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第四十物語 「heart dream~理想的な現実のために~」

理想的な閑話休題のお話

共有の力を最大まで上げたことにより、俺の脳は割れるような痛みに支配される。


が、それだけに留まらない。


「ぐっ!?」


能力の強さが何かを新しい出来事を呼び寄越そうとしている。


「(これが俺の能力の正……)」


俺の意識は途切れた。






ふわふわとした空間に逆さまに浮いてる俺。


アニメとかで良く見るよな……、これ。


この後、一筋の光の光とかが刺して、とかが王道展開だけれど、現実にはどうだろ。


あ、刺して来たわ、光。


光は瞬く間に大きくなり、この世界を飲み込む。


次の瞬間には、この場はお花畑と化していた。


花は綺麗だったり、可愛かったりして、来るものを拒まないと言う、優しさが現れたような場所(せかい)だった。


優しい香りに鼻孔を擽られ、無意識に近くの花々に視線を写す。


視線を戻すと、花畑には多くの動物達が居た。


動物達は皆、何処と無く嬉しそうで、でも、俺が探しているのは動物達じゃない。


辺りを見渡すと、その中心に彼女は居た。


動物達に囲まれる中心で、花で出来た冠を頭に乗せる少女、ヒマリちゃんだ。


近付こうとすると、何かを熱心にやっているようで躊躇ってしまう。


仕方無く、遠くから何をしているのかとしているかを確認すると、どうやら、花の冠を作って、動物達にプレゼントしているようだった。


作り上げた冠を受け取った、動物は嬉しそうに去っていく。


邪魔をするのは悪いと思い、暫くの時間、ずっと見るだけに徹する。


本当に穏やかなこの場所には、見ているだけでも和んでしまう、そんな不思議な魔力があった。


気が付くと、時間は進んでおり、ヒマリちゃんが最後の動物に花冠を乗せた所だった。


うん。色々と分からないことがあるし、今かな?


テクテクとヒマリちゃんに歩み寄り、話し掛けて色々と聞くことにする。


「ねぇ?」


「はひゅっ!?」


が、俺が話し掛けた瞬間、ヒマリちゃんは脅える子ウサギの様に体を縮こませる。


うん。ショック。


と言うより、ヒマリちゃんはこんな対応を取るような子だっただろうか?


「ひ、ヒマリちゃん?」


慌てて対応しようとするが、ヒマリちゃんは聞こえないと言うように怯えている。


いや、良く考えたら、この子はヒマリちゃんなのだろうか?


そもそも、ここが何処なのか分からない状況だ。


他人の空似という可能性も無いわけじゃない。


いや、でも、目の前に居るのはヒマリちゃんなんだとの確信はあるのだ……。


「ヒマリちゃん?ユウトだけれども分かる?」


「え……?」


試しに確認を取ってみた所、ユウトの名前に聞き覚えがあるらしい。


ゆっくりとこちらを振り向き、安堵した表情を見せてくれた。


「お、驚かせないで下さいよ!王子様(ユウトさん)!」


ん?今なんか違和感を感じたような?


そんな俺の疑問が解消される前にヒマリちゃんは跳びっきりの笑顔を見せてくれて……。


「ユ・ウ・ト・さん!」


「うっ……」


不覚にもドキッとしてしまった。


更には、


え?何だろ?何かが?可笑しいと思う間もなく、


「今日は早かったですね!」


「ひ、ひ、ヒマリちゃん!?」


思いっきり抱き締められてしまった。


凄く焦る、俺。


ヤバい、心臓がバクバクいってる!


静まれ!我が左胸!この様な所でこそ平常心を呼び戻せ(コールしろ)


そんな俺の心の葛藤を知ってか、知らずか(いや、知らないと思う)、


「どうしたんですか?王子様(ユウトさん)?」


純粋な目でそう訪ねるヒマリちゃん。


「あの、その、女の子から積極的に抱き締められるのには慣れて居なくって……」


思わず、視線が泳いでの回答だった。


すると、えっ?と言うような、ヒマリちゃんの驚いた顔。


ん~?何かが噛み合っていないような……。


「あの、ヒマリちゃん?俺の事、正しく理解してるかな?」


「えっと……?どういうことでしょうか?」


あ、説明しようにも肝心の情報が掴めていない。


「まず、ここって……?何処かな?」


「何処って?お花畑ですよ?」


どうにも噛み合わない会話。


「うん?ここにはお花畑だけ?ヒマリちゃんの心の中とかじゃないの?」


だから、仕方無しに俺の推測を口にする。


「え?」


「うん?」


お互いに疑問が募り、暫くの沈黙の後、ヒマリちゃんは切り出すことにより、漸く事情が掴めることとなる。


「もしかして、外のユウトさん?」


「えっと、良く分からないけど、多分、そうだと……」


「……………………」


「……………………」


沈黙。


そして


「きゃああああああああああ!!!!」


絶叫。


ついでに驚愕。


「え!?ちょ!?ヒマリちゃん!?」


「いやいやいやそうならそうと言って頂ければ良いのに!私そうとも知らずに抱き付いちゃったじゃないですか!」


「お、落ち着いて」


顔を林檎のように真っ赤にしながら、早口で捲し立てあげるヒマリちゃん。


だが、俺には言ってる事の意味が分からない。


「どうしよういつもここでユウトさんに抱き付いてるから今日も抱き付いちゃった!なんて言えないし言ったら嫌われるかもしれないよ」


「お、お~い」


駄目だ。全然聞こえてない。


心ここにあらずだ。


「言えない絶対言えないよ!ここが(ヒマリ)の心を形どった世界だなんて。私の心がこんな風になっているのも。白馬に乗ってくるユウトさんと毎日会ってることも!」


「ヒマリちゃんてばっ!!」


「はひっ!?」


仕方が無いから、マシンガンの如く、何かを喋り続けていたヒマリちゃんの肩を思いっきり掴む。


そのまま、離さないし、放れさせない。


「え、ええっと。ゆ、ゆ、ユウトさん……?」


まだ、目が泳ぎ気味ではあったけれども、どうやら、冷静になってくれたようだ……。


「ん……」


ヒマリちゃんが目を閉じて、何かを待っているような素振りをしているのは、盛大な勘違いが有るような気もするのだが。


とりあえず、今から話をしないと。


そんな時だ。


パッカパッカと、地面をゆっくりと歩く音がする。


これは、馬?


「!?」


再び、ヒマリちゃんの肩が跳ねる。


どうしたんだろう?何をそんなビックリしてるんだ?


思わず、振り返って確認しようとしたけれど、馬の上に誰かの影が見えた所で視界が闇に閉ざされてしまう。


「あ、あれ?」


目元に仄かな暖かみと手のひらの感触。


「だ、だぁ~れだ!」


どうやら、俺はヒマリちゃんに目隠しされた様だった。


「いや、ヒマリちゃん以外に居ないと思うけど……」


「あ、あはは……」


笑って誤魔化すヒマリちゃん。


結局、あの馬に乗っていたのは誰なんだ?


「ヒマリちゃん?そろそろ手を離していただけない?」


「だ、駄目ですよ!ユウトさん!目を合わせると石になっちゃいますよ!!」


「僕の目の前には何がいるんだ!?」


ええっ!?いきなり何が現れたんだよ!?


つうか、ヒマリちゃんは目を合わせて大丈夫なのか!?


「「大丈夫!?ヒマリちゃん!?」」


「「ん??」」


何だろう、今俺の声がダブったような?


「わぁああああああ!?きゃああああああああああ!?」


「「わわっ」」


ひ、ヒマリちゃんが壊れた!?


「おのれ、馬の上の何者かよ!何をした?」


心辺りが無いので、とりあえず、責任を求めてみるが向こうが何かを言う前に、ヒマリちゃんは器用に俺の目を隠しつつも涙ながらに走り出した。






「ええっと、つまり、ここはヒマリちゃんの心を表した世界ってこと?」


「はい」


心を表してですから現実と多少性格など相違点があるかもですけれど、と付け加えるヒマリちゃん。


「つまりですね。心にはこうなりたいって言う願望や願いが含まれてしまうんです。自分で言うのもなんですが、動物以外だけじゃなくて人との仲良くする方法が分かりますし、頭が現実より働いていると思います」


その説明を聞いて何と無く理解できた。


ここはヒマリちゃんの理想の心の中なのだ。


自分が、こうしたい、こうなりたい、と思って行動しても現実にはそう上手くいかない。


現実事態が予測不能な障害と課すからだ。


だから、ここは、その障害を取り除いた、言わば理想郷の様な物なのだ。


「前々から思ってたんですけれど、ユウトさんの能力ってなんなんですか?」


「実は良く分からないんだよね……」


半分本気で半分冗談のような回答。


今の現象だって、起こったこと以外、過程とかが全部謎だ。


名前をつけるとしたら、共有の力が起こした、理想共有(リンク)ってところかな?


そうなんですか、と複雑な事情を察してくれたヒマリちゃんは、次の話題に話を反らしてくれる。


本当に良い子だ。


「そうだ!この世界は、心の形をそのまま写した物ですから、今だったら、普段は聞けないような質問も今だったら受け付けちゃいますよ?」


そう言って、小悪魔チックに笑うヒマリちゃん。


成る程。こうして見ると現実のヒマリちゃんはしない行動だな。


ううん。質問か……?


「僕のことどう思ってるとかかな?」


若干、反則な感じもするけど、嫌われてたりしたら治したいし、とそんな質問をぶつけてみる。


「ふえっ?」


うん。心底予想外だったのかめっちゃ驚かれた。


どうやら俺のチョイスは間違っていたようだ。


理想的な反応が出来る筈のヒマリちゃんが、顔を林檎のように真っ赤にしている。


案外、理想って脆いな。


それとも、俺の配慮が悪いのか?


「そ、そ、そ、それは……、べ、べ、別に大好きなんですからね?」


「ツンデレ風!?待って!その言い方だと、俺は嫌われてそうなんだけど!?」


「え?え?あわわ!?えっと、えっと、あ、あんたなんか嫌いなんだからね!」


「直球!?え!?実は嫌われてるのか!?僕!?」


衝撃の事実が発覚した。


「ち、違うんですよ!?私がユウトさんを嫌いになるわけ無いじゃないですか!!」


断定された。全力で。


「う、うん」


思わず、気恥ずかしくなってしまう。


あ、俺ってダイレクトな言葉に弱いのかにゃ~。


俺に吊られて、ヒマリちゃんも赤くなる。


き、気不味い。


「ほ、他の質問とかどうですか?」


「あ、ああ、他の質問ね!うん!」


この気まずさを誤魔化す為にヒマリちゃんが話題を振ってくれた。


考えろ!ここで意識を切り返るんだ!


そう何か話題を話題を!普段聞けないようないようなこととか無いか?


「何でも、良いんですよ~?」


そう言って、先程までの失態を隠すように俺の腕に抱き付いてくるヒマリちゃん。


うっ……。


小悪魔チックな笑顔も含めて、思わず、赤くなってしまう。


ああ、何と無く分かった。


何処かで見たことがあるって、思ったけれど、何処と無くマリ姉っぽいんだ。


つまり、ヒマリちゃんの理想には少なからずマリ姉が入ってるってことで、


「あ!今!他の女の子のこと考えましたね!?」


「ええっと……」


それはマリ姉のことをヒマリちゃんが好きでいてくれる証の様な気がして嬉しくなった。


やっぱり、女の子って凄いな……。


「むぅう……」


俺に対してむくれるヒマリちゃん。


だから、何と無くだけれど。


「よしよし」


「ふわわ!?な、なで?」


ヒマリちゃんの頭を撫でていた。


ヒマリちゃんは最初こそ驚いていたけれど、次第に俺のなで撫でにされるがままになっていた。


「えへへっ……。ユウトさん~」


うん。犬っぽい。


手を離すと名残惜しそうな目で手を見つめるが、直ぐに意識を切り替え笑顔を見せてくれる。


「ありがとうございました~!お礼に一つ秘密を教えてあげますよ!」


「え?秘密?」


ヒマリちゃんがジェスチャーで耳を近付ける様にするため、仕方無く耳を近付けると、理想のヒマリちゃんは小声で呟く。


「現実の私は、この年でCカップなことに悩んでます!」


「うぐっ!?」


爆弾発言に思わず、変な声を出すと、ヒマリちゃんがしてやったりと言う顔をする。


何と無く、後輩ちゃんにも似てる気がする。


俺をからかうときの姿勢を見て、切実にそう思った。


それにしても、小学生(そのとし)で、そのサイズだと!?


確かヒマリちゃんは十二才。


いや、待て、落ち着け俺!


そもそも、そう言う方面に詳しくない俺としては、それが大きいのかすら分からない。


そもそも、そんな思考をしていること事態がヒマリちゃんの術中じゃないのか?


くっ、完全にやられた。


見ると、ヒマリちゃんはクスクスと可笑しそうに笑っている。


このヒマリちゃん、断然強いんだが……。


「やっぱり、ユウトさんと一緒にいると楽しいです」


「タノシンデモラエテナニヨリダヨ」


「ごめんなさいですから、拗ねないで~」


別に拗ねてなんか無いんだからね!


さて、そんなやり取りをしながらも、俺はヒマリちゃんと共に歩いていたのだった。


とある目的地に向かって。


話をしていたから、気付かなかったけれど、俺達は目的地の側まで来ていたのだった。


「着きましたよ?ユウトさん?」


「ここが……」


ヒマリちゃんに言われて、目の前の大きな扉に意識を向ける。


「そうです。この先に現実世界の私が居ます」


そう、ここまで楽しいお喋りを繰り広げて来たが、現実のヒマリちゃんは、まだ苦しんでいるのだ。


何事も理想道理に上手く行くとは限らない。


縛られたり、邪魔されたり、思い道理にならない現実の自分が誰しもの中にいる。


「私が言うのもなんですけれど、あの子を助けてあげてください」


理想のヒマリちゃんは続ける。


「私はヒマリの無意識であり、ここは夢みたいな物です」


「ここで私が笑っても、現実に戻ると暫くして霧散して忘れてしまうような存在です」


「だから、現実の私を助けてあげてください!」


そう言って、頭を下げるヒマリちゃん。


多分、現実のヒマリちゃんより、器用に人に頼る事が出来るんだろう。


だけど、何と無く、自分を犠牲にしているようなそんな感じがした。


「やっぱ、変わんないよ」


「え?」


自分より他人を優先してしまうスタイルはやっぱり、ヒマリちゃんで、


「理想も現実も意識も無意識も、全部含めてヒマリちゃんなんだ。二つ共でヒマリちゃん」


何てことわない、ヒマリちゃんはヒマリちゃんでどっちも優しいままなのだ。


「二人に違いなんてないと思う、俺はどっちも好きだよ」


そう言って、頭を少し乱暴に撫でてみる。


ヒマリちゃんはその初めてに若干戸惑うが、俺のターンは止まらない。


「じゃ、いっちょ可愛い女の子の為に頼み事を叶えにいきますか」


「っっっ!?」


ヒマリちゃんが急に押し黙るが今の俺は目の前に集中する。


俺は扉を開けると、ありがとうと言って通り過ぎる。


「帰ったら、私の(・・)胸の悩みのこと考えて下さいよ?」


去り際に聞こえた、「考えてあげて」と現実のヒマリちゃんに言うのでは無く、自身(ヒマリ)に言った言葉が頭に残った。






「お願いします、ユウトさん。もう一人。迷い込んだあの子も助けてあげてください」

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