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第三十六物語 「regert finish~後悔の終着点~」

選択肢は有限で不条理なお話

「ユウちゃん……」


 結論から言うと、攻撃は少女の胸の中心(・・)を見事に貫いていた。


 だが、


「その程度か……」


 少女は意識を保っている。


 そのまま、回避行動をとろうとした俺に。


「遅い!」


 重く目で追えない程の一撃を放った。

 

「ゴフッ……」


「ユウちゃん!!」


 学ランの上からでも伝わる、十分なダメージに思わず血を吐く。


 マリ姉は援護することが出来ない。


 何故なら、剣を刺せる程の距離に近付いた俺が邪魔だからだ……。


 そのまま、後ろに吹き飛び、地面をバウンドした後、宿屋の壁に打ち付けられた……。


「ガハッ……」


 その衝撃で再び、血を吐き出す俺。


 ふらつく頭で少女を見ると、全身の傷は既に回復していた。


 つまり、俺は、最大のチャンスを逃したのだ。


 それは何故か?


 答えを言うと、俺が刺したのは胸の中心。


 そう、心臓からはずれてしまっている。


 心臓を刺せた訳じゃない。


 確実に攻撃をくらわすことができる状況だったのに。


 それは、何故か……。


 簡単だ。


 俺が外してしまったから……。


 俺の甘さが……。


 少女と目を合わさせてしまった……。






  ~ ユウト side story ~


 人を切ることにユウトの心は耐えられない。


 最初の頃こそ、ヒマリちゃんを傷付けられた怒りと戦闘時に分泌されたアドレナリン、それに少女の再生能力で、果敢に挑んでいけた。


 だが、最初にナイフが少女に刺さった瞬間。


 そのお腹から血が出た瞬間。


 早くも心が折れようとしていたのだ……。


 敵が男だったら未だしも、相手は少女なのだ。


 少女を傷つける。


 その行為がユウトを蝕む。


 それほどまでにユウトの心は脆く、女の子に弱い。


 一度、攻撃を加える毎に心に広がる嫌悪感。


 軋むように心が削れていき、血が出る毎にトラウマを刻む。


 何度も何度も、心にこの子の傷は回復すると言い聞かせながら、最後まで漕ぎ着けたのだが、


 剣を刺そうとした瞬間、完全にユウトの心は折れた。


 刺す瞬間、吸血鬼の様な少女と目を合わせてたのだ。


 何故、その時に心が折れてしまったのか?


 それは、その少女の瞳には紛れもない、恐怖が浮かんでいたからだ。


 圧倒的な強者であった少女に、云わば、奇襲をくらわせることに成功したユウトであったが、強者にも本能的に死を恐れることはある……。


 ユウトが剣を刺そうとした瞬間、いくら毅然としていても、少女の瞳には、少女の恐怖が浮かび上がり、ユウトを躊躇させた。


 同時にその瞳には、少女を殺そうとする自分が居て、心を蝕む。


 人の命が自分の手の上に存在する事実に押し潰されそうになり、少女の恐怖と少女を刺す事実が良心とトラウマを刺激させた。


 後は、義務感に突き動かされただけ。


 当然、そんな攻撃に心は篭っておらず。


 剣の矛先は数10㎝ずれた……。






 パラパラと宿屋の壁の残骸が落ちる。


 ふらつく体に鞭を打ち、片手で体を押さえながらも、ユウトは立ち上がろうとする。


 その間にも、バトルは再開し、吸血鬼の様な少女とマリナは互角の勝負を繰り広げていた。


 マリナはユウトへの心配を心から追いやり連続で鞭を放つ。


 それに対して、ダメージを受けつつも回避やガードをおこたら無い少女。


 一見すると、マリナが優勢の様にも見える。


 だけど、マリナは能力で5倍速を発動させていて、十二分と言う時間誓約があるのだ。


 このまま、決定的な一打が出せないままだと、タイムアップと共に押されてしまうかも知れない。


 一応、解決案はある。


 能力で自身の時間を十倍速の早さまで上げることだ。


 だが、マリナはそれを出来ないでいた。


 何故なら、


「(この子、まだ本気じゃない)」


 そんなことを感じたからだ。


 勿論、マリナも十倍速を使ってないと言う意味では本気ではないし、恐らく、少女は七割の力を使っていて、残り三割程度を隠していると言う話だ(それでも常人からはかけ離れるが)。


 5倍から10倍へと時間速を上げれるマリナには、半分しか力を使っていないことになる。


 だが、仮に両者が本気を出すと、マリナは六分しか戦えない(無論、この瞬間も戦える時間が減っていっている)。


 勿論、マリナは時間内に倒す事が出来ると確信している。


 ただ、それが、少女の実力次第で制限時間ギリギリまでいってしまうかもしれない。


 そして、タイムリミットをオーバした瞬間、マリナは眠ってしまう。


 つまり、その後の状況に関わる事が出来ないのだ。


 問題は二つ。


 倒れた少女への対処とヒマリちゃんへの治療。


 それを、満身創痍のユウト一人に任せるわけにはいかない。


「(ヒマリちゃんの症状が分からないし、多分、この子を巡って争いになる……)」


 少女はヒマリちゃんを襲ったが、ヒマリちゃんだけを襲ったとは限らない。


 どんな理由があるのかは知らないが、少女は何度も人を殺している可能性だってあるのだ。


 最悪、この村の人間に殺されるかもしれない。


 そして、絶対ユウトはそれを許さない。


 過去の罪や人の感情より、今の命を優先してしまうのがユウトなのだ。


 少女が今、生きているなら、絶対に殺させようとはしないだろう。


「(まぁ……、その優しさが今の状況をうんじゃったのだけれどね……)」


 そこに叱るや怒りなどの感情は無く、ただ、純粋に仕方ないな、とのマリナの本音だけがあった。


 あれだけ完璧なアシストをして、失敗する方が少ない状況を作り出したマリナにおいて、イレギュラー的な問題を起こすユウトは心配の対象、否、ただの世話がかかる弟の様なものだった。


 行動はドSな女王様であるが、そんな女性は母性愛も強かったりするのだ。


 彼女は、仕方なくだが、作戦を変更する。


 5倍速を4倍速に落とし、ユウトがくれた副産物(イレギュラー)に期待する。


 後は、時間との戦い。


 速度が落ちたことにより、若干、吸血鬼の様な少女が押し始める。


 そんな中、ユウトは、体が上手く動かず加勢できずにいる。


 いや、心が動かないのだ……。


「くっそ!!」


 思わず、ユウトが叫び。


 直後、


「何事ですか!」


 第三者の声がした。


 マリナは賭けにかったのだ。






  ~ ユウト side ~


 俺達の戦闘に第三者がやってきた。


 そりゃそうか……、あれだけ派手に暴れてたのだから。


 終いには、吹き飛ばされて宿屋の壁を破壊する始末。


 人が来ない方がおかしい。


「ちぃ!」


 明らかに少女の舌打ちが聞こえた。


 いや、当たり前か……。


 少女は一人っきりのヒマリちゃんを襲うくらいだ。


 村人達に知られるのは、良くないと自分で理解しているのだ。


 現れた第三者は、ボロボロの俺の有り様を見た瞬間、驚きを見せて人を呼ぶ。


「誰か! 誰かきて!」


「この勝負! 預けたぞ!」


 その声に反応した少女は闇へと消える。


 その声を聞いて、ようやく声がした方に第三者は気付くが、時既に遅し。


 少女は闇へと消えていた。


 夜の闇のせいで気付くのが遅れたのか……。


「大丈夫ですか!?」


 ボロボロの俺を見て、そう叫ぶ人物は宿屋のカウンターに居た要らぬお節介を焼いて来た人だ。


「ヒマリちゃん!」


 アイコンタクトを行い「大丈夫」と伝えたマリ姉は、ヒマリちゃんに駆け寄っていく。


 この人も俺より


「さっきの奴にやられたんですね! 今すぐ応援を!」


「俺よりも、ヒマリちゃんを……」


 俺なんかよりヒマリちゃんが心配だ。


 俺よりも危ない状態なのだ。


 指でヒマリちゃんの方向を指し示す。


 そこに倒れているヒマリちゃんの姿を見付けた宿屋の人は、すぐにかけよる。


「大丈夫ですか!」


 マリ姉に抱え上げられているヒマリちゃんを見て、呼吸や脈の音を確かめてくれる。


 そして、俺の方を見ると、安心した様子で


「大丈夫です! ちゃんと、生きてます」


 そう伝えてくれた。


 多分、俺を安心させようとしてくれてるんだろう。


 ほっ、と息を吐いて、俺は安心した様子をアピールしよたうとした時、マリ姉が……。


「ヒマリちゃんの首筋に……」


 そう呟いた。


 遠くからじゃ様子が分からず?の疑問符を頭に浮かべてしまう。


 首筋?


 だが、そのマリ姉の言葉を聞いた瞬間、慌ててヒマリちゃんの首もとを確認する宿屋の人。


 それは、とても深刻でな様子で……。


 ヒマリちゃんの首筋を見た瞬間、「そんな……」と呟いていた。


 マリ姉は一言。


「知ってるのね……」


 と、冷静に質問する。


「はい……でもっ……そんな……」


 宿屋の人は少し冷静さを欠いている。


 それほどやばいことが、ヒマリちゃんの身に起こっているのか?


 マリ姉に「落ち着きなさい」と言われ、ようやく冷静さを取り戻し始める宿屋の人。


 俺は何とか立ち上がり、三人の元へと近付いていく。


「説明してくれる?」


 頃合いを見計らった様にマリ姉は切り出した。


「貴女方がさっき見たのは、吸血鬼なんです」


 宿屋の人は、そう切り出した。


 吸血鬼。


 海外の物語に出てくるモンスター。


 ここはファンタジー世界だから、居たって不思議ではない。


 さっき、遭遇したのがそうなのか……。


 想像より悲しそうな目をしていた。そんな印象だ。


 そして、それなら数々の能力に説明がいくのかも知れない。


 そう言う種族だと。


 まぁ、納得はいかないけど。


「そして、この子は、その吸血鬼に血を吸われてしまったんです……」


「なっ!?」


 その説明をされて、驚く。


 宿屋の人は首筋を見るようにと俺に促し、そこには確かに何かに噛まれたような痕があった。


 だけど、これで納得がいく。


 大きな外傷が見当たらないのにも関わらず、ヒマリちゃんの肌が白くなっている訳。


 同時に何か頭が危険のサインを発する。


 まるで、何かの情報を思い出せとでも言うように……。


「この子は……もう駄目です……」


 そんな中、かけられたその言葉を俺は最初理解できなかった。


 なんで、この人はこんなにも悲痛そうな顔をしているのかが分からない。


「はっ!? 何言ってんだよ!!」


「この子はもう駄目なんです!!」


 強く叫ぶ俺に被せるようにもっと強く叫ぶ宿屋の人。


 意味が分からない。


 いや、なら、何で俺はこんなに必死なんだろうか?


 本当は……。


「ちゃんと息もしてるし、鼓動もある! それの何処が駄目なんだよ!」


 頭の中にあった靄を無理矢理消し去り、そんなことを聞く。


 だけど。


「それが駄目なんです! 息もあって、鼓動があって、動けるから!!」


 そして、繋げる。


 悪魔の言葉を


「ころさないと……!!!いけないんです!!!!」


 瞬間、ぶちギレそうになる。


 意味が分からない。


 さっきの吸血鬼といい、この人と良い、何故そんなにもこんなに小さなヒマリちゃんを殺したいんだ。


 だけど、怒りが爆発しない理由があって、それを理解して…………。


 んじゃねぇよ! 黒石ユウト!!


 どんな時でも、どんなことでも、そんな理不尽が許される訳ねぇだろ!!


「ふざけんなよ! どんな権限で!!」


「仕方ないじゃないですか!!!?」


 だが、そんな俺の言葉は更にヒステリックに叫ぶこの人に止められる。


 場に静寂が訪れる。


 痛くて逃げ出したい様な空気。


 そんな中、宿屋の人は長く長く黙り込んだ後、重い口を開く。


 それは最悪で災悪の台詞。


「吸血鬼に血を吸われた時点で……」


 俺はその台詞の続きを知っている。


 だから、聞きたくない。耳を塞ぎたくなる。


「この子は……」


 だけど、体は聞くのを止めない。


 だから、その続きを話すのを止めてくれ。


「もう……」


 ほら、小説とかでよくあるじゃないか?


 その結末は知ってるんだ。


 だから、理解させないでくれ!


 だけど、黙っていて人の気持ちが伝わる筈がない。


 俺の思い虚しく、現実は非常に告げられる。


「人間じゃないんです……」


 現実を突き付ける。


「人間の理性(こころ)なんて残って無い……、怪物(ばけもの)なんです……」

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