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第四十五物語 「undesirous gain~己の欲の為に~」

自分で投げて、自分で受け止めるという、マッチポンプみたいな芸当をした黒石優斗さん、こと俺。


「ゆ、ゆ、ゆ、ゆうとしゃん!?」


そんな中、ヒマリちゃんが、珍しく焦りまくってる。


それほど迄に、驚くべき事態だったのかな?とか勝手に推測を立てるけれど、違った。


何故か俺の左手が、やけに暖かいからだ。


まるで、服の上からでは無く、直に肌に触っているような……。


いや、直に触っていた。


具体的には、左手が服に滑り込み、背中を通り、脇をホールドする感じになってしまっていた。


まぁ、まて、落ち着こう。クールに行こう。


そうだ、ヒマリちゃんが顔を赤らめているが、クールにだ。


まず、今の状況では、俺は仰向けのヒマリちゃんをお姫様だっこで下から持ち上げているまま、見下ろしている形になる。


どういう経緯で服の中に手が入ってしまったのかが、まだ、分かってない。


いや、そう言えば、さっき、ヒマリちゃんの背中を持ったとき、ビリッ、と、何かが破れる嫌な音がしたような気がしないでもない。


上(前)から見る分に関しては、問題は無さそうだが、もし、あの時ヒマリちゃんの服の後ろ部分を破ってしまったのだとして、


今、その破れた部分からヒマリちゃんを受け止めた瞬間に服に手が入ってしまっい、あまつさえ、奥の方に突っ込んでしまっているとしたら?


なんか、もう、死にたい感じだ。


俺の左手は、完璧に脇にフィットしてしまっている。


なんだろう?普通、こういう時、どこぞの主人公達なら、真っ先に胸とかに手が延びてそうなのに、脇って、俺はフェチなんだろうか?


いや、勿論、脇を触っていても、胸を触っていても、十分俺的には、ご褒……、ごめんなさい!イベントなのだけれど。


何だろう?こういう時、脇に左手がフィットするって、ありなのだろうか?


と言うか、俺は小学生相手に俺は、何をしているんだろ?


そもそも、ヒマリちゃんにこっちの要員任せたら、なんか危ない気がするけれど。


そういや、高校生が小学生好きになったら、ロリコンだけれど、中学生の場合はセーフなのか、アウトなのか?


小学生と聞いたら、危ないけれど、2才年下と聞いたら、全然健全なんだよな……。


「ユウト……さん……?」


いやいやいや、待て待て、落ち着け!


って!違う!危うく現実逃避の末に末期患者になるところだった。


待て、落ち着け、俺、そうじゃない。


今は、セクハラをしてしまっているのか、いないのかの、割りと人間性に関わる問題だ。


それに、まだ、僅かな希望は残っている。


今のは全て俺の憶測だ。


まだ、ヒマリちゃんに確かめた訳じゃない。


つまり、まだ、俺が有罪とは限らない。


そうだ!思いきって聞いてみよう!


「ねぇ?ヒマリちゃん?」


「ひゃう、な、なんですか、ユウトさん……?あの……」


諦めるな!俺!


例え、ヒマリちゃんが顔を赤らめモジモジしていたとしても!


「何か、言いたいこととかあるかな?」


「えっ、あの……、手を……、や、やっぱり何でもないです!」


あっれぇ?


何か違うぞ?


俺は事実を確かめようとしたのに何か話がずれた気がする。


「えぇっと、僕ってセクハラ中?」


もう、この際だ!ストレートに!


「両者、同意なら……、セクハラには……入らないと……思いますよ?」


あっっれぇええ?


可笑しいな!色々と可笑しいんじゃないかな!


よし、駄目だ。


ストレートに聞こう。


「僕って、ヒマリちゃんの脇を触ってたりするかな?」


「っ……!?……はい……」


顔を赤らめながら肯定するヒマリちゃん。


確定だった。


破れた服の背中から、俺は腕をつき入れていた。


「えっと……、その……、言い辛いんですけれど……、若干、指先が……、あの……、その……、む、胸の方に……」


有罪だった。


俺は警察を免れないかもしれない。


「よし、ヒマリちゃん」


「何でしょうか?ユウトさん?」


「うん、このままでも、オウケイ?」


何か、もう、一周して壊れた!


バチン!!


ヒマリちゃんが何かを言う前に、鞭が俺を抉り、衝撃でヒマリちゃんを離してしまう。


ヒマリちゃんは猫の瞬発力で綺麗に着地し、俺は、ヒマリちゃんが離れた瞬間に放たれた2発目に壁にめり込まされた。


「良い訳無いでしょう!」


「ですよね~」


マリ姉の愛の鞭がありがたかった。


「人が戦闘中にイチャイチャしてるんじゃないわよ!」


見ると、吸血鬼の少女とマリ姉は、激しい戦闘を繰り広げていた。


マリ姉がいつもの鞭の代わりに、短めの鞭と、鋼鉄のワイヤーを使って、言葉に言い尽くせない程の攻防を、ずっと、続けていた。


「はっ、今まで僕は何をっ!?って、痛い!マリ姉!鞭は無しだって!」


何か、今まで自分が正気を失っていたような気もしないでもないが、踏みとどまったならよしとしよう。


止めて、ヒマリちゃん!そんな責任取りなさいよね!みたいな目で見ないで!


って、ヒマリちゃん!?


「血っ!お腹から!?」


「へっ!?」


ヒマリちゃんのお腹の部分の服が赤い血で染まってしまっている。


まさか、俺が投げてから一連の動作の内に怪我を!?


「いや、あの、ユウトさん。これは……」


「うっ!……くっ……!」


ヒマリちゃんが何かを言おうとして、その前に俺の声に反応し始めた、吸血鬼の少女が苦しみ出す。


そうか、この血は、吸血鬼の少女の右手を切った時の……。


「私に……、血を見せるな!」


「危ない!ヒマリちゃん!」


マリ姉と戦っていた吸血鬼の少女の何かが琴線に触れたのか、怒りを露にこちらに向かってきた。


俺は、ヒマリちゃんの前に出ると、指輪から、トンファーを取り出し、視界共有(リンク)で、相手の次に狙う(みる)場所をガードしようとして、


「うっ!?」


思わず、そんな声が漏れた。


少女の目が充血していて、視界が赤く染まっているから。


と言うか、目が赤くなるのって、充血だったのか!?


って、ヤバイ。今は。


俺が怯んだ一瞬の隙をついて、俺に向かって放たれた、左手のパンチを避ける術がない。


慌てて、盾を展開するも、左手に、盾ごと吹き飛ばされた。


「ガッ!?」


そのまま、もう一度壁にめり込まされるかと思い、体に力を丸めるが、


「ユウトさん!」


俺の後ろにヒマリちゃんが立つ。


無茶だ!受け止めるなんて。


ヒマリちゃんが俺の心配をするも、本当に危ないのはヒマリちゃんだ。


俺は、ヒマリちゃんに受け止められ、いや、巻き込み二人で後ろに飛ばされる。


ヒマリちゃんのお陰で壁に衝突することは無かったが、地面に縺れて倒れてしまう。


何より、ヒマリちゃんにぶつかってしまった。


「ヒマリちゃん!大丈夫!?」


「な、何とか……」


フラフラと立ち上がるヒマリちゃんに無茶しちゃ駄目だとか、何とか言いたいことは沢山あったけれど、一言。


「ごめん。ありがとう!」


「いえ……。それより」


ヒマリちゃんは猫だった、その姿を狼に変える。


狼モードは攻撃力が高く、五感が鋭くなるのに対して、俊敏性と跳躍力が高いのが猫のモードの特徴で、室内では猫モードの方が個人的には良いと思うけれど、そこはヒマリちゃんの自由意思だ。


俺が強要することじゃない。


そう思い俺は、吸血鬼の方に向き直し、マリ姉が戦っているのを確認した後、ヒマリちゃんの言葉の続きを聞くことにして。


その二つを後悔した。


何故なら、ヒマリちゃんが後ろから俺の耳を塞いだからだ。


何事かと、振り返ろうとしても、強く閉められた腕が邪魔をする。


吸血鬼はマリ姉のせいでこちらに気付いておらず、マリ姉は何かを理解したようにヒマリちゃんに小さく合図を送った。


一瞬、大きくヒマリちゃんの体が跳ねるのを感じ、狼の特性をもうひとつ思い出す。


だが、それじゃあ、俺の望みは叶わない。


「やめっ!ヒま……」


「ーーーーーっ!!」


俺の声より早く、ヒマリちゃんは吸血鬼に向かって、大きな咆哮を繰り出した。


狼の習慣の内の一つ仲間を呼ぶための遠吠え。


ただし、ヒマリちゃんなりにアレンジを加えているらしく、それは遠吠えでは無く、咆哮と言えるほど強力で、耳を塞がずに聞いていたら、俺の鼓膜が破れていただろうほどの大音量。


強力な破壊力を持ったその声の砲台は、俺の望む結果をもたらさない方向に展開を進ませる。


「あぐっ!!」


その声の音の波は波状となり、部屋を揺らし、吸血鬼の少女を襲った。


吸血鬼の少女が大音量により、やられた、耳を反射的に抑えるが、もう遅い。


恐らく、既に鼓膜が破れている。


そこを見逃すマリ姉ではない。


マリ姉はヒマリちゃんのやろうとしていたことを理解し、耳を塞いでいて、怯みもない。


吸血鬼の少女に向かい、踏み出すと、マリ姉の特性アレンジを加えた掌呈を放つ。


「ぐっ!?」


移動速度に体重をかけ、全力を持って、体を内側から揺らし、相手を立てなくさせる絶技。


固くて攻撃が通らなかった吸血鬼の少女も、内側から揺さぶられ、更に鼓膜を破られた状態では、どうにもなら無い。


出来たのは、崩れ落ちそうになるのを、どうにか膝をついて、踏みとどまる程度だ。


勿論、急速な回復を行って鼓膜は既に元に治りかけているだろう。


だが、膝をついた時点でマリ姉はワイヤーを使って、高速で拘束を始めている。


吸血鬼が戦える状態になった瞬間には、もう全てが終わっていた。


「このっ……!はなしなさい!」


間接部を完全に抑えられて、ワイヤーで腕を吊り上げられた吸血鬼の少女。


吸血鬼の少女は意図も簡単に無力化されていた。


「離す放す訳無いじゃない?」


マリ姉は、それを満足そうに見下ろす。


吸血鬼は足掻くが、ワイヤーが強力すぎて、抜け出せない。


過剰鋼糸(オーバーストリング)


最先端技術制のマリ姉の私物である。


勝負はついた。


ヒマリちゃんが俺の耳から手を離し、マリ姉に近付く。


「やりましたね!マリナさん!」


「ヒマリちゃんこそ、ナイス作戦よ」


お互いに誉め合う二人を見て俺は漸く、戦闘が終わったのだと理解した。


それも、俺達の勝利で。


俺達が望み、俺の望まぬ形の勝利で。


「ユウトさんも……。ユウトさん?」


「……………………」


俺は、話しかけられたことに気を回せていられる心境じゃなかった。


俺達は勝ったのだ、勝ってしまったのだ、実に呆気なく、実に理不尽に。


「ユウちゃん?どうし……」


マリ姉が俺の異変に何かを言った気がするが、気にする余裕が無かった。


気が付くと、俺は、吸血鬼の少女に近付いていた。


何に動かされたのかは分からない。


何の気持ちなのかも理解できないまま体が動く。


目の前まで来て、捕まった吸血鬼と視線を合わせるようにしゃがみ。


その顔を良く見るために、俺は、吸血鬼の少女の顎を悪役のように右手で引き寄せた。


吸血鬼の少女の頬には一粒の水があった。


それに気付いた瞬間、思わず俺は、右手を吸血鬼の少女に差し出した。


マリ姉とヒマリちゃんには見えない絶妙な角度だったが、それは狙ってやったことじゃなく、無我夢中でしたことだった。


吸血鬼の少女が驚いたような呆けた顔をしているのを見ながら、俺は。


「まだ、間に合う!に…………」


バンッ!!


ドアを大きく開ける音に俺の声は書き消され、タイムアップを悟った。


「どうされたのですか!!大丈夫で……!?」


村長と男と女性と少女の四人。


「ナイア大丈……!?」


そのうちの少女が声を上げて、止める。


四人の視界には、吊り上げられた吸血鬼の少女と、辺りに散りばめられた血の塊、ヒマリちゃんの服についた血の跡。


そして、ワイヤーに絡まった状態で暴れて、付いた切り傷が現在進行形で治っていく様子に目を奪われ、固まってしまっていた。


分かっていたことだったのだ。


大きな声を出してしまったら、家の外にまで響き辺りに広まることなんか。


そして、それは、吸血鬼の少女も……、そして俺も望まない勝利(けっか)に繋がることも。


完全に制止する場。


「……っ…………」


最初に動いたのは、吸血鬼の少女だった。


差し出された状態で制止してしまった俺の手に力強く歯を立てる。


「うぐっ!?」


場と共に制止してしまっていた俺は、その痛みに現実に戻される。


吸血鬼の少女は遠慮無く俺の血を啜っていた。


俺の声により、場に時間が戻る。


「ナイア……?あなた……まさか!?」


少女が言い終わる前に、マリ姉が俺から吸血鬼の少女を引き剥がそうとし。


それより先に吸血鬼の少女が力を全開にして、自分の傷をい問わずワイヤーごと家の木材を破壊し、家の横の壁に力付くで穴を開ける。


「まって……!!」


少女の声が届くより早く、吸血鬼の少女は己の力を全開にこの場から消え去る。


「……………………」


再び訪れる静寂。


手に落ちた誰かの滴が俺の虚しさを表していた。


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