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第三十五物語 「fast battle~その心は互いに歪なりて~」

強さの物語

それは、マリ姉との約束の五分間が過ぎないうちに起こった。


頭に突如、痛みが走り。


『ユウトさん……』


何処からか、俺を呼ぶ声が聞こえてきたのだ……。


その声の持ち主を俺は知っている。


「ヒマリちゃん……?」


その声とほぼ同時に、マリ姉が「まずいわね……」と呟いた。


更に声が重なったことに双方が驚きを持つ。


しかし、マリ姉は事態を大体把握したようだ。


だけど、俺は分かった訳じゃない。


「何が「五分たっては無いけれど、行くわよ!ユウちゃん!」


質問をしようとしたけれど、それに言葉を重ねられた。


つまり、時間が無いのだ。


その証拠に、


『ユウトさん、ユウトさん!』


頭にアラームの様にヒマリちゃんの声が響いて、俺は走り出していた。


酷い頭痛がするが、関係ない。


ヒマリちゃんが危ない。


ドアを蹴破る様に開けて、二階から階段を飛び降りる。


そして、感覚共有(リンク)を発動させる。


「つっ!?」


それと、共に首筋の痛みと恐怖、それに、不安をかけまいと言う情報(おもい)が俺の頭を駆け回る。


絶対的にピンチな筈のヒマリちゃんが俺に迷惑をかけたくないと言う強いおもいが……。


「あとでおしおきだかんな……」


その呟きは誰にも聞こえない。


共有(リンク)したお陰で、ヒマリちゃんの大体の居場所が分かり駆け出す。


大丈夫。


すぐ側だ、無理矢理にでも間に合わせる。


「(ユウトさん!ユウトさん!ユウトさん!)」


「くっ!?」


また、頭にサイレンのようなヒマリちゃんのシグナルが届く。


頭痛が走り、ヒマリちゃんから力が抜けていくのが分かる。


これは、本当に不味い、と焦りだけが積もる。


蹴破る様に旅館の扉を開けて、外に出てすぐ目の前にヒマリちゃんはいた。


そして、もう一人ヒマリちゃんを捕らえて離そうとしない何者かもいた。


めいふの国の使者のような何者かが……。


瞬間、強烈な死のイメージが頭を襲ったのは、俺からなのか、ヒマリちゃんからなのか、両方なのか……。


気付いたら俺は。


『ユウトさん!助けて!』


「ヒマリちゃんになにしてやがる!!」


声をあげながら、そいつに飛び蹴りをかました。


だが、堅い。


そいつは、俺の攻撃が対して効いていなかったのか、数歩よろめく程度に留まる。


そのまま、そいつがこちらを見ようとした瞬間。


神速の鞭がそいつを吹き飛ばした。


勿論、マリ姉だ。


俺が周りを見ていなかっただけでマリ姉はずっと、俺について来てくれていたのだ。


俺はマリ姉に背中を預け、ヒマリちゃんに慌てて駆け寄る。


その肌は、何時もの活発さが見えないほど、血の気が抜け、白くなっていた。


まるで、死人のように……。


思わず、ヒマリちゃんを抱き締めてしまう。


そこに生があることを確認するように。


トクントクン、と小さいながらも生の鼓動を感じて俺はようやく安堵する。


そして、安堵と共に、


「ヒマリちゃんの馬鹿!」


思わず口に出た言葉がそれだった。


こんな時も優しい言葉をかけるのが、ユウトさんだったんじゃなかったっけ?


「我慢したのは凄いけれど、あのままじゃ、ヒマリちゃん死んでたんだぞ!」


そして、そう言って力を込めてしまう。


弱ってる体は労らないといけない筈なのに……だ。


そして、そのまま……感情に身を任せて、


「ヒマリちゃんが死んだら、僕は悲しい!僕はヒマリちゃんに傍にいて欲しいんだ!」


そう叫んでいた。


だけど、ヒマリちゃんは、そんな俺の叫びを聞いて、瀕死の状態にも関わらず微笑んでくれていた。


それが、心に染みて……。


ああ、そっか……。


一つだけ分かったことがある。


今までは最強のマリ姉が居てくれたから気付かなかったけれど。


俺は親しい人間が瀕死の状態になっても冷静でいられる様な人間じゃないらしい。


そして、そのまま理解する。


ヒマリちゃんを守ると言う言葉の意味を。


俺はついさっきまで勘違いしていた。


ヒマリちゃんを安全な場所に置いて戦いに参加させないことが守ることだって、勘違いを。


それがヒマリちゃんから目を離して、こんな事態を引き起こすことを知らずに。


だけど、守るって言うのはそうじゃない。


俺は今マリ姉に背中を預け、守って貰っている。


信頼し、無理なら無理と言えて、一人じゃ出来ないことが出来て、共に支えあえる。


それが、本当の守るなのだ。


互いに対等で、直ぐに互いを見付けれる。


俺はそれをヒマリちゃんにもお願いすれば良かったんだ。


ヒマリちゃんは瀕死の状態にも関わらず、微笑んでくれる。


帰ったら、謝らなきゃな……。


間違えてしまったことを。


だけど、そんな考えなど知らないヒマリちゃんは、


「好きです……ユウトさん」


そんなことを嬉しいことを言ってくれる。


だから、俺は


「僕もヒマリちゃんが大好きだよ!だから、こんなこと、二度とするな!」


そう、言った。


後半は俺に向けてだったけれども。


ヒマリちゃんが気軽に助けても言えない。そんな関係を、俺はもうしない。


意識を失う、ヒマリちゃん。


焦りが生じるが、もう一度ヒマリちゃんの鼓動を感じると、その焦りが消える。

大丈夫。ヒマリちゃんはまだ、生きている。絶対に死なせない。


俺はその場にゆっくりと寝かせる。


本当は安全な場所に連れていきたいのだけれど、ヒマリちゃんが狙われた理由が分からない以上、それは得策とは言えない。


敵が一人とは限らないから。


何よりも……。


「意識がなくても、守ることには代わり無いから……」


倒れていた敵は起き上がる。


さてと、


「マリ姉?手伝ってくれる?」


「当たり前じゃない。ヒマリちゃんをこんな目に会わせるなんて、ただじゃおかないわよ?」


「じゃあ、五分で終わらせよう」


「ええ、ヒマリちゃんを安全な場所に連れていかないといけないものね……」


俺達の戦いが始まる。






戦う。


その意思を持って初めて敵を見た時、驚いた。


何故なら、それが女の子だっだから。


白い肌に青の長い髪に水色の瞳をしていて危うい美しさを持っている……。


その子はこちらを向くと。


「その子を渡しなさい」


無表情で言い放つ。


それは、透き通っていて冷たい声だった。


そして、さっきまで何者か分からなかった女の子が声を出していると気付くのに少し時間が掛かかった。


やや、ワンテンポ遅れて。


「やだね。この子は僕の仲間だ」


そう返す。


だが、少女は諦めずこちらを睨みつける。


「その子はもう手遅れよ……」


「ちゃんと生きてるよ……」


ヒマリちゃんにはちゃんと息がある。


だから、少女の言うことは間違ってる。


そう伝えるも少女は諦めない。


どうしても、ヒマリちゃんを奪いたいかの様に。


「その子を渡したら貴方達だけは「黙りなさい!」」


しかし、そんな少女に遂にマリ姉は怒りを露にする。


当然だ。相手は無茶苦茶な事を言っているのだから。


自らの鞭を少女に振るうマリ姉。


少女は右手に鞭をくらってしまうが、体を受け流すことによってダメージを押さえる。


それでも、ダメージは隠しきれない。


思わず、鞭の当たった部分を背後に庇うほどに。


そして、怒りを見せても、腕を狙ったってことは、マリ姉は冷静なようみたいだ。


「ヒマリちゃんをこんな目にあわせた貴方に、ヒマリちゃんを渡す筋合いは無いわね」


「同感!」


だけど、少女には俺達のの言葉は届かず、少女はこちらに一方的に言う。


「最終警告よ……。その子を渡しなさい……。そしたら、命だけは助けてあげるわ……」


自らの溢れでる本能を押さえる。そのような雰囲気がチラチラと顔を出す。


恐らく、いや、必ず、こいつはヒマリちゃんを殺しにかかっている。


正直、どちらかの妥協があるはずが無かった。


「無理だ」


「無理ね」


交渉決裂。


「残念ね……。最後のチャンスを逃したわ」


少女は余程自分の力に自信があるのか、そう言い放った。


だけど、こちらにも


「それは、こっちの台詞よ?直ぐに、跪かせてあげるわよ」


自信家がいた。


いや、実力は俺が保証するけどね?


だけど、それを聞いた少女はため息をつく。


それは、こちらに呆れているとのポーズなのか。


まるで、今まで一度も敗北も苦戦も味わったことが無いかのように。


「どうなっても、知らないわよ?」


そう言い放った少女の目は紅の様に赤く染まったのだった。






「!?」


その事実を俺が理解するより、少女の行動は早かった。


『動くな!』


少女がそんなことを命令する。


すると、俺の体が硬直したように動かなくなってしまう。


何が起きたかは分からない。


だけど、体が言うことを効かない。


見ると、マリ姉も同様の様だ。


その成果を当たり前のように受ける少女。


そんな少女に


状態共有(リンク)


すかさず能力をさせ、硬直を共有し(あじあわさせ)ようと反撃を行う。


だが、


「!?……無駄だ!」


硬直を与えることが出来たのはほんの一瞬。


僅かな時間だった。


だけど、一瞬あれば十分だ。


「飛びなさい!」


マリ姉に一瞬与えれば、能力を発動させ、硬直を無効化し神速の鞭を飛ばす動作まで完了させてしまう。


だが、次の瞬間、少女は怪我を負った筈の右腕で鞭を受け、ダメージを受けてしまう。


でも、それは、つまり、マリ姉の鞭の動きに体がついていったって事で。


「化け物かよ……」


硬直が解けた体で、そう呟いてしまう程に……。


「貴様らに言われる筋合いは無いな……」


「お前、口調が変わってないか?」


だが、俺の質問に少女は答えない。


恐らくだけれど、目が赤くなってから本能が剥き出しになり、キャラが変わり、相当身体能力が上がっている。


さっきの『動くな』の命令といい、いったいどんな能力だよ。


呪いや魔法では無いって言うのは分かるんだけど。


マリ姉に攻撃された瞬間解けたし、俺が共有を発動させても直ぐに解いたことから、自身で自由に操れる能力だとは思うから。


個人的に怪しいのは神経伝達を操作する系統の力。


俺達の神経を操作して動けなくしたり、自身の神経を操作して身体能力を上げる。


有り得ない話じゃない。


マリ姉はもう一度、神速の鞭を振るい、少女はそれを両腕をクロスさせて、後退りながらも受け止める。


白かった肌は皮膚が破け、血が出ているがお構い無しの様だ。


「どんだけ、堅いんだよ……」


それでも、堅い。


マリ姉の攻撃を受けて、骨が折れてないことに、正直、称賛を送りたい。


「違うわよ!ユウちゃん!」


「何がだよ?マリ姉……。!?」


だけど、マリ姉の一言を聞いて、そんな呑気な考えは消し飛んだ。


着目点が間違っているのだ。


何故、マリ姉の攻撃を受けて傷つくのか。


もう、既にマリ姉は三回も攻撃している。


なのに、何故、右手が何度も傷付くのか……。


そして、何事も無いように腕が元に戻っているのか……。


答えは一つ。


少女の腕は、


「中々やるようだが、まだまだだな……」


回復していた。


傷が消えていき、元道理に戻る腕。


自己治癒能力。


厄介だと言わざる終えなかった。


直ぐ様、腕のブレスレットの能力を発動させ、学ランを着る。


そのまま、少女に突っ込む俺。


その間も、俺の後ろからマリ姉が鞭を放ち援護を開始する。


俺の一歩の間に、目視できるだけで三回は鞭を放つマリ姉だったが、少女は不適に笑う。


一撃目は当たった、だが、直ぐに回復する。


二撃目は避けられる。


三撃目はガードされ、些細な傷は消えるように回復する。


ヒット、ヒット、回復、ガード、回避、ヒット、回復ヒット、回復、ガード、回避、回避、ヒット、回復。


当たる回数の方が多いことは確かだが、本気を見せたのであろう回復速度は、マリ姉の神速の鞭とも並び立つ程に早い。


そして、いくつかのマリ姉の攻撃に対処できている。


恐らく、高レベル、高熟練度能力者。


先程の自信の理由が分かるほどの相当な手練れ。


そして、あの防御力と反応速度を攻撃に回されたら、危ない。


マリ姉は兎も角、俺が戦力外へと落とされてしまう。


奴を攻撃に回させたら、いけない。


俺は、ようやく近付くことができ、この好機を逃すわけにはいかない。


右手に槍を、左手にはナイフを呼び出す(コール)


ナイフを相手に向かって投げ付け、槍を構える。


少女はそのナイフに対応しようとするも、マリ姉の鞭が足をうち、動きを止められて、ナイフが深々と腹に刺さる。


少女が異様な回復速度を誇るからこそ出来る芸当。


刺してしまったことに罪悪感が込み上げるが、そんな感情を捩じ伏せ、


右手の槍を左手でバランスを取りながら、至近距離で投げ付ける。


マリ姉の援護を受けて、かわされる筈だった槍は風を巻き込み少女の右肩を抉る。


だが、少女の体は固く、傷は浅い。


心に黒い物が浮かび上がるが、無視する。


そのまま、踏み出して両手を上段に構え、刀を呼び出し(コール)する


刀の間合いにある俺は、そのまま、刀を降り下ろして、左腕を切断しようと切りかかるが、刃は腕の半分の所で止まってしまう。


流石にこれは我慢出来なかったのか、少女が苦悶の声を上げる。


心がずきずきと痛むが知ったこっちゃあ無い。


刀から手を離し、得意の蹴りを決め込む。


抵抗があるが、必要な過程として。


ふらついた少女に、すかさず、鞭を二度振るい追い討ちをかけるマリ姉。


少女を見ると、回復が間に合っておらず、全身の傷はまだ健在だった。


流石に少女もこれらは予想外だったのか、驚きを見せる。


油断していた少女を倒す、最大の好機。


俺は、突き刺すことを目的とする剣を呼び出(コール)し、少女に止めをさしにかかる。


少女が抵抗しようとするも、マリ姉に阻まれる。


そして、攻撃の有効範囲に入り、心臓を狙う。


この少女は心臓を刺しても、時間がかかるが再生する能力を持っている。


その間に拘束する。


これで、終わらせる。


少女と目が合い(・・・・)、一歩踏み込んで、俺はその体を貫いた。

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