
「うぅ…………、うい?」
ヒマリちゃんが俺の体をゆさゆさと揺らして、起こそうとする。
「負けるか……」
「えぇええ!?」
もう、交代の時間か……。
ヒマリちゃんが驚いてる反応をたっぷり楽しんだ後、ゆっくりと起きる。
うん、良いね。起きて直ぐのヒマリちゃん。
「か、からかわないで下さいよ~」
「ごめん、ごめん、なでなで」
「ふぇ?ふにゃ~。えへへ~」
大分、チョロ……、もとい、扱いやす……、もとい、可愛らしい性格のヒマリちゃん。
撫でてて一つ気付いた。
あれ?
そう言えば、何で、ヒマリちゃん、こんなに汗かいてるんだ?
「ねぇ?ヒマリちゃん?」
「ふえ……?何ですか?」
へにゃ~ん、と顔を緩めているヒマリちゃん。
「何で、こんなに汗かいてるの!?」
「っ!?」
その顔が、ビクンと強ばる。
し、しまった。女の子に、この質問はデリカシーが無かったか?
とか、思ったけど違った。
「ほ、本当に覚えてないんですよね!?」
慌てながら、そんなことを聞いてくるヒマリちゃん。
えっと、どうしよう、話が繋がらない。
まさか、俺、寝相悪かったのか?
いや、割りと寝相は良い方の筈なんだけれど。
でも、人間ストレスで寝相が悪くなるっていうしな……。
異世界に来たことがストレスになったというのはあり得るし。
「ヒマリちゃん?俺の寝相悪かっ……」
「さぁて!明日に備えて、私!寝ますね!」
やべぇ、はぐされた!?
つうか、ヒマリちゃん、もう寝た!?
「ここ、俺のベッドなんだけど……大丈夫?」
ビクッ!
あ、嘘寝か、良く見たら耳赤いし。
だが、これ以上話すのは、寝るの邪魔するようで悪いし。
手懸かりは無いものか?
「あれ?」
俺のIfutureが起動してる。
俺、電源つけた覚えないんだけど……、録音モード?
こんなのあったんだ。
ん?データが一つって、今日のファイルだ。
まさか、寝惚けてつけたのか?
「聞いてみるか……」
再生。
『ふふ、ユウトさんの寝顔可愛い……』
「ぐわっぽっつ!?」
やべぇ、初っぱなからダメージでけぇ!?
今のヒマリちゃんの声か。
いや、まぁ、尻尾を枕にするという愚行を犯した当然の報いではあるんだろうけれど。
なんか、こう、死にてぇ……。
『あ、ヨダレが……』
「あべしっ!?」
あ、もう駄目だ、これ。
つうか、俺の特権である、寝顔をみるを取られていたのか……。
少し、気になってヒマリちゃんを見てみると、眠った振りをしながら、赤くなってプルプルしていた。
あ、うん。ごめん。
もう、触れないでおこ……。
『ひゃん!?』
「「!?」」
突如、ヒマリちゃんの甘い声がIfutureから鳴り響く!?
『え?ユウトさん起きて……?うっ、んっ!』
いやいやいや、俺は、この時完全に意識を失っていた筈だ。
身に覚えがな……、
『だ、だめです……うっ、……やめっ……あっ!ん!』
……………………。
『ユウトさん……、起きて……!?……ふぇ、……んっ!?…………まさか……、寝たまま……ひゃん!』
……………………。
『だめです、ユウトさんっ!?……そんな、あ、うんっ!?……尻尾を……重点』
「うおお!カムズダァアイ!」
叫びながら、Ifutureを投げ飛ばす。
もう、なんか、色々と死にたくなった。
うん、あれだ、止めよう。
確実にTr○uble展開だ。
「はっは~、今度から寝相に気をつけないと!」
「っ!」
横で寝ているヒマリちゃんが、ビクンと体を揺らしたとか、知らない。
つうか、寝たフリをしていたヒマリちゃんが、自分のあられもない声を聞かされて、耳どころか全身真っ赤にしているのとか、僕、分かんない。
二人とも、その時のことを思い出して(俺は覚えてないけれど)、死にたくなってるとか、意味分からない。
「夜風浴びてこよう……」
二人の中で今夜のことは無かったことになったとさ。
「もう、寝ちゃったか……」
ヒマリちゃんの頭を撫でながら、その幸せそうな寝顔に苦笑する。
どうやら、大分疲れていたようだ。
これなら、大丈夫。
俺はもう一度、夜風を浴びに外に出る。
見張りをしてくれているという親切な村人さんに、睨まれながら、外に出て、村の外れの方へ向かう。
そこには、彼女がいた。
「さてと……、一体、こんな夜中にこんな可愛らしい女の子が何をしているのかな?」
そこには、吸血鬼の少女の友達、昼間家に飛び込んで来た鎌少女が立っていた。
彼女はまるで俺を親の敵の様に睨み付け、告げる。
「私は……あなたを許さない……」
彼女の腕から鎌が召喚される。
それを見た俺は思わず笑ってしまう。
「あぁ……、俺の考えは筒抜けか……」
どうやら、俺が何をしようにも女の子はすぐに気付いてしまうようだ。
鎌少女が鎌を構えて、自らの名を告げる。
「ウルティーユ・カレッタ」
「黒石優斗」
どこの世界でも、それは、正々堂々戦線布告する合図。
そっか、彼女はウルティーユっていうのか。
じゃあ、呼び方はいつも道理ルティちゃんで。
心の中で、そんなおふざけをするが、本人に聞かれたら大激怒されそうだから、胸の内に秘めておくことにした。
お互いにやりたいことがあり、互いの存在が邪魔になっている。
だったら、どうなるかなんて決まっている。
ルティちゃんと俺は、互いに制止し動かずに、時を待つ。
辺りで一羽の鳥が飛び立ち、瞬間、それが戦闘の狼煙となった。
「邪魔しないで!」
「行かせねぇよ!」
鎌とローファーが激しくぶつかった。
~side ナイア~
一面に広がる花畑。
そこに、私は寝転がっていた。
優しい花の香りにつつまれながら、寝るのも、悪くない。
こうしていると、全部の出来事が嘘のようだ。
昼にあの三人組が私を退治する為に、私の村に来たことも、
私の正体が吸血鬼だとバレて、村に、二度と近付け無くなったことも……。
恨みは無いわけでは無い、結局、自業自得な気がするから。
するだけだけれど。
それに、あの村には、二度と戻れないし、戻ろうとは思えない。
私は、いく百もの人間を殺した殺人鬼なのだ。
それらを考えると少し寂しくなっていた時があったかもしれないけれど、人を何人も殺した所で既にそんなちっぽけな感覚は消えている。
結局、私は自分の快楽の為に、殺人を行うのが当たり前な吸血鬼なのだから。
でも、もう良い……。
もう良いのだ……。
今日で、そんな過去とはおさらばする。
もうすぐ、私の友達がやってきて、私は旅立つことになるのだ。
旅立つ……か。
そう言えば、旅人の彼は、何で、私なんかに手を差し伸べようとしたのだろうか?
思い浮かぶのは、あの三人組の中に居た、1人の男の子。
散々、ボコボコにして、ボコボコにされたけれど、男の人の血を吸ったのは、彼が初めてだ。
それを思うと、何だか、恥ずかしいことをした様な錯覚に襲われて、頬が赤くなるけど、勿論、錯覚のはずだ。
彼は最初、私を倒す気満々だった筈なのに……、何で助けようとしたのだろうか?
同情でもされたのだろうか?
まぁ、それらも、今となっては、確かめる術の無いこと。
そんなこと風に思考を巡らせていると、カサリ、と草が揺れる音がして、私の待ち人が来たことを告げてくれる。
待ち人とは、私の親友、ウルティーユだ。
長いので、私は、ウルティと愛称で呼ばせてもらっている。
ここは、この花畑は、私とウルティだけの秘密の場所。
私に、何かあったら、彼女とは、夜にここで再開することを約束していた。
もうすぐだ、もうすぐ、私は彼女に見送られて旅立つことになる……。
この彼女との思い出が沢山詰まった、私達だけの花畑で……。
だけど、
「来てくれたのね……。ウルティ……」
「うんにゃ、ルティちゃんは来ないよ?」
「っ!?」
そんな、私達だけの花畑を土足で踏み争うとする奴がいた。
私は、折角良い気持ちで寝ていたお花畑から、立ち上がる。
そこには、
「やっほー、昼ぶりくらいかな?ナイアちゃん」
「気軽に、私の名前を呼ばないで?」
私を退治しに来た三人組の内の一人、さっき、思考していた、男の子がいた。
どうやら、前言を撤回しなければ、ならないようだ。
私達の思いに無知に踏み込む彼からは、あまり良い雰囲気を感じなくなった。
「ウルティに何をしたの!?」
本来、ここに来るはずだったのはウルティなのだ。
この場所は私とウルティ以外には、見付けることが出来る筈がない。
「いや、なんか、この場所に向かおうとしてたから、力づくで止めた」
ウルティをこの男が止めたって、言うの?
「ウルティは……どうなったの?」
自分でも、少し狼狽しているのが分かる。
「今は、暴れられると面倒だから、丁寧に縛って、仮屋においてきた」
「この……!」
前言を撤回するどころか、感情すら撤回したい。
この男は、私を退治するだけに飽きたらず、私の思いまで踏みにじりたいらしい。
どうやら、こいつは相当なゲスのようだ。
こいつは、私の思考に同調しているかのように、不適に笑う。
「約束か何か知らないけれど、今夜の予定は、ずっと俺が先にとってたんだ」
「何を訳の分からないことを!!」
意味の分からない発言に反論するが、私の心に影が過る。
私は、この男に……。
慌てて頭を振り、その思考を追い出す。
こいつは、敵だ。
「邪魔しないで!」
「嫌だね!二人とも逃げる気だったろ……、そんなこと許さない……!」
「許さなかったら、どうするって言うのよ?」
「決まってるだろ?説教だよ」
その台詞を聞いた途端、私は全力でこの男向かって、跳躍した。
約束を踏みにじられた怒りと、ウルティを倒した事実に僅かに期待を込めて。
~ユウト side~
吸血鬼が足に力を溜め、こちらに勢いよく跳躍し、花びらが舞い散る。
その幻想的な姿に見とれる間もなく、ナイアちゃんは、俺の目の前まで接近していた。
ああ、女の子を呼び捨て出来ないからって、相手にまでちゃん付けするのはどうだろう?とかどうでもいいことを考えながら。
吸血鬼の右手の一撃が俺に向かってくる。
いままでの俺だったら、見えてはいても防御が難しかっただろう。
だが、俺は今まで道理ではない。
どんなに威力の強い攻撃も来る場所が分かっていれば、避けることが出来る。
ナイアちゃんの視線……、いや、意識は俺の体の鳩尾を的確に狙っている。
だから、俺はナイアちゃんの無意識の呼吸にリズムを合わせて、体を右前にずらし、その攻撃をギリギリのタイミングでかわす。
攻撃が外れることに驚くも、そのままの無防備な姿勢でいることに危機感を覚えたナイアちゃんが攻撃を肘撃ちに切り替え、それよりも早く、俺はしゃがんでいた。
「!?」
今度は、流石のナイアちゃんも驚きを隠せずにいる。
そのまま、右拳を構え、アッパーを繰り出し、
身を引き避けられた。
だが、それすら予定調和。
引く際に出遅れた右手をピンポイントに引き寄せ、その腕に向かって、二本指ピースの先端をぶつける。
一見、何の変鉄も無いような一撃。
だが、その一撃でナイアちゃんの強固な体にも関わらず、その体を激しく痙攣させる。
「くゅっ!?」
思わず、悲鳴をあげるナイアちゃん。
どうやら、急に体を襲った衝撃に耐えることが出来なかったようだ。
それでも、持ち前の回復力を全開に、体の自由を制限された状態でさえ、反射的に後方へと回避を行うナイアちゃん。
俺から距離を取った彼女は、呂律が回らない舌を動かし、喋ろうとする。
「次にナイアちゃんは、わ、私の体に何をしたっ!って言うってね!」
「わ、私の体に何を……っ!?」
あ~、惜しい。
もう少しで、ネタが完成しそうだったんだけど、現実はうまくいかないみたいだ。
ナイアちゃんは、一連の流れで、俺が行動を先読みしたような動きに驚きを隠せないでいる。
「何故…………」
「何故、こいつは私の考えが読めているか?だって?簡単だよ。よめているからに決まってるじゃん?」
「これが黒石さんの共有シリーズの真骨頂、その1。思考共有。そして……」
そのまま、一気にナイアちゃんに近付き、掌呈の構えを取る。
ガードしようとするナイアちゃんだったが、俺の攻撃しようとする右手を見て、顔色を変える。
「なっ!?」
俺の右手の周りを、藍色の閃光が走っているのだ。
一瞬の驚愕の隙を狙い、掌呈をくらわせ、同時にバチバチと光がスパーク。
ナイアちゃんの体に電気が走った。
「くはっ!?」
体に電流が流れたことに、驚き、怯むナイアちゃん。
「これが、黒石さんの新しい能力。雷を操る能力、刻闢爽雷だぜ……」
俺が身に纏っているのは、弾ける閃光のスパーク。
その力を動かし、感覚を確かめ、実感する。
「これで黒石さんは戦える!」
いや~、ようやくでた、ユウトさんの新しい能力。
次号解説します!
↑といって、解説できなくなりました
遅くなりましたが次回、飛ばした話の続きです
(2015/1/30)
↑そして、更にやっぱり解説です。
(2015/2/15)