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第四十四物語 「among circulate~次に繋げるために~」

場面転換

さて、いくつかの山を越えて以下略。


俺達は、とある村に来ていた。


「ようこそ、お出でなさいました!旅人殿!」


そして、村長の手厚い歓迎を受けていた。


具体的には、早速、宿の代わりに、空いている民家を進められたのだった。






「おかしいわね。この村」


進められた家の中に入ってすぐにマリ姉がそう呟く。


う~ん。


何と無く、分かるような分からないような。


「おかしいってどこが?マリ姉?」


「この村の空気よ」


ああ、成る程。


確かにこの村の空気は多少おかしいかも知れない。


「え?おかしいってどこがですか?」


だが、ヒマリちゃんは分からなかった様でマリ姉に質問する。


「私達に対して、歓迎的過ぎるんじゃないかしら?」


「それのどこが……?」


「この区域一帯には吸血鬼が出るのよ?余所者に対して、警戒心を抱かないのはおかしく無いかしら?」


「ああ!」


どうやら、ヒマリちゃんには得心がいった様だ。


そう、吸血鬼の少女の行動範囲を考えるとこの村にも来ていてもおかしくない。


だが、この村は余所者に寛大すぎる。


まるで、吸血鬼の被害など一度も無かったように。


「余所者だったら、警戒してもおかしくはないですもんね!」


更に言うと、俺は今、吸血鬼の少女との一種の共鳴(リンク)状態にある。


多分、俺の共有の力とヒマリちゃんの心の中で起きたあの出来事のせいだ。


そして、共有の力によって俺は何と無く、吸血鬼の少女がこの辺りにいると感じている。


状況を考えると、間違いなく黒。


「そうなると、一番問題は……」


「この村の全員が、何らかの形で関わっていた場合ね」


マリ姉が俺の言葉を深刻そうに引き継いだ。


そう、最悪なのは村人が吸血鬼の少女を匿っていた場合。


隠していたり、匿っていたり、協力していたりの、卓上の駒が全て黒だった場合だ。


その場合、俺達には成す統べなく、犠牲になった村とこの村の全面戦争を引き起こす。


更に、最悪のシナリオとしては、ここが吸血鬼の村だったとかが一番嫌なシナリオだ。


この村人全員が吸血鬼で、へへっ!ご馳走が舞い込んで来たぜ!状態のとき。


歓迎の理由が俺達の血が目的とか洒落にすらならない。


だが、そんな想像は直ぐに打ち砕かれる。


トントン!


「…………!?」


来訪を告げるノックの音に思わず身構える俺達。


マリ姉とアイコンタクトして、俺が扉を開け、マリ姉がヒマリちゃんを後ろに隠す。


「突然、押し掛けて申し訳ありません。娘がどうしてもと聞かぬものですから……」


訪ねてきたのは、村の村長。


「どうしたんですか?」


警戒は怠らないものの、特に害意は無いみたいなので普通に家へと通す。


この家借り物だし。


「実は紹介したい者がおりまして……。是非、旅人さんの話を聞きたいと、村の娘が……」


そう言って、許可を求めてくる村長さん。


もしかしたら、本当にこの村は余所者を歓迎してくれているのかもしれない。


この村には滅多に人が来ず、そんな旅人の珍しい話が聞きたいと思っているのかもしれない、と。


だったら、俺の予想は不謹慎だったかな?


「良いですよ?むしろ、大歓迎です」


「ありがとうございます。では、ナイア、来なさい」


そう言って、一人の少女が村長の後ろから出てくる。


それは青い髪と瞳をした可憐な少女だった……。


俺とマリ姉は驚きを表に現さ無いようにするのに精一杯だった。


「ご紹介にあがりました、ナイアです。旅の話、凄く聞きたくて、無理をいってここにこさせてもらいました。迷惑でしたか?」


会話の内容など耳に入らなかった。


だって、その子は俺達があの町で出会った、


「すいませんねぇ、どうかこの子の我が儘お願い致します」


吸血鬼の少女だったのだから。


「よかったら、旅人さんのお話聞かせて頂けませんか!私、すぅ~うごく(・・・)()にをしていたのか気になります!」


っ!


瞬間、少女の目が村長に見えない位置で赤く染まり、俺達は身動きが封じられる。


体が硬直して動かないのだ。


その台詞の中に巧妙に紛れ込まされた、動くなの命令のせいで。


襲い掛かられても、これでは対処出来ない。


だが、吸血鬼の少女



が直ぐに襲って来ない所を見ると、俺達の予想は大きく外れていたようだ。


多分、この子は、村人の前では手を出せない。


そこを上手くつければ!


だが、村長は俺達の危機気付いておらず、伝える術も無い。


話を終わらせようとする。


「この子は村で、とっても良い子なので、粗相はしないと思います。それでは私はこれで」


今、出ていかれたら困る、そんな、思いも言えず、言葉も今は発することが出来ない。


そのまま村長は立ち去り、無慈悲な扉は閉まった。


邪魔する物は何もない。


「さてと、何でここまで追ってこられたのかは分からないけれど、私の平穏を守るために見られたからには始末しないといけないのよね……」


吸血鬼の少女はその本性を現し、剥き出しにする。


「まずは、貴方からかしら?男の子の血を吸うなんて、初めて(・・・)だけれど、抵抗出来ない程度まで搾るしかないのか……」


動けない俺に向かって、数歩で距離を縮められる。


「ごめんね」


そして、その唇が牙が俺の首筋を捉えようとした瞬間。


「ユウトさん!危ない!」


唯一、マリ姉の後ろに隠れ、吸血鬼の少女の目を見なかったヒマリちゃんが吸血鬼の少女に襲い掛かる。


既にヒマリちゃんは猫の姿に進化(チェンジ)している。


猫耳が生え、その跳躍力で、距離を一気に詰めたヒマリちゃんは吸血鬼に爪を振りかぶる。


それに気付いた吸血鬼の少女は、慌てて俺から離れる。


爪は空を切り裂き、俺は間一髪吸血鬼の少女に襲われるのを免れたのだった。


だが、それよりも俺が驚いたのはヒマリちゃんが躊躇なく吸血鬼の少女に攻撃したことだ。


つまり、自分達を守るために、傷付けることをいとわないと、決意したということ。


正直、ヒマリちゃんにはそんなこと出来ないと思い込んでいた分、意外感は拭えない。


だが、今は戦闘中。


余計な思考はカットし、ヒマリちゃんに反撃しようとした吸血鬼の少女の攻撃をトンファーを呼び出(コール)し、受け止める。


ヒマリちゃんが攻撃したことで、俺達の硬直が解け、自由に動けるようになったのだ。


俺に攻撃を受け止められたと理解した吸血鬼の少女が続けて、右手の攻撃を繰り出し、俺はそれを避けずに突っ込む。


吸血鬼の少女の攻撃は、殆ど一撃必殺。


あたれば、俺は即ダウンを免れないと言うのに、俺は、避けない、ガードしない。


俺が一人じゃないからだ。


吸血鬼の右手の攻撃は、俺の後ろから飛んできたナイフによって阻害される。


無論、それはマリ姉だ。


室内で鞭が使いにくい今、マリ姉は指輪からナイフを呼び出し、投げたのだ。


つか、知ってたけど、何でも出来るなマリ姉。


マリ姉の投げたナイフが吸血鬼少女の右腕に刺さり、怯んだその隙に、俺は右手を掴んで掻い潜り、吸血鬼の少女の懐に背中を向けながら入り込む。


そのまま、両足に力を込め、体を小さく丸め、腕を攻撃していた方向に引っ張る。


いくら、力が強かろうが、治りが早かろうが固かろうが、日本にはそんな相手に立ち向かう技がある。


俺の背中と吸血鬼の少女を軸に、バランスを崩し前に進もうとしていた力の流れを、下だけ抑え、上の腕だけ引っ張り、地面に叩きつける。


投げ技。


刃物だったら、躊躇する俺でも、技には容赦はしない!


吸血鬼の少女は軽く宙に浮き、そのまま俺によって背中から地面に叩き付けられた。


肺から酸素が漏れ、一瞬の硬直が生じる。


「しゃあ!肩いったかもしんない!」


だが、素人が投げ技なんて大それたことするもんじゃない。


そもそも、技ですらないし、投げるために無理な体制で背中から入り、あまつさえ、不安定な片手投げなど馬鹿のすることだ。


肩がズキズキ痛む、ヒビが入ったり、折れたりしてないよな?


と、兎に角、一瞬の硬直さえあれば、


「ナイスよ!ユウちゃん!」


後は、本家がやってくれる。


マリ姉が倒れた吸血鬼の少女の左側面から右腕をかけ、首を固める。


そのまま、もう片方の腕で相手の足を抱えながら、胸板を使い、上から相手を抑え、腰を落とし、相手の動きを抑えた。


吸血鬼の少女は、硬直から抜け出し、辛うじて動ける右腕でどうにか抜け出そうと暴れるが、その前に手に刺さったナイフごと右手をヒマリちゃんに抑えられてしまう。


「うっ、このっ!」


吸血鬼の少女は怪力で抜け出そうとするけれど、技って言うのは、力に対抗する為にあるものだから、恐らく、抜け出せない。


相手はマリ姉だし……。


恐らく、柔道の技なんだろうけれど、武道に詳しくない俺は名前なんか知らない。


横四方固よこしほうがためって言って、柔道の固技の抑込技9本の内の一つなのだけれど、分かったかしら?」


うん。心読まないでくれるかな?マリ姉?


戦闘中にその余裕は色んな人達に失礼だと思うよ?


隣で頑張っているヒマリちゃんを含めて。


兎に角、初めて、俺達が優位になり、このまま勝てる可能性だって高い。


このまま行けば、俺の考える展開に……。



「くっ、離しなさ……!」


それでも、なお、抜け出そうとあがく吸血鬼の少女だが、完全に決まってしまっている。


怪力を全快にして、暴れている吸血鬼の少女に、マリ姉は忠告する。


「動いたら、折れるわよ?」


その一言を聞いて、何かを諦めたように吸血鬼の少女は呟いた。


「…………間接技ね……、それは人間だから有効な技なのよ?」


「ヒマリちゃん!離れろ!」


その意図に一番に気付いたのは俺。


慌てて、ヒマリちゃんに近より、手を伸ばす。


「えっ?」


マリ姉も、その意図に気付いたのか、技を変えようとして、それより早く、


バキバキッゴキュ!!


嫌な音が辺りに響いた。


こいつ、骨を折って間接技を抜けようとっ!?


首の骨こそ折れないものの強引な怪力で足の骨を自ら折り、そのまま体をひねり束縛が緩くなる体制まで持っていった所で、吸血鬼の治癒力で体が治癒する。


マリ姉の間接技の足元を強引に緩めた形だ。


骨が折れてしまえば、間接技には意味が薄まる。


だが、現実にそんなこと実行できるやつなんかいない!


今、この瞬間まで。


吸血鬼はマリ姉から逃れようとしながら、更に驚くべきことに右腕を強引に動かす。


刃物が刺さっていて、ヒマリちゃんが乗っているにも、関わらずだ。


右手の肌の繊維が裂け、血を溢れさせ、もう一度自らの骨を折る吸血鬼の少女。


ヒマリちゃんの拘束を無理やり抜け出し、そのまま、右腕を治癒させる。


そして、


「邪魔なのよ!」


吸血鬼自慢の怪力を持ってして右腕だけで、ヒマリちゃんを投げ飛ばす。


「きゃっ!?」


その威力は甚大で、このままいくと、勢いよく家の屋根にぶつけられるという程だ。


ヒマリちゃんは今、猫の姿に変身していて、着地を軽減するすべを進化させ(しゅうとくし)ているかも知れないが、背中の受け身は流石に取れない。


更にその衝撃で意識を失い、着地にすら失敗する可能性だってある。


「うっ、りゃっあ!」


だから、投げ飛ばされるその瞬間にギリギリ、ヒマリちゃんの衣服の背中部分をギリギリ掴めたことは大きい。


そのまま、上に飛んでいこうとしたヒマリちゃんを先程の吸血鬼の少女と同じ様に俺は円を描くように投げ飛ばす。


ただし、こちらは横に力を加えて、回転に力のベクトルを流すように。


ビリッ!


不穏な音が聞こえた気がして手から力が抜ける。


手から抜けたヒマリちゃんが俺の行動虚しく天井に激突するかと思ったが、俺の行動が甲を奏したのか、上に行く力が半分ほど右に逸れて、ギリギリ天井との衝突を免れ、落下を始めた。


本当は、ヒマリちゃんを裏返して、天井に着地させるつもりで、その後落下してきたヒマリちゃんを受け止める作戦だったが、ぶつからなかったなら結果オーライ。とはならなかった。


ぶつからなかった分の力が消えた訳じゃない。


その分力の流れが横に反れたのだ。


ヒマリちゃんは上下運動ではなく、放物線運動で斜めに飛んでしまっており、このままだと壁に激突してしまう。


とか、思考をする前には俺の体は動いていた。


ヒマリちゃんの落下地点に目算をつけ、壁に走り出していた。


自分の勢いを殺す時間もなく、落ちてくるヒマリちゃんを受け止めるために、体をターンさせ、背中を壁に打ち付けることで体を止める。


「げぼっ!?っうう!」


「きゃっ!?」


落ちてきたヒマリちゃんを受け止めたのは、それと同時だった。


ギリギリセーフ。


ヒマリちゃんに怪我はないようで、安心すると同時に、吸血鬼の少女がマリ姉の拘束から抜け出したのを確認した。


「ユウトさん!?」


ヒマリちゃんの焦った声が遅れて聞こえてきた。

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