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第三十七物語 「break back~背負うものの重み~」

小さな命の重みの物語

「人間じゃないんです……」


 ………………。


 ………………………………。


 ………………………………………………。


「はっ?どう言うこと?意味が分からないんだけどにゃ~」


 ほんとは分かってる。


 声は弱々しく震えていて、何時もの調子など全く出ていない。


「それは……」


 ほら、ライトノベルとかでよくあるじゃないか……。


 吸血鬼に襲われた者の末路のお話。


「お願い教えてちょうだい」


 マリ姉が俺がまともに返すことが出来ないと分かると、そのバトンをとってかわる。


 ははっ、止めろよ……、マリ姉。


 吸血鬼に血を吸われた者の末路。


 吸血鬼、吸血鬼もどき、その眷属、餌、そして……。


 ライトノベルでよくある話し達。


 ほら、俺はこんなにも答えを知ってるじゃないか!


 だから、止めてくれ!正解なんて、出さないでくれ!!


「あの子は……」


 重い口をあけて、答えを出そうとする宿屋の人。


 俺の我が儘など、そこには必要ないから。


 その重々しい答えを出す。


死人(ゾンビ)なんです……。もう、人の意識はありません…………」


 絶望のみで彩られた、その答えを紡ぐ。


 ゾンビ……。


 人の意思を失い、人本来の生命力を遥かに上回り、人に襲い掛かる、死人……。


 人に害をなす、人類の敵。


 ヒマリちゃんは、既に、そんな風になってるってのかよ……。


「そして、死人(ゾンビ)に血を抜かれたら、その人も死人(ゾンビ)になります……。だから、仲間を増やす前に……」


 その、続きを話そうとして、押し黙る宿屋の人。


 いや、分かってる。


 人間の敵をどうするか、だなんて……。


 はっ……。


「ふざけんな……」


「………………」


 思わず、呟いていた。


「ああ、そうだ。こんちくしょう!ふざけんなよ…!」


 俺の独り言に二人は無言のままだ。


「何だよ!いきなり現れた、訳のわからねぇ様な奴に!」


 ついさっき、旅立つことを決意したような、俺達の仲間のヒマリちゃんを


「何で、無理矢理奪われなくちゃいけねぇんだよ!!」


 叫ぶ。強く。


 そうだ。何で、皆、こんな意図も簡単にヒマリちゃんを世界(ぶたい)から下ろそうとする?


 何で、こんな唐突に人生(ものがたり)は進んでいく?


 何で、ヒマリちゃんがそんな不当な扱いを受けなきゃならない!


 あの子は、明るくて、元気で、優しくて、世界から排除されていい理由なんて一つもない。


 ふざけんな……。


 ふざけんな…………!


 ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!


「ふざけるなよ!そんな理不尽認めねぇ!!!」


 俺の声が辺りに響く。


 そうだ。認めるわけにはいかない。


 ならば、変えてやる。


 理不尽は更なる理不尽で塗り潰す。


 それが黒石ユウトの最大の流儀。


 そんな俺の態度にマリ姉は、ふっ、と笑みを漏らした……。


「それでこそ、よ?」


 どうやら、マリ姉は最初から賛同のつもりらしかった。


「さて……と……」


 マリ姉の腕の中にいるヒマリちゃんを優しく持ち上げ、背中におんぶした。


 これで、良いかな?


「それじゃあ、お世話になりましたっと……」


 そう言って、宿屋の人に頭を下げる。


 ここに居たら、迷惑をかけるだろう。


 主にヒマリちゃんを何とかしようとする赤の他人に邪魔されて……。


「ば、馬鹿なんですか……!あなた達、私の話を……」


「聞いてたよ。それでも、やるんだ……。馬鹿だから……」


 俺のやろうとしたことを止めようと、してくる宿屋の人。


 いや、してくれる、かな。


「その子はもう人間じゃないんですよ?」


「それでも、仲間だ」


 俺の決意は変わらない。


「………………」


 無言になる宿屋の人。


「ありがとね!」


 心配してくれたことに、お礼を告げて、そう言って、俺が立ち去ろうとすると……。


「山の奥の頂上近くに誰も居ない小屋があります……」


 そんな声が聞こえた。


 それは、この村に居ては危険だと伝えると同時に、行く宛の無い俺達に対する助言だった。


 振り返ろうとすると、マリ姉に止められる。


死人(ゾンビ)の寿命は三日間です。その間に血を吸われ過ぎた者も死人(ゾンビ)になります……」


 その間も一方的に色々とアドバイスをくれる。


 何で、振り向いちゃ行けないの?って顔をすると、マリ姉がフルフルと顔を振った。


「村の掟では、死人(ゾンビ)は殺さないといけません……」


 成る程……。


 これは、振り返るなんて……、出来ないわけだ……。


 ここで、振り返ったら、彼女の好意は無駄になる。


 そう、結論に至り、だけど、それだけじゃなかった。


 俺が「ありがとう」と振り返らずに言って立ち去ろうとした時だ。


「その子を母の様にしないであげてください」


 涙を流す誰かの声が聞こえたのは……。


 その言葉は心に反響して、重くのし掛かった。


 だから、あんなに必死になってくれたのか……。


 この人のお母さんも……ゾンビに……。


 何とかしようとしたのだろう……。


 そして、村の掟で……。


 ………………。


「マリ姉……、部屋の荷物どうする?」


 一言、マリ姉の目を見る。


「ああ……、私が取ってくるわ……」


「ありがと」


 流石、マリ姉、分かっている。


 俺はマリ姉に自身の場所を知らせる為に『五感共有(リンク)』を発動させ、空き小屋へ向かって歩き出す。


死人(ゾンビ)なんです。もう、人の意識はありません』


『そして、死人(ゾンビ)に血を抜かれたら、その人も死人(ゾンビ)になります……。だから、仲間を増やす前に』


『その子はもう人間じゃないんですよ?』


死人(ゾンビ)の寿命は三日間です。その間に血を吸われ過ぎた者も死人(ゾンビ)になります』


『村の掟では、死人(ゾンビ)は殺さないといけません』


『その子を母の様にしないであげてください』


 言葉と責任の重さ、


 背中の上の冷たい(・・・)小さな命の重みを感じながら……。


「参ったな……」


 自らに圧し掛かる重課に、思わず、そんな言葉を漏らしていた。






  ~ マリナ side story ~


「これで、全部ね……」


 宿の物を確認し、物を指輪に詰めるマリナ。


 ここに置いていた物は捨てても問題ない物ばかりだったが。


 マリナの真の目的はそこでは無い。


 階段を下り、鍵を無人のカウンターに置き、ユウトからの頼まれ事をすませ、五感共有(リンク)から送られてくるユウトの視界に危険が迫ってないことを確認する。


 実はマリナが戻ってきた理由はユウトからの頼まれ事をこなすためでは無い。


 勿論、それも目的の一つではあり、今済ませた訳だが、マリナの目的はここからだ……。


 ふぅ、と息を吐き出し、マリナは前を見据える。


 ()を呼び出し、扉を開けて、1歩下がる。


 途端に扉の外から、さっきまでマリナが居た所に棒状の物が降り下ろされた。


「盗み聞きは良くないと思うのよ?」


「き、気付いてただと!?」


 名前も知らない、男が驚愕に顔を染める中、マリナは容赦などせずに、


 鞭を振るった。


 鞭に当たり、弾き飛ばされる男。


 どう見ても、素人だ。


「はぁ……」


 溜め息を吐きながら、先程まで邪魔な男が立っていた場所を優々と通り過ぎるマリナ。


 外に出ると予想道理沢山の男が宿を囲んでいた。


 相手方達は警戒の体制をしながら、こちらを睨んでいる。


「さっきの宿屋の人はどうなったのかしら?」


 そんな中、面倒臭そうにマリナが聞くが、


「村の掟を守らぬ者のことなど、知ったことか!」


 一人の老人に強く返され、諦める。


 どうやら、宿屋は何処かに連れ去られたらしい。


 そして、この人達は村の人達。


 村の掟に逆らう不穏分子に対処しにきたのだと、マリナは確信した。


 途中から話を盗み聞きされていたのだ。


 マリナはそれに気付いて見逃していた。


 ユウトは気付いていなかったが、マリナは後で教えるつもりだったのだ。


 しかし、ユウトのお節介により、堂々と中に突っ込むことに計画を変更せざるおえなかった。


「(まぁ、追跡されたら面倒だったから、都合がよかったのよね……)」


 そして、先程の話から、宿屋の人は何処かに連れ去られたと見るべきだ。


 恐らく、ユウト達が去った後、出てきた村人達にユウト達について聞かれ、庇ってしまったのだろう。


 マリナは盗み聞きに気付いた時点で、念のため場所を変更するつもりでいた為、三人を売れば良かったのだ。


 そうしていたら、何処かに連れ去られることも無かっただろう。


「(全く、お節介さんが多すぎるわね。ユウちゃんで定一杯なのに……)」


 クスッ、と笑うマリナ。


 そのまま、その場に居ないその一番のお節介さんに向けて提案する。


「で、ユウちゃん?どうしたいのかしら?」


『勿論、助けてあげてほしいな。駄目かな?マリ姉?』


「どうしようかしらねぇ?」


 五感共有(リンク)を発動している二人は視覚も聴覚も共有している。


 説明しなくても、相手に情報が伝わっているのだ。


 マリナの独り言はユウトに、ユウトの独り言はマリナに届いている。


 そして、マリナはユウトの頼み毎に弱い。


『お願い!マリ姉!』


「仕方無いわね……」


 やれやれといった雰囲気を醸し出しながらマリナは頷いた。


 鞭を構えながら怪しく微笑み、宣言する。


「場所を吐くまで、いたぶってあげるわよ?」


 その台詞が戦闘の合図(のろし)となる。






 マリナの周りに要るのは、様々な武器を構えた八人の男達と戦力外二人。


 戦力外とは、村長ぽい人と先程マリナに飛ばされ意識を失った者だ。


 その内の一人が剣を構えて突っ込んでくる。


 速い。


 だが、それは常人より速いというだけでマリナにとっては、余裕を持ちつつ対処出来る程度だった。


 二歩下がりつつ、男の剣を鞭で弾き飛ばす。


「(そう言えば、ここは能力者の世界だったわね)」


 完璧な対処をしつつも、油断などの愚行をマリナは行わない。


 相手の力量を見極め、直ぐにそれを分析する。


 全員が何かしらの能力を持っているのは、間違えないなら、その状況に対応するまで、と。


「(今の相手は強化系能力者。戦闘経験はそこそこみたいだけど、特に強くは無いわ)」


 マリナに武器を弾き飛ばされた男は『直剣の使い手』レベル2。


 剣の使い手とは、剣を持った時のみ身体能力が向上する能力。


 今の感じからして、身体能力が上がるのは二倍程度だろう。


 マリナからみたら、役不足甚だしい。


 マリナも一応、能力を発動させ、自身の速度を二倍にする。


 そのまま、鞭を振るい、剣を失った男に録な抵抗すらさせず気絶させた。


 『剣の使い手』系能力者は剣を失った時点で、能力が解錠されるから当たり前と言えば当たり前かもしれない。


 男が倒されたことにより狼狽える周囲。


「(たかが知れるわね)」


 戦闘において、強者や気をつけないと行けないのは、最初に突っ込んでくる自信過剰のタイプや、周りの援護をしつつ牽制や特技に回る遊撃手タイプ、戦闘の状況に合わせて行動する冷静なタイプ。


 その中で自信過剰がやられて、動揺する程度の集団なのだ。


 恐らく、彼より強い人間が居るかどうか……。


「狼狽えるな!」


 村長の命令で形成は立て直しつつあるが、それでも、甘い。


 何度も言うようだが、その甘さをマリナは見逃さない。


 一人の男の鳩尾に狙いを定め、鞭を振るう。


 男は、それをくらい、口から酸素を全て吐き出した。


 そのまま、容赦無く、顎に二回目の鞭の攻撃をくらい、倒される。


 一方的だった。


 残る人数は六人。


 いや、違う。


「起きなさい!」


 マリナは自身の速度を三倍まで引き上げると、倒れた三人組の体に文字道理鞭を打ち、強制的に意識を戻させる。


「くはっ!」


「がっ……」


 気持ちの良いくらいちゃんと気絶していた三人組はその衝撃を受けて、目を冷ます。


 だが、三人共ダメージを負い、意識を強制的にオンオフさせられたせいでふらふらとしている。


 ここで一つ疑問が出来上がる。


 何故?マリナは倒した敵をわざわざ起こすのか。


 ここにいる者達は、少なからず疑問に思うだろう。


 だが、


『あ~あ、ご愁傷様かな……』


 ユウトが呟き、それが五感共有(リンク)でマリナに伝わる。


 それを聞き、ユウトに向けてなのかここにいる人達に向けてなのか、両方に向けてなのかは分からないが、マリナは宣言する。


「言ったじゃない?場所を吐くまで、いたぶってあげるわよ?って」

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