第四十七物語 「dream ubiquitous~いつもの道理のために~」
その後、謎の乱入少女は果敢にマリ姉に挑むも、圧倒的にやられて、村で拘束されました、まる。
「何を拗ねてるのよ?ユウちゃん」
「別に?拗ねてないけど……?」
「やっぱり、拗ねてる……」
別に拗ねてなんかいない。
ひねくれてるだけだ。
「そんなに気に食わなかったの?あの子が村で無理やり拘束されたのが……」
「別にぃ~」
「分かりやすいくらい拗ねてるわね……」
そう、あの後、マリ姉に圧倒されたあの少女は、村長と護衛係に押さえられ、何処かに連れていかれた。
なんでも「失礼しました!村で相応しい処置を行いますので、どうか!」てかなんとか。
はぁ……。
「何で、ユウトさん、分かりやすく拗ねてるんですか?」
ヒマリちゃんまで、分かりやすいとか言い出すし、別に拗ねてねぇし……。
そんな中、マリ姉が笑う。
いつもは良くても、今は嫌な笑みだ。
仕方無いな~、といった上からのお姉さん笑い。
「女の子が、不当な扱いを受けているのが、単純にムカついているのよ」
「ああ、成る程。ユウトさんらしいですね!」
ぐふっ!?
「別にそんなんじゃねぇし!」
慌てて、否定するも二人は獲物を見付けたかのように、めちゃくちゃにやけてる。
いや、確かに、
どうかじゃねぇよ!何で、友達の為に単身で乗り込んできた奴が、あんなに乱暴に拘束されたんだよ!
しかも、処置とか、ふざけてんのか?
とか、思ったりしなくも無いけどさぁ?
「女の子に甘いのよ」
「そこがユウトさんの良いところです!」
「なっ!全然違うし!」
く、この女子達、言いたい放題だ。
マリ姉は、やれやれと、ヒマリちゃんは、可愛いな~、といった雰囲気全開だ。
屈辱だ……。
「テレると、ひねくれちゃうしね~」
「はっ!ちげえし!そんなんじゃねぇし!第一、女の子が雑に扱われたとか、思ってねぇし!」
はいはい、出たよ!女子の分かってますよ~、って、会話。
そう言うのが、一番反抗したくなる。
「じゃあ、何処に問題があるのよ?」
「うっ……」
不味い、墓穴を掘った。
な、何か上手い言い訳は、無いのか?
あ……、ううん、えっと……。
「そう縛りかた……。女の子縛るなら、亀甲縛りだ!」
自分でも何を言ってるのか、分からなかった。
「苦しいですね!」
「グフッ!?」
ヒマリちゃんに笑顔で一刀される。
「しかも、女の子が亀甲縛りされてたら、ユウちゃんはほどいちゃうしね」
良く考えたら、最悪の言い訳な気がしてきた。
なんだろう、俺、人として道を踏み外してんのかな?
「優しいですもんね~」
「ツンデレなのよ」
「もう好きにして!!」
「ユウトさん……。私のせいですか……?」
「別に……」
さっきのこととか気にしてないし……。
「うぅ、やり過ぎました……すいません……」
「うにゃ?ヒマリちゃんが……?ないない……、ほら、心当たりとか無いでしょ?」
思いっきり、嘘っぽい気がするのは、ご愛敬だ。
「はい……」
うっ。ヤバい、ヒマリちゃんを落ち込ませてしまった。
そう、深呼吸だ、深呼吸。
そのまま、流れでヒマリちゃんの頭を撫でる。
「はひっ?あぅう……」
ヒマリちゃんを撫でると心が落ち着くなぁ……。
ヒマリちゃんも落ち込み状態から回復して、一石二鳥。
マリ姉が睨んでくるから、一石二鳥、石返しの気もするけど。
「マリ姉、眠いから、ローテ決めよう」
「夜の営みの?」
「そうそう……って!なんで!?」
くっ!久々にマリ姉の下ネタきた!
さっきまでのやり取りでまだ、満足してないのか!
これは、踏み込んだら大火傷するぞ!
「ヒマリちゃん、どうしたいかしら?」
「ふぇぇええ!?」
「はい!そこ!飛び火させない!」
ヒマリちゃんが再起不能な感じで赤くなってるでしょ!
くっ、俺が何も言わなくても事態は進んでいくのか!?
「いやいや、マリ姉。吸血鬼を警戒する為の、朝までの見張りを決めようって話でしょ?一人が見張りをして、二人が、ベッドで」
「にゃんにゃんするのね?」
「休養だよぉおお!!!寧ろ、体力消耗するよ!!」
「あら、ヤル気満々ね?体力消費を考えるなんて」
「消費をしない為に、寝ろって言ってんの!つうかやる気のやるの発音がおかしい気がするんだけど!!」
だ、駄目だ。
今のマリ姉に関わったら、下ネタの無限地獄だ。
思わず、ヒマリちゃんに助けを求めるように目を会わせ。
「や……、優しくしてくださいね……?」
赤くなられてしまった……、ってぇえ!
「やらないよ!?ヒマリちゃん!?」
「そ、そんな激しいのが、好きだなんて……」
「優しくしないって言ってるんじゃないよ!?そもそも、しないって言ってるんだよ!?」
「ご主人様……。そんな激しく突っ込まれたら、私」
「カタカナで発音しないと、誤解されるんだけど!?」
駄目だ。
ヒマリちゃんもテンパっている。
と言うか、ご主人様?
「い、一応、メイドってことでしたから……」
「ああ、なんか、あったね。そんな設定……」
「そんな設定!?」
ガーンとショックを受けて固まるヒマリちゃん。
いや、だって、ほら、ねぇ?
今まで、ずっと、良い感じでやってきたのに、今更、そんなこと、掘り起こされても……。
「わ、私の決意って……いったい……」
あ、ヒマリちゃんが涙目で膝をついた。
「ほら、ヒマリちゃん。大丈夫だって、ヒマリちゃんは居てくれるだけでいいから……」
「うぅ、私、完全に足手まとい……」
励まそうとしても、効果が薄かった。
ううん、どうしよっか?
「そんなことより、ユウちゃん?」
「そんなことより!?」
「やめてあげて、マリ姉。今のヒマリちゃんに、その台詞をポジティブに取れる余裕ないから」
あ、ヒマリちゃんが更に落ち込んだ。
そんな部屋の隅っこ陣取らなくても……。
マリ姉、流石にやりすぎじゃあ……、あ、マリ姉、にやけてる。
遂に、ヒマリちゃんをいじめるのを解禁したのか、この従姉妹さんは……。
今まで、優しくされてた分、ショックが激しいだろうな……。
ごめんけど、ヒマリちゃん、そのまま俺の負担を半分くらい受け持ってくれると嬉しいな。
隅っこから聞こえてくる「私の扱い、雑になってる」とかの台詞は聞こえないことにした。
「見張る順番をローテーションで決めるんでしょ?」
「うん、何で、遠回りしたのかが、分からないんだけど」
「気にしちゃ駄目よ?今回も二人で組むんでしょ?」
まぁ、それがいつも通りっていうか。
成程ね。だから、マリ姉はヒマリちゃんをはしっこに追いやったのか。
俺達は何度か夜を過ごすとき、魔物や盗賊などの危険が少しでもあるなら、寝る順番にローテーションを組んでいる。
火の番をしないといけない時もだ。
まぁ、眠くはなるけれど、女子の寝顔を合法的にゲフンゲフン……、安全を守る小さな努力って大切だよね。
で、実は、そのローテーションにヒマリちゃんは入れておらず、二人で回すという気遣いを行ってしまっている。
ばれたら、ヒマリちゃんが更に落ち込むだろう。
そんな優しい心で、マリ姉はヒマリちゃんを部屋のすみに……。
「いや、それはやりたかったからだけだけれど?」
「あ、そっすか……」
いや、まぁ、ヒマリちゃんに気付かれないのも大事な……。
「あれ?そう言えば、今までの夜、見張りの順番、組んでましたっけ?」
「はい、バレた……」
その後、普通にバレましたとさ。
「もう、何で私だけ除け者にするんですか!」
「はは、ごめん。ごめん」
プンスカと怒るヒマリちゃんを、猛烈にハグしたい欲求に刈られながらも、いや、待て、それは犯罪だ、とたしなめる。
横でマリ姉がヒマリちゃんを見て、テイクアウトしようとしてるのは、ご愛敬と言った所だろう。
「じゃあ、ごめんけど、ヒマリちゃん。警戒宜しくね?」
「はい!任されました」
結局、俺達は12時間睡眠をとることにして(夜8時~朝8時まで)、ヒマリちゃん、俺、マリ姉の順番でいくことになった。
本当は山登りで疲れているであろう、ヒマリちゃんを一番に寝かせてあげたかったのだけれど、今まで黙っていたのが、かなりご不満だったようなので、一番目にして、気持ちを落ち着かせて貰うことにした。
ちゃんとヒマリちゃんが出来るのかどうか心配だと思ったのは、言わない方が良いだろう。
いや、俺は、徹夜でゲームしてる時と同じ要領でやれば、余裕なんだけど。
実は、Ifutureで遊んでたりするんだけど、ソフトがな~。
地図とメモと電話とメールとカメラしか無いし。
ソフトとか作れたら、良いんだけど、C言語とか分かんないんだよな~。
閑話休題。
とりあえず、体力を回復させるために寝よう。
そう思って、横になるが、この枕寝にくいな……。
ヤバい、凄く眠いんだけれど、首が……。
くっ、この違和感が……、うぅ。
こうなったら!
「ヒマリちゃん!」
「は、はい!」
「モード狼!」
「え?あっ、はい?」
ヒマリちゃんが光に包まれ、以下省略。
ヒマリちゃんから、フサフサの耳と尻尾が生えてきて、そのままベッドまでよってもらって。
「よし、ありがと」
「え?え?え?」
ヒマリちゃんのフサフサの尻尾を枕代わりにした。
やべぇ、めっちゃふかふかする。
寝心地最高だぜ!
「お休み」
「え?えぇええ~!?」
その後、俺は、直ぐに眠りに落ちた。
そして、また、この展開。
いつも道理、俺は夢を見る。
『私達、友達よね?』
毎回、何の脈略も無く、ただ、ただ、他人の過去に触れさせてくる。
『なぁにいってんの?』
目の前に写るのは花畑。
そこには、二人の少女がいた。
『お願い!答えて!』
別に、アニメや小説の様に自分の過去を語ってくれる人間は少ないから、ありがたいとは思う。
だけど、本当にこれで良いのだろうか?
『私達は、友達なんかじゃない』
なぁ、共有、お前はそれで良いのか?
他人の過去を見せて、俺に何を望むんだ?
『そうだよね……』
それともお前は単なる事象に過ぎなくて、俺がこれを望んでんのか?
やっぱり、能力は結局人に作用されるだけなのか?
『あ、勘違いしてるでしょ?私達は……友達なんかじゃない……。そんな軽い言葉じゃない……』
そもそも、お前の共有の定義ってなんなんだ?
何を基準にして、何が出来て、何が出来ないんだ?
『え……?』
俺に戦闘用のあの力が目覚めつつあるのも、お前のせいなのか?
俺が力を望んだからか?
『し・ん・ゆ・うでしょ?』
分からない。
分からないことだらけだ。
だから、俺は真面目に見るのが辛い、現実にピントをうつすことにした。
なんだろう、感動的なシーンの筈なのに心が痛いや……。
『そっか……、そうだよね……ありがとう』
『お礼なんかいいのよ。照れるじゃない』
二人の少女と説明はしたけれど、多分、普通に少し幼めの吸血鬼の少女と鎌少女だよな……。
二人は親友だったのか。
それで、あんなにも必死に……。
鎌少女は、どうやら、吸血鬼少女が吸血鬼とは知らないようだったけれども……。
彼女は、その事実を知っても友達でいられるのだろうか?
『ねぇ、お願いがあるの』
『なになに?』
いや、まて、違う、そうじゃない。
そこじゃない。
くそ、なんで見落としていたんだ!
『もしも、私に何かあったら』
吸血鬼の少女と鎌の少女は、親友だ。
じゃあ、何で、あの子は普通にあの村でくらせていた?
村がグルだとは思って、村人が全員吸血鬼の可能性を考えたのは、なんでだ?
答えは、村の中に一人だけ吸血鬼と言う種族が紛れていたらおかしいからだ。
『この花畑に来て……、待ってるから』
じゃあ、あの子の家族が吸血鬼?
それとも、彼女は拾い子なのか?
そもそも、何で、吸血鬼があんなことを考えるんだ?
『そこで、私を送り出してほしいの』
『分かった!』
まさか、この子は……。
『二人だけの約束だからね!』
『うん!約束!』
………………。
――なのか?
「……ウト……ん!」
外から俺を呼ぶ声が聞こえる。
そろそろ、起こされる。
『『二人だけの、約束!!』』
指切りを行い、離れていく二人。
俺の意識が現実に戻される間際、花びらが舞い、吸血鬼の少女が俯き、独り呟く。
『貴女の手で――――』
声は風に消されて、俺の意識は現実に帰っていった。