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第三十九物語 「over link~限界をかんじさせずに~」

平常運転なユウトの話

俺が二歩下がるのと、ヒマリちゃんが駆け出すのは同時だった。


視線は俺の手を追っている。


つまり、狙いは俺の手。


数秒後、予想道理に拳が飛んでくる。


来るのは分かっていた。


視界(ねらい)がそこに集中していたから。


今のヒマリちゃんに視線を誘導するなんて高等手段は使えない。


見ている場所をそのまま狙ってくる筈だ。


そして、予想道理の場合攻撃してきた、その拳をクロスさせた扇子で受け流す。


だが、反撃はせずにヒマリちゃんの背中を押し出すに留める。


こちら準備する余裕を作る為に。


「女の子がそんなはしたなくっちゃ」


体を反転させ、同じく反転さたヒマリが顔面を狙いにかかり、その手を受け止める。


「いけないな!」


そのまま、手を右後ろにその首裏を攻撃して気絶させ、終わらせることが


「…………」


出来なかった。


ピタリと、ギリギリで止めてしまったから。


良く漫画とかである、首トンをしたかったのだけれど、現実にそれをやるとなると素人には難しく、かなり力を込めなければならない。


そのことに躊躇したのだ、俺は。


リンッ!!


「…………!」


鈴が自らを揺らし音を響かせ、ヒマリちゃんはその隙を逃がすこと無く、俺の首に裏拳をかます。


「ゴフッ!」


中々に手応えを感じさせるであろう、その一撃に一瞬意識が飛びそうになる。


だが、生憎、倒れる訳にはいかないのだ。


意識を辛うじて保ちながらも、ヒマリちゃんの視界から蹴りが来るのが分かり、その蹴りを二つの鉄扇の間の鉄の紐で受ける。


間の鈴が一際大きくなった。


糸は鉄の強靭さで蹴りの威力を分散し、その折方の柔軟さで、ヒマリちゃんを傷付けることはない。


攻撃を止められたヒマリちゃんが、もう一度攻撃をしようとして、足を戻そうとする。


だが、


「おっと!」


させない。


扇子を上から下に向かって投げることにより、荒野のガンマンの投げロープのようにその糸がくるくると戻そうとした足に巻き付き、戻させない。


片足の主導権がこちらに渡った。


普通の対人戦なら、これで詰みだ。


「さて、終わらせ……っつ!?」


だが、ヒマリちゃんは俺の予想を優々と上回る。


獣魂奏者(アニマルソウル)


ヒマリちゃんの能力。


自分に動物を重ね進化する能力。


それを発動させたのだ、理性(こころ)が無い今の状況で。


何の動物を掛け合わしたのかが分からないが、黒い翼が生え、長い歯が更に延び、力が格段に上がる。


繋がれた足を無理矢理に動かし、俺の腕を糸ごと引き寄せる程に。


「くっ……!?」


俺はその力に抗えない。


それでも、扇子を手離すわけにはいかないのだ。


次の1手の為に。


そんな決意をものともせず、ヒマリちゃんは目を赤く光らせ、引き寄せられた俺の体に向けて、力を込めた拳を叩き込む。


ガードは不可能。


その一撃は容赦なく無慈悲に俺の体を貫いたのだ。


「ガハッ!?」


口から血を撒き散らしながらも、二歩下がる程度に止め後ろに倒れ込む。


吹き飛ばされた方が威力を抑えることは出来ただろう。


しかし、手を放すわけにはいかない。


この鉄扇が最後の希望なのだ。


「ヒマリ……ちゃん……」


尻餅を付いた俺にゆっくり近付いてくるヒマリちゃん。


その右足には扇子の糸がまだ繋がっているが、反対側の足を大きく後ろに引く。


そのまま、動けない俺に蹴りをくらわした。


「っっっ!?」


最早、声も上がらない。


激しい痛みの波がユウトに襲い掛かる。


あまりの威力にあんなに決意して守り抜こうとした最後の希望の筈だった扇子も俺の手から離れてしまう。


思わず、手を伸ばすが届かない。


そんな俺をヒマリちゃんは無表情に見るのだった。


「………………」


思わず、諦めそうになる。


扇子が手から離れた以上、もう、俺に手はないのだから。


「(本当に?)」


何かが引っ掛かる気がした。


宿屋の人が言っていた、もうヒマリちゃんには理性(こころ)が残っていないと。


だけど、ヒマリちゃんは不完全ながらも能力を使った。


動物と友達になり心を通わせないと使えないその力を……。


ならば、まだ、可能性はあるんじゃないか?


能力を使ったのなら、ヒマリちゃんの他の人や動物を思う優しい気持ちはまだ残っているのだから。


ここで引き下がったら、全てが終わる。


「諦める訳にはいかねんだよ……」


手から離れていった鉄扇。


その鉄扇を、


足で無理矢理踏みつける。


まだ、希望の糸は切れてない。切らさない。


この、俺とヒマリちゃんを繋ぐ鉄の糸に全てをかける。


呼び出し(コール)


何時もの様に指輪から武器を取り出す。


バチバチバチ!!


スイッチを押しても、問題なく作動する。


いける!


その確信と共に決め台詞を放つ。


「ビリビリさせちゃうぜ!学園都○第三位、超電○砲(レ○ルガン)の電気で!!」


ちょっと、アウト気味な台詞を。


右手に呼び出したのはスタンガン。


相手に電気を流し麻痺させる武器。


普通だったら、当てる前にかわさせるか反撃をくらう。


だが今俺が踏みつけ、ヒマリちゃんに巻き付いた鉄扇(きぼう)は鉄で出来ており、それを繋ぐ糸もまた鉄で出来ている。


鉄、電気を通す。


「ごめんね?」


その掛け声と共に、俺とヒマリちゃんを繋ぐ鉄の糸にスタンガンを最大出力で押し当てた。







バチバチバチ!


電撃が辺りに走る音がして、体が硬直するヒマリちゃん。


体に電気が流れて麻痺しているのだ。


ガクガクと痙攣を起こし、意識が飛んでいきそうにな状態だ。


俺の足の下にも、鉄扇が繋がっていているが、生憎とこのローファーは電気を通すことはない。


スタンガンのスイッチを止めると、ヒマリちゃんは眠るように気絶してしまった。


能力も解け、元のヒマリちゃんに戻ったのだ。


いや、完全に戻った訳では無く、死人(ゾンビ)のままなのだけれども。


近付いて、触れるが、やはり体は冷たいままだ。


その体を背負い上げると、目的地に向かってボロボロの体で歩き始める。


近くの山小屋へと。


「(一か八か試す価値はあるよな……)」


ヒマリちゃんを戻す策を確認しながら。


ふと、ヒマリちゃんの顔が目に入り、すやすやと気持ち良さそうに寝ているのが分かる。


『(ありがとうございます)』


その姿からそんな言葉が伝わってきた様な気もするが気のせいだろう。






目的地に着いた俺は古びた扉を開ける。


ここは宿屋の子から教えて貰った空き家だ。


マリ姉が村人を止めてくれているから問題ない筈だ。


近くにあるベッドの様な物にヒマリちゃんを寝かせた所で膝がガクンと落ちた。


「くっ……」


体のダメージがピークに達して、もう一歩も動けそうにない。


だが、体が動かなくても、出来る事がある。


ヒマリちゃんの冷たくなった手のひらを掴み能力を発動させために。


状態共有(リンク)


俺とヒマリちゃんとを繋ぐ能力を。


死人(ゾンビ)について分かったことがいくつかある。


一つ、体は冷たいけれど、呼吸も脈もある。


二つ、身体能力が格段に上がっているが理性が無く動物的に動く。


三つ、体が腐食したり不死身な体になった訳じゃない。


四つ、能力は発動することが出来た。


五つ、人の血を求める食欲があがっているが食事をする様子は無い。


これらを踏まえて考えるとゾンビとは名ばかりに、ヒマリちゃんは人を襲うだけしかしない。


いや、それだけでも、あれな気もするけど。


まぁ、何が言いたいかと言うと、吸血衝動、低体温、身体能力上昇。


これらはヒマリちゃんの体が変化し起こされたことだ。


そして、吸血少女と戦ったとき、言葉に逆らえなかったこと、あの超回復能力。


これら全てを踏まえると、見えてきた物がある。


いずれも体に干渉、または、肉体を改造する物という現象。


一貫性の法則があり、様々な応用が効く。


つまり、特性(スキル)と言うより、能力(アビリティ)よりなのだ。


ならば、


「治せるかも知れない……」


普通(ノーマル)状態を共有する状態共有(リンク)で。


これが、吸血鬼の能力ならば、人間の状態に戻すことが出来る。


どっかのハザードの様にウイルスで体の組織を変化させている訳じゃない。


例え、能力では無いとしても試す価値はあるだろう。


ヒマリちゃんが治るかも知れないなら。


さてと。


ノーマル状態を共有させて、この呪い擬きをを解く状態共有(リンク)か……。


「そういや、不命の時も使ったけど、どうせなら、使い分け方が欲しいかな?」


思考は一秒以内に解決。


状態共有の派閥系能力。


『状態共有(リンク)解呪(デフォルト)


なんて、格好つけて、能力を発動させた。






「ぐっ!?」


心構えが甘かったのかも、知れない。


急激に襲う頭の頭痛に顔を思わずしかめる


だが、それでも手は離さないし、能力も解除しない。


だけれど、後悔の様な無力感があるのは確かだ。


考えが足りなかった。


まさか、こんなにも能力が強力だなんて。


くっそ、どんだけ元が強力なんだよ!


解除出来るかどうかも分からないし、出来たとしても時間がかかる。


確実に。


「くっ、それじゃあ不味いかもにゃあ……」


俺の力はマリ姉程では無いけれど、時間制限がある。


というより、使い過ぎるたり無茶をすると、脳に頭痛が走ったり、意識が覚束無くなるのだ。


今日の時点で、どれだけ使ったか分からない。


ぶっ倒れるまで、あと、どれだけ持つかも分かんない。


まぁ、五分五分といった所かな?


「(だけど、まぁ、やるってのは決まってる)」


何にせよ確率は半分。


最早、俺がやるしかない状況ではあるのからやるしかない。


まぁ、自分をやらなくちゃいけない状況に持っていくのも黒石さん流なのだが。


そうしている間にも時間は過ぎる。


時間にして3分程。


ヒマリちゃんにかかった呪いを解く作業が一割程度を周り、負荷が掛かった頭に頭痛が走る。


大丈夫だ。このペースならいけるはず。


常に何かの思考で紛らせ無いと、落ち着かないという現実は無視する。


そして、2割、3割と順調に行くなかで問題が起きる。


「……………………」


ヒマリちゃんが起きたのだ。


ヤバい。ピンチっちゃあ、ピンチ。


ヒマリちゃんは、俺を認識すると、獲物を見付けた様に、その伸びたままの牙をちらつかせる。


すいません。強がりました。マジ、ピンチっす!


「お、落ち着こうぜ?ヒマリちゃん!ウェイトウェイト!」


思わず、何時もの口調でそんな風に喋ってしまうが、今のヒマリちゃんは待った無しで襲ってくるだろうことは間違いない。


というより、襲ってきた。


何の予備動作も無しに。


逃げようと思えば、逃げれるかも知れないが、今、手を離したら、折角、繋げている状態共有(リンク)が解除される。


俺は成す術無くヒマリちゃんにもう片方の手を捕まれる。


今の時点じゃ、俺の力はヒマリちゃんと互角かそれ以下、振りほどくことも難しい。


無駄と分かりつつも抵抗するが、押し倒されてしまう。


「いや、ちょい、待て、押し倒すのは、不自然じゃね?」


だが、俺の抗議は届かず、体の動きも完璧に封じられる。


「ほ、ほら、ヒマリちゃんよ!こう言うのは男が上にっ……うっ!?」


そのまま、おちゃらけようとしていた俺の首に容赦無く牙を突き立てられる。


うん。天罰ぽい。


「ぐっ……」


首を起点とし、痛みが襲い、ヒマリちゃんが血を啜る音が響く。


このまま、血を吸われ続ければ、俺も死人(ゾンビ)になってしまう。


うん。ちょっと、格好いいかも知れないとか思って「(ガブガブ)」嘘です!ごめんなさい!だから、強く噛まないで!


つうか、強く噛まれた!?


死人(ゾンビ)になっても、突っ込みを忘れないとはどんだけ!?


とか、ふざけていてもピンチは続く。


ガリガリとBP(ブラットポイント)が削られていき、頭がフラフラしてきた。


共有でヒマリちゃんが人間に戻っていくのと反対に、俺が死人(ゾンビ)に近付いていってるのだ。


その分、状態共有(リンク)の精度は悪くなる。


普通(ノーマル)を共有する状態共有(リンク)解呪(デフォルト)は、俺が状態異常に陥ったら意味が無い。


今の進行状況はヒマリちゃんが人間に四割程近付いているが、俺が大体半分程、死人(むこう)に持っていかれている。


この時点で既に半死人(ハーフゾンビ)の様な状態。


頭の理性がふやけていき、本能の割合が高まっていく。


くそ、時間的に割りに合わない


状況共有(リンク)の効き目も、俺が半分程状態異常に陥ってるため、効果が薄まる。


まさに絶対絶命のピンチだ。


そんな中、


『(ユウトさん……)』


ヒマリちゃんが俺を呼ぶような声が聞こえた気がした。


共有(りんく)の能力が勝手に発動したのか、俺の幻聴なのかは分からない。


だが、声は俺に逃げて、と身を案じている様に感じられて。


尚更、引くわけにはいかなくなった。


俺は自覚症状がある天の邪鬼なのだ。


「さてと!」


そう言いながら、何時もの様にニヤリと笑い、ヒマリちゃんがそれに反応する。


「……………………」


「例外的に限界突破ってね!」


そう言って、共有の出力を最大(マックス)から限界突破(アンリミテッド)まで引き上げる。


ガンガンと頭にアラートが響こうと関係ない。


ここは、この場だけは頭が壊れてようとやり通す!

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